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第二十九話 極上品
しおりを挟む「暑い……」
額に掻いた汗を拭う。くそ、なんなんだよこの湿度は。まるで低温サウナだな。
「ルイスも水着になればいいじゃない!」
「熱耐性がついていますのでとっても涼しいですわよ」
「ちょっとだけ恥ずかしいですけど……」
「いや、魔物に囲まれた環境で裸になる度胸は俺にはない」
「もう、ルイスは心配しょーなんだからー」
「だから俺に近づくな! 見通しが悪い森なんだから、一定の距離を保って敵に備えろ」
「大丈夫だよ。アクアがいるんだからー」
「はい、私に任せてもらって構いません」
前を歩くアクアが尻尾を揺らす。しかし、あれってどういう構造なのだろう……。
ボーダー柄のホットパンツから尻尾が飛び出しているのだ。チューブトップのビキニだか、フリルが可愛らしい。水色の水着がよくマッチしている。
「きゃっ!?」
「こらひっつくな!」
「だって! 蜘蛛がいたんだもん!」
俺の腕に抱き着くアンヘレス。胸が思いっきりあたって形を変えていた。どうやら着痩せするタイプだったようだ。ピンク色のザ、ビキニな姿だ。白くて透明な肌がもの凄く……。
「脱水症状になっても知りませんわよ」
もしそうなったら一番の原因はお前だけどな。
はち切れんばかりの巨乳。十八禁部分を覆い隠すは猫の額ほどの白い布切れのみ。ああ、なんて頼りないんだ。マイクロ過ぎだろ。そこから食み出ないのかが不思議でならん。これぞ異世界七不思議だ。
俺だってほんとは水着になりたいさ。でもね。大人の事情でパンツ一丁にはなれなかった。銃刀法違反で捕まりたくないからな。
「腰を低く下げ、敵がきたらすぐに斬りかかる……。いつでもかかってこい……」
ボソボソとそう呟きながら歩き続ける。前屈みにな理由を周りに知ってもらわないとね。
「あ! 前方から魔物が迫ってきます!」
「よし! あ――」
「おらぁぁあああ!」
俺が出る間もなくビックモンキーが次々と無力化されていく。
「うお! 体が軽い! これならいくらでもいけるぜ!」
俺の視界を縦横無尽にヒラヒラと舞う赤い布。うーん、尻尾がうまいこと隠しているなあ。野郎のケツを見なくて良かったよ。
「わー、海だよ!」
青い空と青い海。それがどこまでも続き、遠くで一つになっていた。
「ここって地下ダンジョンなんだよな」
天井も壁もどこにもない。
「ビーチバレーしよう!」
「いいですわね」
結局、買ったんかい。
「俺はなんか色々と疲れたからテントで休ませてもらうわ」
「えー! 一緒にやろうよー」
「ちょうど二対二でいいだろう。俺は昼寝してくる。起きてくるまでそっとしておいてくれ。くれぐれも邪魔するなよ」
テントの個室に篭ること三十分。再び砂浜に顔を出す。
「あっ! ルイス! もう起きたの?」
「ああもうスッキリしたからな!」
「ルイスさんもとうとう水着に着替えたんですね」
「ああ、さすがに暑いからな。寝てスッキリしたから少し泳ごうかと思ってな」
「ふふふ」
「レオーラは何を笑っているんだ」
「なんでもありませんわ。スッキリできたようで良かったですわね」
「あ、ああ……」
いいか、繰り返すけど俺は寝てスッキリしたんだからな。ショートスリーパーなのだ。
「おー、マジで海水だよ」
肌にまとわりつく感じで塩水だということがよくわかる。でも濃度高いかも。なんか簡単に浮くんだけど。
「ルイスさん気をつけてください! 沖から何か魔物が近づいてます!」
