後宮の棘

香月みまり

文字の大きさ
122 / 189
第10章 後宮

第383話 負い目

しおりを挟む

翌日、翠玉は惺皇子を連れて皇宮へ向かった。やはり異母姉の思惑を聞かされて知っていたのだろう。なにかを悟っている様子の惺皇子にかける言葉が見つからないまま皇帝に引き渡し、2人は劉妃の安置された廟へ消えていく。

2人を待つ間、控えの間に向かえば泉妃が茶を入れて待っていた。

「先程、劉妃にお花を……そうしたら翠玉様が惺殿下を連れてお見えになると聞いたので、お話相手にでもと思ったのです」

そう言って相変わらず可憐な笑顔を向ける泉妃に翠玉の心がほっと緩むような気がした。

「ありがたいことです。」
礼と共に、勧められた席に座すと、泉妃は深々と頭を下げた。

「姉君のお悔やみを申し上げます。」

そうして顔を上げると、心配そうに翠玉を見上げる。

「辛い事に巻き込まれてしまいましたね。お身体は大丈夫ですか?眠れてますでしょうか?」



「ありがとうございます。冬隼がよく配慮してくれておりまして、ありがたい事に」

そう微笑めば、泉妃はほっとしたように頬を緩めた。

「良かったです。惺皇子の事、何かお役に立てることが有ればおっしゃってくださいませね……皇后陛下もご心配しておられますが、今はこの件で後宮を離れられなくて……」


皇后、という言葉に不意に昨日の異母姉の言葉が過ぎる。


「そうですか……また少し落ち着いた頃にでもうかがいましょう」

いずれ遠くなく、皇后と顔を合わせる事があるだろう。その時に不審な態度をとるわけにはいかない。どうにかうまく取り繕えるようにしなければならないだろう。


「劉妃はとても高圧的で苦手でしたが……それでも子どもを残していく事がどれほど辛かったかと思うと、どうしても同情してしまいます。
ですが、香蘭の事を思うと……。なぜあの方はそこまでするほどまでに、惺殿下を世継ぎにしたかったのでしょうか?」


心底不思議で痛ましいという様子の泉妃の言葉に、翠玉は苦笑する。

「彼女の母がそういう人でしたから、きっと彼女の中でそれは絶対だったのかもしれません。彼女が不幸なのは、幼い頃から息子を世継ぎにするために手を汚す母を見てきた事だったのだと思います。きっとそれ以外は負けだと、無意識に刷り込まれていたのだと思います。
恥ずかしながら祖国の後宮は、卑劣な裏切りや蹴落とし合いが常でしたから」

今思い出しても、よくまともに生きていたなぁと感心する。だからこそ、劉妃は当たり前のように他の皇子や妃を害そうしたのだろう。
実際のところ、自業自得なのである。



「それは……理解できます。うちも同じでしたから。陛下達が随分と辛い思いをされ、血に塗れながらここまで来たのを私も遠巻きながら見ておりましたので」

そう言って泉妃は目を伏せる。当時の事を思い出したのか、指先が小刻みに震えていた。

「だからこそ、陛下はご自身の代ではそんな世継ぎ争いを起こしたくないとおっしゃっていたのに、私が不甲斐ないばかりに……結局子供2人と、妃達の人生を狂わせてしまいました」

そういえば、泉妃に子供が出来なかったから、異母姉と廟妃が嫁いできたと聞いた事がある。
泉妃には泉妃の責任を感じるものがあるのだろう。

しかし、子供なんてものは授かろうと思って授かれるものではない。
思いがけず翠玉はあっさりと授かってしまったが、本当はもっと時間がかかるものだと思っていた。だから……


「泉妃様のせいではありません。どうかご自身を責めないでくださいませ」

そう顔を覗き込めば、少し涙ぐんだ瞳がゆっくり持ち上がる。


「惺殿下の養育には私も協力させていただきます。ずっと閉じこもっておられましたし、他の兄弟と交流も気晴らしになるかもしれません。必要があれば遠慮なくおっしゃってくださいませ」


だからこそ、彼女も惺殿下の役にたちたいと思うのだろう。



「それは心強いです。惺殿下の様子次第ですが、その時には頼らせていただきますね」


これからは妊娠中だけでなく、子供の育て方も、彼女から学ぶべき事が多くあるのだろう。
しおりを挟む
感想 260

あなたにおすすめの小説

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。