ベルが鳴る

悠生ゆう

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第9話 最高の一枚

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 映子先輩とは写真部の新歓コンパをした駅で待ち合わせた。
 鈴さんから泊まる準備をしてくるように言われたので、メッセージで映子先輩のその旨を伝え、一度帰宅してから改めて集合することにした。
 もしかしたら映子先輩は来ないかもしれないと思ったのだが、約束の時間よりも早く待ち合わせの場所に来てくれた。
 神奈さんと鈴さんが仕事から帰る時間に合わせたので、時刻は七時近かった。
 まだ状況のつかめない様子の映子先輩は私の一メートルほど後ろをトボトボと着いてくる。
 気まずい雰囲気に心が折れそうだ。
 昼間、話が中途半端なところで終わってしまったので、この気まずさも仕方ないのかもしれない。
 しかし、そもそも気まずさを感じる必要なんてないのではないだろうか。
 私の心の中の問題は、映子先輩には関係ない。
 それに振り回される映子先輩にとってはいい迷惑だ。
 私と出会うずっと前から、映子先輩は写真部のあの先輩に想いを寄せていたのだと思う。
 そして、その先輩が帰ってきて、映子先輩は髪を切った。ただ、それだけのことだ。
 私が勝手にフラれた気分になって、映子先輩に八つ当たりをした。いきなり契約をやめるなんて言われたら、映子先輩だって納得できないだろう。
 それに、私はまだしず香のことも謝っていない。
 まずはそのことをきちんと謝っておくべきだ。
 私は振り返って「あの」と声を掛けた。
 だが、同時に映子先輩も「あの」と私に声を掛ける。
 偶然合ってしまった視線を、私は思わずそらしてしまう。
「す、鈴原さんから、どうぞ……」
「あ、はい。先週、しず香が大騒ぎしてすみませんでした。先輩に御迷惑をかけてしまって。しず香とはちゃんと話が付きましたので」
「そう……よかった」
 映子先輩は微笑んだ。しず香のことで気を悪くしているということはなさそうだ。
 髪を切ったので、映子先輩の表情がよくわかる。
 戸惑っているようだが怒っている様子はない。
 そういえば映子先輩が怒っているのを見たのは、しず香とのやり取りのときだけだったような気がする。
 あんなに大きな声も出せるのだと驚いた。先輩が私のために行動してくれたことがうれしかった。
 私は思わず緩みそうになる顔を引き締める。
 こんなことを考えていてはだめだ。
 神奈さんのときだって、鈴さんという相手がいたから諦めた。そして、今は神奈さんとも鈴さんとも友だちとして仲良くできている。
 映子先輩の先輩のことはよく知らない。けれど、映子先輩が好きになった人ならば、きっといい人なんだろう。
 映子先輩のことも諦められる。そして、普通の先輩後輩として仲良くなれるはずだ。
「それで、映子先輩は?」
「あ、うん……手土産は、いらないかな?と、思って……」
「うーん、別にいらないと思いますけど……」
 でも鈴さんの引っ越し祝いもあるのか。
「それじゃあ、ケーキでも買っていきますか? 近くにケーキ屋があるので」
 私が言うと映子先輩は頷いた。
 二人でケーキ屋に入った。ショーケースの中にはあまりケーキが残っていなかったが、その中から五個選んで注文する。
「五個?」
 映子先輩は不思議そうな顔で言う。
「はい、そうです」
 私が財布を出そうとすると、映子先輩が私の手を引っ張った。
「私が、出すから……」
「お金、あるんですか?」
「出すときは、ちゃんと出す」
 なぜか気合いが入った口調で映子先輩が言う。
 髪を切って少し自信が付いたのだろうか。
 映子先輩にそんな変化をもたらしたのはあの女性だ。そう思い至って気持ちが重くなる。私はそれを無理やり振り払って、できるだけ明るい声で言う。
「それじゃあ、私が半額出しますね。引っ越し祝いもあるので」
