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013 たこ焼きパーティー

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 日が変わり、たこ焼きパーティーがやってきた。
 早朝に両親が家を出たあと、俺はのんびり家で待つ。
 その間に今日の計画を練っていた。

 ピーンポーン♪

 家のドアホンが鳴らされる。
 応答すると、カメラには裕美と沙月が映っていた。
 どちらもデートに行くかの如く気合の入った格好だ。

 裕美はピンクのカーディガンに白のキャミソール、下は水色の花柄スカート。
 白いソックスも足下を明るく演出していていい感じだ。
 年相応の可愛いらしい服装と言えるだろう。

 対する沙月は、白のシフォンブラウスに黒のフレアスカートを選んでいた。
 黒のストッキングが妙に艶めかしくて、一言で表すなら「エレガント」。
 年齢以上に大人ぽい印象で、裕美とは対照的だった。

「今日でビシッと二人の関係を改善させるぞ!」

 俺は深呼吸すると、玄関の扉を開けた。

「やっほー大輝! たこパで楽しむよー!」

「ふふ、出会って二日目で家に招待してくれるなんて積極的ね」

 二人は真っ直ぐに俺を見ている。
 互いに目を合わせないよう意識しているのは明らかだ。
 早くも見えない火花が散っていた。

 しかし問題ない。
 俺には綿密なプランがあるのだ。

「では家に来てもらったところ悪いけど――」

 俺は懐から二枚の封筒を取り出し、それぞれに渡した。

 中にはそれぞれ3000円が入っている。
 両親が「たこパ代」として用意したお金だ。

「――今から【たこ焼きバトル】を開始したいと思う!」

「「たこ焼きバトル!?」」

「ルールは簡単だ。3人でスーパーに行くが、材料の調達は各々で行う。使っていいのは封筒に入っている3000円だけだ。そして、自分たちで買った材料を使ってたこ焼きを作り、誰が最も美味いたこ焼きを作れたかで勝負する」

「面白そう! いいじゃんそれ!」

 声を弾ませる裕美。
 沙月も「いいわね」とニッコリ。

「また、料理番組を参考に、各工程の時間も決めることにした!」

「どういうこと?」と裕美。

「何時か何時までは準備、何時から何時までは調理って感じだ。例えば準備タイムの間は具材のカットや生地作りに専念する。時間内に作業が終わったからといって調理を始めてはならない」

「いいじゃん! でもそれだと三人で同じ作業を同じタイミングですることになるよね? そんなスペースあるの?」

「大丈夫だ。見ての通り俺の家は大きい。キッチンには十分なスペースがあるし、たこ焼き器も三台ある!」

「なんで三台もあるの?」と笑う沙月。

「たこ焼きパーティーの詳細を知らなくて、自分と両親の分をそれぞれ買っちまったんだよ。小さいやつだからテーブルの上に並べられるぞ!」

「あはは、面白い」

 裕美も「バカだなぁ」と笑っている。
 いい雰囲気だ。

「そんなわけで、だ。ルールの説明も終わったし買い出しに行こう!」

「しゃー! 沙月、あんたには負けないよ!」

「馴れ馴れしく名前で呼ばないでくれる?」

「うるせー! 呼ばれたくないなら私に勝ってみなー! へへーんだ!」

 アカンベーをする裕美。
 沙月は「ガキね」と呆れたように笑った。

 ◇

 スーパーでの買い出しは何ら問題なく終わった。
 一人3000円も予算があるので、節約の工夫なども必要ない。

 ただ、買い物中は相変わらずギスギスしていた。
 互いにからかい、いがみ合い、なんだかんだと騒いでいた。

 とはいえ、これは想定の範疇である。
 俺には起死回生のウルトラCがあるから問題ない。

「次は準備タイムだ。各自で調理の準備を整えよう!」

 家に戻った俺たちは、ダイニングキッチンに集まっていた。
 二人にはダイニングテーブルで作業をしてもらい、キッチンは俺が使う。
 余ったお金で買ったエプロンをつけて準備万端だ。

「では作業開始!」

 俺はスマホのアラームをセットし、レシピサイトを開く。
 どこの誰が書いたか分からないレシピに従ってたこ焼きを作っていく。

(この世界には面白い料理が多いな)

 現世には、前世になかった料理がたくさん存在している。

 たこ焼きもその一つだ。
 一口サイズの球体状に加工するアイデアには脱帽する。
 調理方法が簡単なのも素晴らしい。

「言っておくけど、私、料理の腕には自信があるんだよね! 昨日は言い負かされた感があったけど、今日は私が勝たせてもらうから! 覚悟しろよ沙月!」

「ふふ、弱い犬ほどよく吠えるとはこのことね」

「なんだとぉ!」

「私も言っておくけど、お父さんが大阪出身なのよ。だから私の家では日常的にたこ焼きパーティーが開かれているわ」

「なっ……!」

「あなたの腕前は知らないけど、たこ焼きに関して言えば、幼少期から親とたこ焼きを作ってきた私のほうが上じゃないかしら?」

「このアマぁ……!」

 二人は調理中もいがみ合っていた。
 キッチンから様子を窺う限り、実力は伯仲しているように見える。

(さて、そろそろかな)

