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ひとしきり笑ったアレクシスが目尻に浮かんだ涙を拭った。
「だから君って見てて飽きない」
アレクシスは上機嫌で言った。
「いつも玩具にされてて嫌です」
抗議の意味も込めてじっと見つめると、
「だって面白いからなぁ」
とアレクシスは笑った。
彼の視線がふと優しげなものへと変わった。
「婚約おめでとう」
どこか変わった空気にフランシーヌは戸惑った。
なんと答えていいのか。
目を瞬くフランシーヌに、アレクシスは「不満かい?」と聞いた。
フランシーヌは言葉に詰まった。
不満なんてなかった。エドワードとの事は素直に嬉しいと思っていた。これを恋だというのならそうなのだろう。
だが、全てが流された先で決まったことだった。それがどうしてもフランシーヌの中で引っかかっていた。
本当にこのままでいいのか。
ここに来て、今さら心が揺らいでいた。
「婚約に不満はない、です。でも、流されてこんなことになってしまったことは、ちょっと思うところはあります」
自嘲気味に言った言葉に、アレクシスはきょとんとした。
「流された?君が?」
心底理解できないというようにアレクシスは言った。
「だって、そうじゃないですか。バシャールの変態王子に目をつけられて、エドワードまで巻き込んでこんなことになって」
「まぁ、あれは確かに予想外ではあったけど。君はそんな風に取るのか」
アレクシスは呆れたように笑った。
「大丈夫、君は傲慢で苛烈だから」
「は?ご、傲慢?」
「そう傲慢。知らなかった?」
アレクシスが笑うのを、フランシーヌは赤い顔をして唇を噛み締めた。
「ま、なに悩んでるかしらないけど、君は嫌いなものを受け入れられるほど優しくないだろ?」
フランシーヌは言葉を失った。
確かにそうだ。
フランシーヌは嫌なものとは戦ってきた。
それこそ誰かを盾に取られない限り折れたことなんてないだろう。
今までもこれからもきっとフランシーヌは戦う。
すとんとその言葉が腑に落ちた気がした。
「あり、がとう、ございます」
お礼を告げた。
アレクシスはふっと笑っただけだった。
「さてさて、騎士様がお戻りだよ」
アレクシスが向いた先に視線を向けた。
エドワードが軽やかに手を振ってこちらに向かってきていた。エドワードと入れ替わるようにアレクシスはフランシーヌの側から離れていった。
揶揄って遊んでいたようにみえてしっかり守られていたのだなと気付いて、フランシーヌは離れてゆくアレクシスに頭を下げた。アレクシスはひらひらと手を振りながら去っていった。
そばに来たエドワードが、フランシーヌの手を取った。
「フランシーヌ、紹介したい方がいるんだ」
エドワードの後ろには、淡い水色のドレスをまとった令嬢がいた。
金の髪に緑の目の令嬢が穏やかな顔で微笑んでいた。
「はじめまして、ローレン侯爵令嬢。
私はバシャール国からの遊学生、セリーナ・ヴェルデと申します」
柔らかい微笑み。落ち着いた声。
フランシーヌは礼を返しながらも、エドワードの横顔に視線が吸い寄せられる。
「すごいんだよ、フランシーヌ。セリーナ嬢は語学が堪能でね。バシャール語だけじゃなくて、帝国語も王国語も完璧だ。発音なんか、僕より綺麗なんだから」
「エ、エドワード様、それは言いすぎですわ」
「いや、本当だよ。ほら、あの詩の朗読も素晴らしかった。僕、感動して鳥肌が立ったくらいだ」
フランシーヌに目もくれず、楽しげに会話をする二人にフランシーヌの心が、小さく揺れた。
エドワードが無邪気な笑顔をフランシーヌに向けた。
「セリーナ嬢は、少し君と似てるところもあってね。好奇心が強くて、質問の仕方がすごく的確なんだ。話してて楽しいんだよ」
「まぁ……エドワード様に、そんなふうに言っていただけるなんて」
セリーナの頬がうっすら赤く染まる。謙遜しながらも嬉しさがにじんでいた。
「それでね、フランシーヌとも気が合うと思って。ずっと紹介したかったんだ。ほら手紙にも書いただろう」
「ああ」とフランシーヌは呟いた。
笑顔の可愛い人とはこの人だったか。
嫌に冷静な頭が答えを導き出した。
エドワードは笑っていた。
悪意なんてない完全な善意。
だからこそフランシーヌの胸に刺さった。
「……そう。ありがとう、エドワード」
やっと絞り出した声は、少しだけ硬かった。
セリーナが微笑む。
「お会いできて光栄です、フランシーヌ様。
あなたのこと、エドワード様からよく伺っておりましたの」
「……どんな話を?」
自分でも驚くほど低い声が出て、慌てて咳払いする。
エドワードは無邪気に笑った。
「もちろん、いい話ばかりだよ。でもさすがに全部は話しきれなかったから……これから三人で話そう?」
“三人で”。
その瞬間、フランシーヌの胸の表面張力が――
かすかに揺れた。
__________________
当初は1章として区切る予定でしたが、ここまで来たので、一気に完結まで書き切りました。
本編は全34話です。
これからクライマックスに入ります。1日3話ずつ投稿します。
重苦しい展開になりますが、最後までお付き合いいただけると大変ありがたいです。
