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第9章 使、命
第345話 その頃
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「眠れませんか」
関塞から、戦場と敵軍の野営地を眺めていると、泰誠が顔を出した。
「あぁ、一度床には着いたのだがな」
どうも落ちつかないんだ、そう言って冬隼はまた視線を戻した。
「無理もないですね」
そう息を吐いた泰誠は冬隼の隣に肘を置く。
このところ、翠玉に対する彼の執着は更に強くなったと泰誠は感じていた。
執着と言うべきか、溺愛と言うべきなのかはわからないが。
多分二人が本当の意味で一線を超えたのだろうと、泰誠とそして華南は理解しているのだが。
だからこそそんな愛する妻を1人激戦となる戦場に送り出さなければならなかった彼の気持ちは、いまギリギリの所にあるのではないかと心配もしている。
今すぐにでも自分が行きたいだろうに。
多くの兵を送ってやりたいだろうに。
北の空を見上げる。
今頃あちらでは何が起こっているだろうか。
奥方様が無理をしてないといいなぁ~まぁ無理な話か
そう心の中で乾いた笑いをもらしたところで、来訪者の気配を感じた。
「兄上!ここにおられたのですね!」
「悠安と、、、幸悠か?」
息を切らせて上がってきたのは、この州府の主であり、冬隼の弟である悠安と、その息子の幸悠だ。
幸悠はまだ11歳になったばかりだ、こんな遅い時間に起きているなんて珍しいなと思う。
「こんな時間に幸悠までどうしたんだ?」
同じことを思った冬隼が、慌てた様子でかけてくる2人を怪訝な顔で見る。
2人の様子を見るに、何か緊急な事が起こっているのだろう。
悠安が冬隼の肩を掴む。
彼にしては本当に珍しく狼狽している。
「兄上、落ち着いて聞いてください、どうか冷静に」
「まずお前が落ち着け」
「あぁそうですね。すみません、、、えっと」
何から話そうか、、そう頭を抱えた悠安に
「父様しっかりして下さい!」
と後ろに控えていた幸悠が声を上げて、一歩前に出た。
歳の割に聡く、稜寧と共に将来を期待されているというだけあって彼は父の悠寧よりも落ち着いていた。
「もう!ボクが話します!」
そう言って彼は、自分が今日の夕に見たことを理路整然と話を話し始めた。
幸悠は夕から、書庫にいた。雲梯を始めて見た彼は、大型の兵器に興味が湧いたらしい。
そして本を読みあさっていると、突然書庫に来訪者がやってきた。
「翠玉様でした。軍事のことを調べられるのかな?と思って、こちらに来られると思ったのですが、違ったみたいで、、、」
そうしてじっと見ていると、彼女はとても急いでいたらしく、本に埋もれていた幸悠には気づかなかったらしい。
「奥の棚に入っていって、いくつか本を引っ張り出して見ていました。でもしばらくしてすぐに急いだ様子で出ていかれたので、何か調べ物をしたかったのだなぁとその時は思ったのですが」
そのまま彼は夕食時まで調べ物に夢中になっていたため、軽い軽食を持ち込んでそのまま書庫で過ごした。
そろそろ寝なければと思って書庫を出たのが丁度翠玉達が慌ただしく出て行った直後の事だ。
書物をもとの場所にもどして彼はふと、夕方の翠玉の行動を思い出す。
彼女が何を調べていたのか、もしかしたら次の戦法のヒントがあるのかも、好奇心で翠玉のいた書棚を除いた。
「医術書の場所でした。ボクあの書庫の書物の並び方の規則性は把握してるので、何冊か戻した場所が違うなぁって物がありました。きっとこれを翠玉様が読んだのだと思って見て見ました。多分翠玉様は妊娠について調べていたのだと思います」
誇らしげに胸を張る子供の言葉を聞いて、父である悠安は額に手を当てる。
冬隼と、泰誠も思考が停止した。
悠安が狼狽して、幸悠が落ち着いていたのはこう言うことかと合点が言った。
11歳の男の子にとって妊娠なんてものは、赤ちゃんがお腹にいるくらいの認識しかない。
それがどれだけ今の状況で大変なことなのかは、、、理解できていまい。
幸悠はその時「翠玉様お腹に赤ちゃんがいるんだ」と思ったくらいで、そのまま自室に戻って湯浴みをして寝る段になり、おやすみの挨拶に来た母に、その話をしたのだ。
