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前編
19 その視線を受けて
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翌朝、屑の姿は見なかった。
あの男からの報復を警戒しなければならないけど、今はあの姿を見なくて済んでホッとしていた。
でも、冷たい視線を感じてそっちを見ると、屑の名ばかりの妻が、私を虫ケラを見るような目で見ていた。
この女は、別に国王に好意があって関係を持ったわけではない。
何度も言うけど、本命はテオの父親だから、同じ男を狙っていたあの王妃に嫌がらせがしたかっただけだ。
自分の夫であるあの屑の事に至っては歯牙にもかけていない。
でも、いざ自分のものに手を出されると気に入らないのだろう。
別に私から手を出したわけではないけど。
私は被害者の方だ。
「人の夫を誘惑するなんて、男を誑かして、なんて卑しい子なの」
すれ違いざまに、そんな事を言われた。
数年ぶりにかける言葉がそれかよ。
お前が言うな。と、言いたい。
そんな女の事は無視して、いつも通りに学園に行く。
いつもと同じ様にテオの姿をそこに見ると、何故か安心すると同時に、あの屑との出来事を知られたくないと思った。
そんな私の様子を不審に思ったのか、テオは、顔を強張らせて私に近付いてきた。
「キーラ」
腕を掴まれて、目を覗き込まれる。
心配そうに、深緑のその視線が揺れていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃなさそうに見えるの?」
「あ、いや、」
珍しく、テオが視線を彷徨わせて狼狽えている。
狼狽えていたのに、
「なぁ。俺と、婚約しないか?」
「は?」
次に紡がれたテオの言葉は、私を驚かせた。
「そうすれば、お前を守れる」
「あんたまで、私の事を憐れんで馬鹿にしてるの?それとも、同情?」
テオの真剣な眼差しからはそんな風には感じられない。
でも、言っている事は唐突で、意味が分からなかった。
「あんたんちが、反対するに決まってるでしょ。あの男だって、私を家から出すわけが……」
「うちは説得できる。お前のとこの両親も説得できる自信がある。あとは、キーラの気持ちなんだ」
「リュシアンの側近になりたいのなら、もっと堅実な嫁を探すことね。私みたいなのと婚約したって、足枷にしかならないでしょ。私に公爵家の娘の価値はないし、私が公爵家を継ぐ事は無いのだから」
何か言いかけたテオを残して、さっさと校舎へ入る。
冷たく突き放しはしたものの、テオの言葉は私の凍てついた心をほんの僅かにだけど、温めてくれた。
テオと家族になれる未来が、私にもあるのかな。国を出なくても、あの家から解放してもらえるのかな。
何かを、誰かを恨まずに、この国で、静かに、穏やかに暮らせる道があるのかな。
テオとなら、それが叶いそうな気がしていた。
そして、これなら、テオが守りたいリュシアンも、守ってあげられる。
本当に、私がそれを、テオとの未来を望んでもいいのかな。
望めば手に入るものなのかな。
もしも私が、テオやリュシアンにギフト所持者だと一言いえば、望んだものが手に入れられるのかな。
今すぐに、この先の私の未来を私に視せて欲しかった。
あの男からの報復を警戒しなければならないけど、今はあの姿を見なくて済んでホッとしていた。
でも、冷たい視線を感じてそっちを見ると、屑の名ばかりの妻が、私を虫ケラを見るような目で見ていた。
この女は、別に国王に好意があって関係を持ったわけではない。
何度も言うけど、本命はテオの父親だから、同じ男を狙っていたあの王妃に嫌がらせがしたかっただけだ。
自分の夫であるあの屑の事に至っては歯牙にもかけていない。
でも、いざ自分のものに手を出されると気に入らないのだろう。
別に私から手を出したわけではないけど。
私は被害者の方だ。
「人の夫を誘惑するなんて、男を誑かして、なんて卑しい子なの」
すれ違いざまに、そんな事を言われた。
数年ぶりにかける言葉がそれかよ。
お前が言うな。と、言いたい。
そんな女の事は無視して、いつも通りに学園に行く。
いつもと同じ様にテオの姿をそこに見ると、何故か安心すると同時に、あの屑との出来事を知られたくないと思った。
そんな私の様子を不審に思ったのか、テオは、顔を強張らせて私に近付いてきた。
「キーラ」
腕を掴まれて、目を覗き込まれる。
心配そうに、深緑のその視線が揺れていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃなさそうに見えるの?」
「あ、いや、」
珍しく、テオが視線を彷徨わせて狼狽えている。
狼狽えていたのに、
「なぁ。俺と、婚約しないか?」
「は?」
次に紡がれたテオの言葉は、私を驚かせた。
「そうすれば、お前を守れる」
「あんたまで、私の事を憐れんで馬鹿にしてるの?それとも、同情?」
テオの真剣な眼差しからはそんな風には感じられない。
でも、言っている事は唐突で、意味が分からなかった。
「あんたんちが、反対するに決まってるでしょ。あの男だって、私を家から出すわけが……」
「うちは説得できる。お前のとこの両親も説得できる自信がある。あとは、キーラの気持ちなんだ」
「リュシアンの側近になりたいのなら、もっと堅実な嫁を探すことね。私みたいなのと婚約したって、足枷にしかならないでしょ。私に公爵家の娘の価値はないし、私が公爵家を継ぐ事は無いのだから」
何か言いかけたテオを残して、さっさと校舎へ入る。
冷たく突き放しはしたものの、テオの言葉は私の凍てついた心をほんの僅かにだけど、温めてくれた。
テオと家族になれる未来が、私にもあるのかな。国を出なくても、あの家から解放してもらえるのかな。
何かを、誰かを恨まずに、この国で、静かに、穏やかに暮らせる道があるのかな。
テオとなら、それが叶いそうな気がしていた。
そして、これなら、テオが守りたいリュシアンも、守ってあげられる。
本当に、私がそれを、テオとの未来を望んでもいいのかな。
望めば手に入るものなのかな。
もしも私が、テオやリュシアンにギフト所持者だと一言いえば、望んだものが手に入れられるのかな。
今すぐに、この先の私の未来を私に視せて欲しかった。
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