「だから君って見てて飽きない」
アレクシスは上機嫌で言った。
「いつも玩具にされてて嫌です」
抗議の意味も込めてじっと見つめると、
「だって面白いからなぁ」
とアレクシスは笑った。
彼の視線がふと優しげなものへと変わった。
「婚約おめでとう」
どこか変わった空気にフランシーヌは戸惑った。
なんと答えていいのか。
目を瞬くフランシーヌに、アレクシスは「不満かい?」と聞いた。
フランシーヌは言葉に詰まった。
不満なんてなかった。エドワードとの事は素直に嬉しいと思っていた。これを恋だというのならそうなのだろう。
だが、全てが流された先で決まったことだった。それがどうしてもフランシーヌの中で引っかかっていた。
本当にこのままでいいのか。
ここに来て、今さら心が揺らいでいた。
「婚約に不満はない、です。でも、流されてこんなことになってしまったことは、ちょっと思うところはあります」
自嘲気味に言った言葉に、アレクシスはきょとんとした。
「流された?君が?」
心底理解できないというようにアレクシスは言った。
「だって、そうじゃないですか。バシャールの変態王子に目をつけられて、エドワードまで巻き込んでこんなことになって」
「まぁ、あれは確かに予想外ではあったけど。君はそんな風に取るのか」
アレクシスは呆れたように笑った。
「大丈夫、君は傲慢で苛烈だから」
「は?ご、傲慢?」
「そう傲慢。知らなかった?」
アレクシスが笑うのを、フランシーヌは赤い顔をして唇を噛み締めた。
「ま、なに悩んでるかしらないけど、君は嫌いなものを受け入れられるほど優しくないだろ?」
フランシーヌは言葉を失った。
確かにそうだ。
フランシーヌは嫌なものとは戦ってきた。
それこそ誰かを盾に取られない限り折れたことなんてないだろう。
今までもこれからもきっとフランシーヌは戦う。
すとんとその言葉が腑に落ちた気がした。
「あり、がとう、ございます」
お礼を告げた。
アレクシスはふっと笑っただけだった。
「さてさて、騎士様がお戻りだよ」
アレクシスが向いた先に視線を向けた。
エドワードが軽やかに手を振ってこちらに向かってきていた。エドワードと入れ替わるようにアレクシスはフランシーヌの側から離れていった。
揶揄って遊んでいたようにみえてしっかり守られていたのだなと気付いて、フランシーヌは離れてゆくアレクシスに頭を下げた。アレクシスはひらひらと手を振りながら去っていった。
そばに来たエドワードが、フランシーヌの手を取った。
「フランシーヌ、紹介したい方がいるんだ」
エドワードの後ろには、淡い水色のドレスをまとった令嬢がいた。
金の髪に緑の目の令嬢が穏やかな顔で微笑んでいた。
「はじめまして、ローレン侯爵令嬢。
私はバシャール国からの遊学生、セリーナ・ヴェルデと申します」
柔らかい微笑み。落ち着いた声。
フランシーヌは礼を返しながらも、エドワードの横顔に視線が吸い寄せられる。
「すごいんだよ、フランシーヌ。セリーナ嬢は語学が堪能でね。バシャール語だけじゃなくて、帝国語も王国語も完璧だ。発音なんか、僕より綺麗なんだから」
「エ、エドワード様、それは言いすぎですわ」
「いや、本当だよ。ほら、あの詩の朗読も素晴らしかった。僕、感動して鳥肌が立ったくらいだ」
フランシーヌに目もくれず、楽しげに会話をする二人にフランシーヌの心が、小さく揺れた。
エドワードが無邪気な笑顔をフランシーヌに向けた。
「セリーナ嬢は、少し君と似てるところもあってね。好奇心が強くて、質問の仕方がすごく的確なんだ。話してて楽しいんだよ」
「まぁ……エドワード様に、そんなふうに言っていただけるなんて」
セリーナの頬がうっすら赤く染まる。謙遜しながらも嬉しさがにじんでいた。
「それでね、フランシーヌとも気が合うと思って。ずっと紹介したかったんだ。ほら手紙にも書いただろう」
「ああ」とフランシーヌは呟いた。
笑顔の可愛い人とはこの人だったか。
嫌に冷静な頭が答えを導き出した。
エドワードは笑っていた。
悪意なんてない完全な善意。
だからこそフランシーヌの胸に刺さった。
「……そう。ありがとう、エドワード」
やっと絞り出した声は、少しだけ硬かった。
セリーナが微笑む。
「お会いできて光栄です、フランシーヌ様。
あなたのこと、エドワード様からよく伺っておりましたの」
「……どんな話を?」
自分でも驚くほど低い声が出て、慌てて咳払いする。
エドワードは無邪気に笑った。
「もちろん、いい話ばかりだよ。でもさすがに全部は話しきれなかったから……これから三人で話そう?」
“三人で”。
その瞬間、フランシーヌの胸の表面張力が――
かすかに揺れた。
__________________
当初は1章として区切る予定でしたが、ここまで来たので、一気に完結まで書き切りました。
本編は全34話です。
これからクライマックスに入ります。1日3話ずつ投稿します。
重苦しい展開になりますが、最後までお付き合いいただけると大変ありがたいです。
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