「引っ越し祝い?」
「はい、そうです」
 映子先輩は少し首をひねったが、私から半額を受け取って会計をした。半額にしたときの端数分は映子先輩が出してくれた。
 そうしてケーキを持って二人で神奈さんの家に向かう。
 インターフォンを押すと、「どうぞー」と鈴さんの声がする。
 私は映子先輩を誘導しつつ、玄関を入った。
「いらっしゃい。ようこそ、私と神奈ちゃんの愛の巣へ」
 鈴さんが上機嫌で私たちを出迎えた。
「神奈……ちゃん? 愛の巣?」
 映子先輩は首をひねっている。
 鈴さんは私の恋人だと映子先輩に宣言した件をすっかり忘れているようだ。
 やっぱりあのときはなんだか面白そうだという程度の理由で適当に混ぜ返したんだな。
 私は大きなため息をついた。
 部屋に入ると、神奈さんが私に抱きついた。
「ベルちゃん、心配したんだよ。なんで来ないの」
「すみませんでした」
 と、私が言うよりも早く、鈴さんが神奈さんを引きはがす。
「どう、梢? 私たちの部屋の感想は?」
 鈴さんがニコニコしながら言う。
 私は部屋の中を見渡した。特に以前と変わっている様子はほとんどない。リビングのカーテンの色が変わっているくらいだ。
「あまり変わってませんね」
「そう思うでしょう? 来なさい」
 そう言って、私の手を引いて神奈さんの寝室に入る。
「あ、ベッドが大きくなってる」
「そう、セミダブルに変えたのよ」
「でも、シングルの方がくっつけるじゃないですか」
「そうなんだけど、毎日となると寝心地がね」
 鈴さんが腕組みをして言った。
「でも、これなら三人で寝れますね」
 私は思わずいつもの調子で冗談を言ってしまい、ハッと映子先輩の様子を伺った。
 幸い映子先輩はこの会話を聞いていなかったようだ。
 というか、玄関に立ち尽くしている。
 視線の先にいるのは、あぐらをかいて座っている睦さんだ。
「映子先輩、どうしました?」
「彼氏が、いる……」
「あー、彼氏じゃないです。睦さんは、神奈さんの弟です。それで、神奈さんと鈴さんは恋人同士です」
 私は、睦さん、神奈さん、鈴さんを並べて紹介する。
「え? でも、鈴原さんの恋人って……」
 映子先輩の視線は鈴さんに向いている。
「ゴメン、ウソ」
 鈴さんは軽い調子で言う。
「ウソ……? でも、膝枕、してた……」
 映子先輩の言葉に反応したのは神奈さんだ。
「リンリン、膝枕って? ベルちゃんに? 私もしてもらったことないのに」
「ごめんごめん、後でちゃんと膝枕してあげるし、それ以上のこともしてあげるから」
 鈴さんが神奈さんを抱きしめて頭をグリグリと撫でまわす。
 映子先輩はこのやり取りについていけない様子で呆然としている。
「ま、まあ、そんなわけです。取り敢えず、座りましょうか」
「そうね、夕食にしましょう。ちゃんと準備できてるから」
 鈴さんは神奈さんを解放して私たちをテーブルにつかせる。
「そうだ。これ、先輩と私から」
 そう言ってケーキを渡すと、神奈さんも鈴さんも喜んだ。
「それじゃあ、たくさん食べね」
 という鈴さんの号令で五人は料理に手を付けた。
 ひと口料理を食べて、映子先輩が「おいしい……」とつぶやくと、鈴さんが「本当? 良かった」と笑う。
「作ったのはオレだけどな」
 睦さんがボソっと言うと、映子先輩は目を見開いて驚く。
 そんな感じで賑やかな夕食が始まった。
 少し時間が経つと、映子先輩も雰囲気に慣れたようで、鞄からカメラを取り出して写真を撮りまくっていた。
「そんなに撮って大丈夫ですか?」
 心配した私の顔をパシャリと撮影して「デジカメだから、大丈夫」と言った。
 これまで一緒に昼食をとっていたときは、写真を撮る回数が減っていたのに、今日はやたらと写している。これも写真部の先輩の女性の影響なのだろうか。
 そんな感じで夕食を食べ終えると、睦さんは黙々と後片付けをはじめた。
 この状況は何だろう。
 鈴さんは先輩を混乱させるようなことを言って、家に呼び出して、仲良く夕食を食べたかっただけなのか?
