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26 ユリウスは(ユリウス)
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侵攻を受けている北方戦線へ、俺が放り出される前日。
まだ15歳だった出征前日のその夜に、ティエラが生意気な口を利くものだから、もう、いっそのこと乱暴に扱って、泣き喚かせて、酷い記憶を植え付けて、お互い最悪なまま別れてもいいんじゃないかと思っていた。
どうせ死ぬ身だと、自棄になっていた部分もあったかもしれないし、俺を憎めばいいとさえ思っていた。
この時までの俺は随分と自分勝手なことを思っていた。
覚悟の上で俺にその身を差し出してきたのは、ティエラの方からだと、自分に言い訳をしながら。
ただの政略結婚だし、俺に対する嫌がらせなのに、ティエラの事は最初から嫌いじゃなかった。
初めて俺の前に連れてこられた子は、どんな境遇にいたのか、とても健康そうとは言えない見た目だった。
側妃の手先なのは理解していたし、警戒を緩める気は無かったが、物のように扱われている明らかに自分よりも弱い人間を、積極的にどうこうするつもりはなかった。
それに、自分の立場を理解していないのか、それともとうに諦めてしまっているのか、王宮で軟禁に近い状態のティエラは、暢気な様子だった。
この殺伐とした王宮で、自分のペースを崩す事なく、時折りバカみたいに無邪気な様子で俺を見ていた。
何を考えているのか、当時、俺の顔を見て笑いかけてくるのはティエラくらいだった。
「お前、自分の立場が分かっているのか?人としてのプライドはないのか」
と、呆れて聞けば、
「大人しくしていれば殴られないし、ご飯をもらえるし、布団で寝られるから、これ以上の贅沢はないし、何かそれ以外で生きることに必要なことってあるの?あ、暇で死ぬかもってのはあるかな」
唖然としたのを覚えている。
ティエラが視界に入ればつい不機嫌そうな態度をとってしまうし、あまり言葉を交わす事はないのに、寝る時にそばにいれば心地よいとさえ思える奇妙な距離感のまま数年を過ごした。
多分、素直になれば、この呑気者のことを好きと思う気持ちの方が大きかった。
戦場で死ぬ前に、好きな子と肌を重ねたい。
それは、俺の我儘な思いで、年下のティエラに甘えていたんだ。
熱に浮かされるようにティエラに跨り、ほんの少しだけティエラを気遣う理性が残っていた俺は、ちょっと脅してみて怖がればやめてやると、そんなつもりでその両腕を押さえつけた。
口だけは生意気なことを言ったくせに、俺に至近距離で覗き込まれただけで、ティエラは完全に怖気付いていた。
怖いなら最初から煽るなと、その肩に額を乗せて自分の気持ちをなだめる。
でも、
その肩に、首筋に顔を寄せると、ふわりと香る匂い。
その微香に触れた瞬間、俺の脳裏に濁流のように押し寄せてくるものがあった。
その名前を、
“リシュア”と、
大好きだった、御主人様の名前を呟いて、
混乱するまま、ティエラから離れていた。
俺が、ルゥが、会いたかった人が、目の前にいる。
体中に新たな血が巡るようにルゥとしての記憶が思い出されて、そしてその記憶を思い出してしまえば、もうティエラに酷いことなんか出来なかった。
ルゥの想いが乗っかって、ユリウスとしてティエラを愛したいと言う想いが爆発的に膨れ上がっていたから、ティエラを乱暴に扱うことなんか、もう俺にはできなかった。
それでも、記憶を思い出したばかりの俺は混乱がおさまらずに、ティエラに背を向けて横になっていた。
何で、離れないとならない日が、明日なんだ。
ティエラを連れて、何処かへ二人で逃げようかとも思った。
でも、この時はまだ力が足りなかった。
途中で、またティエラを失うかもしれない。
あまりない時間で悩んで、ルゥだった時みたいに寝ているティエラに寄り添いながら悩んで、そして決めて、寝た。
出発前に、本当はティエラが心配だから、色々備えてあげていきたかった。
ティエラが大事だと、好きだと、待っていろと伝えたかった。
でもそれが側妃にバレれば、ティエラを人質にされかねない。
どこで誰に聞かれているかわからない。
俺が生きている限りは、ティエラも生きていられる。
ティエラを遠くに見るだけで、言葉を交わさずに別れるしかなかった。
言葉のかわりに左手首に残した物の意味を、ティエラは分かっていないだろう。
リシュアもティエラも、言葉にしないと伝わらないくらい鈍くて、呑気ものだった。
数日を経て俺は、北方の国境で展開されている戦場の最前線に出た。
前世の獣だった記憶を思い出せば、あれだけ怖かったのに人を殺すことに何の思いもなかった。
