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第10章 後宮
第397話 歪み
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「皇后宮から、色々出てきたよ。お前の読みは間違っていなかった。」
朝方戻ってきた冬隼の報告を聞いて、翠玉は胸の前で手を握る。
「泉妃は!?」
翠玉の言葉に冬隼が顔を曇らせる。
「それは分からないそうだが、手遅れではないそうだ。
お前が持っていた書と同じものが皇后の手元にもあったらしい。どうやら響透国
では嫁入りの時にあの書を持たせる事が多いのかもしれん。あれは廿州の書庫から借りたものだろう?」
冬隼の問いに、翠玉はうなずく。なぜ響透の嫁入りによく渡される書が廿州の書庫にあったのだろうかと、その繋がりが読めない。
たしかに子作りから妊娠や出産まで素晴らしく有益な知識がたくさん詰まっている書ではあることには間違い無いのだが。
「悠安の前に廿州の州宰だった男の妻が確か響透の高官の娘だったはずだ。きっとその書はその妻が廿州に置いて行ったものだろうな」
「あぁなるほど」
話が繋がり翠玉は息を吐いた。
たまたま廿州の書庫で手に取り、借りてきたものがまさか核心に迫るものだったとは思わなかった。
泉妃の体調不良がどんなものなのかは他の書でも調べてすぐに分かった。
妊婦特有の症状であると知り、しかし時に命に関わるものであるという文言を見て、恐ろしく感じた。
そしてその治療方法を調べていて、この書に行き着いたのだ。
見れば響透国の学者達が書いた書ではないか。
響透と言えば、そこで浮かぶ人間は皇后一人しかいない。
異母姉の残した言葉達がじわりじわりと真実味を帯びてくるような気がした。
もし、泉妃を皇后が助ける気があったのならば、治療をさせているはずだ。しかしそうでなく、泉妃を害すつもりならば反対にここに記された害悪を与える薬草を泉妃に盛ってはいないだろうか?
そうした翠玉の懸念を聞いてすぐに動いてくれたのは冬隼だった。
結局、夕餉に泉妃に出されている茶から、それは見つかった。
すぐに泉妃の身は皇帝に保護され、早急に改善薬を作る運びとなった。しかし改善薬の薬草はやはり響透由来のものが多く、入手に時間のかかるものばかりだった。
ただ、幸いな事にそれはその数時間後、皇后宮で大量に見つかった。
皇后はいつの間にか、大量の薬草を祖国から取り寄せていた。そしてそこにはこの先泉妃に飲ませるための例の毒薬も作成され、丁寧に封に入れられて隠されていたというのだ。
完全に皇后が泉妃を陥れようとしていた事は証明された。
「皇后は、どうしているの?」
翠玉の問いに冬隼は首を振る。
「何一つ話そうとはしない。しかし、皇后宮の女官が一人、興味深い証言をしているんだ。東左と皇后はずいぶん長い事、男女の関係にあったらしい」
参ったようにどさりと椅子に腰掛けた冬隼は額に指を当てて揉み込む。
その前に茶を出してやりながら、翠玉は冬隼の次の言葉を待った。
「もしかしたら、劉妃の読みは結構当たっているのかもしれないと、雪兄上は言っている」
思い出したように冬隼が胸元から出した書状を、翠玉は両手で大切に受け取る。
事の緊急性を察して、裏付けの一つになればと劉妃の最後の書状を冬隼に託し、皇帝にも読んでもらったのだ。
「でもそうであるなら、皇后は多分東左に利用されたのね?」
「そのようだな、そして皇帝の大切な者達を内側から壊すつもりだったのだろうな」
そう言って、冬隼は翠玉の手を引くと、まだ寝巻きのままの身体を引き寄せて、翠玉の腰に手を回し、腹に頭を寄せる。
「しかし、なぜ子供達でなく妃ばかりを先に始末しようとしたのだろうな?」
冬隼の疑問に、翠玉は彼の頭を撫でながら、昨日高蝶妃の話から気づいてしまった事を思い出した。