彼の母、つまり悠安の妻は先ほど翠玉が兵を引き連れて出て行った事を知っていたので、真っ青になった。
そして寝支度を整えていた幸悠を再び着替えさせ、そのまま夫の元へ引きずっていったのだとか。
そして悠安が息子を連れて、書庫に行って事実確認をしたところ、彼が翠玉が読んでいたと推測する本が
「これです」と悠安が一冊の本を手渡してきた本は、妊娠初期から出産までの経過を書いた書だった。
「すみません。ご報告がこれほど遅れまして」
「いや、幸悠は悪くない。」
頭を下げてる悠安に、冬隼は呆然としながら首を振る。
「幸悠、教えてくれてありがとう。もう遅いから寝なさい」
やっとの思いで甥に笑顔を向けると、大人の空気を察して不安そうにしている彼をねぎらって下がらせた。
悠安に連れて行かれる幸悠を見送って、姿が見えなくなると、その場に冬隼は項垂れた。
「あの、愚問かもしれませんが、、、お心当たりは」
「あるに決まってる」
恐る恐る聞いてくる泰誠に、冬隼は短く答える。
もし、幸悠が言う事が本当であれば、嬉しいことだ
しかし、この現状では手放しでは喜べない
それどころか
「なぜ俺は近くにいて気付かなかった」
後悔が募る。
出て行く時の翠玉の手の温もりを思い出す。
言われてみれば、最近彼女の体温が少し高かったようなきもする。
「私、まだやらなきゃいけない事があるから死んでなんていられないのよ」
出がけに言った翠玉の一言はこういう事だったのだ。
多分彼女も妊娠を知ったのは少し前だったのだろう
どういう思いで、彼女は出て行ったのだろう。
すぐに追って連れ戻したい、無理なのであれば、彼女が無茶をしないだけの援軍をだそうか、しかしすでにあちらは戦闘が始まっている可能性が高い。今から出ても間に合わない。
1人の男として夫としての冬隼と、そのどれをとる事も自軍を窮地に落しかねないことを理解している禁軍の最高責任者としての冬隼
二つの狭間で冬隼は身動きが取れない。
だからきっと翠玉は、冬隼に言わなかったのだろう。冬隼が困るのが分かっていたから。
「くそっ」
拳を石造りの塀に打ち付ける。
痛かったが。そんなことはどうでもよかった。
何か方法がないだろうか。
関塞から、戦場と敵軍の野営地を眺めていると、泰誠が顔を出した。
「あぁ、一度床には着いたのだがな」
どうも落ちつかないんだ、そう言って冬隼はまた視線を戻した。
「無理もないですね」
そう息を吐いた泰誠は冬隼の隣に肘を置く。
このところ、翠玉に対する彼の執着は更に強くなったと泰誠は感じていた。
執着と言うべきか、溺愛と言うべきなのかはわからないが。
多分二人が本当の意味で一線を超えたのだろうと、泰誠とそして華南は理解しているのだが。
だからこそそんな愛する妻を1人激戦となる戦場に送り出さなければならなかった彼の気持ちは、いまギリギリの所にあるのではないかと心配もしている。
今すぐにでも自分が行きたいだろうに。
多くの兵を送ってやりたいだろうに。
北の空を見上げる。
今頃あちらでは何が起こっているだろうか。
奥方様が無理をしてないといいなぁ~まぁ無理な話か
そう心の中で乾いた笑いをもらしたところで、来訪者の気配を感じた。
「兄上!ここにおられたのですね!」
「悠安と、、、幸悠か?」
息を切らせて上がってきたのは、この州府の主であり、冬隼の弟である悠安と、その息子の幸悠だ。
幸悠はまだ11歳になったばかりだ、こんな遅い時間に起きているなんて珍しいなと思う。
「こんな時間に幸悠までどうしたんだ?」
同じことを思った冬隼が、慌てた様子でかけてくる2人を怪訝な顔で見る。
2人の様子を見るに、何か緊急な事が起こっているのだろう。
悠安が冬隼の肩を掴む。
彼にしては本当に珍しく狼狽している。
「兄上、落ち着いて聞いてください、どうか冷静に」
「まずお前が落ち着け」
「あぁそうですね。すみません、、、えっと」
何から話そうか、、そう頭を抱えた悠安に
「父様しっかりして下さい!」
と後ろに控えていた幸悠が声を上げて、一歩前に出た。
歳の割に聡く、稜寧と共に将来を期待されているというだけあって彼は父の悠寧よりも落ち着いていた。
