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第一章 ヴァルム試験国家編
第九話 飴と鞭と在庫調査(2)
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兵舎は、別の意味で冷えていた。
狭い寝台がぎゅうぎゅうに並び、鎧や武器がそこかしこに転がっている。縄に吊るされた湿った衣服から、水滴がぽたぽた落ち、床に小さな染みを作っていた。
匂いは汗と湿りと、古い鉄。それに、薄いカビ。
「整列!」
班長の声で、兵たちが縦に並ぶ。まだ寝癖の残っている者もいれば、既に体操を終えて息を弾ませている者もいる。
シュアラは名簿を手に、一人一人の顔を見ていく。
「ゲルハルト」
「いる!」
「ヨナス」
「ここだ」
「リオ」
少し細い声。
背の高い細身の青年が、列の中ほどで手を上げる。明るい茶髪を後ろで結び、大きな瞳はどこか落ち着きなく揺れている。
足元の革靴は、他の兵のものより新しい。歩き込まれた皺が少ない。
名簿の横に、小さく印を付ける。
『リオ:弓兵/要観察』
今日の目的は、能力評価ではない。が、目についたものをメモしておくのは、悪い癖ではない。
「武器の数も見ろ」
ゲルトが帳簿を片手に言う。
「剣、槍、弓、矢筒、盾。ここに書いてある数と合ってるか、班ごとに確認しろ」
兵たちが壁際の武器立てに向かう。木の柄がぶつかり合い、鉄の小さな音が連続する。
シュアラは、槍の柄の削れ具合や、盾の裏の革紐の擦り切れ具合を眺めた。使い込まれたものと、そうでないもの。その差。
(前に出され続けている班と、そうでない班)
頭の中で、さっきの倉庫の数字と照らし合わせる。
「嬢ちゃん」
ゲルトが帳簿を叩きながら近づいてきた。
「ここ、槍が二本足りねえ。帳簿だと十本。実物は八本」
「折れたか、失くしたか、売ったか、ですね」
「物騒な三択だな」
「どの班ですか」
「第一班。去年、北の蛮族相手に一番走らされた連中だ」
シュアラは第一班の前に立ち、槍立てを一緒に見る。
「槍二本は、どこに行きました」
班長が顎を掻いた。
「一本は、あの時折れた。蛮族の盾に叩きつけたら、根元からぽっきりな」
「もう一本」
班長の視線が一瞬天井へ逃げ、それから戻ってくる。
「……あいつが、村に帰るときに持ってった」
「あいつ?」
「足、やられたやつだよ。歩けねえから村に返した。槍を一本、杖代わりに持たせた」
列の中で、何人かが目を伏せる。嘘をついている顔ではない。
名簿に、さらさらと書き足す。
『槍二本:一本=戦闘損耗/一本=負傷兵の杖』
「槍二本分の差は、帳簿の別の欄に移します」
シュアラは言う。
「折れた一本は損耗。杖になった一本は、『医療・補助器具』とします」
「そんな書き換え、帝都の役人が理解すんのかよ」
ゲルトが苦笑する。
「理解されなくて構いません」
自分で言ってから、少しだけ言い過ぎたかと内心で眉をひそめる。
「ここで、誰が、何のために、それを使ったか分かっていれば、それで十分です」
ゲルトは一瞬ぽかんとし、それからニヤリと笑った。
「おいお前ら」
兵たちに向き直って声を張る。
「今の話をまとめるとだな。槍を勝手に売ったら怒られる。でも、仲間を支えるために使った分は怒られねえ。そういうことだ」
「分かりやすいです」
シュアラは淡々と評価した。
あちこちで笑いが漏れ、緊張が少し緩む。
---
日が高くなる頃には、倉庫二つと兵舎二棟の棚卸しが終わっていた。
