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ステラⅣ

旅立つジェレミー

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「ギデオン。後は任せていいかな?」

「は?」 

 ミナージュ領の危機が去って、後処理がやっと済んだと思ったら、ジェレミーから唐突に言われたことだった。

 また何を言い出したのかと、その人物の顔を見た。

「君が魔法士団長となるんだ。もう、国王陛下には伝えてあるよ」

「どこに行くんだ?」

 団長をやれと言われたことよりも、その理由の方が問題だった。

「魔女の後を追うよ」

「あの女か」

 ステラに纏わりついていた悪女の姿が瞬時に浮かんだ。

「ステラの見た怖い夢を覗かせてもらった。苦しかったと思うよ。まだ、庇護が必要な少女が病床の絶望下で、繰り返し好きな人に殺されて、その相手も誰かに殺される。そんな記憶もない中、幼い手でどうにかしようと奮闘してて、それに君が応えてくれて嬉しい」

「俺がステラに手を貸したのは、偶然が重なった結果で、それに、あいつを助けていたのは俺だけじゃない」

「ふふっ。確かに、あの子があれだけ他人を気にかけるのはステラだけだったね。ステラは……よく二度も魔女の誘いを断る事ができたよ。あの子はすごいよ。とても、強い子だ。断った事によって興味をもたれてしまったのは可哀想だったけど。だからね、ステラは二度、世界を超えて魔女から勧誘を受けている。三度目がないとは言えないよね。手に入らないものは、余計に執着されてしまうものだしね」

 確かに、あの女の脅威は簡単には終わりそうに無い。

「魔女から逃れることのできない子もいる。囚われたら、死ぬ事もできずに魔女の欲求を満たすおもちゃにされてしまう。繰り返し繰り返し、おもちゃにされてしまうんだ」

 ジェレミーが、ステラに向けるような眼差しを俺に向けてきた。

「出会った時の君の事をよく覚えているよ」

「忘れろ」

 ビービー泣いていた自分の姿は、思い出したくもない。

「立派になって、私は嬉しいよ。私は君を救えたかな?」

「ああ」

「君が小さなステラを救って、育てて、今度はステラが誰かを育てる番なのかな」

「自分の子供が先じゃないのか」

「それは寂しいね。ギデオン」

 ははっと声を出して笑うジェレミーの声が、耳に障る。

「それじゃあ、行ってくるね。心配しなくても、今生の別れではないよ。そのうち帰ってくるから、それまで皆をよろしくね」

「わかった」

 ジェレミーは俺の返事を聞くと、気楽な様子で目の前から煙のように消えていった。

 大きな柱を失ったことになるが、それをどうにかやりくりするのが俺の役目らしい。

 ステラのためと思えば、それも大した負担にはならない。

 あの女をジェレミーは捕らえることができるのか。

 ジェレミーは無事に戻って来れるのか。

 それは余計な心配かと、机の上に置かれた報告書の山に視線を向けていた。






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