後宮の棘

香月みまり

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第10章 後宮

第371話 誤解

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冬隼と華南の間でどんなやりとりが為されたのかは分からないが、翠玉の知らないところで、華南と隆蒼の今後の身の振り方が決まっていた。

隆蒼は、どうやら華南の勧めと冬隼と泰誠の要請を受けて、李蒙直下の部下として禁軍に復職をする事になった。

そして一度は李蒙の部下に戻ると言っていた華南だが、彼女は隆蒼との兼ね合いや戦場での自分の行動に思うところがあったようで、軍に所属する事は辞めたらしい。

「組織として動くよりも、その時に守りたいものを守る方が性に合っているんです!」と彼女は言って、そして翠玉と、これから産まれてくる子供の護衛として冬隼にそのまま雇われる事を望んでくれたのだ。

翠玉にとってはこれ以上ないほど心強い護衛だ。

しかしそこで問題になったのは、以前から護衛としてついていてくれた双子の存在だった。

3人となった護衛は、翠玉と産まれてくる赤子に対しては少ないくらいではある。正直倍の数は欲しいところだが、そう簡単に信用出来る者もいないので、そこはどうやら影で補うらしい。


問題は、華南と楽の間に生じた誤解だ。
どこかできちんと話し合いを持たせなければと、翠玉は密かに考えていたのだが、どうやらそれも翠玉が知らぬ間に一悶着あったらしい。

あとから樂がこっそり教えてくれた内容では、それは、翠玉達が戻った日の晩に起こったらしい。

どうにもふて腐れて、対応が悪い楽に、華南がキレた。

「何か思うところあるならはっきり言いなさいな!一緒に仕事していくのにこんなんじゃあ、やり辛いったらないわ!」

そう怒った華南に。なおも素直に対応しない楽。

見かねた樂が、2人の幼なじみの姉さんの話をして、華南に真意を尋ねてみると、それが全くの誤解であった事がわかったのだ。


華南と、その姉さんの婚約者だった男は確かに同期入隊で顔を知っていたが、接点は皆無だった。

それについては、その場に居合わせた隆蒼のおかげで話が繋がったらしいのだが……。

つまるところ、その婚約者だった男は王都に出てきて自身で金を稼ぐようになって、娼婦に入れあげたのだと言う。

娼婦に本気になってしまった彼は、その娼婦と一緒になろうと考えて、地元に残した婚約者を切ったらしい。
禁軍に入隊して小さな集落で英雄扱いを受けていた男が、まさか娼婦と結婚したいから別れて欲しいとは言えなかったのだろう。

そこで出任せに使ったのが、同期の華南の名前だった。当時すでに色んな男と浮名を流していた華南は、絶好の隠れ蓑になったのだろう。

結局、その男はお目当てだった娼婦には振られ、婚約者に死なれて、素行不良に陥り今は地方に飛ばされているというのだ。 

華南と関係なんて一切ない、それはずっと見ていた俺がよく知っている!と言い切った隆蒼のおかげで、楽の誤解もようやく解け、2人は和解したらしい。


言われのない勘違いで失礼な対応を受けた華南だが、彼女はこんな事はよくある事だと気にした様子もなく、自分より10近く年若い楽に「若いんだし仕方ないわよ!純粋で羨ましいわ!」と寛容だった。

そんな彼女の男気(?)に当てられた楽が、華南に懐くのもすぐだった。
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