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番外編
ある日の副団長夫妻
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第4騎士団の副団長の執務室は、まず入室する前に耳をそば立てて中の様子を確認してから入るのが団員の中では暗黙の了解だった。
なぜかと言えば、副団長の執務室には、妻であり副団長補佐であるミリアーナがいる事が多いからだ。
新婚ホヤホヤの彼らが、密室で2人きり、、、もし愛をささやきあっていたりした所に遭遇してしまったら目の毒だ。
そう皆が構えていた。
のは最初の1ヶ月だけだ。
「つまんねぇな、お前ら職場で人目を盗んでちょっとイチャつこうとか思わねぇの?」
「思いませんね。仕事なので」
「むしろ団長が、それ勧めたらだめじゃないですか?」
王城から戻る馬車の中、夫婦双方からなんともドライな返答が返ってきて、第4騎士団の団長、セルゲイ・アシュードは唇を尖らせる。
「連中、お前らの結婚式の蕩け切った様子に当てられて期待していたのに、肩透かし喰らってたぞ」
「なんであいつらのために私たちがイチャイチャしなきゃいけないんですか?」
「神聖な職場で、そんな事できるわけないじゃないですか。」
それぞれ淡々と応じるが、最後のフィルの言葉には、若干後ろめたいことが、あるにはある。
というより。完全に神聖な職場で致した事があるが故に、、、よくアンタ堂々と胸張って言えるわね?と密かに、夫の厚かましさに舌を巻いた。
2人が結婚して2ヶ月が経った。
ミリアーナは結婚後も騎士団に残って副団長補佐の役目を果たしている。
騎士団の中では1組しかいない団員同士の結婚にしばらく2人は好奇の目にさらされた。
しかしそれもすぐに鎮静化した。
なぜならばこの夫婦、結婚前と全く変わらないのだ、、、。
結婚式ではそれこそ幸せいっぱいで、双方に惚れ合っているのが誰にでも分かるほどの2人だったから、無愛想で恐ろしい副団長と、第4騎士団のじゃじゃ馬お嬢がどんな甘い空気を纏って仕事をするのかと思いきや、、、驚くほど淡々と、仕事をしているので周囲の者達が肩透かしを食らったような状況だった。
本当にこの2人夫婦だよな?
まさか仮面夫婦?
すでに破局の危機!?
そんな噂まで立つ始末で、それを耳にした兄ロドスが一度フィルに真意を確認したくらいだ。
その日も2人揃って通常通り淡々と仕事を片付けて、そろって自邸に戻った。
馬を厩舎に戻して世話をしてやり、自宅のエントランスに入る。
次の瞬間にはミリアーナはフィルの腕の中にいた、、というよりも抱き上げられていた。
「もう、、、歩けるのにっ」
呆れながらも、されるがままのミリアーナに、フィルは憮然と答える。
「ミリィが足りない!すこし充電が必要だ!」
「旦那様?お夕食はいかがいたしましょう」
出迎えに出ていたジャンが死んだ魚のような目で遠くを見つめながら聞いてくる。
「30分後だ!」
「承知しました」
ジャンの返答を聞きながらミリアーナは安堵する。30分後であれば今日はただ少しイチャイチャするだけで彼は満足らしい。
これが1時間となると必ず抱かれる。
そして一番酷かった時は。「2時間後に部屋に持ってきてくれ」だった。
その言葉通り、部屋でしか食べられない状況になったのだが、あれだけは勘弁願いたかった
そのまま寝室に戻って。それぞれ着替えを済ませる。洋服に全く興味のないミリアーナとは逆に、フィルはミリアーナの服を選ぶことを楽しんだので、彼の選んだものに着替える。2人でリビングルームに降りると、お茶の用意がされてそこはすでに無人だった。
2人で同じソファに腰掛けてお茶を飲みながら他愛もない話をする。その間もフィルはミリアーナの手を握り、頬に触れ。時には口付けて、妻を愛でた。
そんなこんなしている内に夕食の準備ができて、2人でテーブルについて食事を取る。
食後、リビングルームで再び寛いでいると、フィルがお手洗いに立った。
