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選ばれぬ者4
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「線の細い人だった。気が弱いのが前面に出るくらい怯えていて、あの浮島の美しさの前でただ泣いてばかりいた」
ルディアリネは身体が弱くマリオンネの次代の女王としての矜持が少なく、女王になることをずっと悩んでいる女性だった。精霊の子を孕むという、普通の女性とは違う子の持ち方に疑問も持っていた。
前女王エルヴィアナはマリオンネの周囲からのプレッシャーを受けて生活するより、早めにラータニアの浮島で静かに生活することをルディアリネ勧めた。
しかし、そこは次期女王を得るための受け皿となる場所。ルディアリネが心地良く呑気に過ごせるわけがなかったのだ。
「話し相手としてね、私が足を運んだんだ。私は唯一の王子で、まだ子供で、その時は成人ではなかったから」
「ルヴィアーレは、そのこと、知ってるんですか?」
「知っているよ。教えたからね。なぜ?」
「なぜって…」
兄弟だから、仲が良いと思っていた。
それを口にしようとして、飲み込んだ。親子の仲は悪いものだと、誰が言った。
「私が理解できないだけです。ルヴィアーレはあなたをとても大切にしているから」
「教えたのは少し大人になってからだから、その時は口を聞いてくれなかったけれどね。反抗期に教えたのが悪かったかなあ」
そんな無邪気に笑って言ってくれるが、兄だと思っていた者が父だと知って、何も起きないわけがないだろうに。自分だったら一体どうするだろうか。
殴るくらいはしたくなるものではないだろうか。しかし、ルヴィアーレはどこかでそうならずに、父であるシエラフィアを大切にするようになったのだ。
「父子。父子ですか。年、あまり離れていないとは言え、父子、なのに、ルヴィアーレの方が老けて見えません?」
「ぷはっ! あは、あははっ! は。はあ。ちょっと、笑わせないでよ」
シエラフィアは身体をよじるように笑ってくれるが、事実だと思う。扉の前でモストフの隣にいた男も吹き出すのを我慢していた。やはり、そう思うだろう?
「はー。重大な話をしているつもりだったんだけれど、何だったか忘れそうになるよ」
笑いすぎたのか、シエラフィアは少しだけ息急き切る。笑っていても体調は悪いのだと分かるのは、冷や汗をかいていたからだ。こうやって普通に話しているように見えても、かなり体調は悪いのだろう。
アンリカーダはシエラフィアを狙ってどうする気だったのか。
「ルディアリネはアンリカーダを生んだ後マリオンネに戻ったけれど、体調を崩してラータニアの浮島に戻ってきたんだ。その後、しばらく浮島にいたんだよ」
与えられた命を怖がったルディアリネ。彼女は自分が生んだ子供を怖がった。自分も同じ身でありながらも。作られた命を恐れたのだ。
アンリカーダを恐れマリオンネから離れ、浮島で療養していたが、シエラフィアに惹かれルヴィアーレを身籠った。
「ルディアリネはルヴィアーレを育てようとしたんだ。アンリカーダと違ってね…」
マリオンネに残されたアンリカーダは母親を知らぬまま、マリオンネで育った。ルヴィアーレの存在やラータニアの浮島がどんな意味を持っているか知った時、何を思っただろうか。
シエラフィアはアンリカーダからすれば母親を奪ったようなもので、ルヴィアーレに至っては、母の愛を奪った上、女王の座を脅かす存在となった。
だから、アンリカーダはシエラフィアを狙ったのだろうか。
シエラフィアがルヴィアーレの父親であることは伏せられた。まだ十代で婚約もなく子供ができたとなればラータニアの王族として問題になるだろう。しかもそれが次期女王の子である。
ラータニア前王が自分の子としたのは苦肉の策だったはずだ。
ルヴィアーレは難しい存在となった。女王の双子の片割れが生んだ子と同じような気もするが、下賜された片割れを表沙汰にしないのと同じく、ラータニアとしては混乱を招かないために隠し通す必要がある。