 二人の熱い煽り合いをBGM代わりに作業を済ませ、待つこと数分――。

 ピピピピー♪

 アラームが鳴った。

「そこまで!」

「具材も生地も完璧! これは私の勝ちに決まってる!」

「あら、レシピサイトに頼っているくせに威勢がいいわね」

 さっそく煽る沙月。

「我流で不味いのを作るわけにはいかないでしょ? あんたみたいにさ」

 もちろん裕美も応じる。

「まーまー、言い合いはそこまでにしろ!」

 俺は二人の間に割って入り、ニィと笑った。

「ではここで追加条件を発表する!」

「「追加条件!?」」

「二人には互いの材料を使って調理してもらう! 裕美は沙月が準備した具材と生地を、沙月は裕美が準備したものを使って調理するのだ!」

 これぞ俺の秘策だった。
 ただのバトルだと溝は埋まらない。
 だから、互いの材料を交換させて調理させる。

「ちょっと! そんなの聞いてないし!」

「なんで我が家のオリジナル生地をこんな女に使わせないといけないのよ」

 二人して異議を唱える。
 これも想定通りだ。

「二人とも現時点で優れているのは自分のほうだと思っているだろ?」

「「当然でしょ!」」

「だからこそいいんじゃないか」

「「え?」」

「相手の作った材料で調理して、その上で相手を打ち負かす。そうすれば、完全なる勝者と敗者が決定するってわけだ。負けたほうは『材料が悪かった』という言い訳すらできない」

「たしかに……」

「そうね……」

「納得したら始めるとしよう。完全なる勝者が誰かを決めるたこ焼きバトルを!」

「そう言われちゃやるしかないね!」

「ヘタクソの作った生地でも美味しいたこ焼きに仕上げてあげるわ」

 やる気満々の二人。
 いい感じに盛り上がっている。
 俺は満足気に頷き、スマホのアラームをセット。

「調理開始だ!」

 ここからは三人仲良くダイニングテーブルで作業を行う。
 各自のたこ焼き器に生地を流し込み、具材を入れていく。

「はぁ、信じらんない。なんでこんなに細かくカットしたわけ? タコは大きいほうがいいに決まってるじゃん!」

 裕美が不満を漏らす。

「これだから素人は困るわね。たこ焼きのタコは細かくカットするほうがいいのよ。味が均一になるし、たこ焼き全体にタコの旨味が広がるのだから」

 沙月が呆れたように返す。
 さらに、彼女は裕美の生地にケチをつけた。

「何なのよコレ。硬すぎでしょ。ふざけてんの?」

「分かってないなぁ! 生地をちょっと硬めにすることで焼いた時に外がカリッとしやすいの! 外カリ、中ふわ! これがたこ焼きでしょ! 大阪じゃ外もふわふわさせるのがいいみたいだけど、たこ焼きって言えば外カリだから!」

 裕美も負けじと言い返す。
 すると、沙月の手が止まった。

「なるほど、あえて硬めにしたってわけね。そういうやり方もアリかも。考えたわね」

 この反応に裕美が驚く。
 てっきり文句を言われると思ったのだろう。
 だからなのか、彼女は慌てたように言った。

「あ、あんたのたこ焼きを細かくカットするのだって、いい案だと思うよ! 私も次は細かくカットしようと思う!」

 今度は沙月が驚く。
 そして、「当たり前でしょ」と笑った。

裕美・・、ちょっと褒めたからって調子に乗らないでね? 最後に勝つのは私だから」

 沙月が初めて裕美を名前で呼んだ。
 裕美もそのことに気づいたようでニッと笑う。

「それはどうかな? レシピサイトの力を思い知らせてやる! 覚悟しなさいよ、沙月!」

 二人の雰囲気がいい感じになる。

(材料を交換させたのは大正解だったな)

 思惑通りの展開に心の中でニッコリする俺。

 そんなこんなで調理が終わる。
 最後は皆で食べて判定を下すわけだが――。

「がっはっは! 悪いな二人とも! 実は俺も料理が得意なものでな!」

 結果は俺の勝利だった。
 満場一致で、二人とも異論を唱えなかった。

「大輝、あんた料理が得意だったの!?」

「私と同じ力が使えるだけでなく料理まで……ますます好きになっちゃうわ」

 俺は「ふふふ」と笑うだけで詳しいことは言わなかった。

「では敗者の二人には握手でもしてもらおうか!」

「そんな条件はなかったと思うけど……いいよ!」

 裕美が手を差し伸べる。
 沙月は「仕方ないわね」と応じ、二人は握手を交わした。

「これにてたこやきバトル終了! では負けた二人が後片付けをするってことで!」

「えー」

「面倒な作業を私たちに押しつけるとか強引な男ね」

 沙月は魔力文字で「そういうところも好きよ」と書く。

「ちょっと沙月! あんた今、魔力文字を書いているでしょ!」

 察知した裕美がすかさず食いつく。

「そうだけど?」と認める沙月。

「私にだけ見えない文字で会話するのやめろし!」

「だったら裕美も見えるようになったらいいじゃない?」

「それができたら苦労しないっての!」

 裕美が「ぶー!」と頬を膨らませる。
 そんな彼女を見て、沙月は笑みを浮かべた。

「なら少しだけ仲良くなった記念として、特別に教えてあげよっか?」

「教えるって、何をさ?」

「魔力が見えるようになる方法」

「「えっ」」

 沙月の発言に、俺と裕美は衝撃を受けた。
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