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25こっち向いてよ
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上手に振る舞えない原因は分かっていた。
手紙にあった「笑顔の可愛い人」だ。
顔も名前も知らないというのに、エドワードと顔を合わせていると、ふいにその人が脳裏にちらついて、どうにもうまく笑えないのだ。
さすがにエドワードも何かを察したらしい。
心配をしてくれたのだが、うまく答えられずかえって気分を損なわせてしまった。
「ありがとう」とか、「気に入ってるの」とか、もっと喜びを伝えることは出来たはずなのに。
可愛くない女と思われたろうか。
フランシーヌは、俯いてため息をついた。
握りしめて皺がよってしまった裾をそっと撫でる。
ちらりと視線をあげると、窓枠に頬杖をついたエドワードが難しい顔をして外を見ていた。
やはり気に障ったのだろう。
エドワードは険しい顔のままこちらを見ようともしない。
その令嬢とは、どんな話をしたの?どんな風に過ごしたの?
聞きたいのに、聞けない。
フランシーヌはまた視線を落とした。
今日を楽しみにしていたのだ。
着飾った姿を見て「可愛い」と褒めてもらえると―期待していたのに。
触れあいそうな距離にエドワードの膝がある。
身体の距離は近い。
けれども、なぜか遠くに感じる。
フランシーヌは、エドワードの白いスラックスを指でつついた。
こっち、向いて。お願い、と願いを込めて。
エドワードと目が合った。
彼の目がわずかに見開かれる。
フランシーヌは、ただ黙って縋るように彼を見つめた。
(ごめん。なんて言えばいいか分からないの。でも、お願い。怒らないで)
思った言葉は言えなかったけれど、想いは伝わったようだ。
エドワードは嘆息して掌で顔を覆った後、こちらを見て笑ってくれた。
「それ、分かっててやってんの?」と拗ねたように言われた。フランシーヌにはよく分からないけれど、エドワードの機嫌が直ったことにほっとした。フランシーヌの頬が思わず緩む。
すると、するりと手が伸びてきて、節ばった長い指がフランシーヌの掌を撫でた。それに応えるように指を絡めると握り返された。
「ああ、もう」と呻いてエドワードは唇を尖らせる。不機嫌そうな照れたような顔が、子供みたいで可愛くて、フランシーヌは声を出して笑ってしまった。心が温かい。さっきまでの憂鬱な気持ちは不思議と消えていた。
エドワードが指を離し、今度はしっかりと握り直した。
「フランは手が小さいね」とエドワードが楽しそうに言う。
「エドの手が大きいだけだと思うわ」
フランシーヌはエドワードの関節を親指で触れる。ごつごつと固い感触がした。
「くすぐったい」とエドワードが肩をすくめるので思わず笑ってしまった。
ふいに静かになって、フランシーヌは視線をあげた。
エドワードと目が合った。
フランシーヌを見つめていた優しい目が、真剣なものへと変わった。
彼の顔が傾いてゆっくりと近づいてくる。
唇が触れ合いそうになって、フランシーヌは慌てて仰け反った。
「な、なに?」
問うた声は震えていた。遅れて心臓が音を立てて鳴り出した。
エドワードは、はっとしたように目を見開いていた。返事はない。
「どうかしたの?」と聞くもやはり返事はない。
エドワードは、口元に手を当てるとそっぽを向いてしまった。心なしかエドワードの耳が赤い気がした。
「エド、どうしたの?何か言ってよ」
繋いでいる手を引く。
内側で暴れている心音が繋いだ手から聞こえていないだろうか。
「ねえ、エド」
もう一度、手を引く。エドワードがこちらを向いた。
見て分かるほど赤い顔をした彼は、困ったような顔をしていた。
「どうにかなりそうなんだけど」
そう言ってエドワードは、繋いだ手をぎゅっと握った。
「 そんなの私だって同じよ」
先程から 心臓が爆発して死んでしまいそうだ。
じっと見つめられて、見つめ返す。
「フラン」と名が呼ばれて息を詰めた。
フランシーヌの頬に温かい掌が触れる。
目を閉じた。今度は逃げなかった。
エドワードの唇が軽く重なって離れていった。
たったそれだけなのに。どうしようもなく、もどかしくて、苦しい。
本当に心臓が破裂してしまいそうだった。
エドワードの温かな手がフランシーヌから離れてゆく。
遠ざかる手を視線で追いかけて、エドワードを見た。
顔を赤くしたエドワードは、困ったように眉を下げていた。
「これ以上はちょっと、まずいから……髪とか化粧とか…その…」
エドワードは、もごもごと言って最後の方は殆ど聞き取れなかった。
フランシーヌは目を瞬いた。
まずい?なにがまずいのだろう?わからない。
フランシーヌが首を傾げると、エドワードは自分の唇を指さした。
「君のが、崩れちゃうから」
示した指の先。彼の唇には不自然な赤色が付いている。
それは、自分がつけている口紅と同じ色で——。
分かった瞬間、フランシーヌの身体がかっと熱くなった。
喉の奥で、悲鳴にならない声を上げ、フランシーヌは、両手で顔を覆った。
エドワードが少し躊躇うように言った。
「また、今度……いい、よね?」
問われたが、答えられなかった。
もう限界だ。もう勘弁して欲しい。
「し、知らない!」
フランシーヌは、そう叫ぶのが精一杯だった。
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手紙にあった「笑顔の可愛い人」だ。
顔も名前も知らないというのに、エドワードと顔を合わせていると、ふいにその人が脳裏にちらついて、どうにもうまく笑えないのだ。
さすがにエドワードも何かを察したらしい。
心配をしてくれたのだが、うまく答えられずかえって気分を損なわせてしまった。
「ありがとう」とか、「気に入ってるの」とか、もっと喜びを伝えることは出来たはずなのに。
可愛くない女と思われたろうか。
フランシーヌは、俯いてため息をついた。
握りしめて皺がよってしまった裾をそっと撫でる。
ちらりと視線をあげると、窓枠に頬杖をついたエドワードが難しい顔をして外を見ていた。
やはり気に障ったのだろう。
エドワードは険しい顔のままこちらを見ようともしない。
その令嬢とは、どんな話をしたの?どんな風に過ごしたの?
