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第10章 後宮
第383話 負い目
翌日、翠玉は惺皇子を連れて皇宮へ向かった。やはり異母姉の思惑を聞かされて知っていたのだろう。なにかを悟っている様子の惺皇子にかける言葉が見つからないまま皇帝に引き渡し、2人は劉妃の安置された廟へ消えていく。
2人を待つ間、控えの間に向かえば泉妃が茶を入れて待っていた。
「先程、劉妃にお花を……そうしたら翠玉様が惺殿下を連れてお見えになると聞いたので、お話相手にでもと思ったのです」
そう言って相変わらず可憐な笑顔を向ける泉妃に翠玉の心がほっと緩むような気がした。
「ありがたいことです。」
礼と共に、勧められた席に座すと、泉妃は深々と頭を下げた。
「姉君のお悔やみを申し上げます。」
そうして顔を上げると、心配そうに翠玉を見上げる。
「辛い事に巻き込まれてしまいましたね。お身体は大丈夫ですか?眠れてますでしょうか?」
「ありがとうございます。冬隼がよく配慮してくれておりまして、ありがたい事に」
そう微笑めば、泉妃はほっとしたように頬を緩めた。
「良かったです。惺皇子の事、何かお役に立てることが有ればおっしゃってくださいませね……皇后陛下もご心配しておられますが、今はこの件で後宮を離れられなくて……」
皇后、という言葉に不意に昨日の異母姉の言葉が過ぎる。
「そうですか……また少し落ち着いた頃にでもうかがいましょう」
いずれ遠くなく、皇后と顔を合わせる事があるだろう。その時に不審な態度をとるわけにはいかない。どうにかうまく取り繕えるようにしなければならないだろう。
「劉妃はとても高圧的で苦手でしたが……それでも子どもを残していく事がどれほど辛かったかと思うと、どうしても同情してしまいます。
ですが、香蘭の事を思うと……。なぜあの方はそこまでするほどまでに、惺殿下を世継ぎにしたかったのでしょうか?」
心底不思議で痛ましいという様子の泉妃の言葉に、翠玉は苦笑する。
「彼女の母がそういう人でしたから、きっと彼女の中でそれは絶対だったのかもしれません。彼女が不幸なのは、幼い頃から息子を世継ぎにするために手を汚す母を見てきた事だったのだと思います。きっとそれ以外は負けだと、無意識に刷り込まれていたのだと思います。
恥ずかしながら祖国の後宮は、卑劣な裏切りや蹴落とし合いが常でしたから」
今思い出しても、よくまともに生きていたなぁと感心する。だからこそ、劉妃は当たり前のように他の皇子や妃を害そうしたのだろう。
実際のところ、自業自得なのである。
「それは……理解できます。うちも同じでしたから。陛下達が随分と辛い思いをされ、血に塗れながらここまで来たのを私も遠巻きながら見ておりましたので」
そう言って泉妃は目を伏せる。当時の事を思い出したのか、指先が小刻みに震えていた。
「だからこそ、陛下はご自身の代ではそんな世継ぎ争いを起こしたくないとおっしゃっていたのに、私が不甲斐ないばかりに……結局子供2人と、妃達の人生を狂わせてしまいました」
そういえば、泉妃に子供が出来なかったから、異母姉と廟妃が嫁いできたと聞いた事がある。
泉妃には泉妃の責任を感じるものがあるのだろう。
しかし、子供なんてものは授かろうと思って授かれるものではない。
思いがけず翠玉はあっさりと授かってしまったが、本当はもっと時間がかかるものだと思っていた。だから……
「泉妃様のせいではありません。どうかご自身を責めないでくださいませ」
そう顔を覗き込めば、少し涙ぐんだ瞳がゆっくり持ち上がる。
「惺殿下の養育には私も協力させていただきます。ずっと閉じこもっておられましたし、他の兄弟と交流も気晴らしになるかもしれません。必要があれば遠慮なくおっしゃってくださいませ」
だからこそ、彼女も惺殿下の役にたちたいと思うのだろう。
「それは心強いです。惺殿下の様子次第ですが、その時には頼らせていただきますね」
これからは妊娠中だけでなく、子供の育て方も、彼女から学ぶべき事が多くあるのだろう。
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