異世界のネコ科ってどこからどこまでですか?

化茶ぬき

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リバーエッジ

第二十一話 救い

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 戻ってきたアヤメは、真っ直ぐにジュウゴを追っていこうとしたが二人目は行かせない。何よりも、未だに心の奥底に沈んでいる高純度且つ大量の怒りを発散できる良いチャンスだ。

「本陣が上がってくるまでこの場でデーモンたちを倒すんだ」

「ですが、ジュウゴを一人で行かせるわけにはいきませんわ!」

「あいつが本気で戦う時、俺たちは邪魔になる。わかるだろ?」

「それは――わかります。では、冷静に……向かってくる奴らを皆殺しにするとしましょう」

「三分だ。持ち堪えるぞ」

 レオ率いる本陣がやってくるまで約三分、俺たち――二人と二匹で、向かってくる五百体のデーモンを蹂躙する。

 アヤメは重力波でデーモンを吹き飛ばし、白虎は爪と牙で斬り裂き噛み砕く。ペロは素早い動きで電撃の纏った剣を振りデーモンの体を焦がしていく。俺はいえば、撓らせ捻りを加えた破竹でデーモンの上半身と下半身を分ける。

 強度が高く、普通の竹のようにすぐに壊れることがなければ好き勝手に振るうことができる。条件さえ揃えば古びた武術でも戦えるってことをじいちゃんに教えたいところだな。

「――待たせたな!」

 やってきたレオは馬から飛び降り、大剣でデーモンを真っ二つに斬り裂いた。後方に視線を向ければやってきた師団員たちが力を発動させ始めていた。

「レオ、ここは任せていいか?」

「ああ、構わん! 一人足りないようだがどこに行った!?」

「先行している。俺たちは――人間を救う」

 言いながら破竹を籠手へと戻した。

「わかった。この場は死守しよう!」

「アヤメ! 付いて来い!」

 白虎とペロは呼ばずとも付いてくるはずだ。

 ずっと気配を感じている。ウッドビーズのときと同じような呼び寄せてくる気配だ。つまり、そこに精霊の巫女がいる。そして、捕らわれている人間も。

「ペロ、感じるか?」

「当然である。しかし――何かがおかしい」

 気配は感じるが明確な場所がわからない。デーモンたちと交戦中というのもあると思うが、それにしたって白虎もペロも、俺にも位置が特定できないのはおかしい。

「人間を殺せぇええ!」

 向かってくるデーモンを倒して進んでいくと、最も気配を感じる倉庫の前に辿り着いた。

「姫!」

 倉庫の中へ駆けこんでいくペロに続いて中に入るが、そこにはデーモンたちが待ち構えていた。デーモンだけが、そこにいる。

 ……面倒だ。

 襲ってくるデーモンたちを蹴り飛ばし、ペロを掴んで外に飛び出した。

「アヤメ! 倉庫ごと吹き飛ばせ!」

 そう言うと、アヤメは手の中に作り上げた重力球を投げ――倉庫はデーモンたちが入ったまま吹き飛んでいった。

 倉庫の中に人はいなかった。はずなのだが、未だにこの場所から気配を感じている。どういうことだ?

 疑問符を浮かべていると、白虎は地面に向かって吠え、ペロは地面に耳を付けた。

「マタタビ殿! おそらく下である!」

「下? 少し離れてろ。黒豹流武術・竹林根切!」

 飛び上がらず振り上げた足で地面を揺らせば、土が舞い上がり反動が返ってきた。

「アヤメ、この辺りの地面を持ち上げろ」

「わかりましたわ」

 杖を地面に突き立てると、両手で持ち上げるように腕を上げていくと地面の中から倉庫の二倍はある大きさの箱が浮き上がってきた。それを地面の上に下ろすと、ペロが真っ先に壁を斬り裂いて中に入っていった。

「姫! 巫女のミコ様!」

 後に続いて中に入ったが、明かりが無くて様子が窺えない。ならば、と壁を蹴り飛ばして穴を開ければ、ようやく見えた。老若男女、捕らわれていた人々が歓喜の声を上げている。

 外に出て、レオ達のいる本陣に向かって駆けていく姿を眺めつつアヤメの下へと足を進めた。

「どうだ? あれはお前が救ったんだ」

「いえ、私は何も……」

「何も? よく見て、よく感じろよ。俺たちは喜ぶ気持ちまで失っているわけじゃない」

「そう……ですわね」

 微かにだが、ようやく笑顔を見せたアヤメの肩を叩いて向こうからやってくるデーモンたちに落ちていた槍を手に取り、放り投げた。うん、シンプルな槍投げだが、籠手のおかげか魔力が上乗せされてそれなりの威力を出している。