「エルヴィアナ女王と相談して、ルヴィアーレはマリオンネには連れずラータニアの人間とすることに決まったんだ。だからあの子は特別な子で、次期女王の子として考えれば、ラータニアの王になるに相応しい。けれどあの子は嫌がってね」
精霊の命ではないにしろ、次期女王の子だからか、ルヴィアーレは争いを避けるため婚姻することを拒否していた。
王の妃となる下賜された双子の片割れと、王となるルヴィアーレでは意味が違うと感じたのだろうか。王と妃では責任の重さが違う。王となればアンリカーダにさらに目を付けられると感じていたのかもしれない。
そして、そこにグングナルド前王が手を伸ばしてきた。
「だからと言って、グングナルドに渡す気はなかったのでは?」
「それは勿論だよ。奪われるのならばユーリファラと結婚してくれた方が良かった」
信頼できる者を妃にしてラータニア王にした方が勿論良いだろうが、結局アンリカーダに目を付けられるのは同じだ。ルヴィアーレの心情を考えれば、シエラフィアに子供ができてその子に王になってもらいたいところだろう。
「ユーリファラのことは気にならない?」
問われてフィルリーネはシエラフィアに顔を向けた。
ルヴィアーレを支える相手として選んだユーリファラはシエラフィアの子供になっている。
血の繋がりはないため問題はないが、表向き叔父と姪になっているのだから、どちらかが王族から出る必要があるだろう。
それを言うと、シエラフィアはひどくガッカリした顔をした。
「何か別に問題があるんですか??」
「いや、ないけれどね。ないけれども。はー。何だか疲れてしまったよ」
「長く話しすぎてしまいましたね。今後のこともお話ししたいのですが、今日のところは…」
切りが良いところで終えてまた後で話した方が良いと提案したつもりだったが、シエラフィアはさらにがっかりしたように大きく息を吐いて逆側を向くと、違う。違うー。と呟いた。
「はー。もう残念すぎるよ。前王を倒したのだから、私は君たちにはしっかり婚姻してもらいたいんだけれどね」
「はあ、でもユーリファラちゃんと婚姻予定ですよね?」
言うとシエラフィアはちらりとこちらを見てごろりと転がった。顔色は悪いままなので、本当に疲れているのだろうが、体調悪そうにして不機嫌に大きく息を吐く。
「ユーリファラの母親はマリオンネの人間だよ。ルディアリネについていた女性だ。ルディアリネが亡くなった後、ルヴィアーレを見るためにこちらに残ったんだ。言わばルヴィアーレの乳母だね」
乳母として残り、そしてルディアリネを診るためにその女性はラータニアに残った。ルディアリネはその後すぐに亡くなってしまったが、ルヴィアーレがラータニアにいるため、その人はラータニアに住み続けることになる。
前女王エルヴィアナにルヴィアーレの様子も伝えていたのかもしれない。エルヴィアナにとってルヴィアーレは孫になるのだから。
そしてシエラフィアはその女性と子供であるユーリファラを王族の一員とした。わざわざ第二夫人として迎え入れて。
「ユーリファラは私の子供ではないよ」
「そんなことは想像してませんよ。父親は亡くなったから引き取ったと聞きましたけれど」
「ユーリファラを引き取ったのは、魔導量が多すぎたからだよ。赤ん坊の頃から魔導量が多くて精霊を呼ぶほどだったんだ」
それは相当の力を持っていることになる。王族でないのに精霊を呼ぶなど聞いたことがなかった。さすがマリオンネの血を引いただけあるのか。マリオンネの人間も人によって魔導量の多い少ないがあるのだろう。
それだけの力があれば王族に引き入れたくなるのは当然だ。グングナルド王であれば間違いなく手に入れている。
しかし、シエラフィアはそうではないと否定する。
「ユーリファラの父親はそこまでの身分がなくてね。他の貴族にユーリファラを奪われると悪用される可能性があるから、先手を打っただけだよ」
それこそグングナルド前王のように、ユーリファラと婚姻を結びたがる者がいたかもしれない。魔導量が高い子供を産めば、その魔導量によっては魔導院の職員のように高い地位につける可能性があるからだ。
シエラフィアは若く王になったため国内の敵が多い。ユーリファラを確保する必要があったわけである。
