聖女は歌う 復讐の歌を

奏千歌

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エカチェリーナ  *バッドエンド注意

9 王子の労働

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 家に居候を迎えた翌日の早朝。

 その居候がどのように夜を過ごしたのか特に気にしていなかったけど、いつも通りの時間に起きて、着替えて部屋を移動すると、王子は気を張っていたのかすでに夜明けと共に起きていたようだ。

「おはようございます。エカチェリーナさん」

 私の姿を見るなり、姿勢を正した状態で何の邪気も含まない微笑みを向けてくる。

「おはよう」

 誰かに朝の挨拶をするのは久しぶりのことで、なんだか変な感じがした。

「えっと……エカチェリーナさんは早起きなのですね。今から何か用事があるのでしょうか?僕に出来る事ならなんでもやりたいと思っています」

 昨日の今日で、随分とやる気がみなぎっているようで感心した。

「うん。じゃあ、王子は朝食の前にまず薪割りね。したことある?」

「いえ……でも、やれるようになります!」

 とても良い返事だ。

 王子を連れて庭先に出ると、手斧を渡して作業の説明を行った。

 それから時間は少し過ぎる。

「エカチェリーナさんは、普段は、何を、して、過ごしているのですか?」

 汗をボタボタとたらして、肩でゼェゼェと息をしながら質問してきた。

 病み上がりで体力も無いからキツイだろうに、王子は文句を言わなかった。

「……森を元に戻す方法を探しているよ」

「森を、戻す、ですか」

「そう。環境整備ってところかな」

「先を、見越しての、ことなの、ですね」

 喋るのを諦めたらいいのに、体を動かしながらも、それから王子は私にいくつもの質問を重ねてきた。

 キッチンでの火の使い方や、洗濯の仕方なども聞かれたから、王子の労働を眺めながら、言葉で説明を受けただけではどうせすぐには実行できないとは思いながらも、知りたいと思う事には答えていた。

 自分の家に他人がいるのは面倒だけど、この王子を鍛えるのは悪くないか。

 それこそ、私の初めての弟子かな。

「乗りかかった船だし、ここでの生活に少しずつ慣れて健康を取り戻していったらいいよ。あ、船ってわかる?この辺に川はあっても海は無いからね」

「はい。これからは、僕は……心が、強く、ありたいです」

「必ずしも、すべての障害に挑まなければならないわけではないよ。じゃあ、今日はこれくらいにして、朝ごはんにしようか。お疲れ様」

 王子から手斧を受け取ると、着替えに行かせて、その間に私は朝食の準備を行うことにした。


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