ティエラの為に、俺の御主人様の為に強くなる。
俺の持てる全てを使って眼前の障害を叩き潰す。
ただそれだけだった。
まだ15歳だった出征前日のその夜に、ティエラが生意気な口を利くものだから、もう、いっそのこと乱暴に扱って、泣き喚かせて、酷い記憶を植え付けて、お互い最悪なまま別れてもいいんじゃないかと思っていた。
どうせ死ぬ身だと、自棄になっていた部分もあったかもしれないし、俺を憎めばいいとさえ思っていた。
この時までの俺は随分と自分勝手なことを思っていた。
覚悟の上で俺にその身を差し出してきたのは、ティエラの方からだと、自分に言い訳をしながら。
ただの政略結婚だし、俺に対する嫌がらせなのに、ティエラの事は最初から嫌いじゃなかった。
初めて俺の前に連れてこられた子は、どんな境遇にいたのか、とても健康そうとは言えない見た目だった。
側妃の手先なのは理解していたし、警戒を緩める気は無かったが、物のように扱われている明らかに自分よりも弱い人間を、積極的にどうこうするつもりはなかった。
それに、自分の立場を理解していないのか、それともとうに諦めてしまっているのか、王宮で軟禁に近い状態のティエラは、暢気な様子だった。
この殺伐とした王宮で、自分のペースを崩す事なく、時折りバカみたいに無邪気な様子で俺を見ていた。
何を考えているのか、当時、俺の顔を見て笑いかけてくるのはティエラくらいだった。
「お前、自分の立場が分かっているのか?人としてのプライドはないのか」
と、呆れて聞けば、
「大人しくしていれば殴られないし、ご飯をもらえるし、布団で寝られるから、これ以上の贅沢はないし、何かそれ以外で生きることに必要なことってあるの?あ、暇で死ぬかもってのはあるかな」
唖然としたのを覚えている。
ティエラが視界に入ればつい不機嫌そうな態度をとってしまうし、あまり言葉を交わす事はないのに、寝る時にそばにいれば心地よいとさえ思える奇妙な距離感のまま数年を過ごした。
多分、素直になれば、この呑気者のことを好きと思う気持ちの方が大きかった。
戦場で死ぬ前に、好きな子と肌を重ねたい。
それは、俺の我儘な思いで、年下のティエラに甘えていたんだ。
熱に浮かされるようにティエラに跨り、ほんの少しだけティエラを気遣う理性が残っていた俺は、ちょっと脅してみて怖がればやめてやると、そんなつもりでその両腕を押さえつけた。
口だけは生意気なことを言ったくせに、俺に至近距離で覗き込まれただけで、ティエラは完全に怖気付いていた。
怖いなら最初から煽るなと、その肩に額を乗せて自分の気持ちをなだめる。
でも、
その肩に、首筋に顔を寄せると、ふわりと香る匂い。
その微香に触れた瞬間、俺の脳裏に濁流のように押し寄せてくるものがあった。
その名前を、
“リシュア”と、
大好きだった、御主人様の名前を呟いて、
混乱するまま、ティエラから離れていた。
俺が、ルゥが、会いたかった人が、目の前にいる。
体中に新たな血が巡るようにルゥとしての記憶が思い出されて、そしてその記憶を思い出してしまえば、もうティエラに酷いことなんか出来なかった。
ルゥの想いが乗っかって、ユリウスとしてティエラを愛したいと言う想いが爆発的に膨れ上がっていたから、ティエラを乱暴に扱うことなんか、もう俺にはできなかった。
それでも、記憶を思い出したばかりの俺は混乱がおさまらずに、ティエラに背を向けて横になっていた。
何で、離れないとならない日が、明日なんだ。
ティエラを連れて、何処かへ二人で逃げようかとも思った。
でも、この時はまだ力が足りなかった。
途中で、またティエラを失うかもしれない。
あまりない時間で悩んで、ルゥだった時みたいに寝ているティエラに寄り添いながら悩んで、そして決めて、寝た。
出発前に、本当はティエラが心配だから、色々備えてあげていきたかった。
ティエラが大事だと、好きだと、待っていろと伝えたかった。
でもそれが側妃にバレれば、ティエラを人質にされかねない。
どこで誰に聞かれているかわからない。
俺が生きている限りは、ティエラも生きていられる。
ティエラを遠くに見るだけで、言葉を交わさずに別れるしかなかった。
言葉のかわりに左手首に残した物の意味を、ティエラは分かっていないだろう。
リシュアもティエラも、言葉にしないと伝わらないくらい鈍くて、呑気ものだった。
数日を経て俺は、北方の国境で展開されている戦場の最前線に出た。
前世の獣だった記憶を思い出せば、あれだけ怖かったのに人を殺すことに何の思いもなかった。
ティエラの為に、俺の御主人様の為に強くなる。
俺の持てる全てを使って眼前の障害を叩き潰す。
ただそれだけだった。
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