目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
64 / 103

31① ー薬ー

しおりを挟む
「バラチア公爵夫人。こちらのお部屋にどうぞ」

 フィオナはかしこまって促す男の後をついて、開いたドアの中に入り込んだ。
 がやがやと騒がしい会場。入った部屋の奥はベランダのようになっており、椅子が二脚置かれていた。

(演劇とはね……)

 初めて入った劇場。一人でこの場所に来たのは、招待があったからである。




 王宮の書庫では新しく得られるものはなかった。

(やっぱり、禁書の部分を読ませてもらわないと、分かることはないのかも……)

 ため息しか出ない。クラウディオにも何度も大国の話をしており、いい加減どうしてそこまで大国のことが知りたいのか、疑問に思われるだろう。
 ノエルは魔法陣の流出した理由を調べているのか、まだ知らせはない。王宮であった時クマがひどかったので、研究所からほとんど出ていなそうだった。

「フィオナ様、お手紙が。差出人が書いていなかったのですが……」

 リディが持ってきた手紙には封蝋がしてあったが、紋章などはない。便箋はしっかりとしているが、誰から送られてきたのか記されていない。
 セレスティーヌにはほとんど手紙の類は送られてこないので、リディは不思議そうに封を開けて見せてくれた。

「チケット……?」
「お席もとても良いものですね」

 劇場の個室の席が記されたチケットと、カードが一枚。
 カードには、お待ちしております。の一言だけ。

「誰だと思います……?」
「分かりませんが……」
「エルネストかしら……?」

 高価そうなチケットだ。嫌がらせにセレスティーヌにチケットを贈るだろうか。そうでなければ、エルネストが呼んでいるように思う。

「薬を渡すのに、正体は出さないってところですかね。証拠を残したくないのかも」
「危険ではないでしょうか?」
「劇場でどうこうはないと思いますから、行くしかないですよ。薬は必要ですし」

 リディの心配は分かるが、劇場に招待してきたのだし、そこでどうこうはないだろう。エルネストからすれば早く魔法陣を起動させたいに違いない。
 薬をよこすのは少々時間がかかったが、薬を手に入れるのは難しいと言っていたので、やっと届いたというところか。

「どこから薬を手に入れたのか。それも調べてもらうには、薬をもらわないとね」

 チケットの日付に合わせドレスを合わせ、フィオナは外出することにした。クラウディオに気付かれないように、店に行くように見せて、店でドレスを着替え直す。
 アロイスはお留守番なので、乳母たちに任せた。さすがに連れてはいけない。

 劇場に行くなど初めてのことだ。その客層を見る限りはそれなりの身なりをしている人たちばかりだったが、フィオナが覚えている限り知っている人はいなそうだった。

 チケットを見せ案内を受け、フィオナは小部屋に入るよう促された。
 そこはバルコニーのような席で階上にあり、舞台が上からよく見えた。

(他の席からこっちを見れるから、危険はなさそう)

 小部屋はカーテンで仕切られているため、その影で何かされない限りは、そこまで警戒する必要はなさそうだ。
 しばらく待っていると、音楽が流れ始めた。開始時間だ。
 挨拶が始まり、案内人の声が劇場に響き渡る。暗幕が開かれると、演劇が始まった。

 演劇は大国で起きた戦争中、引き裂かれた恋人たちの話のようだった。
 演目になにかあるわけでもない。フィオナは待ち人が来ないため、その演劇を見ながら、周囲に誰か見覚えのある者がこちらを注視していないか確認する。

(なにもないんだけど。普通に演劇見てろってこと?)

 誰かが入ってくる気配もないし、誰かがこちらを見ている感じもない。
 エルネストが来るのかと思っていたのだが、エルネストではなく、別の誰かの招待なのか。緊張して待っている中、演劇は終盤に差し掛かっていた。

 恋人が戦争に行ったきり戻ってこない。便りも途絶えて、女は男の帰りを今か今かと待っていたが、戦争から戻ってきた男の友人が訪れた。
 渡されたのは男の持ち物で、戦争前に渡したお守り。

(ベタな内容だけど、結構泣いて見てる人いるのね)

 どこからか啜り泣く声が聞こえる。ハンカチで目元を拭っている人も見えるので、感動のシーンのようだ。舞台は暗いまま、クライマックスを迎える。

 死んだかと思っていた恋人が、傷だらけで戻ってきたのだ。
 片腕を失った男は命からがら生き残り、多くの困難を経て女の元に戻ってきた。
 女には子供がおり、男が戦争に出発してからゆうに十年が経っていた。

 わっと、観客が立ち上がる。
 女の子供を見て男は躊躇したが、実は男の子供だったという話だ。

(————て、ちょっと、劇終わっちゃったんだけど!?)

 感動の? クライマックスを終えて拍手も鳴り終わり、観客が帰路につき始めている。

「嘘でしょ。誰もこないわけ!?」

 他に目を向けていたのでまともに劇の内容が入ってこなかった。劇を見ていいならば劇に集中したのに。

「とんだ肩透かしだわ……」

 そう呟いて部屋を出ようとした時、ノックの音が聞こえた。

「失礼致します。劇はいかがでしたでしょうか」

 ちゃんと見ていなかったのだが。適度に返して部屋を出ようとすると、布で包まれた小さな手土産をよこしてきた。

「どうぞ、気を付けてお帰りください」

 扉を開かれて、フィオナは促されたまま外に出る。ここで開けるなということか。
 馬車に乗り、手にした布を広げると、そこには液体の入った小さな瓶とカードが入っていた。

「お望みのものです。ね」

 こちらも差出人の名前がなく、誰から送られたものか分からないようにしてある。

「徹底してること……」

 二人きりで会うわけにはいかない。薬を渡した相手だとも思われたくない。
 エルネストの、警戒心がよく見える手土産だ。

「でも、これで、薬の成分を調べてもらえるわ」
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

処理中です...