マリオンネの女性もユーリファラも敵対する者に奪われてしまうとなれば、シエラフィアが娶るのが一番手っ取り早かったのだろう。だからと言って自分の子にするのもどうかと思うが。
しかし、そこは現在シエラフィアの妃であるジルミーユが勧めたようだ。夫の危機のために第二夫人を迎える度量は王族の妃らしい行動である。
実際父親は本当に亡くなったが王の不備で亡くなったわけではなく、その死をきっかけにその女性を第二夫人として迎えることにしたわけだ。
そしてシエラフィアの娘となったユーリファラだが、血の繋がりがないのならばとルヴィアーレの相手として一番に名が上がることとなる。
「多くの者がユーリファラをルヴィアーレの相手にと考えていたね。私もそれがいいのかもしれないと考えていた」
「なら、早めに婚約破棄をしたいところですが、こちらの状況を考えると難しいですね」
アンリカーダがシエラフィアを狙ったとなれば、ルヴィアーレをラータニアに戻せばルヴィアーレも狙われるだろう。シエラフィアからすればその危険は回避したいはずだ。
シエラフィアはアンリカーダがグングナルドへ影響を及ぼすことを危惧していたが、ルヴィアーレがラータニアに戻ることでルヴィアーレに危険が及ぶことも考えていたに違いない。
「君はそれで良いの?」
「何がですか?」
問われて首を傾げると、シエラフィアは横になったまま顔をくしゃりと歪めた。くしゃみ前の我慢であろうか。
「ルヴィアーレが私と婚姻しても、私は国を担いませんよ。王になるのは弟のコニアサスと決めています」
「それは知っているよ。けれど、それは関係ないのではないの?」
関係あるだろうに。王配にもならないのだから、ルヴィアーレにとってみれば貴族の婿になるようなもの。自分の場合、市井に下りる可能性も高いので、最悪平民である。
さすがにそれは言えないが。
「今回の件が終わるまでは保留でしょうが、できるだけ早く婚約を解消できるようにしたいですね」
婚約の解消はマリオンネに行き精霊に契約の破棄を依頼しなければならない。アンリカーダがこちらを敵視しているのならば、それすら行うことが難しい。
マリオンネの問題を、どうやって治めるのか。難しい話だ。
「少し、ルヴィアーレとも話が必要だね。今日のところは、話せて嬉しかったよ」
シエラフィアは溜め息混じりでそう言って、疲れたように息を大きく吐いた。
ルディアリネは身体が弱くマリオンネの次代の女王としての矜持が少なく、女王になることをずっと悩んでいる女性だった。精霊の子を孕むという、普通の女性とは違う子の持ち方に疑問も持っていた。
前女王エルヴィアナはマリオンネの周囲からのプレッシャーを受けて生活するより、早めにラータニアの浮島で静かに生活することをルディアリネ勧めた。
しかし、そこは次期女王を得るための受け皿となる場所。ルディアリネが心地良く呑気に過ごせるわけがなかったのだ。
「話し相手としてね、私が足を運んだんだ。私は唯一の王子で、まだ子供で、その時は成人ではなかったから」
「ルヴィアーレは、そのこと、知ってるんですか?」
「知っているよ。教えたからね。なぜ?」
「なぜって…」
兄弟だから、仲が良いと思っていた。
それを口にしようとして、飲み込んだ。親子の仲は悪いものだと、誰が言った。
「私が理解できないだけです。ルヴィアーレはあなたをとても大切にしているから」
「教えたのは少し大人になってからだから、その時は口を聞いてくれなかったけれどね。反抗期に教えたのが悪かったかなあ」
そんな無邪気に笑って言ってくれるが、兄だと思っていた者が父だと知って、何も起きないわけがないだろうに。自分だったら一体どうするだろうか。
殴るくらいはしたくなるものではないだろうか。しかし、ルヴィアーレはどこかでそうならずに、父であるシエラフィアを大切にするようになったのだ。
「父子。父子ですか。年、あまり離れていないとは言え、父子、なのに、ルヴィアーレの方が老けて見えません?」
「ぷはっ! あは、あははっ! は。はあ。ちょっと、笑わせないでよ」
シエラフィアは身体をよじるように笑ってくれるが、事実だと思う。扉の前でモストフの隣にいた男も吹き出すのを我慢していた。やはり、そう思うだろう?