 おかげで先輩とギクシャクしていた感じが無くなって、普通に話せるようにはなった。
 この調子ならば、これから先も普通に仲良くできるような気もする。
 とはいえ、説明をしてもらわなければ納得できない。
「鈴さん、一体なんでここに呼んだんですか?」
 私が聞くと、鈴さんがニヤリと笑った。
 そして私の手に何かを握らせる。
 手を開いて見ると、それは鍵だった。
「今夜、睦くんにはこっちで寝てもらうから、梢と映子さんは睦くんの部屋に行きなさい」
「は? 映子先輩と、二人で?」
「当たり前でしょう?」
 そう言うと、鈴さんは私の背中を押して玄関へと押しやる。
 神奈さんも素早く私と映子先輩のバッグを持ってついてきた。
 そうして私と映子先輩は神奈さんたちの家を追い出されてしまったのだ。
 廊下で私と映子先輩は立ち尽くす。
「えっと、なんだか嵐みたいな人たちですみません。まだ、電車もありますし、帰りますか」
 私が言うと、映子先輩は私の服の裾をつまんで俯きながら言った。
「あの……、鈴原さんと、ちゃんと、話したい、です……」
 なにこれ、かわいい。
 テレビなんかで「酔っちゃった」とか「帰りたくないな」なんて言って、女性が男性に甘えるシーンを見ると、オイオイ、そんなのにコロッと引っかかるなんてチョロいなあ、なんて思っていた。
 しかし私の認識が甘かったことを思い知らされる。
 チョロいと言われたとしても、肩に手を回したくなるじゃないか。
 いや、勘違いしてはいけない。
 映子先輩は、私が契約をやめようと言ったことについて話がしたいのだ。
 写真命、みたいな人だ。今日だって、やたらと写真を撮っていた。
 映子先輩には、あの先輩がいる。
 私は気合を入れ直して平静を装う。
「じゃあ、少しお話しましょうか」
 睦さんの家は神奈さんの家のすぐ向かいだ。
 鍵を開けて中に入ると、引っ越しのときに見たのとほとんど変わらない部屋があった。
 そして部屋の真ん中には布団が一組。
 その柄から、いつも神奈さんの家に泊まるときに私が使っていた布団であることは分かる。
 だが、一組。
 鈴さんがニヤニヤしている顔が頭に浮かぶ。
 鈴さんに映子先輩のことが好きだなんて話さなければよかった。
 ちょっと心が弱っていたから、ついほだされてしまった。
 神奈さんならともかく、鈴さんを信用してしまったのがいけないのだ。
 いや、まだ終電までは充分に時間がある。
 泊まる準備をしてこいとは言われたが、絶対に泊まらなければいけないというわけではない。
 サクッと話を終わらせて、サクッと帰ればいい。
「鈴原さん……どうしたの?」
 立ち尽くす私を映子先輩が心配そうに見る。
「あ、いえ、なんでもありません。えっと、座りますか」
 睦さんの部屋は殺風景すぎて、ソファもクッションもない。
 仕方なく、私たちは床の上に向かい合って座った。
 さて、一体何から話せばいいのだろうか。「契約をやめるといったのはやめます」で終わる話だろうか。
「あのね、髪のことだけど……」
 話を切り出したのは映子先輩の方だった。
「その髪型、似合いますね。やっぱり切った方が素敵ですよ」
 私は素直に感想を言う。
「ありがとう……」
 先輩は頬を赤らめて下を向く。
 髪を切ったきっかけが私でなかったことは少し残念だが、今の髪型はとても似合っていると思う。
 今にして思えば、もっさりした先輩も愛らしかったように感じるけれど……。
 いうなれば、もっさりした先輩がゆるキャラ的な可愛さなら、髪を切った先輩は女の子的な可愛さだ。
「髪は、亜佐美先輩に、切ってもらったんだけど……」
 あの女性は亜佐美先輩という名前なのか。そして、髪を切るきっかけを作っただけではなく、映子先輩の髪にハサミを入れた。だから、先輩によく似あう髪型にできたんだ。
「そうですか。やっぱり映子先輩のことをよくわかっているんですね」