お茶を飲みながらぼんやりとフィルの帰りを待っていると、静かにジャンが近づいてきた。
「奥様にお聞きしたいのですが?」
声を潜めて恐る恐る話す彼に、ミリアーナは首を傾げる。
「どうしたの?改まって」
「その、、、旦那様の事なのですが、、、失礼ながらお仕事中もあのように奥様にベタベタなさっておいでなのでしょうか?」
今日こそは、意を決して、、、という顔でこちらを伺う彼は、確かフィルが幼い頃から仕えているというから、、、まぁおそらくフィルのことを心配しているのだろう。
フィルがミリアーナにベタベタするのは家の中だけなので、家での顔しか知らない彼にしてみれば、家でのフィルの状態で騎士団でも仕事をしているのではないかと、心配になるのも頷ける。
ミリアーナは「大丈夫よ?」とジャンに笑いかける。
「騎士団で、私たち夫婦は仮面夫婦って噂されるくらい淡々とやってるの。フィルは立派に威厳のある副団長をやってるから安心して」
ミリアーナの言葉に、ジャンは信じられない様子で目を見開く。
「その反動が、帰宅すると出てるのねきっと、、だから大目に見て?」
そう首を傾けると、ジャンはため息を一つ吐いて
「承知いたしました。差し出がましい事を申し上げて申し訳ありません」
と深々と礼を取った。
全く、騎士団では仮面夫婦の疑惑をかけられて、家では色ボケ夫の疑惑をかけられて、、、。
フィルも大変ね。
深く息を吐くと、フィルがリビングルームに戻ってきた。
手には2人分の訓練用の剣が。
食後の運動も夫婦の習慣になっている。
2人で気が済むまで打ち合って、一緒に風呂に入り、ベッドに入る。
そんな日常が何でもない幸せなのだ。
----------------------------
ラブラブな日常が足りなかったかなぁという事で後日談でした。
沢山の方に応援いただき、本当にありがたく思っております。
また時間ができましたら番外編を更新させていただきますね。
感想、お気にいり、しおり登録、ありがとうございました。とても励みになっておりました。
新作「憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?」もよろしければお付き合い下さい。
なぜかと言えば、副団長の執務室には、妻であり副団長補佐であるミリアーナがいる事が多いからだ。
新婚ホヤホヤの彼らが、密室で2人きり、、、もし愛をささやきあっていたりした所に遭遇してしまったら目の毒だ。
そう皆が構えていた。
のは最初の1ヶ月だけだ。
「つまんねぇな、お前ら職場で人目を盗んでちょっとイチャつこうとか思わねぇの?」
「思いませんね。仕事なので」
「むしろ団長が、それ勧めたらだめじゃないですか?」
王城から戻る馬車の中、夫婦双方からなんともドライな返答が返ってきて、第4騎士団の団長、セルゲイ・アシュードは唇を尖らせる。
「連中、お前らの結婚式の蕩け切った様子に当てられて期待していたのに、肩透かし喰らってたぞ」
「なんであいつらのために私たちがイチャイチャしなきゃいけないんですか?」
「神聖な職場で、そんな事できるわけないじゃないですか。」
それぞれ淡々と応じるが、最後のフィルの言葉には、若干後ろめたいことが、あるにはある。
というより。完全に神聖な職場で致した事があるが故に、、、よくアンタ堂々と胸張って言えるわね?と密かに、夫の厚かましさに舌を巻いた。
2人が結婚して2ヶ月が経った。
ミリアーナは結婚後も騎士団に残って副団長補佐の役目を果たしている。
騎士団の中では1組しかいない団員同士の結婚にしばらく2人は好奇の目にさらされた。
しかしそれもすぐに鎮静化した。
なぜならばこの夫婦、結婚前と全く変わらないのだ、、、。
結婚式ではそれこそ幸せいっぱいで、双方に惚れ合っているのが誰にでも分かるほどの2人だったから、無愛想で恐ろしい副団長と、第4騎士団のじゃじゃ馬お嬢がどんな甘い空気を纏って仕事をするのかと思いきや、、、驚くほど淡々と、仕事をしているので周囲の者達が肩透かしを食らったような状況だった。
本当にこの2人夫婦だよな?
