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第9章 使、命
第330話 謀
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予想通り、事態が動いたのはその日の正午を過ぎた頃だった。
「敵軍後方部隊の中に、いくつかの大きな影を認めました」
見張りの兵の声で、翠玉は地形図から目を離して、すぐさま縁に向かった。
「あれは、、、雲梯!?」
同様に縁に手をかけて確認をした冬隼が、直ぐにその姿を視認した。
「3機はいますね」
低い声で泰誠も呟いた。
櫓から見渡す敵軍の最後方の部隊、、否、そのさらに後方の天幕軍の影から姿を現したその大きな物体は、書の中や話では見たり聞いたりしたものであったが、実際には初めて見るものであった。
遠目でまだ台車のついた四角くて大きい物としか認識のできないあれが、雲梯という城門や城壁攻略に使うものらしい。
戦場経験が豊富な冬隼や泰誠が一目で分かるということは間違いないだろう。
こちらに向かって進んできているように見えるそれは、その大きさからは意外なほど速度が早い気がする。
そして目を凝らしてみれば、その雲梯の前を先導するように並ぶ黒い点の集合体に、翠玉は声を上げた。
「まずいわ!奴ら騎馬で一気に引いて突っ込んでくる気よ!冬隼、アレを使うわ!お願い!」
声を張り上げて、冬隼を振り返ると、彼は落ち着いた様子で腰に剣を差し込む。
「俺は中央に降りる。騎馬隊を出すぞ!泰誠ここを頼む!」
「御意」
泰誠の言葉を聞くか聞かないかの内に、冬隼は櫓から降りていってしまった。
「伝令!すぐに全指揮官に関塞守備の陣形に着くよう伝えて!基本は各自の陣営の防衛戦を守ること、無理はするな!以上!」
手短に後方に控えていた伝令役に伝えれば、彼はすぐに礼を取り、冬隼を追うように櫓を降りていく。
「隆蒼!華南!弓兵部隊を関塞下と、城壁上部に展開させて!そして補給に言って、例のアレを中央軍に速やかに配して。種の準備も指示して!
「はっ!」
「承知!」
そして華南と隆蒼が返事をして、櫓を降りていく。
「なるほどね」
翠玉は縁を強く握りしめかながら唸る。
彼等が、動かなかった理由に合点がいった。
彼等のもとからの狙いは、この堅牢な関塞をもつ廿州府を陥す事だったのだ。
しかし長雨により泥濘んだ地面のせいで、重量のある雲梯を運ぶ車輪が動かなかった。
そして久しぶりに晴天が連日続いた今日、その条件が揃った。
董伯央の策が動き出した。
そういう事なのだ。
雲梯を先導する敵の騎馬隊はものすごい速さでそれを引きながら、我が軍に突入してきた。
自軍の騎馬隊が素早く反応できた事が功を奏し、なんとか、こちらの防衛戦で食い止める事ができてはいる。
そこまで来ると、雲梯の全貌は翠玉の位置からでも目視で確認できるようになっていた。
「随分立派なものを隠していたわね」
翠玉が唸るように呟けば、泰誠も神妙に頷いた。
「紫瑞も緋堯も古くから木材資源は豊富ですから、こうした大物を作るのは得意ですしね。なかなかの大物です。
少しでも近づかれたら、後方に畳んである梯子を伸ばして、城壁にかけて来るでしょうね。」
そうなれば、たちまち州府が州都が戦場になる。
殆どの住民と、文官たちは、避難しているとは言え、それでも全てではない。
丸腰の非戦闘員の犠牲は計り知れない。
「失礼いたします。ご命令の通り弓兵の配備と、補給への指示完了いたしました。殿下の部隊も中央部隊と合流しております」
華南が戻り、報告をする。
隆蒼は、現場に残っているのだろう。
「ありがとう。とにかく、準備が整うまで、なんとか持たせないといけないわ。
他の左翼と右翼はどう?」
「敵の進軍に少し足並みがばらつきましたが、すぐに立て直しました。」
シャーンシャーンと、高い銅鑼の音が足元で響いている。
冬隼が全軍に指示を出しているのだろう。
とにかく持ち場を全うしろ、時を待て、と鼓舞している。
ジリジリと、騎馬同士ぶつかり合い、押しては戻す、そんな時間が続いた。
少しずつ、少しづつ、敵軍の推しが強くなり、こちらが押され始めてくる。
「まだか、」
珍しく焦れたように泰誠が呟く。
視線の端で、左翼に敵の増援が追加されたのを確認して、この隙に敵軍がこちらと碧相軍を分断にかかっている事を理解する。
しかし今ここに増援を送ることはできない。
間違いなく董伯央は、そこにできた隙を突いてくる筈だ。
至湧が、兄が、気づいてくれる事を願うしかない。おそらく彼等の場所から、雲梯の姿は視認できている筈だ。
今現在、彼等の戦場がどうなっているのかも確認できないが、きっと董伯央の事だ、彼等がこちらの援護に動けない状況も作っている筈だ。
