【完結】負けず嫌いが過ぎて、王子と婚約することになりました〜ただ言い返してただけなのに、どういう訳か気にいられてます〜

ぽぽよ

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13王弟殿下のアポなし訪問

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 ※これまでのお話
 第11話:ホワイト家から嫌がらせの贈り物が届き、母エレナが報復
 第12話:ホワイト家が騒ぎ立て、王妃も過去の因縁から動く。結果、ホワイト家は左遷に。エドワードとの友情が深まりました。





 ホワイト家の左遷が決まった後、ゴーシュはことの顛末を知るや怒り狂った。事の起こりはデボラの嫌がらせだったが、フランシーヌだけが悪いかのように叱られた。
 そうして、父と母のエレナまで巻き込んで、フランシーヌたち三人は三週間の謹慎処分を言いつけられたのだった。

「暇ねぇ」

 フランシーヌは、空を見上げてぼやいた。
 
 謹慎十日目ともなるとさすがに暇を持て余していた。幸い、庭へ出ることは許可されているので、気分転換に芝生の上に敷物を敷いて昼寝をしていた。

 雲はゆっくりと空を流れてゆく。
 空は晴天で、風は心地よい。
 ひなたぼっこも悪くないと思ったのだが、劇的な変化をもたらすほどではなかった。ごろりと寝転ぶと、東屋でエレナとハンスがお茶をしている姿が見えた。エレナもハンスも同様に謹慎中であったが、二人一緒であれば満足らしく、さして苦ではなさそうだった。

「なんかちょっとずるいわ」

 仲睦まじい両親を見て、フランシーヌは小さくため息をついた。

 突如、ふふっと低い笑い声が聞こえた。

「誰?」

 フランシーヌは身体を起こした。

「やあ、こんにちは。君がフランシーヌかい?」

 金髪碧眼の美しい顔立ちの男性が、柔和な笑顔を浮かべて立っていた。
 来客があるという話は聞いていない。
 どこか見覚えはあったが、どこで会ったか思い出せない。
 美しい顔の男性が、片手を胸に当て、さながら舞台の幕開けでも告げるように、流れるようなボウを披露した。

「はじめまして。僕はアレクシス・ド・ルミエール。まあ割と高い地位にいるかな」

 言い切ると愉快そうに笑った。

「……ルミ、エール」

 噛んで含めるように呟いて、理解が追いつくと、フランシーヌの全身から血の気が引いていった。
 ルミエールなんて姓の一族はこの国で一つしかない。

「あ。わ、は、はじめまして、王弟殿下。お初にお目にかかります。フランシーヌ・ローレンと申します」

 フランシーヌは慌てて立ち上がり、カーテシをした。よろけてしまったが、踏ん張ってなんとか耐えた。

「驚かせてしまってごめんね。内緒で来たからね。正式な挨拶はいらないよ」

 アレクシスは人差し指を口元に当てて片目をつむって見せた。
 まるで宝石のようなキラキラした雰囲気のアレクシスに、フランシーヌは一瞬意識が吸い込まれそうになってはっとした。

「お、恐れ入ります」

 フランシーヌは頬が熱くなるのを感じた。

「そんなに緊張しないで。君の噂は甥のエドワードからよく聞いているよ。あの子の大切な友人なんだろう?」

 アレクシスが言って、芝生の上に腰を下ろした。その後、とんとんと、芝生を叩くのでフランシーヌは、大人しく彼の隣に座った。
 近くで見ると、整った顔立ちがさらによく分かる。エドワードも美形だが、アレクシスにはまた違った魅力があった。
 大人の男性特有の落ち着きと、どこか危うい色気が同居している。

「エドワード殿下には良くしていただいています……」

 フランシーヌは視線を逸らした。大切な友人、という言葉には語弊があるように聞こえた。ゴーシュに言われたことを思い出した。
 婚約者候補と見られていてもおかしくない状況らしい。
 しかし、フランシーヌにもエドワードにもそんなつもりはない。少なくとも、フランシーヌ自身にはそんなつもりは全くなかった。
 実際、たまに「貴女なんて相応しくない」とか突っかかってくる令嬢がいたが、そんな時は「なら、どうぞ応援してます」と返していた。

「謙遜しなくていい。あの子は君のことを『面白い』と言っていたよ。エドワードがあそこまで一人の人間について語るのは珍しいんだ」

 それはエドワードに友達がいなかったからでは?と喉まで出かかったが抑えた。
 アレクシスの碧眼がフランシーヌを捉えた。

「エドワードは、よく君の話をしているよ。それで、僕も気になってね。どんな子なのかと会いに来たんだよ」

 フランシーヌの心臓が一瞬、跳ねた。
 エドワードが自分のことを?しかもわざわざ王弟殿下に?まさか、あの減らず口や討論のことを話しているのでは。 
 一瞬、頭が真っ白になったが、フランシーヌは必死に冷静さを保とうとした。

「殿下のお耳に入るようなことは何も……」

「いやいや、十分に面白い。実を言えば君が初めて王城で大暴れしたときから気になってはいたんだよ。でも、エドワードとのこともそうだけど、今回の件ですっかり君のファンになってしまってね」