「か、髪を、切ってもらったのは……、そうすれば、少しでも亜佐美先輩みたいに、なれるかもと思ったからで……。そうすれば、鈴原さんに、迷惑をかけないようにできるかなって……」
「迷惑?」
 私は思わずキョトンとする。私が映子先輩に迷惑を掛けたことはあるが、映子先輩に迷惑を掛けられた覚えはない。
「別に迷惑なんて掛けられたことはないですよ」
「そんなことない。ずっと……鈴原さんに迷惑ばっかり……」
 映子先輩が何を指して迷惑を掛けたと言っているのかさっぱりわからない。
「何のことか分からないですけど、私が好きでやっていたことですから……って、あ、好きって、そういう意味じゃなくて……」
 言って思わず赤くなってしまう。
 わざわざ説明することで、そういう意味で好きだと言っているようなものではないか。
「その、つまり、映子先輩を迷惑だと思ったことは一度もありませんから」
「そ、それなら……どうして、契約をやめるって、言ったの?」
 先輩の問いに、私は思わず口ごもる。
 理由を聞かれてしまった。
 映子先輩が亜佐美先輩と一緒にいるのを見て嫉妬したからなんて言えるはずがない。
「あー、えと……、昼食をキャンセルされて、もう、写真を撮る必要もないのかな、と思っちゃったんです。そう、そうなんです」
 これなら理由として成立するような気がする。
「あ、勝手にキャンセルして、ごめんなさい……」
 しまった。映子先輩に悲しい顔をさせてしまった。
 もっと別の理由を考えればよかった。
「いえ、そうじゃなくて……」
 ここからリカバリーするにはどうすればいいのだろう。
「先週は、亜佐美先輩に、写真の、撮り方を教わっていたの……」
「写真?」
 映子先輩はコクリと頷く。
「私、人物写真、撮ってこなかったから……鈴原さんの写真、ちゃんと撮れるように……」
「だから、今日はいっぱい写していたんですか?」
「亜佐美先輩が、基本を覚えたら……あとは、数を撮るしかないって……」
 私の写真を撮るためだと聞いた嬉しさと、都度、亜佐美先輩と言う名前が出てくることへの嫉妬心が私の中でせめぎ合う。
「それで、いい写真は撮れたんですか?」
 映子先輩はうれしそうに微笑んで頷く。
「結構よく撮れたと、思う」
「それじゃあ、映子先輩が納得する写真が撮れるのももうすぐですね」
 私は言う。私から契約終了を伝えるまでもなく、間もなく契約は終わるのだ。
「安心してください。映子先輩が納得できる写真が撮れるまでは、これまで通り契約を続けますから」
 映子先輩はいい写真が撮りたくて私と一緒にいたのだ。だからその約束は最後までまっとうしよう。
「ダメ、あ、違う、あの、そうじゃなくて」
 映子先輩があたふたと慌てだした。
「これまであまり写真を撮らなかったのは、うまく撮れなかったからでしょう? 亜佐美先輩に聞いて、いい写真が撮れるようになったらのなら……」
「違う」
 映子先輩が私の言葉を遮る。
「写真を、撮れなかったのは……」
 映子先輩は少し俯いて言葉を切った。そして決意したように顔を上げて私の顔をじっと見る。
 カメラを向けられているような錯覚に陥る。
 私は今、どんな顔をしているのだろうか。
「納得できる写真が撮れてしまったら、鈴原さんと一緒にいられなくなると思って、それが嫌だったから。だから、撮れなかった」
 映子先輩の声が大きくなる。
「だけど、そうじゃない。もしも、今日最高だと思える一枚が撮れても、きっと明日はもっと最高の一枚が撮りたくなる。鈴原さんが笑っているときも、怒っているときも、悲しんでいるときも、近くにいて、鈴原さんを撮り続けたい。す、鈴原さんが、す、好きだから、どんな鈴原さんのことも撮りたい」
 映子先輩の声が大きくなるのは、好きなモノのことを話すとき。
 カメラのこと、亜佐美先輩のこと、そして、今は私のこと。
 これは、私の勘違いじゃない?
 映子先輩のキラキラした世界の中に、私を入れてくれた?
