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30見誤った少女
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※セリーナ視点
「うふ、ふふふ」
気がつけば、笑い声が漏れていた。
頬は緩み、足は小走りになる。
脳裏に浮かぶのは、先程のフランシーヌの歪んだ顔。
(ざまあみろ!!)
人目がなければ、叫んで笑い出していただろう。
会場へ着く頃には、ほとんど走っている状態だった。
パーティ会場の扉の前で髪を整え、呼吸を整えようとして——やめた。息が切れている方が真実味がある。
セリーナは扉を開け、滑り込むように会場に入った。
焦っている令嬢を装って。
ざわめきの中心に向かって走りながら、叫んだ。
「エドワード様っ!」
セリーナの声はよく通った。
人々の視線が一斉にこちらに向くのがわかった。
背筋がぞくぞくとした。
エドワードの前に行き、胸に手を当て、数度、息を整える。
(さあ、これであんたはおしまいだ)
心の中で呟いて、わざとらしいほど大きく、周囲に聞こえるように言った。
「申し訳ありません! フランシーヌ様を、止めることができませんでした!」
唇を噛み、今にも泣き出しそうな顔を作る。
「婚約者がいる立場で、男性と二人きりになるなど良くないと——そう諭したのです。ですが」
声を詰まらせる。
「私を邪魔だと突き飛ばして。話も、聞いてくださいませんでした」
首を垂れ、口元を掌で覆った。
周囲がざわめき出す。狙い通りだ。
笑いだしそうになるのをじっと耐えた。
エドワードが気遣ってくれる——そう思っていたのに、聞こえたのはアレクシスの声だった。
「すまない、僕の落ち度だ」
低く、よく通る声が会場に響いた。空気が一瞬で変わる。
セリーナは顔を上げた。冷たくこちらを見下ろすアレクシスと目が合い、思わず息が詰まった。
「完全に、見誤った。ここまでやるとは思わなかった」
アレクシスがそれだけ言うと、背後の兵士に目配せした。
次の瞬間、セリーナの両腕が背後から掴まれた。
「……え」
振り返ろうとしても、身体が動かない。
会場のざわめきが消えた。心臓が嫌な音を立てた。手が震える。
「エド。今すぐ馬で走れ。それほど時間は経っていない。追いつけるはずだ」
「叔父上、どういう――」
「こいつはサリームと接触していた。ことの発端は全てこいつだ」
アレクシスはセリーナを見据えた。
「こいつの名は、ミラリア・ブレイ」
胃の奥が浮いた。
「昔、フランシーヌと因縁がある。ローレン家の私刑に遭って、表舞台から消えた貴族だ」
「今はセリーナ・ヴェルデ、だったな」
一瞬、言葉に詰まった。
「何のことだか……分かりませんわ」
しらを切る。まだ通せる。エドワードなら——。
セリーナはエドワードに視線を向けた。
だが、エドワードはもうセリーナを見ていなかった。
会場の隅にある上着を掴み、靴の紐を締め直している。
「エドワード様! お待ちになって——!」
追いすがろうとしたセリーナの前に、アレクシスが立ちはだかった。
扉へ向かうエドワードに、セリーナは叫んだ。
「目を覚ましてエドワード様!! あんな山猿より私の方がいいに決まってます!!」
セリーナは必死に訴えた。
エドワードは足を止め、振り返った。
「……急いでるんだ。弁明なりなんなり、叔父上にしてくれ」
エドワードが怖い顔でこちらを見ていた。
(違う、こんなはずじゃない)
セリーナは否定するように首を横に振った。
エドワードの冷たい視線が、刺さった。
「君はサリームを手引きした。その罪は償ってもらう」
セリーナは頭を抱えた。
人々の視線に炙られているようだった。
殴られているわけでもないのに、胸の奥がひりつく。
「私は悪くない! サリームに会わせただけ! 私は何も——!」
「誘拐教唆だ」
エドワードの声が、遮った。
「……誘拐、教唆……」
セリーナは俯き、耳慣れない言葉を繰り返した。
真っ白になった思考に、硬い言葉の響きだけが残った。それが何を意味するのか、これからどうなるのか。ゆっくりと沼に沈んでいくようだった。
セリーナが視線をあげた頃には、もうエドワードの姿はなかった。
「うふ、ふふふ」
気がつけば、笑い声が漏れていた。
頬は緩み、足は小走りになる。
脳裏に浮かぶのは、先程のフランシーヌの歪んだ顔。
(ざまあみろ!!)
