ビッチ令嬢と副団長

香月みまり

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ミリアーナside

これがキスですか?

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引きずるように連れて来られたのは、宿舎から角を2つほど曲がった、お屋敷。

真っ暗で全貌はよくわからないけれど、漠然と騎士団の庁舎に戻って説教を受けるものと思っていた私は、その状況を理解するのに時間がかかった。

ここは彼の家?

なおも怒った様子の彼は、出迎えに出てきた家人に、宿舎に二人の馬を取りに行く事を命じ、誰も通すなと言い捨てて、階段を上ると私を一つの部屋に押し込んだ。



「いつもああなのか?」

私をソファに座らせて、彼はランプに火を灯す。


部屋の中がぼんやりとオレンジ色の明かりに包まれて、振り返った彼の顔を照らした。

琥珀色の瞳はまだ怒りを含んでギラギラと光を放っていた。

「いつも、ああ、、とは?」

聞かれてすぐには、彼が何を聞きたかったのか理解出来なかった。

というより、ここまでが目まぐるしすぎて混乱していた。

そんな私の言葉に彼が苛立ったように息を吐く。

「いつも、あぁして男たちの誘いに乗っているのか?って事だ」

低く静かな声で言った彼の言葉に、、、ようやく私は、状況を飲み込んだ。


彼は、私があの男たちと遊びで関係を持とうとしていたと思っているのだ。
噂通り、、私が騎士団の男達とそういう関係になっていると信じて。

ヒリヒリと胸の奥が痛んだ。

ただの噂話を信じて、本当の私をみていない、その他の大多数の貴族たちと彼は同じなのだ。

そう思ったら涙よりも先に、笑いが漏れていた。


「えぇ、そうよ。悪い?」

貴方には関係ない事だわ!と彼を睨みつけると、胸の奥からふつふつと怒りが湧いてきた。

他に婚約者がいて家族でもなんでもない存在の彼に私の事をとやかく言われる筋合いはないはずだ。そこまで腹が立ってくると、彼の怒りを含んだ琥珀色の瞳も大して怖いと思わなかった。


「君はそんな人じゃなかっただろう?」

私の反撃に彼は少し眉を寄せて、それでも嗜めるような口調で反論してきた。


それでも怒りを抑えられない私は、ハッ!と鼻でそれを笑い飛ばした。

「そう?あなたが知らなかっただけじゃない?」
私になんて興味も無かったくせに。

だいたい貴方にだけは言われたくない!


誰のせいで自棄を起こしたと思っているのだ。それが引き金になって立った噂なのに。 

ソファから立ち上がる。

もう彼とこれ以上同じ空間にいたくなかった。
多分もう少ししたら泣いてしまいそうだ。

「勝手でしょ!ぱぁっとやりたい気分だったのよ!それだけ!3人もいれば満足できたのに」

思わぬ邪魔が入って残念!そう言って出口へ向かったところで、驚くほど強い力で肩を引かれた。

「ちょっと!離して!」

すぐにもがいて、その手を外そうとする。

しかし流石、辺境で鍛えた副団長だ。

見事に去なされ、そのまま軽々と身体を投げられた。

柔らかい物の上に落ちた私はわずかに反動で跳ね上がりながら、彼をさらに睨みつけた。


「そうか、、、それは申し訳ない事をした。」

投げられたと思ったのに、思いの外彼は近くにいて、ランプが照らす彼の双眸が、また怒りを、、いや一層強い怒りを宿しているのが分かった。

そして彼がもう一歩私に近づくと同時にギシリと、軋む音とともに背中が沈んだ。


そこで私は、今自分が転がされているのが寝台の上である事に初めて気が付いた。

ヒヤリと、血が登っていた頭が一気に覚めていく。

え、ちょっと待って!!


そう言おうとした唇は、突然暖かく湿った物でふさがれて

私の身体は固まった。

キス!え、、、これってキス!?口と口のやつ!?

唖然としていると、唇を離した彼の琥珀色の双眸が私を見下ろして

「だったら、埋め合わせをしてやる。外で問題をおこされるくらいなら俺で処理をしとけ。したかったんだろう?3人分以上に満足させてやる」

冷たく笑った。
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