後宮の棘

香月みまり

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第10章 後宮

最終話 

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翠玉が目を覚ますと、隣には冬隼の姿があって彼の手の中には、赤子が抱かれていた。

翠玉の位置から見えた赤子は、どうやら冬隼の腕の中でぐっすり眠っているようだった。

「可愛いな」

「当然よ、私達の子どもよ?」

胸を張って肯定すれば、冬隼は「そうだな」と苦笑する。

起き上がって、手を伸ばして赤子の頬に触れる。
柔らかくて温かい。

自分達がこれから守るべきものだ。

2年前この邸に来た時にはこんな日がやって来るとは想像もつかなかった。

あの頃、何も無かった翠玉の手には、今では多くのものが載っている。


それを与えてくれた人は、こうしてまたかけがえのない命を翠玉に与えてくれた。

手を伸ばして、冬隼の腕に触れる。

「ありがとう」

そう告げると、冬隼は面食らったようにこちらを見て瞬く。

「それはこちらの台詞だぞ?」

その言葉に小さく首を振る。

「そうじゃなくてね。私を活かしてくれてありがとう。貴方の妻になれたから、私は今こんなに幸せなの」

少し身体を伸ばして、冬隼の頬に口付ける。

「やはり、それも俺の台詞だ。俺こそ翠玉が妻でなければこんなにも幸せな気分で子を抱いているとは思えん」


身体を離すと、赤子を抱いて両手の塞がった彼は、不満げな顔をしていた。眼が少し赤いのは寝不足のせいか、もしくは……。そう思うと一層愛しさがこみ上げて翠玉はその顔を覗き込む。

「ふふ、じゃぁ私達は幸せな夫婦ね。ねぇ、冬隼、愛してるわ。ずっと一緒にいてくれる?」

首を傾ければ、冬隼が目を見開いて、ゴクリと唾を飲み込んだ。

思えば、初めて翠玉の口から「愛してる」と伝えた気がする。

「当然だ!お前が嫌だと言っても離す気はない。お前の居場所はここだ」

勢い余って、身を乗り出しかけた冬隼の動きに、彼の腕の中の赤子がビクリと身体を揺らした。

それを見た冬隼は慌てて赤子を抱え直して、浮かせかけた腰を落とす。
幸いにも赤子はトントンと彼がその背を叩いてやると、ゆるゆるとまた眠りに落ちていった。
2人でそれを静かに見守っていると、まだトントンと赤子の背を叩きながら冬隼が静かな声で囁いた。

「俺の側にいる事がお前の役目だ、だからもうごちゃごちゃと自分の存在価値を探すな」


彼にそんな話をしたのは随分と前なのに、どうやらそれもお見通しだったらしい。


参ったなぁと、笑みを浮かべてそして翠玉は寝台に背を預けて、また目を閉じた。

トントンと、心地よい音を聴きながらゆるゆると眠りについた。


【完】









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