「きっと皇太后は最初から子供達には興味がなかったのだと思うわ。彼女の中では父親にとって子供というものは、そこまで大切なものだという認識がなかったのかもしれない。だから貴方達が子供を失ってもそれほど辛くはないと思ったのよ。それよりは伴侶である妻を失う方が辛いと、そう思ったのではないかしら?」
翠玉の言葉に冬隼が顔を上げて見上げてくる。
意味がわからないと言う顔に、翠玉は笑う。自身の夫がそう言う反応をしてくれたことに少しばかり安堵する。
「皇太后の夫は先帝陛下でしょう?貴方達のお父様ね。そのお父様は妻である妃達をとても大事にはしていたけれどその子供には興味がまるで無かった。世継ぎ争いで子供が一人死のうが、死産だろうがそんな事で心は痛めなかった。ちがう?」
「たしかに、そうだな」
酷な事実を、肯定する冬隼の髪を慰めるように撫でて翠玉は話を続ける。
「そんな夫を持っていた皇后が、貴方達から大切な人を奪おうと考えた時に、それが子供だと考えるかしら?多分妻の方が大切だろうって考えるのではないかしら。だからきっと子供達を狙う事はなかった。本来なら一番狙いやすい所なのに」
「なる、ほど……」
翠玉の言葉に納得したように冬隼は呟いた。
「ずっと引っかかってたのよ。なぜ雪お兄様のところは朱杏様が殺されて。子供である稜寧が今まで無事だったのか。雪お兄様が今、この上なく大切にしていらっしゃるのは稜寧なのに、そこには見向きもされていなかった。でもこの前冬隼からお父上の話を聞いて、昨日蝶妃様から夫の話を聞いてなんとなくそれが繋がったの。そうしたら自然と後宮の動きに目が向いたの。妻が狙われるのであれば誰が一番危なかったかって」
一番は言わずもがな寵妃である泉妃で、そして次いで皇帝が信を置く皇后だった。
現段階で、この二人が無事でいる事に、意味があるように感じたのだ。
それは異母姉が言っていた、「皇太后の思惑とは違う何か分からない思惑が働いている」ということに関わりがあるような気がしたのだ。
結局のところ、皇太后は後宮に関しては妃同士で潰し合わせるつもりだったのだ。そして残った最後の一人を情夫であった東左の裏切りと言う形で絶望の元に葬る。
そうして皇帝から、妻をすべて奪うつもりだったのだろう。
朝方戻ってきた冬隼の報告を聞いて、翠玉は胸の前で手を握る。
「泉妃は!?」
翠玉の言葉に冬隼が顔を曇らせる。
「それは分からないそうだが、手遅れではないそうだ。
お前が持っていた書と同じものが皇后の手元にもあったらしい。どうやら響透国
では嫁入りの時にあの書を持たせる事が多いのかもしれん。あれは廿州の書庫から借りたものだろう?」
冬隼の問いに、翠玉はうなずく。なぜ響透の嫁入りによく渡される書が廿州の書庫にあったのだろうかと、その繋がりが読めない。
たしかに子作りから妊娠や出産まで素晴らしく有益な知識がたくさん詰まっている書ではあることには間違い無いのだが。
「悠安の前に廿州の州宰だった男の妻が確か響透の高官の娘だったはずだ。きっとその書はその妻が廿州に置いて行ったものだろうな」
「あぁなるほど」
話が繋がり翠玉は息を吐いた。
たまたま廿州の書庫で手に取り、借りてきたものがまさか核心に迫るものだったとは思わなかった。
泉妃の体調不良がどんなものなのかは他の書でも調べてすぐに分かった。
妊婦特有の症状であると知り、しかし時に命に関わるものであるという文言を見て、恐ろしく感じた。
そしてその治療方法を調べていて、この書に行き着いたのだ。
見れば響透国の学者達が書いた書ではないか。
響透と言えば、そこで浮かぶ人間は皇后一人しかいない。
異母姉の残した言葉達がじわりじわりと真実味を帯びてくるような気がした。
もし、泉妃を皇后が助ける気があったのならば、治療をさせているはずだ。しかしそうでなく、泉妃を害すつもりならば反対にここに記された害悪を与える薬草を泉妃に盛ってはいないだろうか?
