後宮の棘

香月みまり

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第10章 後宮

第372話 謁見

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皇帝への謁見が行われたのは王都に到着してから3日後の事だった。


「戦勝も大変喜ばしいことではあるが……なによりも懐妊の知らせは、本当にめでたい事だ!よくぞ、無事に戻られた!」

簡単な挨拶の後にすぐに用意された椅子に座らされた翠玉に、皇帝からはことさら明るい声がかけられた。

「陛下方には随分とご心配をおかけいたしまして。こうしてご配慮をいただきました事も感謝を申し上げます」

座したまま礼を述べると、皇帝の隣に座る皇后が「それで」と声を上げた。

「体調は大丈夫なのですか?随分と長旅で何もこんなに早く呼び立てしなくてもと、言ったのですが」

そう言って隣の皇帝を呆れたように軽く睨みつけた。それに対して苦笑と共に肩を竦めた皇帝の姿につい翠玉も、冬隼も頬を緩めた。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。元気すぎて、やる事がなくて困っているくらいです」

「それは良かった。しばらく安静にしていたと聞いていたから、無事に戻ってこられるのか心配していたの。どうも普段泉妃を見ているせいか、妊婦の健康には慎重になってしまっているみたいで……」

安堵したように笑った皇后に、皇帝が「だからきちんと冬に様子を聞いてからお呼びしたと言っただろう?」と呆れたように微笑んだ。


「泉妃のご体調はいかがでしょうか?」

泉妃はそろそろ妊娠も後期に入ろうとしているところだろうか?
出立前は、すっかり痩せて青白い顔をしていて起き上がるのがやっとの様子だったのだが……。

翠玉の問いに、反応を示したのは皇后だった。

「ずいぶんとマシにはなって来ているけれど、相変わらず調子の良い時の方が少ないわ。ご無事のお戻りと懐妊の報を聞いて、大層喜んでいたから、折を見てお顔を見せにいらしてくれると嬉しいわ」

調子は良くはないが、訪問を受ける事くらいは出来るまで復調しているということらしい。
安堵の息を吐く。

「私も色々とお聞きしたい事があったので、日を調整して、伺わせていただきます」

「ふふ、おまちしております。あぁ、そう言えば、幸悠と稜寧が翠玉様から指導を受けているという話を聞いた、爛皇子が自分も指導を受けたいと言っているのだけど……授業に参加させていただけないでしょうか?」


「まぁ、もったいないことを!」

唐突な話に翠玉は目を丸くする。
翠玉と共に帰都した稜寧に、今度は自分が王都で学びたいと幸悠がくっついて来たのだ。
雪稜の邸で生活をしながら、政治の中枢の空気を学ぶらしい。

その中で翠玉は週に2日、継続して兵法の授業を二人に行うことが決まっている。そこに爛皇子が一人加わっても大した負担にはならない。

「私からも頼みたい、もちろん翠玉殿の無理のない範囲で構わない。同年代の従兄同士で交流を持つ事も大切だろうしな」

皇帝が言添えると、皇后も深く頷いた。


「最近爛皇子は随分としっかりなさって、どうやら兄として、第一子として、母や妹を支えたいと言う気概が出てきたようで、ひとまわり大人になったように感じます」


「まぁ、頼もしい限りでございますね」

初めて会った時は、震えて馬に縋り付いていた皇子が、数カ月見ない内にどんな成長を遂げているのか、楽しみになってきた。

翠玉と皇后の話に、皇帝も顔を綻ばせる。

「皇后の言う通り、最近本当に成長を感じるよ。母に代わって指導してくれている皇后のおかげでもあるぞ」


「ふふ、私は何も。褒めても何も出ませんわよ」

クスクスと、笑い合う皇帝と皇后につられて、翠玉も、笑いをこぼした。


「後宮はその後、特に問題はございませんか?」

一頻り和やかな空気を楽しんだ後、冬隼の少し深刻な問いに、皇帝が表情を引き締めた。

「皇太后の件以降大きなことは起こっていないな。ただやはり黄毒の事は放って置けない。まだ調査をさせているよ。皇太后宮の内部も調べさせているが、それも大して……というところだな」


「そうですか……」


「何か決定的な証拠や証言が出てこない限りは、真相を暴くのは難しいかもしれないな」

参ったような皇帝の言葉に。皆が口をつぐんだ。
得体の知れない敵が、まだ潜んでいるのか……それともいなくなったのか……それすらわからないのだ。

異母姉あねは……劉妃はどうしておられますか?」

翠玉の言葉に、皇后が苦笑しながら首を小さく振る。

「自宮から出ることもなく静かに生活をしている」

「そう……ですか」

あの劉妃がずっと篭りきりなのも不可解ではあるのだが、彼女については読めないことが多すぎる。




「この件は、私と雪で色々手を回している。大切な身だ、あまり後宮に煩わされずゆっくり過ごしてくれ」

ため息混じりな皇帝の言葉は、おおよそ任せておけ!という勢いは感じられないが、状況を考えれば、いた仕方ないのかもしれない。



「ありがとうございます」


複雑な笑みで礼を言うにとどめた。
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