 アレクシスは楽しそうに笑った。反対にフランシーヌは頬が引きつりそうになった。
 ミラリアとの件から始まり今日に至るまで、アレクシスはまるっと知っているようだった。

「それに、謹慎処分中だというのに、こうして庭でのんびり昼寝をしているなんて。君ほど肝が据わっている令嬢はそういないよ」

 フランシーヌは思わず身を固くした。
 確かに庭に出ることは許されているとはいえ、昼寝をするのはやりすぎだったか。王弟殿下の目にはどう映っているのだろう。

「別に……反省していないわけでは……」

「ああ、責めているわけじゃないよ」

 アレクシスは手を振った。

「むしろ、その図太さが気に入った。普通の令嬢なら、謹慎中は部屋に閉じこもって泣いているところだろう?」

 図太い、という言葉がフランシーヌの心にグサリと刺さった。
 だが、王弟殿下を前にして反論するわけにもいかない。フランシーヌはぐっと堪えた。

「ねえ、フランシーヌ」

 アレクシスは急に声のトーンを落とした。

「君は、この謹慎をどう思っている? 本当に自分が悪かったと思っているのかい?」

 フランシーヌは言葉に詰まった。
 正直に言えば、デボラの嫌がらせが発端だったのだから、ホワイト家の顛末は可哀想とは思うが自業自得だとも思っている。だが、それを王弟殿下に言うわけにはいかない。

「……私の不徳の致すところです」

 無難な答えを選んだ。

「ふうん」

 アレクシスが興味深そうにフランシーヌを見つめた。

「嘘が下手だね、君は。顔に出ているよ」

 アレクシスが自分の頬を指さして見せた。
 フランシーヌは、ぎくりとした。

「いいんだ、僕には本音を言ってくれて構わない。僕は建前の会話は好きじゃないから」

 フランシーヌは戸惑った。
 王弟殿下は、一体何を求めているのだろう。
 アレクシスが笑みを深めた。

「君はもっと自分に正直になっていいと思うよ。それが君の魅力だと思うからね」

 アレクシスはそう言って、フランシーヌの髪に手を伸ばした。彼の腕に日差しが遮られて、フランシーヌの顔に影が差した。

「あ……」

 フランシーヌが息を呑む。
 アレクシスの指が、フランシーヌの髪をさらりと撫でた。

「枯れ草がついてたよ」

 彼が指先に挟んだ小さな草を見せる。目が合うと、アレクシスが微笑んだ。

「君を見てると楽しいよ。退屈しない」

 風が優しく吹き抜けた。
 アレクシスからは涼やかな花の匂いがした。
 肩が触れそうな距離にアレクシスがいる。
 こんな風に家族以外の異性と近づいたのは、初めてだった。
 鼓動が早い。頬がやけに熱っぽい。

 (なんか、変な感じがするわ)

 フランシーヌは、アレクシスから視線を逸らして自分の拳を見つめた。
 すぐ隣で、アレクシスがくすりと笑った。
 フランシーヌが視線を向けると、アレクシスは楽しげに目を細めていた。

「初心だね」

 低く囁かれた声に、フランシーヌの毛穴がぶわりと逆立った。
 アレクシスが立ち上がる気配がした。
 このまま帰られてしまう前に、聞かなければ。

「あ、あの!!」

「ん?」

「殿下は、どうして私に会いに来られたのですか?」

 やっとの思いで絞り出した質問だった。
 アレクシスは一瞬、笑みを消した。
 そして、再び柔和な笑顔を浮かべた。

「言ったでしょう? 君が気になったから。それだけだよ」

 その笑顔の奥に、何か別のものが潜んでいるような気がした。
 嘘も言っていないが、本当のことも言っていない。何かを隠しているような気がした。

「信じられないって顔してるね。まあ、仕方ないかもしれないね。でも、僕は君を気に入った。これは本当」

 本当、という言葉が引っかかった。しかし、今はその意味を問う気力はなかった。

「……ありがとうございます」

 フランシーヌは戸惑いながらも礼を述べた。

「これからも、あの子の傍にいてあげてね。エドワードは素直な子だから。君のような友人が必要なんだ」

 アレクシスは優しく微笑んだ。

「それじゃあ、僕はこれで。また会おう、フランシーヌ」

 アレクシスは軽く手を振って歩き去った。
 フランシーヌはその場に座り込んだまま、しばらく動けなかった。
 胸の高鳴りは、ときめきなのか、それとも恐怖なのか。
 自分でもよく分からなかった。
 ただ一つ確かなのは、アレクシスという人物は、見た目通りの紳士ではないということだ。
 だが同時に、フランシーヌの心は高揚していた。
 見目の良さに当てられたのかもしれない。それにあんな至近距離で髪に触られるなんて。
 フランシーヌは頬を押さえた。
 まだ熱が引かない。

「……でもこれ、絶対わざとよね」

 小さく呟いて、フランシーヌは空を見上げた。
 雲は相変わらず、ゆっくりと流れていた。
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