砂浜からアクアが叫んでいた。久々の海水浴を邪魔する不届き者め。水中を何か大きな影が横切った。あれどっかで見たようなシルエットだな。大きさは違うけどこいつは――。
海面下に腕を沈め、アイテムボックスからグローブを取り出す。陸から見えないように力を籠める。
「ギュゥ!?」
変な声を上げて水面に腹を見せる巨大魚。うん、やはり水中での雷撃は抜群に効くな。素晴らしいことに使用者にはダメージはないようだ。
魚を引っ張りながら泳ぎ、陸へと引っ張りあげる。くっ、重い。あ、アイテムボックスに収納すれば良かったのか……。
「凄い大きいですね!」
「兄貴これは食えるのか!?」
「もちろんだ。ちょっと待ってろ」
俺は包丁を取り出し、巨大魚の頭を切り落とす。そして手早く五枚に下ろし、柵へと変えていく。後は薄く切って終わりだ。
「出来たぞ。食ってみろ」
「え、兄貴! まだ焼いてないぞ!」
「ああ、生で食った方が格段にうまいぞ」
「そんな野蛮ですわ……」
「危険です! 人族の方は食あたりを起こしますよ! 我々だって肉は生でも魚は火を通さないと食べません」
「そうか、うまいのにな」
俺は素手で切り身を掴み、口に入れる。
「うわっ、まじ美味え、なんだこれ」
最高の中トロだった。
人生でこんなにうまいマグロなんか食ったことないぞ。まあ、学生だったから回る寿司ぐらいしか食ったことないんだけどさ。でもただ新鮮だからとかじゃない気がする。物凄く濃厚な味わいで、力までも漲ってくる。
ん? 力が漲る? もしかしてマグロの身に魔力が濃縮されているのか。
「やべー、手が止まらねえわ」
「うぅぅ……。ルイスなんかとっても美味しそうに食べるね。怖いけど私も食べてみる!」
「ちょっ――。貴方はダメよアンヘレス!」
「ルイス、さっきからマグロにつけてるその黒いのは何?」
「ん? ああ刺身用にアレンジした醤油だ」
醤油があったので麹も仕入れたのだ。自分で二段仕込みで作ってみたのだ。まだまだ熟成が足りないけどな。ああ、山葵も欲しくなるな。まあ、今度似たようなものがないか探してみよう。
「えいっ! ふえっ? うわうわうわわわわ!?」
刺身を口にいれて大騒ぎするアンヘレス。
「大丈夫ですの!? いまヒールをかけて――」
「お、美味しい!! すっごく甘くて濃厚なの! 口の中で蕩けるよ!」
「え!? 嘘だろ。臭くないのか?」
「食べてみればわかるよー」
「む、むむむ……。よし! 俺も――」
目を瞑って刺身を口に放り込むレッド。
「美味え……。なんだよこれ。肉よりも脂が乗ってないか」
「えっ!? 私も食べてみる!」
そこからは完全にマグロ祭りが始まった。
ずっと渋っていたレオーラもいまや顔を蕩けさせて吐息をはいている。裸同然の格好でそれは辞めてくれ。まさかマグロを独り占めしめしたくて、俺をテント送りにする気か。
「おうおうおう、何を騒いでやがるんだ」
「金銭を置いていけば命――。うおおお! お頭! めちゃくちゃ上玉ですぜ!」
「やべー、俺のマグナムが既に火を吹いちまった!」
「あの布は、俺に剥がされるために存在する」
「フリフリは僕ちんが脱がしてあげるねー」
お約束なのか、なんなのか。明らかに盗賊風の団体様御一行が絡んで来た。変態も紛れているらしい。あれ? でもなんでアクアの索敵に引っかからなかったんだ。
「おいひいですー。肉もいいけど、わたしもう大トロの虜ですー」
盗賊たちに目もくれず、ひたすらマグロを口に放り込んでいた。うん、完全に機能不全に陥っていました。
どうやら口にさせてはいけない物を与えてしまったようだ……。
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