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第10章 後宮
第379話 面会
異母姉の部屋は宮廷の奥深く、限られた近衛に守られた一角にあった。
冬隼に付き添われ、部屋の前まで向かうと扉の前で冬隼と視線をかわして頷き合う。
「惺はどうしている?」
翠玉が一人で入室すれば、寝台に座って相変わらずの高飛車な顔つきで、こちらを見ていた異母姉は、挨拶もなしにその言葉を投げかけてきた。
どんなに萎れているのかと思ったのだが……後宮にいる頃と大して変わらない様子に、翠玉はため息を溢す。
もとより、翠玉もそれほど親しく挨拶を交わす気もなかったので、彼女がその気ならばと、そのままつかつかと部屋の中央の卓に向かい椅子を引き出して座った。
「少し落ちついて、昼からは食欲も出てきたようです」
そう伝えれば、つり上がった形の良い眉が下がった。
「良かった、あの子は繊細ゆえ……頼む」
最後の言葉は絞り出すような声だった。
息子のそばにいられない無念さなのか、長年相入れない翠玉に縋らねばならない屈辱からなのか……それは分からない。
ただ、この一言を発した劉妃の身体が、少しばかり小さくなったように感じた。
「なぜ、私に殿下の御身をお任せになったのです?」
いつも自信と矜持に満ちていた、この人のこんな姿は、何故かあまり見ていたくなかった。
兄達を失った頃は、この異母姉や母親を殺してやりたいとすら思ったのに。
「そなたしか、おらんからだ」
キッパリと帰ってきた言葉に、眉を寄せる。
「私が惺殿下を害すとは思わないのですか?貴方とその母上は、それをされて良いほどの事を私にしてきた事をまさかお忘れでないでしょうね?」
翠玉の問いに、劉妃がフンッと笑った。
「ソナタが害して何か利があるのか?
今更、復讐をするような性格ではなかろう。惺を殺して、ここまで築いてきた立場を揺るがすようなバカな真似をソナタがするとは思えないが?」
翠玉は息を飲む。
それを見た劉妃は嘲笑う。
「私がソナタの事をただ野放しにしておくと思うか?禁軍でどのような立場にいるかなど分かっているわ。あぁ安心しろ、祖国には伝えていない。伝えてやる義理もないのでな」
ハハッと笑った彼女はそうしてどこか遠くを見つめた。
「どういう形になるかはわからない。だがソナタに頼みたいのは、惺が流刑になるならば、間違いなく安全にそこへ届けて生活を見守って欲しい。
そしてもし都に残る事を認められた場合は、ソナタの元で養育してやって欲しいのだ」
「今そんな事を仰るとは……そうなるしかないほどの事をあなた様はなさったという事ですか?」
低い声で尋ねる。脳裏に蘇ったのは数ヶ月前に見た第1皇女殿下が熱に浮かされる姿だった。
あんな幼子まで手にかけたというならば、翠玉としてはその所業を許す事はできない。
翠玉の言葉に、劉妃は首を振る。
「いや……全てではない。」
そう言って目を瞑った。
「一つ二つは私だ……しかしそれを弱みに、狡猾に私は脅されていた」
翠玉は息を飲んで、目を瞬いた。
その様子を異母姉は何も言わずに見つめている。
翠玉が、今聞いた事を整理するのを待つように。
「脅されていた?誰に?」
乾いた唇から、何とか紡げた言葉は少しかすれていた。
ようやく翠玉から出てきた言葉に、劉妃は首を振る。
「正確にはわからない……しかしおそらくは皇后陛下だと私は思ている」
ヒュッと、翠玉の喉を乾燥した空気が入ってきたような気がした。
頭の奥を何か重たいもので殴られたような……そんな衝撃が頭の中に響いた。
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