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2章

42 企み①

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「弟君の奥方と、昔何かあったのか?」

 離れに戻り、珠樹を世話の者に任せると、夫婦の部屋に入る。霜苓と陵瑜の後には汪景と、霜苓の着替えを手伝うための蘭玉がついて来た。

 頬と、首筋を掻きながら問えば、陵瑜は何を聞かれたのかわからないと言った顔で、パチパチと瞬きをして……

彩杏さいあんか? いや……幼い頃から知っているが、これと言って何かあった事はないが……」

「そう……」

 呟いて、蘭玉の方を見れば、彼女は何故か遠い目をしていて……きっと陵瑜の知らないところで何かあるのだと理解する。

 正直なところ、今夜の宴では碧宇には一切、害を感じることはなかった。しかし奥方の方は……

「それより。大丈夫か? 汁物の方に何かあったか?」

 流石に察しのいい陵瑜に苦笑する。

「大丈夫。ちょとした嫌がらせだ」

 そう言って薄く微笑むと、陵瑜が近づいてきて手を取る。

「それ以上掻くな!傷になる」

先ほどから霜苓が首筋と前腕の皮膚を掻いているのを彼は見逃してはいなかったらしい。

「大丈夫。解毒薬は飲んでいるから、じきに引く」

「毒とわかっていて、何故飲んだ!」

 途端に、陵瑜の形の良い眉が歪み、眉間に皺が寄る。

 彼に気付かれた時から、きっと叱られるとは思っていたので、思わず苦笑する。

「大したものではないから。解毒薬があることもわかっていたし、かかったフリをしてみた。あちらの出方が気になったからな」

「それで……何か分かったのか?」

「うーん……まぁ、些事だから、気にしなくていい範囲だとは思う」

 彼に説明したところで、現時点でピンと来ていない陵瑜には、理解ができない……むしろ何故か陵瑜にそれを告げて、彼が彩杏に意識を向けることを避けたかった。

 霜苓の釈然としない説明に陵瑜がさらに眉を寄せるのに苦笑していると、彼の大きなざらついた手が伸びてきた、顎を掴まれ、確認するように首を左右に動かされる。

「本当に……大丈夫なのだな?」

赤くなっているだろう首筋を見て眉を寄せる陵瑜の声に明確な怒りが含まれていて、霜苓はゆっくりと首を横に振って、彼の瞳を真っ直ぐ見据える。

「大丈夫、だから騒がないで……」

「っ……今夜の内に……ここを出るか?」

「ふふ、大袈裟な! それに……珠樹に負担をかけるわけにはいかない」

「だが、矛先が霜苓に向いているとなれば!」

今にも、本邸に乗り込んで行きかねない様子の陵瑜の裾を強く引く。

「私を誰だと思っている。守られるだけのお姫様じゃない」

「だが……」

 尚も言い募ろうとする陵瑜の言葉を首を振って制して、不敵に微笑む。

「大丈夫!私に考えがある。任せてくれないか?」

 
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