「映子先輩は、亜佐美先輩が好きなんじゃないんですか?」
「え? 亜佐美先輩のことは、憧れていて、あんな風になれたらって思うけど……。鈴原さんを好きなのとは違って……」
「私を好きって、どういう意味で?」
「鈴原さんには彼氏がいるけど……、あれ、違うのか、彼女? でもなくて……えっと、そうじゃなくて、鈴原さんに、好きな人がいたとしても、私は鈴原さんを撮りたくて、そんな風に感じた人は、はじめてで。だから、それでも、そばにいたいと思って」
 参った。
 押しに弱い映子先輩に、私の方が押されている。
 映子先輩に主導権の握られるなんて私らしくない。
 何を怖がっていたのだろう。
 何もない私の部屋と同じように、私は空っぽだと思っていた。
 だけど私の部屋には、ちゃんと大切なものがあったじゃないか。
 たった一枚、ピントのズレた私の写真……いや、映子先輩が写してくれた写真が。
 映子先輩の気持ちが、私の想いと同じかどうかなんて関係ない。
 鈴さんが言ったじゃないか「考えさせる隙を与えないのがコツ」だと。
「つまり……映子先輩は、これから先もずっと、四六時中私に張り付いて写真を撮り続ける、という契約内容に変更したいということですか?」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「さすがに私もそれは嫌なので、やっぱり契約は解除しましょう」
「え……」
 映子先輩が顔を少し歪めて俯いた。
 対して私は笑みを浮かべて映子先輩を見つめる。
「でも、契約じゃなくて、恋人としてなら、いいですよ」
「え? それって?」
「どちらにしますか? これまでの契約通り、週三回、ランチの時間に写真を撮るか、それとも私と恋人になるか。好きな方を選んでいいですよ」
 自分で言いながら、悪徳商法でもしているような気持ちになってきた。
 でも先輩は考える間もなく、すぐに答えてくれた。
「こ、恋人で、お願いします」
 そして手元にあったカメラを構えて私の写真を撮る。
「今の、シャッターチャンスでしたか?」
 映子先輩はカメラの画面で写真を確認する。
「悪い人っぽい笑顔の写真が撮れたよ」
 私は苦笑するが、映子先輩はそれでもうれしそうだった。
「ところで、さっき映子先輩、どんな私も撮りたいって言ってましたけど、それってヌード写真もですか?」
 すると映子先輩は顔を赤らめながら言う。
「いや、あの、それは、いずれ……」
 冗談のつもりで言ったのだが、いずれは撮るつもりなんだ。
 エステにでも行っておこうかな。
 それから私と映子先輩は一晩中語り明かした。もちろん、写真も山ほど撮られてしまった。
 朝を迎え、私は眠たい目をこすっていたが、映子先輩は思う存分写真が撮れたことで興奮しているのか、イキイキとしている。
 これから先も、こんな状況が続くのかと思うと、少しゾッとしなくもない。
 二人揃って睦さんの部屋を出るとき、私はふと足を止めた。
「何か忘れ物?」
 映子先輩が聞く。
「新しい契約書に捺印でもしておきますか?」
「捺印?」
「はい。捺印です」
 私は振り返って、映子先輩にキスをした。
 映子先輩は顔を赤くして慌てながらも、カメラを持ち上げようとする。
 私は素早くクルッと背を向けて部屋を出た。
 さすがに今の顔は撮られたくない。
 背後で「カシャッ」とシャッターを切る音が聞こえた。


   おわり
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
ですが、ちょっとだけ蛇足


 神奈さんの家に鍵を返しに行くと、寝不足そうな私の顔を見て、鈴さんがニヤニヤしていた。
 話していただけだと言うと「ヘタレ」と蹴られたが、それでも丸く収まったことを喜んでくれた。
 大学で私の恋人だと言ったのは、映子先輩の気持ちを知るためだったらしい。そして家に呼んだのは、あのままだと私たちがお互いにすれ違ったまま話が進んでしまうと思ったからだという。
 誤解も思い込みも無くして話をするチャンスを作ってくれたのだ。
 「やっぱり、年の功だね」と言ったら、もう一度蹴られてしまった。
 そして私と映子先輩は手をつないで大学に行った。
 映子先輩は手をつなぐのを嫌がったが私が譲らなかった。
 そうしなければ、通学中ずっと写真を撮られ続けるからだ。
 映子先輩のカメラは大きいので片手では操作できない。
 手をつないで歩くのは、映子先輩の撮影を阻止するのに有効だということが分かった。

   蛇足 おわり


本編終了しましたが、この後に実験的なオマケを1本出します。
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