紙束の端は、インクと指の油で黒ずんでいる。紙と紙が擦れるたびに、小さな音がした。今日はずっと、その音を聞いている気がする。
数字の列のあちこちに、黒い丸と三角と赤い点。
赤い点はまだ少ない。どうしても説明のつかない差分――「誰かがこっそり持ち出した」可能性が高いものだけに付けた印だ。
一袋、二袋。樽半分。矢束ひとつ。
(こういうのが、何年も積もり続けた結果が……七割)
昨夜の帳簿を思い出し、喉の奥が少し苦くなる。
紙束を抱え直し、団長室へ向かった。階段を上がるたびに、足が重くなる。数字には出ない疲労が、ふくらはぎに溜まっていく。
扉をノックすると、すぐに「入れ」と声が返ってきた。
「で?」
カイは、紙束をざっとめくりながら、短く問う。
「砦の胃袋は、どうだった」
「予想より少し軽くて、予想より少し穴だらけでした」
椅子を引いて座ると、腰のあたりが悲鳴を上げる。
「中央倉庫の麦は、帳簿より二十七袋少ないです」
「二十七?」
「豆七袋。干し肉は樽ひとつ分。塩は、逆に帳簿より多い」
「肉が少ねえから、塩が余ってんのか」
「その可能性は高いです」
シュアラは紙束の一枚を開く。
「兵舎では、槍が二本分足りませんでしたが、一本は戦闘損耗、一本は負傷兵の杖として使われています。これは『計画にない損耗』ですが、『許容すべき損耗』です」
「許容すべき、ね」
「問題は」
赤い点の多い紙を机の中央に出す。
「このあたりです。毎月少しずつ減っている干し肉。帳簿上は『端数調整』で片付けられています」
「誰だ」
カイの声が低くなる。
「今のところ、『一人ではない』ところまでしか分かりません」
シュアラは首を振る。
「倉庫番、炊事係、兵……多くの人が少しずつ、つまんでいる形跡があります」
「全員殴ればいいって話じゃねえな」
「殴っても、減るのは今後の働きだけです」
シュアラは紙束を閉じた。
「今日の目的は、砦の胃袋の形を知ることでした。どこが痩せていて、どこに余計な脂肪が付いているか」
「余計な脂肪なんて、あったか?」
「塩と、実際には使われていない修繕費の枠が少し」
カイが鼻を鳴らす。
「修繕費は別枠だ。俺のところには回ってこねえ」
「だからこそ、別の胃袋につながっている可能性が高いです」
昨夜の帳簿が頭に浮かぶ。毎月きっちり同じ額が出ていく修繕費。傷だらけの武器。
「そこは、別の機会に見ます。今日分かったのは――」
手帳を開き、左上の小さな「1」に視線を落とす。
『砦の胃袋』
その下に、今日書き足したメモがある。
『総カロリー=帳簿値の八五%程度』
「帳簿と実際の在庫を比較し、自然損耗や村への貸出分を整理した結果、この砦の『総カロリー』は帳簿通りの八割五分程度です」
「八五……」
カイの口元が歪む。
「つまり、帝都の帳簿が言ってる『この砦はあと百日持つ』って話は、実際には八十五日分ってことか」
「ざっくり言えば、そうです」
「ざっくりのレベルじゃねえ」
カイは椅子にもたれ、天井を仰いだ。
「十五日分の飯が、ねえ」
「消えたわけではありません」
反射的に言い返す。
「一部は村の胃袋に。一部は負傷兵の杖に。一部は兵の夜食に。一部は鼠の腹に移動しています」
「……言い方を変えても、ここにないことに変わりはねえ」
「はい」
それは否定できない。
「だからこそ、残りの八十五日を、どうやって百日に近づけるかを考える必要があります」
手帳の別のページへ指を移す。
『一、損耗率の低下(倉庫補修+ボルグ活用)』
『二、貸出の帳簿化(村との返済計画)』
『三、つまみ食いの「合法化」=配給制度の再設計』
カイが目を細めた。
