後宮の棘

香月みまり

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第9章 使、命

第333話 策士の性質

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冬隼が、櫓に戻れば翠玉は何事も無かったかのような顔でそれを迎えた。

「よくあんな短時間で、完璧に準備できたわね!」

感心したように笑う彼女の頭に手を乗せて次いで労うように肩を抱く。

「補給の連中がよく動いてくれたよ。しかも兵達が自ら作った代物だからな、説明しなくても使い方は全員が完璧に理解していたから話が早かったさ」

冬隼が「これを、雲梯にぶつけるのが任務だ」と言っただけで、すぐに騎馬部隊の兵達が「では火も必要ですね」「できるだけ中身をこぼすな」「滑車に投げ込めば、破壊出来るんじゃないか?」と自分達で考えながら準備を始めたのだ。

彼等自身も雨の日を過ごす中で、ある日はこの陶器となる土を捏ねて形にして、またある日は焼き上がったそれに油を刺し、またある日は布を裁って、こよりにして詰め込んだのだ。

自分が作った物が遺憾なく威力を発揮させるにはどうしたらいいか、短時間の中で彼等は工夫を凝らした。

それが3基とも見事に破壊できたと言う結果に繋がったのだ。


「作っておいて良かったわ!隆蒼のおかげね!」

翠玉は肩を上げて、後ろに控える隆蒼に目を向けた。

「いえ、自分は、、、ただ翠玉様に聞かれたまでを伝えただけで」

急に水を向けられ、隆蒼は恐縮したように視線を逸らした。

翠玉が、隆蒼に暗器をはじめ変わった武器の話を聞いているのは知っていた。

隆蒼は昔から武器に関しての知識は深い。他国の古の物から、時には自身で作ってみたりしている事もあった。そんなところが、華南には「陰湿な奴」と言われる所以でもあるのだが、その話の中で、何かが翠玉のヒントになったらしい。

今度は烈を捕まえて、何やら聞いているうちに今回の代物は完成した。

初めて試作品を見た時から、戦において非常に有効な代物だと思ったため、増産を許可したものの、長雨により兵達の手が予想以上に使えて、陶器の土も、油も底を尽きてこれ以上手配は無理だと、悠安に泣きつかれるほどの数が出来上がった。

「しかし、こうも早く使う機会があるとは思わなかったぞ?」

何か察していたのか?と聞いてみれば、翠玉は少し困ったように笑った。

「董伯央は大国の策士なのよ!彼は生まれも育ちも紫瑞でしょう?そうであるなら無意識に彼に刷り込まれているのは、資源も兵力も豊富な彼の国独特の兵法だわ。派手な道具や上等な武具を惜しみなく利用したまぁ贅沢な戦い方ね」

だから彼が、何かしらの大物を使って派手にくる事はなんとなく予想出来ていたのよ。
と翠玉は笑った。

「片や私は小国の策士!私の師は、資源も兵も少ない中で、どう立ち回るか考えろと、言う人だったわ。もちろん大国の策士のそうした心理を逆手に取る事も教えられたわ。だから今回はこちらから派手な事は起こさず、相手の起こしたそれをいかにねじ伏せて心理的ダメージを食らわせるかってところを考えてみたのよ!」

それが、今日の結果!まぁすごく冷や冷やしたけど!と彼女は自嘲した。

「今回のことで確信したけど、多分董伯央は紫瑞の知王と言われた孔伯水こうはくすいの子孫なんだと思う。直接兵法を習っているのかもしれないわ。もしそうなら私は負けるわけにはいかないの。
私の師である壁老師はその孔伯水との知戦は無敗だったみたいだから、もし負けることがあったら老師に怒られちゃう」

老師何度も自慢してたから、きっと彼に無敗だったのは相当こだわってたと思うのよね~。

と最後は彼女が何かに納得して、話を終えた。


冬隼始め、その場にいた全員が、言葉を失って彼女を見ていた。

なんだか衝撃の事実が沢山出てきたが、

こんな策士が、味方側の人間で良かったと心底思ったのだ。




結局その日は、雲梯の壊滅と共に敵軍は兵を引いて行った。
追撃をしてみても良いかとも思ったものの、碧相軍側には紫瑞の戦車部隊が展開されている。下手に追撃したところを横から戦車部隊に斬り込まれるのは危険だと判断して、碧相側へ騎馬部隊を援護に出すだけにとどめた。
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