聞きたいのに、聞けない。
フランシーヌはまた視線を落とした。
今日を楽しみにしていたのだ。
着飾った姿を見て「可愛い」と褒めてもらえると―期待していたのに。
触れあいそうな距離にエドワードの膝がある。
身体の距離は近い。
けれども、なぜか遠くに感じる。
フランシーヌは、エドワードの白いスラックスを指でつついた。
こっち、向いて。お願い、と願いを込めて。
エドワードと目が合った。
彼の目がわずかに見開かれる。
フランシーヌは、ただ黙って縋るように彼を見つめた。
(ごめん。なんて言えばいいか分からないの。でも、お願い。怒らないで)
思った言葉は言えなかったけれど、想いは伝わったようだ。
エドワードは嘆息して掌で顔を覆った後、こちらを見て笑ってくれた。
「それ、分かっててやってんの?」と拗ねたように言われた。フランシーヌにはよく分からないけれど、エドワードの機嫌が直ったことにほっとした。フランシーヌの頬が思わず緩む。
すると、するりと手が伸びてきて、節ばった長い指がフランシーヌの掌を撫でた。それに応えるように指を絡めると握り返された。
「ああ、もう」と呻いてエドワードは唇を尖らせる。不機嫌そうな照れたような顔が、子供みたいで可愛くて、フランシーヌは声を出して笑ってしまった。心が温かい。さっきまでの憂鬱な気持ちは不思議と消えていた。
エドワードが指を離し、今度はしっかりと握り直した。
「フランは手が小さいね」とエドワードが楽しそうに言う。
「エドの手が大きいだけだと思うわ」
フランシーヌはエドワードの関節を親指で触れる。ごつごつと固い感触がした。
「くすぐったい」とエドワードが肩をすくめるので思わず笑ってしまった。
ふいに静かになって、フランシーヌは視線をあげた。
エドワードと目が合った。
フランシーヌを見つめていた優しい目が、真剣なものへと変わった。
彼の顔が傾いてゆっくりと近づいてくる。
唇が触れ合いそうになって、フランシーヌは慌てて仰け反った。
「な、なに?」
問うた声は震えていた。遅れて心臓が音を立てて鳴り出した。
エドワードは、はっとしたように目を見開いていた。返事はない。
「どうかしたの?」と聞くもやはり返事はない。
エドワードは、口元に手を当てるとそっぽを向いてしまった。心なしかエドワードの耳が赤い気がした。
「エド、どうしたの?何か言ってよ」
繋いでいる手を引く。
内側で暴れている心音が繋いだ手から聞こえていないだろうか。
「ねえ、エド」
もう一度、手を引く。エドワードがこちらを向いた。
見て分かるほど赤い顔をした彼は、困ったような顔をしていた。
「どうにかなりそうなんだけど」
そう言ってエドワードは、繋いだ手をぎゅっと握った。
「 そんなの私だって同じよ」
先程から 心臓が爆発して死んでしまいそうだ。
じっと見つめられて、見つめ返す。
「フラン」と名が呼ばれて息を詰めた。
フランシーヌの頬に温かい掌が触れる。
目を閉じた。今度は逃げなかった。
エドワードの唇が軽く重なって離れていった。
たったそれだけなのに。どうしようもなく、もどかしくて、苦しい。
本当に心臓が破裂してしまいそうだった。
エドワードの温かな手がフランシーヌから離れてゆく。
遠ざかる手を視線で追いかけて、エドワードを見た。
顔を赤くしたエドワードは、困ったように眉を下げていた。
「これ以上はちょっと、まずいから……髪とか化粧とか…その…」
エドワードは、もごもごと言って最後の方は殆ど聞き取れなかった。
フランシーヌは目を瞬いた。
まずい?なにがまずいのだろう?わからない。
フランシーヌが首を傾げると、エドワードは自分の唇を指さした。
「君のが、崩れちゃうから」
示した指の先。彼の唇には不自然な赤色が付いている。
それは、自分がつけている口紅と同じ色で——。
分かった瞬間、フランシーヌの身体がかっと熱くなった。
喉の奥で、悲鳴にならない声を上げ、フランシーヌは、両手で顔を覆った。
エドワードが少し躊躇うように言った。
「また、今度……いい、よね?」
問われたが、答えられなかった。
もう限界だ。もう勘弁して欲しい。
「し、知らない!」
フランシーヌは、そう叫ぶのが精一杯だった。
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