「三つ目。『つまみ食いの合法化』ってのが一番物騒に聞こえるんだが」
「今、兵たちが夜にこっそり干し肉をかじっている分を、最初から『決まった数』として配る案です」
「盗みを認めるってことか」
「盗みではなく、制度です」
言いながら、自分でもその言葉の冷たさに少しだけ眉をひそめる。
「夜番の班には、通常配給とは別に『夜食』として干し肉を一切れ支給します。その代わり、倉庫からの不明な持ち出しには、今より厳しく印を付ける」
「それで止まるか?」
「一部は止まります」
手帳を閉じかけて、また開き直す。
「今のつまみ食いは、『冬の途中で死ぬかもしれない』というぼんやりした恐怖に対する、小さな慰めです。そのうちのいくらかを、『決まった形で配られる安心』に置き換えれば」
「全員が盗む必要はなくなる」
カイが言葉を継いだ。
「そうです」
「それでも盗むやつは?」
「それは、それこそ『処罰より再利用』の領分です」
紙の端に、小さく別の見出しを書く。
『穴の大きい部分=要手術』
自分で書いておいて、医療用語に少し苦笑する。
「今日開いた胃袋のうち、特に穴の大きい部分には、別途手を入れる必要があります」
「物騒な医者だな」
「患者を生かす医者です」
カイはしばらく黙り込んだ。
窓の外では、兵たちがまた訓練を始めている。さっきまで倉庫で袋を数えていた男たちが、今度は木剣を振っている。
「面倒な文官だ」
ぽつりと落ちた声は、昨夜までより少しだけ柔らかい。
「だが――」
カイは紙束をもう一度見下ろし、乱暴に一枚めくる。
「ここまで腹の中を見せちまった以上、途中で放り出すって選択肢はねえな」
「ありがとうございます」
シュアラは軽く頭を下げる。
手帳を閉じる前に、ページの隅に小さく印を付けた。
数字の「1」の横に、ほんの少しだけ力を込めて。
『進行中』
とだけ書く。
点も線も、まだ足りない。
けれど、ゲームは動き始めた。
狭い寝台がぎゅうぎゅうに並び、鎧や武器がそこかしこに転がっている。縄に吊るされた湿った衣服から、水滴がぽたぽた落ち、床に小さな染みを作っていた。
匂いは汗と湿りと、古い鉄。それに、薄いカビ。
「整列!」
班長の声で、兵たちが縦に並ぶ。まだ寝癖の残っている者もいれば、既に体操を終えて息を弾ませている者もいる。
シュアラは名簿を手に、一人一人の顔を見ていく。
「ゲルハルト」
「いる!」
「ヨナス」
「ここだ」
「リオ」
少し細い声。
背の高い細身の青年が、列の中ほどで手を上げる。明るい茶髪を後ろで結び、大きな瞳はどこか落ち着きなく揺れている。
足元の革靴は、他の兵のものより新しい。歩き込まれた皺が少ない。
名簿の横に、小さく印を付ける。
『リオ:弓兵/要観察』
今日の目的は、能力評価ではない。が、目についたものをメモしておくのは、悪い癖ではない。
「武器の数も見ろ」
ゲルトが帳簿を片手に言う。
「剣、槍、弓、矢筒、盾。ここに書いてある数と合ってるか、班ごとに確認しろ」
兵たちが壁際の武器立てに向かう。木の柄がぶつかり合い、鉄の小さな音が連続する。
シュアラは、槍の柄の削れ具合や、盾の裏の革紐の擦り切れ具合を眺めた。使い込まれたものと、そうでないもの。その差。
(前に出され続けている班と、そうでない班)
頭の中で、さっきの倉庫の数字と照らし合わせる。
「嬢ちゃん」
ゲルトが帳簿を叩きながら近づいてきた。
「ここ、槍が二本足りねえ。帳簿だと十本。実物は八本」
「折れたか、失くしたか、売ったか、ですね」
「物騒な三択だな」
「どの班ですか」
「第一班。去年、北の蛮族相手に一番走らされた連中だ」