まさか仮面夫婦?
すでに破局の危機!?
そんな噂まで立つ始末で、それを耳にした兄ロドスが一度フィルに真意を確認したくらいだ。
その日も2人揃って通常通り淡々と仕事を片付けて、そろって自邸に戻った。
馬を厩舎に戻して世話をしてやり、自宅のエントランスに入る。
次の瞬間にはミリアーナはフィルの腕の中にいた、、というよりも抱き上げられていた。
「もう、、、歩けるのにっ」
呆れながらも、されるがままのミリアーナに、フィルは憮然と答える。
「ミリィが足りない!すこし充電が必要だ!」
「旦那様?お夕食はいかがいたしましょう」
出迎えに出ていたジャンが死んだ魚のような目で遠くを見つめながら聞いてくる。
「30分後だ!」
「承知しました」
ジャンの返答を聞きながらミリアーナは安堵する。30分後であれば今日はただ少しイチャイチャするだけで彼は満足らしい。
これが1時間となると必ず抱かれる。
そして一番酷かった時は。「2時間後に部屋に持ってきてくれ」だった。
その言葉通り、部屋でしか食べられない状況になったのだが、あれだけは勘弁願いたかった
そのまま寝室に戻って。それぞれ着替えを済ませる。洋服に全く興味のないミリアーナとは逆に、フィルはミリアーナの服を選ぶことを楽しんだので、彼の選んだものに着替える。2人でリビングルームに降りると、お茶の用意がされてそこはすでに無人だった。
2人で同じソファに腰掛けてお茶を飲みながら他愛もない話をする。その間もフィルはミリアーナの手を握り、頬に触れ。時には口付けて、妻を愛でた。
そんなこんなしている内に夕食の準備ができて、2人でテーブルについて食事を取る。
食後、リビングルームで再び寛いでいると、フィルがお手洗いに立った。
お茶を飲みながらぼんやりとフィルの帰りを待っていると、静かにジャンが近づいてきた。
「奥様にお聞きしたいのですが?」
声を潜めて恐る恐る話す彼に、ミリアーナは首を傾げる。
「どうしたの?改まって」
「その、、、旦那様の事なのですが、、、失礼ながらお仕事中もあのように奥様にベタベタなさっておいでなのでしょうか?」
今日こそは、意を決して、、、という顔でこちらを伺う彼は、確かフィルが幼い頃から仕えているというから、、、まぁおそらくフィルのことを心配しているのだろう。
フィルがミリアーナにベタベタするのは家の中だけなので、家での顔しか知らない彼にしてみれば、家でのフィルの状態で騎士団でも仕事をしているのではないかと、心配になるのも頷ける。
ミリアーナは「大丈夫よ?」とジャンに笑いかける。
「騎士団で、私たち夫婦は仮面夫婦って噂されるくらい淡々とやってるの。フィルは立派に威厳のある副団長をやってるから安心して」
ミリアーナの言葉に、ジャンは信じられない様子で目を見開く。
「その反動が、帰宅すると出てるのねきっと、、だから大目に見て?」
そう首を傾けると、ジャンはため息を一つ吐いて
「承知いたしました。差し出がましい事を申し上げて申し訳ありません」
と深々と礼を取った。
全く、騎士団では仮面夫婦の疑惑をかけられて、家では色ボケ夫の疑惑をかけられて、、、。
フィルも大変ね。
深く息を吐くと、フィルがリビングルームに戻ってきた。
手には2人分の訓練用の剣が。
食後の運動も夫婦の習慣になっている。
2人で気が済むまで打ち合って、一緒に風呂に入り、ベッドに入る。
そんな日常が何でもない幸せなのだ。
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ラブラブな日常が足りなかったかなぁという事で後日談でした。
沢山の方に応援いただき、本当にありがたく思っております。
また時間ができましたら番外編を更新させていただきますね。
感想、お気にいり、しおり登録、ありがとうございました。とても励みになっておりました。
新作「憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?」もよろしければお付き合い下さい。
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