「はー。重大な話をしているつもりだったんだけれど、何だったか忘れそうになるよ」
笑いすぎたのか、シエラフィアは少しだけ息急き切る。笑っていても体調は悪いのだと分かるのは、冷や汗をかいていたからだ。こうやって普通に話しているように見えても、かなり体調は悪いのだろう。
アンリカーダはシエラフィアを狙ってどうする気だったのか。
「ルディアリネはアンリカーダを生んだ後マリオンネに戻ったけれど、体調を崩してラータニアの浮島に戻ってきたんだ。その後、しばらく浮島にいたんだよ」
与えられた命を怖がったルディアリネ。彼女は自分が生んだ子供を怖がった。自分も同じ身でありながらも。作られた命を恐れたのだ。
アンリカーダを恐れマリオンネから離れ、浮島で療養していたが、シエラフィアに惹かれルヴィアーレを身籠った。
「ルディアリネはルヴィアーレを育てようとしたんだ。アンリカーダと違ってね…」
マリオンネに残されたアンリカーダは母親を知らぬまま、マリオンネで育った。ルヴィアーレの存在やラータニアの浮島がどんな意味を持っているか知った時、何を思っただろうか。
シエラフィアはアンリカーダからすれば母親を奪ったようなもので、ルヴィアーレに至っては、母の愛を奪った上、女王の座を脅かす存在となった。
だから、アンリカーダはシエラフィアを狙ったのだろうか。
シエラフィアがルヴィアーレの父親であることは伏せられた。まだ十代で婚約もなく子供ができたとなればラータニアの王族として問題になるだろう。しかもそれが次期女王の子である。
ラータニア前王が自分の子としたのは苦肉の策だったはずだ。
ルヴィアーレは難しい存在となった。女王の双子の片割れが生んだ子と同じような気もするが、下賜された片割れを表沙汰にしないのと同じく、ラータニアとしては混乱を招かないために隠し通す必要がある。
「エルヴィアナ女王と相談して、ルヴィアーレはマリオンネには連れずラータニアの人間とすることに決まったんだ。だからあの子は特別な子で、次期女王の子として考えれば、ラータニアの王になるに相応しい。けれどあの子は嫌がってね」
精霊の命ではないにしろ、次期女王の子だからか、ルヴィアーレは争いを避けるため婚姻することを拒否していた。
王の妃となる下賜された双子の片割れと、王となるルヴィアーレでは意味が違うと感じたのだろうか。王と妃では責任の重さが違う。王となればアンリカーダにさらに目を付けられると感じていたのかもしれない。
そして、そこにグングナルド前王が手を伸ばしてきた。
「だからと言って、グングナルドに渡す気はなかったのでは?」
「それは勿論だよ。奪われるのならばユーリファラと結婚してくれた方が良かった」
信頼できる者を妃にしてラータニア王にした方が勿論良いだろうが、結局アンリカーダに目を付けられるのは同じだ。ルヴィアーレの心情を考えれば、シエラフィアに子供ができてその子に王になってもらいたいところだろう。
「ユーリファラのことは気にならない?」
問われてフィルリーネはシエラフィアに顔を向けた。
ルヴィアーレを支える相手として選んだユーリファラはシエラフィアの子供になっている。
血の繋がりはないため問題はないが、表向き叔父と姪になっているのだから、どちらかが王族から出る必要があるだろう。
それを言うと、シエラフィアはひどくガッカリした顔をした。
「何か別に問題があるんですか??」
「いや、ないけれどね。ないけれども。はー。何だか疲れてしまったよ」
「長く話しすぎてしまいましたね。今後のこともお話ししたいのですが、今日のところは…」
切りが良いところで終えてまた後で話した方が良いと提案したつもりだったが、シエラフィアはさらにがっかりしたように大きく息を吐いて逆側を向くと、違う。違うー。と呟いた。
「はー。もう残念すぎるよ。前王を倒したのだから、私は君たちにはしっかり婚姻してもらいたいんだけれどね」
「はあ、でもユーリファラちゃんと婚姻予定ですよね?」
言うとシエラフィアはちらりとこちらを見てごろりと転がった。顔色は悪いままなので、本当に疲れているのだろうが、体調悪そうにして不機嫌に大きく息を吐く。
「ユーリファラの母親はマリオンネの人間だよ。ルディアリネについていた女性だ。ルディアリネが亡くなった後、ルヴィアーレを見るためにこちらに残ったんだ。言わばルヴィアーレの乳母だね」