シュアラは第一班の前に立ち、槍立てを一緒に見る。
「槍二本は、どこに行きました」
班長が顎を掻いた。
「一本は、あの時折れた。蛮族の盾に叩きつけたら、根元からぽっきりな」
「もう一本」
班長の視線が一瞬天井へ逃げ、それから戻ってくる。
「……あいつが、村に帰るときに持ってった」
「あいつ?」
「足、やられたやつだよ。歩けねえから村に返した。槍を一本、杖代わりに持たせた」
列の中で、何人かが目を伏せる。嘘をついている顔ではない。
名簿に、さらさらと書き足す。
『槍二本:一本=戦闘損耗/一本=負傷兵の杖』
「槍二本分の差は、帳簿の別の欄に移します」
シュアラは言う。
「折れた一本は損耗。杖になった一本は、『医療・補助器具』とします」
「そんな書き換え、帝都の役人が理解すんのかよ」
ゲルトが苦笑する。
「理解されなくて構いません」
自分で言ってから、少しだけ言い過ぎたかと内心で眉をひそめる。
「ここで、誰が、何のために、それを使ったか分かっていれば、それで十分です」
ゲルトは一瞬ぽかんとし、それからニヤリと笑った。
「おいお前ら」
兵たちに向き直って声を張る。
「今の話をまとめるとだな。槍を勝手に売ったら怒られる。でも、仲間を支えるために使った分は怒られねえ。そういうことだ」
「分かりやすいです」
シュアラは淡々と評価した。
あちこちで笑いが漏れ、緊張が少し緩む。
---
日が高くなる頃には、倉庫二つと兵舎二棟の棚卸しが終わっていた。
紙束の端は、インクと指の油で黒ずんでいる。紙と紙が擦れるたびに、小さな音がした。今日はずっと、その音を聞いている気がする。
数字の列のあちこちに、黒い丸と三角と赤い点。
赤い点はまだ少ない。どうしても説明のつかない差分――「誰かがこっそり持ち出した」可能性が高いものだけに付けた印だ。
一袋、二袋。樽半分。矢束ひとつ。
(こういうのが、何年も積もり続けた結果が……七割)
昨夜の帳簿を思い出し、喉の奥が少し苦くなる。
紙束を抱え直し、団長室へ向かった。階段を上がるたびに、足が重くなる。数字には出ない疲労が、ふくらはぎに溜まっていく。
扉をノックすると、すぐに「入れ」と声が返ってきた。
「で?」
カイは、紙束をざっとめくりながら、短く問う。
「砦の胃袋は、どうだった」
「予想より少し軽くて、予想より少し穴だらけでした」
椅子を引いて座ると、腰のあたりが悲鳴を上げる。
「中央倉庫の麦は、帳簿より二十七袋少ないです」
「二十七?」
「豆七袋。干し肉は樽ひとつ分。塩は、逆に帳簿より多い」
「肉が少ねえから、塩が余ってんのか」
「その可能性は高いです」
シュアラは紙束の一枚を開く。
「兵舎では、槍が二本分足りませんでしたが、一本は戦闘損耗、一本は負傷兵の杖として使われています。これは『計画にない損耗』ですが、『許容すべき損耗』です」
「許容すべき、ね」
「問題は」
赤い点の多い紙を机の中央に出す。
「このあたりです。毎月少しずつ減っている干し肉。帳簿上は『端数調整』で片付けられています」
「誰だ」
カイの声が低くなる。
「今のところ、『一人ではない』ところまでしか分かりません」
シュアラは首を振る。
「倉庫番、炊事係、兵……多くの人が少しずつ、つまんでいる形跡があります」
「全員殴ればいいって話じゃねえな」
「殴っても、減るのは今後の働きだけです」
シュアラは紙束を閉じた。
「今日の目的は、砦の胃袋の形を知ることでした。どこが痩せていて、どこに余計な脂肪が付いているか」
「余計な脂肪なんて、あったか?」
「塩と、実際には使われていない修繕費の枠が少し」
