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第三世界 メルカド(金こそ全てだ!)
第五十七話 商業都市ロンセト
しおりを挟む地上より遥か上空で翼をはためかせる漆黒の竜。
ここまで飛んでくる間にも、大鷹や鷲はたまたワイバーンの群れと遭遇した。だが、いずれも黒竜がその視界に入った途端。恐れをなして蜘蛛の子のように散っていった。
どうやら、ワイバーンも怯えると尻尾を巻くらしい。バランスが取り難いようでフラフラしていた。逃げるのにスピード落としてどうするのだろうか。
何者にも邪魔されずに軽快に駆ける空の王者が、突如急降下を始めた。まるで獲物でも見つけたかのようだ。
「ふむ、やはり、アレは街っぽいな」
眼下にはただっ広い平原。蛇行する大河がそれを二分するようにして流れる。
黒竜が目指す場所。そこには大河を挟み込むようにした円形状の不自然な模様があった。高度を下げるにつれてそれが建物の集合体であることがわかる。
「これは結構な規模だぞ」
どうやら、ロージェン世界でいうところのターウォの街ほどの大きさはありそうだ。もしかしたらもっと大きいかもしれない。城のようなものまで見えた。
ただ、このまま市中に降りるわけにはいかないな。
街からある程度離れた街道沿いの大地にゆっくりと着地する。歩み始めると、ドシンドシンと大地が揺れた。
「おっと、忘れてた」
俺は本来の姿から人へと形を変える。
「この街道、案外整備されてるな」
馬車四台並んでもすれ違うことができそうな幅だった。
街の方角に向けて歩くこと三十分。前方から何かが土煙を上げて向かってきた。俺は街道の脇へと避けることにした。
「餓鬼が邪魔だ! どけどけー!」
「ひゃっはー! 一番槍は俺のものだぜー!」
「あれを倒せば、俺もSランクの仲間入りだぜ!」
「金、女、酒、肉ぅううう!」
どうやら冒険者のようだ。先頭の連中はまっさきに死ぬタイプだな。その後も数十人の冒険者たちが通り過ぎていった。
「ふむ、それなりに強い奴らもいるもんだな」
すれ違った冒険者の集団。そのうちごく少数だがこちらに顔を向けていた。油断ならない視線だった。強者は見た目には惑わされない。強者は強者を知るのだ。もしくは生存本能が警鐘を鳴らしていたのかもしれない。あ、もちろん向こうのね。ギルドランクがロージェン世界と同じだとするとおそらくあれはAランク以上だろう。
俺はいま第三世界メルカドにいる。転生したわけではなく第二世界の出で立ちだ。
「ほんとあいつは糞執事だよな」
眷属がいれば転生しなくても次の世界に渡れたのだ。ゼロ歳児からやり直すのは必須ではないのだ。当たり前だが、時間的にも精神的にもこの方が全然楽だ。
ただし制約もある。まず、レベルが半減する。これも結構痛い。だが、これよりも大きな制約がある。それは例え魔物を倒したとしてもステータスのレベルが上がらないのだ。なので半減したレベルでも移動した世界で上げればいいじゃないか、という考えは通用しない。ちなみにスキルレベルは上がるらしい。
「それでも激しい戦闘がなければこっちで十分だけどな」
コールマンへの恨みを募らせながら小一時間ほど歩くと街の城壁が見えて来た。なんか街道を歩く人が凄く増えて来たな。
因みにこっちの世界で過ごすとドデルヘン世界でも同時に時間が進む。困るのは授業に出れないことだった。当然のことながらそれでは単位を落としてしまう。
しかし、それはナノルーフが何とかしてくれるらしい。長い事生きているだけあって伝手が多いのだ。学園長とも知り合いのようだった。あいつのオシメ替えた事あるんだよなーとか言ってたし。
講義を一つもってやってもいい。ナノルーフはそう言っただけだ。学園長二つ返事だった。カイト君の六年生までの単位は全て修得済ですと。おいおい、そんなズルを他の教官が許すはずがないだろうと言ったら、文句があるなら僻地の演習場にでも飛ばすだけですときたもんだ。ほんと大人って黒いよね。みんなは清く正しく生きようね。ま、俺はこの件についてまったく異論を唱えなかったけどね。なんで? だって俺はもう齢三十を超えたいい大人だもん。喫煙者の肺なみの黒さだよ。
公爵の領地関係の雑務も全てナノルーフに振っておいた。まあ、あれは代官を立てるようだからそれほど手間はかからないだろう。
あと、パドたちの訓練も依頼しておいた。最高の武具を作るのにそれを扱えないのは無能な鍛冶師だ。そんな信念のもとナノルーフは全ての武具の扱いをマスターしているらしい。スキルレベルは全て超級以上という化け物だ。しかも魔法までいけやがる。まあ、半ば神だしな。
「と、いうことで安心してこの街に入ることができるんだよ」
「は? お前なにいってるんだ」
門番が可哀想な子供を見る目になっていた。