「もう!ボクが話します!」
そう言って彼は、自分が今日の夕に見たことを理路整然と話を話し始めた。
幸悠は夕から、書庫にいた。雲梯を始めて見た彼は、大型の兵器に興味が湧いたらしい。
そして本を読みあさっていると、突然書庫に来訪者がやってきた。
「翠玉様でした。軍事のことを調べられるのかな?と思って、こちらに来られると思ったのですが、違ったみたいで、、、」
そうしてじっと見ていると、彼女はとても急いでいたらしく、本に埋もれていた幸悠には気づかなかったらしい。
「奥の棚に入っていって、いくつか本を引っ張り出して見ていました。でもしばらくしてすぐに急いだ様子で出ていかれたので、何か調べ物をしたかったのだなぁとその時は思ったのですが」
そのまま彼は夕食時まで調べ物に夢中になっていたため、軽い軽食を持ち込んでそのまま書庫で過ごした。
そろそろ寝なければと思って書庫を出たのが丁度翠玉達が慌ただしく出て行った直後の事だ。
書物をもとの場所にもどして彼はふと、夕方の翠玉の行動を思い出す。
彼女が何を調べていたのか、もしかしたら次の戦法のヒントがあるのかも、好奇心で翠玉のいた書棚を除いた。
「医術書の場所でした。ボクあの書庫の書物の並び方の規則性は把握してるので、何冊か戻した場所が違うなぁって物がありました。きっとこれを翠玉様が読んだのだと思って見て見ました。多分翠玉様は妊娠について調べていたのだと思います」
誇らしげに胸を張る子供の言葉を聞いて、父である悠安は額に手を当てる。
冬隼と、泰誠も思考が停止した。
悠安が狼狽して、幸悠が落ち着いていたのはこう言うことかと合点が言った。
11歳の男の子にとって妊娠なんてものは、赤ちゃんがお腹にいるくらいの認識しかない。
それがどれだけ今の状況で大変なことなのかは、、、理解できていまい。
幸悠はその時「翠玉様お腹に赤ちゃんがいるんだ」と思ったくらいで、そのまま自室に戻って湯浴みをして寝る段になり、おやすみの挨拶に来た母に、その話をしたのだ。
彼の母、つまり悠安の妻は先ほど翠玉が兵を引き連れて出て行った事を知っていたので、真っ青になった。
そして寝支度を整えていた幸悠を再び着替えさせ、そのまま夫の元へ引きずっていったのだとか。
そして悠安が息子を連れて、書庫に行って事実確認をしたところ、彼が翠玉が読んでいたと推測する本が
「これです」と悠安が一冊の本を手渡してきた本は、妊娠初期から出産までの経過を書いた書だった。
「すみません。ご報告がこれほど遅れまして」
「いや、幸悠は悪くない。」
頭を下げてる悠安に、冬隼は呆然としながら首を振る。
「幸悠、教えてくれてありがとう。もう遅いから寝なさい」
やっとの思いで甥に笑顔を向けると、大人の空気を察して不安そうにしている彼をねぎらって下がらせた。
悠安に連れて行かれる幸悠を見送って、姿が見えなくなると、その場に冬隼は項垂れた。
「あの、愚問かもしれませんが、、、お心当たりは」
「あるに決まってる」
恐る恐る聞いてくる泰誠に、冬隼は短く答える。
もし、幸悠が言う事が本当であれば、嬉しいことだ
しかし、この現状では手放しでは喜べない
それどころか
「なぜ俺は近くにいて気付かなかった」
後悔が募る。
出て行く時の翠玉の手の温もりを思い出す。
言われてみれば、最近彼女の体温が少し高かったようなきもする。
「私、まだやらなきゃいけない事があるから死んでなんていられないのよ」
出がけに言った翠玉の一言はこういう事だったのだ。
多分彼女も妊娠を知ったのは少し前だったのだろう
どういう思いで、彼女は出て行ったのだろう。
すぐに追って連れ戻したい、無理なのであれば、彼女が無茶をしないだけの援軍をだそうか、しかしすでにあちらは戦闘が始まっている可能性が高い。今から出ても間に合わない。
1人の男として夫としての冬隼と、そのどれをとる事も自軍を窮地に落しかねないことを理解している禁軍の最高責任者としての冬隼
二つの狭間で冬隼は身動きが取れない。
だからきっと翠玉は、冬隼に言わなかったのだろう。冬隼が困るのが分かっていたから。
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