なるべく早く、動きたい、、、、
顳顬から頬へ汗が伝う。
「敵軍後方部隊の中に、いくつかの大きな影を認めました」
見張りの兵の声で、翠玉は地形図から目を離して、すぐさま縁に向かった。
「あれは、、、雲梯!?」
同様に縁に手をかけて確認をした冬隼が、直ぐにその姿を視認した。
「3機はいますね」
低い声で泰誠も呟いた。
櫓から見渡す敵軍の最後方の部隊、、否、そのさらに後方の天幕軍の影から姿を現したその大きな物体は、書の中や話では見たり聞いたりしたものであったが、実際には初めて見るものであった。
遠目でまだ台車のついた四角くて大きい物としか認識のできないあれが、雲梯という城門や城壁攻略に使うものらしい。
戦場経験が豊富な冬隼や泰誠が一目で分かるということは間違いないだろう。
こちらに向かって進んできているように見えるそれは、その大きさからは意外なほど速度が早い気がする。
そして目を凝らしてみれば、その雲梯の前を先導するように並ぶ黒い点の集合体に、翠玉は声を上げた。
「まずいわ!奴ら騎馬で一気に引いて突っ込んでくる気よ!冬隼、アレを使うわ!お願い!」
声を張り上げて、冬隼を振り返ると、彼は落ち着いた様子で腰に剣を差し込む。
「俺は中央に降りる。騎馬隊を出すぞ!泰誠ここを頼む!」
「御意」
泰誠の言葉を聞くか聞かないかの内に、冬隼は櫓から降りていってしまった。
「伝令!すぐに全指揮官に関塞守備の陣形に着くよう伝えて!基本は各自の陣営の防衛戦を守ること、無理はするな!以上!」
手短に後方に控えていた伝令役に伝えれば、彼はすぐに礼を取り、冬隼を追うように櫓を降りていく。
「隆蒼!華南!弓兵部隊を関塞下と、城壁上部に展開させて!そして補給に言って、例のアレを中央軍に速やかに配して。種の準備も指示して!
「はっ!」
「承知!」
そして華南と隆蒼が返事をして、櫓を降りていく。
「なるほどね」
翠玉は縁を強く握りしめかながら唸る。
彼等が、動かなかった理由に合点がいった。
彼等のもとからの狙いは、この堅牢な関塞をもつ廿州府を陥す事だったのだ。
しかし長雨により泥濘んだ地面のせいで、重量のある雲梯を運ぶ車輪が動かなかった。
そして久しぶりに晴天が連日続いた今日、その条件が揃った。
董伯央の策が動き出した。
そういう事なのだ。
雲梯を先導する敵の騎馬隊はものすごい速さでそれを引きながら、我が軍に突入してきた。
自軍の騎馬隊が素早く反応できた事が功を奏し、なんとか、こちらの防衛戦で食い止める事ができてはいる。
そこまで来ると、雲梯の全貌は翠玉の位置からでも目視で確認できるようになっていた。
「随分立派なものを隠していたわね」
翠玉が唸るように呟けば、泰誠も神妙に頷いた。
「紫瑞も緋堯も古くから木材資源は豊富ですから、こうした大物を作るのは得意ですしね。なかなかの大物です。
少しでも近づかれたら、後方に畳んである梯子を伸ばして、城壁にかけて来るでしょうね。」
そうなれば、たちまち州府が州都が戦場になる。
殆どの住民と、文官たちは、避難しているとは言え、それでも全てではない。
丸腰の非戦闘員の犠牲は計り知れない。
「失礼いたします。ご命令の通り弓兵の配備と、補給への指示完了いたしました。殿下の部隊も中央部隊と合流しております」
華南が戻り、報告をする。
隆蒼は、現場に残っているのだろう。
「ありがとう。とにかく、準備が整うまで、なんとか持たせないといけないわ。
他の左翼と右翼はどう?」
「敵の進軍に少し足並みがばらつきましたが、すぐに立て直しました。」
シャーンシャーンと、高い銅鑼の音が足元で響いている。
冬隼が全軍に指示を出しているのだろう。
とにかく持ち場を全うしろ、時を待て、と鼓舞している。
ジリジリと、騎馬同士ぶつかり合い、押しては戻す、そんな時間が続いた。
少しずつ、少しづつ、敵軍の推しが強くなり、こちらが押され始めてくる。
「まだか、」
珍しく焦れたように泰誠が呟く。
視線の端で、左翼に敵の増援が追加されたのを確認して、この隙に敵軍がこちらと碧相軍を分断にかかっている事を理解する。
しかし今ここに増援を送ることはできない。
間違いなく董伯央は、そこにできた隙を突いてくる筈だ。
至湧が、兄が、気づいてくれる事を願うしかない。おそらく彼等の場所から、雲梯の姿は視認できている筈だ。
今現在、彼等の戦場がどうなっているのかも確認できないが、きっと董伯央の事だ、彼等がこちらの援護に動けない状況も作っている筈だ。
なるべく早く、動きたい、、、、
顳顬から頬へ汗が伝う。
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