逃走中。待てと?殺されるのが分かってて待つわけないでしょぉぉぉ

奏千歌

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27 ユリウス様の変化(アンベール)

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「王子妃様は、を、お送りでしたよ」

 この戦地でユリウス様が指揮を執り始めて数ヶ月。

 戦況は好転しており、この地でのユリウス様の評価は高い。

 初めて王都に報告に行っていたラザールが、王子妃ティエラ様の現状を簡単に報告していた。

 それを聞くユリウス様の表情は、表面上は変わらない。

 夫の不在に乗じて好き勝手な事をしていないのか心配しているのだろうかと思わなくもないが、どうやらユリウス様の様子はティエラ様の身を普通に心配しているようだ。

 そろそろ俺も、ユリウス様はティエラ様に惚れ込んでいると認めた方がいいのかもしれない。

 幼い頃から仕えて来た王子殿下は、側妃ベアトリーチェに虐げられて育ち、人に対する警戒心は強かった事もあり、簡単に絆されたりはしない。

 お飾りの王子妃などに向ける愛情などないと思っていたが……

 あの能天気な女の子の姿を思い出す。

 打算や下心などよりも、目の前のおやつの心配を隠しもしないでいた子を。

 あの子は、バカな子では決してない。

 そんな少女の前では、ユリウス様も年相応の表情を見せることもあり、確かにこんな子が相手なら、殿下を幸せにしてくれるかもと思わなくもなかった。

 でも、勘違いを拗らせた輩が中にはいたわけで。

 そして、その事件は起きた。

 王宮でティエラ様がラザールを襲撃したというものだ。

 そして、ティエラ様はそのまま行方不明となったと。

 娘がユリウス様の側近に危害を加えてしまったと、ティエラ様の実家がごますり目的で、御丁寧にもラザールをユリウス様の元に送り届けてきた。

 だがそれは、ラザールの虚偽であって……

「ラザール。我が妻ティエラを殺そうとした正当な理由があるなら聞いてやる。これは、俺に対する明らかな、裏切り行為だ。誰に頼まれた。お前を信頼した俺を、さぞかし嘲笑っているのだろうな」

 ユリウス様から発せられた言葉は、底冷えするほどの重く冷たい響きを含ませていた。

「誤解です。私は、貴方の為を思って」

「ほう?俺のため?俺のために、俺の妻を殺そうとしたのか?」

 ラザールへのユリウス様の尋問が続いていた。

 ティエラ様の姉のリゼットが、何を考えているのか、ティエラの暗殺に失敗してごめんなさいとわざわざ手紙を寄越してきたそうだ。

 バカな女だとは以前から思っていたが、ここまでとは……

 ラザールもラザールで、騎士でありながら女性の寝込みを襲うなど、何を考えているんだ。

 しかもそれが、ユリウス様の最愛の女性。

「貴方が愛している人は他にいるではありませんか!あんな卑しい身分の女ではなく、貴方が愛している人が」

 ユリウス様の前に跪いて頭を下げていたラザールは、見苦しくもそんな言葉を発していた。

 愚かな……

 ユリウス様の何を見ていたんだと。

 俺ですら抱いた感想が、それだ。

 ユリウス様は剣を抜くと、ラザールの右掌に突き刺していた。

 つんざくような悲鳴が室内に響く。

 騎士の利き腕に、躊躇なく剣を突き刺していた。

 戦場の悪鬼と恐れられているユリウス様は、暴君などではない。

 戦場で共に命をかける部下達を大切していた上での、この行為だ。

 その怒りが知れる。

「俺が愛した女性は、ただ一人。ティエラだけだ。彼女を侮辱するな」

「そ、そんな、リゼット嬢、に送った、手紙は……」

「手紙だと?俺は、ティエラ以外に手紙は出していない。しかもそれは一通だけだ。言え。お前は、何を見た」

「確かに、貴方の筆跡、でした。リゼット嬢宛に、愛を誓う、内容で」

「アンベール。調べろ」

「はい」

 冷え切った目で、部下を見渡して、そして俺に短く命令していた。

「言わなかった俺がバカなのか?俺の妻に手を出すなと、部下にそう命令しないといけなかったのか?」

 その視線と同様に底冷えする声で、周囲にいる者達に尋ねているが、皆が押し黙り、答える者はいなかった。

 ラザールは、ユリウス様の側近の中で爵位が一番高い者だった。

 王宮に報告に行くにあたり、単独で行動させるには下位貴族や平民出身者は不便だろうとラザールに任がいったが……

 身分至上主義のラザールは、戦地でも平民の兵士を見下していた部分もあり、ユリウス様への忠誠心は揺るぎないものはあったが、士気に関わると密かに遠ざけられていた。

 そんなラザールを含めた、王都にいる連中がやらかしたであろう事。

 これから俺が知るであろう事実に、ため息しか出なかった。







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