そうした翠玉の懸念を聞いてすぐに動いてくれたのは冬隼だった。
結局、夕餉に泉妃に出されている茶から、それは見つかった。
すぐに泉妃の身は皇帝に保護され、早急に改善薬を作る運びとなった。しかし改善薬の薬草はやはり響透由来のものが多く、入手に時間のかかるものばかりだった。
ただ、幸いな事にそれはその数時間後、皇后宮で大量に見つかった。
皇后はいつの間にか、大量の薬草を祖国から取り寄せていた。そしてそこにはこの先泉妃に飲ませるための例の毒薬も作成され、丁寧に封に入れられて隠されていたというのだ。
完全に皇后が泉妃を陥れようとしていた事は証明された。
「皇后は、どうしているの?」
翠玉の問いに冬隼は首を振る。
「何一つ話そうとはしない。しかし、皇后宮の女官が一人、興味深い証言をしているんだ。東左と皇后はずいぶん長い事、男女の関係にあったらしい」
参ったようにどさりと椅子に腰掛けた冬隼は額に指を当てて揉み込む。
その前に茶を出してやりながら、翠玉は冬隼の次の言葉を待った。
「もしかしたら、劉妃の読みは結構当たっているのかもしれないと、雪兄上は言っている」
思い出したように冬隼が胸元から出した書状を、翠玉は両手で大切に受け取る。
事の緊急性を察して、裏付けの一つになればと劉妃の最後の書状を冬隼に託し、皇帝にも読んでもらったのだ。
「でもそうであるなら、皇后は多分東左に利用されたのね?」
「そのようだな、そして皇帝の大切な者達を内側から壊すつもりだったのだろうな」
そう言って、冬隼は翠玉の手を引くと、まだ寝巻きのままの身体を引き寄せて、翠玉の腰に手を回し、腹に頭を寄せる。
「しかし、なぜ子供達でなく妃ばかりを先に始末しようとしたのだろうな?」
冬隼の疑問に、翠玉は彼の頭を撫でながら、昨日高蝶妃の話から気づいてしまった事を思い出した。
「きっと皇太后は最初から子供達には興味がなかったのだと思うわ。彼女の中では父親にとって子供というものは、そこまで大切なものだという認識がなかったのかもしれない。だから貴方達が子供を失ってもそれほど辛くはないと思ったのよ。それよりは伴侶である妻を失う方が辛いと、そう思ったのではないかしら?」
翠玉の言葉に冬隼が顔を上げて見上げてくる。
意味がわからないと言う顔に、翠玉は笑う。自身の夫がそう言う反応をしてくれたことに少しばかり安堵する。
「皇太后の夫は先帝陛下でしょう?貴方達のお父様ね。そのお父様は妻である妃達をとても大事にはしていたけれどその子供には興味がまるで無かった。世継ぎ争いで子供が一人死のうが、死産だろうがそんな事で心は痛めなかった。ちがう?」
「たしかに、そうだな」
酷な事実を、肯定する冬隼の髪を慰めるように撫でて翠玉は話を続ける。
「そんな夫を持っていた皇后が、貴方達から大切な人を奪おうと考えた時に、それが子供だと考えるかしら?多分妻の方が大切だろうって考えるのではないかしら。だからきっと子供達を狙う事はなかった。本来なら一番狙いやすい所なのに」
「なる、ほど……」
翠玉の言葉に納得したように冬隼は呟いた。
「ずっと引っかかってたのよ。なぜ雪お兄様のところは朱杏様が殺されて。子供である稜寧が今まで無事だったのか。雪お兄様が今、この上なく大切にしていらっしゃるのは稜寧なのに、そこには見向きもされていなかった。でもこの前冬隼からお父上の話を聞いて、昨日蝶妃様から夫の話を聞いてなんとなくそれが繋がったの。そうしたら自然と後宮の動きに目が向いたの。妻が狙われるのであれば誰が一番危なかったかって」
一番は言わずもがな寵妃である泉妃で、そして次いで皇帝が信を置く皇后だった。
現段階で、この二人が無事でいる事に、意味があるように感じたのだ。
それは異母姉が言っていた、「皇太后の思惑とは違う何か分からない思惑が働いている」ということに関わりがあるような気がしたのだ。
結局のところ、皇太后は後宮に関しては妃同士で潰し合わせるつもりだったのだ。そして残った最後の一人を情夫であった東左の裏切りと言う形で絶望の元に葬る。
そうして皇帝から、妻をすべて奪うつもりだったのだろう。
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