「マタタビ殿! 姫が――姫がいないのである」

「そうか。つまり、俺たちは残り香的な気配を追ってきていた、と」

 むしろ、そうなるよう仕組まれていたと考えるべきだろう。巫女のミコとやらは随分と自分を犠牲にするのが上手いようだ。とはいえ、この場にいないことは想定の範疇を出ない。

「この場にいないのであれば……吾輩はここまでであるな」

「いや、念のため他の場所は変わらず捜索してくれ。俺は当初の予定通りに動く」

 精霊の巫女がデーモンたちにとっても重要であるのなら、人間たちとひとまとめにしておくか、もしくは最も強い者の下に置くはずだ。つまり、すでにジュウゴが向かった山のほうにいる可能性が高い。

「マタタビ様、無事ですか?」

 準備運動をしていると、後ろからツヴァイがやってきた。

「ああ、見ての通りだ。そっちは?」

「こちらも大丈夫です。ジュウゴ様はどちらに?」

「北西の山だ。強い奴と戦いたいってな。先行している」

「それは――」

 困惑するように口を噤んで隣にいたアインと顔を見合わせたツヴァイは、アヤメと共にやってきたドライと耳元で会話を交わすと驚いたように目を見開いた。

「なんだ?」

「マタタビ様、アヤメ様。落ち着いて聞いてください。ジュウゴ様が向かった前か後かは定かではありませんが――リバーエッジの山の制圧に向かった師団は全滅しました」

「そのせいで本来なら街の周辺を固めるはずの私たちがここまで出てきたのです」

「私たちの力ならば、それが可能なので」

 さすがは三つ子。息の合った台詞回しだ。

「あの男がそう簡単に殺されるとは思えませんわ」

「同感だ。今もまだ交戦中だと考えるべきだが……お前らの力ってなんだ? 今更だが」

 問い掛ければツヴァイは剣を抜いて、その刃をこちらに向けてきた。すると、服の下から伸びてきた植物の蔓が剣を包み、ランスのように先を尖らせた。

「私たちは植物を操れます。その力を使って土壁の強化や、罠などと仕掛けられるのです」

「植物か……その力で山までの道を造ることは出来るか?」

「山まで、ですか」

 そう言うと、三つ子は相談するように顔を寄せ合った。

 この場はすでにレオ達が掌握しているが、向こうから攻めてくるデーモンたちがいつ簡易的な境界を越えてくるかはわからない。あまり悠長にしてはいられない。

「アヤメ、俺は今からジュウゴの下に向かうつもりだが、一緒に来るか?」

「あら、助太刀は要らないと言ったのはマタタビでなくて?」

「だな。だから、別にジュウゴの助力に向かうわけじゃない。ペロのため、巫女の姫を救いに行くんだ」

「なるほど。でしたら、私も行きますわ。ペロちゃんのために。ジュウゴはおまけですわ」

 こちらの意志は固まった。あとは三つ子だけだ。視線を向ければ気が付いたように居直り、代表してアインが一歩前に出てきた。

「デーモン共を避けるように橋を架けることは可能です。ですが、おそらく途中までです。それにものの数分で崩れると思いますが、それでも宜しければ」

「それでいい。早速頼む。白虎!」

 倒れたデーモンに止めを刺している白虎を呼び寄せて、その背に跳び乗った。

「マタタビ殿! 姫をよろしくお願い致す」

「ああ、任せておけ。アヤメ、わかっているな?」

「ええ、わかっていますわ」

 本来ならば飛んでいけるアヤメだが、師団が全滅したという情報があるわけだからこれ以上の単独を許すわけにはいかない。それを理解しているのか、体を浮かしてはいるが足並みを揃えるつもりはあるらしい。

「では――」

「〝行きます!〟」

 三つ子が声を合わせて剣を地面に突き立てると、生えてきた植物がうねるように混ざり合い白虎が通れる幅の橋を形成していった。

「お急ぎください!」

 ドライの声に、白虎は橋を駆け出した。

「お気を付けて!」

 ツヴァイの声に軽く手を振り上げた。空を飛んで付いてくるアヤメは手の中に作った重力の球をデーモンの軍団に落としていく。

 おそらく師団は最悪の展開を想像しているだろう。最悪とは――救世主である俺たちが、もしくは俺たちの誰かが死ぬことだ。だが、今のところジュウゴが死んでいる可能性はゼロだ。

 俺だから、わかることがある。向かう山の頂上付近に、今もぶつかり合う大きな気配が二つある。それも明らかな殺気を放っている。

「……ん?」

 そこで漸く気が付いた。一つが強いデーモンのものだとすれば、仮に巫女の姫が一緒だとして気配があっても気が付けるはずが無い。そう考えると、他に気配を感じられないことも納得がいく。

 まず間違いなく――あそこに精霊の巫女がいるはずだ。
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