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003 生き方を考える

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 次はどうやって生計を立てるかだ。
 清く正しく労働に精を出すのは私の美学に反する。
 というのもあるが、今の私にどこかで働くのは無理なのだ。

 まずこのポンポコでは仕事の募集が非常に少ない。
 基本的に顔馴染みの町民によって経済が回っているからだ。
 人手が必要な時は求人広告を出さずに仲間内で解決する。

 例えば今、私は八百屋の前を歩いているわけだが――。

「今日のキャベツは安いよー! らっしゃいらっしゃい!」

 このように声を張り上げているのは店主ではない。
 店主のゲートボール仲間か何かと思しき別の爺さんだ。

 店主は自分より一回り若い40歳くらいの女性を必死に口説いている。
 トマトを無料にするから旦那に内緒でデートしよう、と。
 女性の隣にいる旦那は「トマトが無料ならアリだな」などと笑っている。

 ポンポコはそういう町なのだ。
 和気藹々としていて、雰囲気がよろしく、部外者の入る余地がない。

 こういうところで働くのであれば、町に馴染む必要がある。
 何日も町で過ごして顔を知ってもらわなくてはならない。
 もちろん国外追放などという訳あり状態は論外だ。

 したがって、私は別の金策手段を考えることにした。
 小さな町を行ったり来たりして、同じような顔の老人たちに奇々怪々な目を向けられながら考える。

「これだ! これしかない!」

 辿り着いた答えは販売だ。
 といっても、店を構えて売るわけではない。
 服屋でドレスを売ったように、店で買い取ってもらうのだ。

 何を売るかはこれから考える。
 そのためには何を売れるかを考える必要があった。
 つまり、今の私に必要なのは地図だ。

「地図ゲーット!」

 雑貨屋で地図を購入した。
 ここはケチれないため、2000ゴールドで最高級の代物を調達。

 私の買った地図はポンポコを中心として周辺の情報が細かく書かれている。
 生息する動物や植物、森の中にある川で釣れる魚まで何でもござれだ。

「思ったより色々とあるわね」

 ポンポコの周辺は資源が豊富だった。
 その分、野生の動物もたくさん生息しているようだ。

「とりあえず野生動物で稼がせてもらおうかしら」

 地図によって、この町が獣害に悩んでいると分かった。
 具体的にはイノシシやシカ、クマといった畑を食い荒らす動物だ。

 そのため、害獣駆除の報奨金が設定されている。
 獲物を倒して役所に報告すれば数千ゴールドは手に入るだろう。

 害獣を狩り、その皮や肉を売る。
 さらに役所に報告して報奨金も受け取る。
 この一挙両得の大作戦によって当面は生きていこう。

 ◇

 経験上、先行投資はケチらないほうがいい。
 先ほどの地図にしてもそうだ。
 そんなわけで、サバイバルナイフを買った。

 価格はなんと7000ゴールド。
 宿代の2000と地図代の2000も合わせると1万1000の出費だ。
 もはや1500ゴールドしか残っていない。

「ほい、1500ゴールドちょうどねー! 毎度あり!」

 なんとなんと、残っていたお金も使い切った。
 最後に買ったのはフェロセリウムを加工して作った棒だ。
 フェロセリウムとは鉄とセリウムの合金である。
 ナイフで擦ると大量の火花が飛び散る――要するに着火道具だ。

「準備は整った! ではしゅっぱーつ!」

 もはや後には引けない。
 無一文に戻った私は地図を片手に森へ向かった。

 ◇

 森に入ると一目散に竹林を目指す。
 竹には色々な種類があるけれど、今回の竹は女竹だ。
 細身の竹で、竹細工でよく使われている。

「えいやっ!」

 ポキッとへし折って加工する。
 害獣駆除の必需品である弓矢を作るためだ。
 イノシシ相手にナイフ片手で挑むのは荷が重い。

「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ」

 ナイフがあれば竹を加工するのも簡単だ。
 あっという間に弓と矢の本体を作ることができた。
 弓に弦を張り、矢に矢羽根を装着すれば完成だ。

 これらも女竹で行おう。
 弦――つまり、糸は竹をはじめとする植物から作れる。
 ナイフを使って無数の繊維を剥ぎ取り、それを手でり合わせる。
 竹製の糸は硬い代わりに頑丈だ。

「できた!」

 まずは糸を作って弓につけた。

 次は矢羽根だ。
 矢羽根は矢の命中精度を高める効果がある。
 決して見栄え目的のオマケではない。

 矢羽根に使うのは竹の葉だ。
 ナイフでそれっぽい形に加工し、粘着性の樹脂でくっつける。
 余った竹の糸で結んでおけば問題ないだろう。

「まずは試し撃ちをしないとなぁ!」

 できたてホヤホヤの弓矢を構えて獲物を探す。
 すると――。

「可愛い女がこんなところで一人とは不用心だなぁ! とりあえず服を脱いでもらおうかぁ! ヒヒヒ」

 害獣ではなく男と遭遇した。
 赤髪で無精髭、目つきは悪く、手に曲刀を握っている。
 セリフからして悪党だ。

「あなたは山賊?」

 男は「おう!」と余裕の笑みで頷いた。
 よし、獲物だ。

「俺の名はイアン! この辺じゃ有名な山賊兄弟の弟と言えば俺の――あんぎゃああああああああ!」

 イアンの悲鳴が響く。
 左肩に私の放った矢が刺さっていた。

「よしよし、我ながらいい出来ね。狙い通りのところに飛んだわ」

「あがぁ! 肩、肩ガァ! 女ァ! 覚えてろォ! 肩ガァ……!」

 イアンは去っていった。
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