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2章
51 招かざる者②
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「霜苓様は皇太子殿下の唯一の妃ですから、敵と言っても、あちらが何か手を下す事はまず難しいのですし、そうした事は陵瑜様が、お守り下さると思うのですけど……」
女官の衣装に袖を通し、帯を絞める霜苓に、考え直すように、蘭玉がついて歩く。
陵瑜に物申しに来た兄妹がどんな者達なのか、それを探りに行くと言う霜苓の言葉に、蘭玉は前回、碧宇の邸で起こったことを思い出したのだろう。
「そうかもしれないけれど、敵の情報をあまり持たず、安心していられる性分でもないから。情報や、その者の姿を見て感覚的に感じることも意外と大切だ。大丈夫、女官達に紛れて遠目から様子を見るだけだ。それに、女官の所作や、仕事は経験がある」
そう言って、慣れた手つきで帯を締めていく霜苓に、あまり彼女の内情を詮索しないほうがいいことを知る蘭玉は言葉を失う。
そのあいだに、すっかり女官の格好になってしまった霜苓は、彼女つきの……こちらもどうしたらいいやらと困った顔をしている年重の女官に「さて、案内を頼む」とすっかり行くつもりになっている。
こうなったらきっと、蘭玉では止められないうえ、他に説得に有力なものを呼びに行こうにも、きっとその間に霜苓は行ってしまうに違いない。
「わかりました。ですが、2つお願いを聞いてください! でなければいますぐに兄を呼びます」
「え⁉︎……汪景を?」
たちまち霜苓の顔が引きつる。どうやら蘭玉よりも長い時間を共にしてきた彼らの名は有効らしい。
「ひとつ、絶対にお言葉を発さないこと! ふたつ、この部屋を出て以降、女官としての立ち居振る舞い意外の事をしないこと!」
よろしいですね? と念を押すように、鋭い視線で見上げられた霜苓は、自分の行動に対して、あまりにも彼女からの信用がないのだと、苦笑する。
「分かった。蘭玉……大丈夫だから」
蘭玉の視線が、女官にも念を押すように向けられる。流石は陵瑜から霜苓の身の周りのことを任されているだけある。「お任せ下さい」と頼もしく頷かれて、そこでようやく蘭玉は霜苓を止める事を諦めたようだった。
「私は、あまり信用されていないようだな」
「ご自分が過去にどのような無茶をなされたか、思い出してくださいな! 本来ならば、王太子妃殿下が女官の真似事など決して褒められた事ではないのですからね!」
所作や言葉使いを指導する役目の彼女にしてみれば、こんな信じられない行動をする教え子は勘弁願いたいところだろう。
「ごめんなさい。蘭玉……今回だけですから」
両手を合わせて、上目遣いに小首を傾ける。少し前に彼女から教わった、何かを強請る時の所作と言葉使いである。
「それは、私でなく、殿方……殿下に向けてやるものです! こういう時ばかり完璧におやりにならないでください!」
「……使う相手が決まっているのか……難しいな……」
女官の衣装に袖を通し、帯を絞める霜苓に、考え直すように、蘭玉がついて歩く。
陵瑜に物申しに来た兄妹がどんな者達なのか、それを探りに行くと言う霜苓の言葉に、蘭玉は前回、碧宇の邸で起こったことを思い出したのだろう。
「そうかもしれないけれど、敵の情報をあまり持たず、安心していられる性分でもないから。情報や、その者の姿を見て感覚的に感じることも意外と大切だ。大丈夫、女官達に紛れて遠目から様子を見るだけだ。それに、女官の所作や、仕事は経験がある」
そう言って、慣れた手つきで帯を締めていく霜苓に、あまり彼女の内情を詮索しないほうがいいことを知る蘭玉は言葉を失う。
そのあいだに、すっかり女官の格好になってしまった霜苓は、彼女つきの……こちらもどうしたらいいやらと困った顔をしている年重の女官に「さて、案内を頼む」とすっかり行くつもりになっている。
こうなったらきっと、蘭玉では止められないうえ、他に説得に有力なものを呼びに行こうにも、きっとその間に霜苓は行ってしまうに違いない。
「わかりました。ですが、2つお願いを聞いてください! でなければいますぐに兄を呼びます」
「え⁉︎……汪景を?」
たちまち霜苓の顔が引きつる。どうやら蘭玉よりも長い時間を共にしてきた彼らの名は有効らしい。
「ひとつ、絶対にお言葉を発さないこと! ふたつ、この部屋を出て以降、女官としての立ち居振る舞い意外の事をしないこと!」
よろしいですね? と念を押すように、鋭い視線で見上げられた霜苓は、自分の行動に対して、あまりにも彼女からの信用がないのだと、苦笑する。
「分かった。蘭玉……大丈夫だから」
蘭玉の視線が、女官にも念を押すように向けられる。流石は陵瑜から霜苓の身の周りのことを任されているだけある。「お任せ下さい」と頼もしく頷かれて、そこでようやく蘭玉は霜苓を止める事を諦めたようだった。
「私は、あまり信用されていないようだな」
「ご自分が過去にどのような無茶をなされたか、思い出してくださいな! 本来ならば、王太子妃殿下が女官の真似事など決して褒められた事ではないのですからね!」
所作や言葉使いを指導する役目の彼女にしてみれば、こんな信じられない行動をする教え子は勘弁願いたいところだろう。
「ごめんなさい。蘭玉……今回だけですから」
両手を合わせて、上目遣いに小首を傾ける。少し前に彼女から教わった、何かを強請る時の所作と言葉使いである。
「それは、私でなく、殿方……殿下に向けてやるものです! こういう時ばかり完璧におやりにならないでください!」
「……使う相手が決まっているのか……難しいな……」
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