人目がなければ、叫んで笑い出していただろう。
会場へ着く頃には、ほとんど走っている状態だった。
パーティ会場の扉の前で髪を整え、呼吸を整えようとして——やめた。息が切れている方が真実味がある。
セリーナは扉を開け、滑り込むように会場に入った。
焦っている令嬢を装って。
ざわめきの中心に向かって走りながら、叫んだ。
「エドワード様っ!」
セリーナの声はよく通った。
人々の視線が一斉にこちらに向くのがわかった。
背筋がぞくぞくとした。
エドワードの前に行き、胸に手を当て、数度、息を整える。
(さあ、これであんたはおしまいだ)
心の中で呟いて、わざとらしいほど大きく、周囲に聞こえるように言った。
「申し訳ありません! フランシーヌ様を、止めることができませんでした!」
唇を噛み、今にも泣き出しそうな顔を作る。
「婚約者がいる立場で、男性と二人きりになるなど良くないと——そう諭したのです。ですが」
声を詰まらせる。
「私を邪魔だと突き飛ばして。話も、聞いてくださいませんでした」
首を垂れ、口元を掌で覆った。
周囲がざわめき出す。狙い通りだ。
笑いだしそうになるのをじっと耐えた。
エドワードが気遣ってくれる——そう思っていたのに、聞こえたのはアレクシスの声だった。
「すまない、僕の落ち度だ」
低く、よく通る声が会場に響いた。空気が一瞬で変わる。
セリーナは顔を上げた。冷たくこちらを見下ろすアレクシスと目が合い、思わず息が詰まった。
「完全に、見誤った。ここまでやるとは思わなかった」
アレクシスがそれだけ言うと、背後の兵士に目配せした。
次の瞬間、セリーナの両腕が背後から掴まれた。
「……え」
振り返ろうとしても、身体が動かない。
会場のざわめきが消えた。心臓が嫌な音を立てた。手が震える。
「エド。今すぐ馬で走れ。それほど時間は経っていない。追いつけるはずだ」
「叔父上、どういう――」
「こいつはサリームと接触していた。ことの発端は全てこいつだ」
アレクシスはセリーナを見据えた。
「こいつの名は、ミラリア・ブレイ」
胃の奥が浮いた。
「昔、フランシーヌと因縁がある。ローレン家の私刑に遭って、表舞台から消えた貴族だ」
「今はセリーナ・ヴェルデ、だったな」
一瞬、言葉に詰まった。
「何のことだか……分かりませんわ」
しらを切る。まだ通せる。エドワードなら——。
セリーナはエドワードに視線を向けた。
だが、エドワードはもうセリーナを見ていなかった。
会場の隅にある上着を掴み、靴の紐を締め直している。
「エドワード様! お待ちになって——!」
追いすがろうとしたセリーナの前に、アレクシスが立ちはだかった。
扉へ向かうエドワードに、セリーナは叫んだ。
「目を覚ましてエドワード様!! あんな山猿より私の方がいいに決まってます!!」
セリーナは必死に訴えた。
エドワードは足を止め、振り返った。
「……急いでるんだ。弁明なりなんなり、叔父上にしてくれ」
エドワードが怖い顔でこちらを見ていた。
(違う、こんなはずじゃない)
セリーナは否定するように首を横に振った。
エドワードの冷たい視線が、刺さった。
「君はサリームを手引きした。その罪は償ってもらう」
セリーナは頭を抱えた。
人々の視線に炙られているようだった。
殴られているわけでもないのに、胸の奥がひりつく。
「私は悪くない! サリームに会わせただけ! 私は何も——!」
「誘拐教唆だ」
エドワードの声が、遮った。
「……誘拐、教唆……」
セリーナは俯き、耳慣れない言葉を繰り返した。
真っ白になった思考に、硬い言葉の響きだけが残った。それが何を意味するのか、これからどうなるのか。ゆっくりと沼に沈んでいくようだった。
セリーナが視線をあげた頃には、もうエドワードの姿はなかった。
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