乳母として残り、そしてルディアリネを診るためにその女性はラータニアに残った。ルディアリネはその後すぐに亡くなってしまったが、ルヴィアーレがラータニアにいるため、その人はラータニアに住み続けることになる。
前女王エルヴィアナにルヴィアーレの様子も伝えていたのかもしれない。エルヴィアナにとってルヴィアーレは孫になるのだから。
そしてシエラフィアはその女性と子供であるユーリファラを王族の一員とした。わざわざ第二夫人として迎え入れて。
「ユーリファラは私の子供ではないよ」
「そんなことは想像してませんよ。父親は亡くなったから引き取ったと聞きましたけれど」
「ユーリファラを引き取ったのは、魔導量が多すぎたからだよ。赤ん坊の頃から魔導量が多くて精霊を呼ぶほどだったんだ」
それは相当の力を持っていることになる。王族でないのに精霊を呼ぶなど聞いたことがなかった。さすがマリオンネの血を引いただけあるのか。マリオンネの人間も人によって魔導量の多い少ないがあるのだろう。
それだけの力があれば王族に引き入れたくなるのは当然だ。グングナルド王であれば間違いなく手に入れている。
しかし、シエラフィアはそうではないと否定する。
「ユーリファラの父親はそこまでの身分がなくてね。他の貴族にユーリファラを奪われると悪用される可能性があるから、先手を打っただけだよ」
それこそグングナルド前王のように、ユーリファラと婚姻を結びたがる者がいたかもしれない。魔導量が高い子供を産めば、その魔導量によっては魔導院の職員のように高い地位につける可能性があるからだ。
シエラフィアは若く王になったため国内の敵が多い。ユーリファラを確保する必要があったわけである。
マリオンネの女性もユーリファラも敵対する者に奪われてしまうとなれば、シエラフィアが娶るのが一番手っ取り早かったのだろう。だからと言って自分の子にするのもどうかと思うが。
しかし、そこは現在シエラフィアの妃であるジルミーユが勧めたようだ。夫の危機のために第二夫人を迎える度量は王族の妃らしい行動である。
実際父親は本当に亡くなったが王の不備で亡くなったわけではなく、その死をきっかけにその女性を第二夫人として迎えることにしたわけだ。
そしてシエラフィアの娘となったユーリファラだが、血の繋がりがないのならばとルヴィアーレの相手として一番に名が上がることとなる。
「多くの者がユーリファラをルヴィアーレの相手にと考えていたね。私もそれがいいのかもしれないと考えていた」
「なら、早めに婚約破棄をしたいところですが、こちらの状況を考えると難しいですね」
アンリカーダがシエラフィアを狙ったとなれば、ルヴィアーレをラータニアに戻せばルヴィアーレも狙われるだろう。シエラフィアからすればその危険は回避したいはずだ。
シエラフィアはアンリカーダがグングナルドへ影響を及ぼすことを危惧していたが、ルヴィアーレがラータニアに戻ることでルヴィアーレに危険が及ぶことも考えていたに違いない。
「君はそれで良いの?」
「何がですか?」
問われて首を傾げると、シエラフィアは横になったまま顔をくしゃりと歪めた。くしゃみ前の我慢であろうか。
「ルヴィアーレが私と婚姻しても、私は国を担いませんよ。王になるのは弟のコニアサスと決めています」
「それは知っているよ。けれど、それは関係ないのではないの?」
関係あるだろうに。王配にもならないのだから、ルヴィアーレにとってみれば貴族の婿になるようなもの。自分の場合、市井に下りる可能性も高いので、最悪平民である。
さすがにそれは言えないが。
「今回の件が終わるまでは保留でしょうが、できるだけ早く婚約を解消できるようにしたいですね」
婚約の解消はマリオンネに行き精霊に契約の破棄を依頼しなければならない。アンリカーダがこちらを敵視しているのならば、それすら行うことが難しい。
マリオンネの問題を、どうやって治めるのか。難しい話だ。
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シエラフィアは溜め息混じりでそう言って、疲れたように息を大きく吐いた。
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