「ほい、銀貨一枚」
「ふむ、犯罪歴もなさそうだな。入っていいぞ」
「ところでこの街の名前は?」
「お前、そんなことも知らずにここに来たのか。ここは商業都市ロンセトだ」
「商業都市?」
「ああ、この街はこの国で、いやこの世界で最も栄えているといっても過言ではないぞ」
それは大げさだろ。そう思ったが口にはせずに、礼を述べて門を潜り抜けた。
「ほう、確かにこれは凄いかも」
門から直線状に伸びる大通り。幅は三十メートルはありそうだ。通常であればこれだけの広さなので歩行者は疎らなはずだ。しかし、大通りは人で犇めき合っていた。人といっても人型なだけだけどな。その頭部は哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類、昆虫など様々だ。これこそ人種のるつぼだな。
通りの両脇に並ぶのは多彩な色使いの石づくりの建物。通りの中央にも木製の簡素な作りの屋台がひしめいていた。どれもこれも商店のようだ。そして大通りの遥か先には巨大な建造物が見えた。天辺は金色のドーム状で王宮のように思える。
俺は人にもみくちゃにされながら前に進む。大通りから垂直に枝分かれする通りにも商店が立ち並んでいた。街全体が喧噪に包まれている。まさに商業都市という感じだ。
宿に泊まるにしろ、飯を食うにしろ、とにかく金が入用だ。俺はまず冒険者ギルドを探すことにした。
そして、二時間が経過した。
「ぜんぜん見当たらねえ……」
王宮が目前に聳える中央広場と、門までの間を何往復もしてしまった。しかし、それらしい建物は一切見当たらない。ドワーフの街と同じように実は寂れてましたというオチも想定して一軒一軒しらみ潰しにチェックしたんだよ。もしかして城の逆側なのか?
「なあ、爺さん。この街に冒険者ギルドってあるか?」
魔道具を売る小さな屋台。店主が暇そうにしているので訊いてみた。年配であれば昔はあったけど今は……。みたいなこともわかるかもしれない。
「お前さんは何を言っておるのじゃ? あれが見えないのかな?」
爺さんが指さす方向にはそれらしい建物は見えない。
「いや、あんたが何を指しているのかさっぱりだ」
「もしかして目が相当悪いのかね? ここにいい魔道具の眼鏡があるのじゃが買ってみてはどうじゃろうか」
なにさらっと商品を売りつけようとしてやがる。そもそもここは試して納得したら買ってはどうじゃ? という親切な売り方をしてもらいたいところだ。
「いや視力には自信があるんだけど……。俺には王宮しか見えないぞ」
「ほ? だからさっきから何をいっておるのじゃ? この街にはそもそも王なぞいないのじゃが」
「え? じゃあ、あの馬鹿でかい建造物は?」
「だから言っておるじゃろ、ギルドだと」
「ええええ!? どうみてもデカすぎるだろ!」
「ここは商業都市ロンセトじゃ。あれ位の大きさは必要じゃぞ。ちなみに、あそこには全てのギルドが入っておる」
「ああ、冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルドとかか?」
「そんな漠然とした括りはないぞ。ギルドには、卸・小売業、工業、鉱業、林業、漁業、製造業、建設業、金融、医療、運輸、魔法、傭兵、諜報、盗賊、暗殺……。はて、あと何じゃったか。歳とともに耄碌してかなわんのぉ」
いやいやいや、十分すぎる記憶力だろ。それより何だよそのギルドの数は。細分化し過ぎだろ。あの馬鹿デカい建造物にも妙に納得してしまった。それより……。
「なんで闇ギルドまで平然と同居しているんだよ!」
「それこそが、ここロンセトがロンセトたる所以じゃ。この街には有名な格言があるのじゃ」
「それは、みんな仲良くとか? いや、相互不干渉かな?」
「『金こそ正義』じゃな」
酷え街だなオイ。
「まあいい、兎に角ギルドがどこにあるかわかって助かった」
「いやいや見知らぬ旅人には親切に、これもこの街のモットーみたいなものじゃ」
おお、それはいいじゃないか。店主が笑顔で右手を差し出してきた。
「爺さん、ありがとうな」
俺は固く握手を交わす。海外の握手文化って憧れだったんだよな。
「お主は何をしておる? 気持ち悪いからその手を離せ」
「え? い、いや悪かったな……」
別に俺の手は汚れてなかったと思うんだが。
「ほれ、ほれほれ」
「ん、だったらその差し出す手はなんだ?」
「決まっておるだろうに。金じゃ金」
「ええええ!? こんなんで金とんの!?」
「当たり前じゃろ! 大なり小なり情報は全て金だ」
「なんてがめつい街なんだ……」
銀貨一枚を握らせると笑顔でギルドの紹介状まで渡して来たよ。でも、小売業のギルドのなんていらねーし!
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