カイが鼻を鳴らす。
「修繕費は別枠だ。俺のところには回ってこねえ」
「だからこそ、別の胃袋につながっている可能性が高いです」
昨夜の帳簿が頭に浮かぶ。毎月きっちり同じ額が出ていく修繕費。傷だらけの武器。
「そこは、別の機会に見ます。今日分かったのは――」
手帳を開き、左上の小さな「1」に視線を落とす。
『砦の胃袋』
その下に、今日書き足したメモがある。
『総カロリー=帳簿値の八五%程度』
「帳簿と実際の在庫を比較し、自然損耗や村への貸出分を整理した結果、この砦の『総カロリー』は帳簿通りの八割五分程度です」
「八五……」
カイの口元が歪む。
「つまり、帝都の帳簿が言ってる『この砦はあと百日持つ』って話は、実際には八十五日分ってことか」
「ざっくり言えば、そうです」
「ざっくりのレベルじゃねえ」
カイは椅子にもたれ、天井を仰いだ。
「十五日分の飯が、ねえ」
「消えたわけではありません」
反射的に言い返す。
「一部は村の胃袋に。一部は負傷兵の杖に。一部は兵の夜食に。一部は鼠の腹に移動しています」
「……言い方を変えても、ここにないことに変わりはねえ」
「はい」
それは否定できない。
「だからこそ、残りの八十五日を、どうやって百日に近づけるかを考える必要があります」
手帳の別のページへ指を移す。
『一、損耗率の低下(倉庫補修+ボルグ活用)』
『二、貸出の帳簿化(村との返済計画)』
『三、つまみ食いの「合法化」=配給制度の再設計』
カイが目を細めた。
「三つ目。『つまみ食いの合法化』ってのが一番物騒に聞こえるんだが」
「今、兵たちが夜にこっそり干し肉をかじっている分を、最初から『決まった数』として配る案です」
「盗みを認めるってことか」
「盗みではなく、制度です」
言いながら、自分でもその言葉の冷たさに少しだけ眉をひそめる。
「夜番の班には、通常配給とは別に『夜食』として干し肉を一切れ支給します。その代わり、倉庫からの不明な持ち出しには、今より厳しく印を付ける」
「それで止まるか?」
「一部は止まります」
手帳を閉じかけて、また開き直す。
「今のつまみ食いは、『冬の途中で死ぬかもしれない』というぼんやりした恐怖に対する、小さな慰めです。そのうちのいくらかを、『決まった形で配られる安心』に置き換えれば」
「全員が盗む必要はなくなる」
カイが言葉を継いだ。
「そうです」
「それでも盗むやつは?」
「それは、それこそ『処罰より再利用』の領分です」
紙の端に、小さく別の見出しを書く。
『穴の大きい部分=要手術』
自分で書いておいて、医療用語に少し苦笑する。
「今日開いた胃袋のうち、特に穴の大きい部分には、別途手を入れる必要があります」
「物騒な医者だな」
「患者を生かす医者です」
カイはしばらく黙り込んだ。
窓の外では、兵たちがまた訓練を始めている。さっきまで倉庫で袋を数えていた男たちが、今度は木剣を振っている。
「面倒な文官だ」
ぽつりと落ちた声は、昨夜までより少しだけ柔らかい。
「だが――」
カイは紙束をもう一度見下ろし、乱暴に一枚めくる。
「ここまで腹の中を見せちまった以上、途中で放り出すって選択肢はねえな」
「ありがとうございます」
シュアラは軽く頭を下げる。
手帳を閉じる前に、ページの隅に小さく印を付けた。
数字の「1」の横に、ほんの少しだけ力を込めて。
『進行中』
とだけ書く。
点も線も、まだ足りない。
けれど、ゲームは動き始めた。
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