異世界就職活動!~戦い以外でお願いします~

化茶ぬき

文字の大きさ
17 / 26
転職・アクセサリー職人

第十七話 飽き性

しおりを挟む
 サンジュウシが試しにと作ったアクセサリー百個は飛ぶように売れた。

 鑑定所の老人に売った三個を除いた九十七個のうち魔力的付与がされていたのは三十二個――通称・魔アクセサリーはその出来や付与されている力によって変わるが凡そ普通のアクセサリーの五倍の値で売れる。

 素材のまま売るよりもアクセサリーに加工したほうが高く売れ、それに加えてサンジュウシの背嚢には自らも覚えていないほどの量の鉱石類を所持しているおかげで仕入れ値が掛からずに稼ぐことができる。

 加工場は変わらず店仕舞いした後のゴウジュの加工屋を使い、どこで販売するのかを考えた時に最も効率が良いのは――『龍のうろこ』ではないかと判断し、店主に訊けば店の一角を貸し出してもらうことになり、結果的に宿泊客や酒場にくる客、果ては噂を聞いたハンターなどが訪れて用意していた百個は二週間で完売した。

 昼間は『龍のうろこ』の一角でアクセサリーを売り、夜になれば売れた分を補充するようにアクセサリー作りに勤しむサンジュウシだったが、作業台の前で溜め息を吐いていた。

「はぁ……売れるのはいいが……さすが飽きてきたな」

 結局のところ、サンジュウシはアクセサリー作りや物作りが好きで職人になったわけではない。それに加えて、基本的には同じ物を同じ工程で作る作業は感覚を麻痺させていく。ゲームをプレイするのと違って、目に見えて何かが変化しているのが見えない現状にサンジュウシが耐えられなくなるのも然も有りなん、だ。

「魔アクセはそれなりに良い値段で売れているが、それでも稼いだのは三百万に届かない……まぁ元の物価が安いから稼いでいるほうだとは思うが……どうにもな」

 言いながらもサンジュウシの手は鉱石を加工していく。慣れてきたが故の退屈を覚えてきたわけだが、今の仕事の良さも理解しているから捨て難い。

 何よりも手持ちの鉱石や素材で作れているからダンジョンに出てモンスターと戦う必要が無い。加えて売り場は『龍のうろこ』だ。人も多いし、味方してくれる者も多いから揉め事も起きない。

 だからこそ今のアクセサリー職人という仕事はサンジュウシの願いと合致している気もするが――性格には合っていない。

「あ~、くそ。ダメだ。つまらねぇ」

 そもそもがゲーム気質なせいもあってか、地道なレベル上げのような作業には慣れているものの、ブラックブリード・エンパイアの世界には個人のレベルが存在していない。だからこそ、金を稼いでいたときも弱いモンスターや同じモンスターを何度も倒していたが、毎回それなりにゲーム的な意味で命懸けだった。

 痛いことは嫌だ。けれど、ドキドキしないゲームはつまらない。

 そんな矛盾する二つの感情を抱くサンジュウシは、つい手に力が入って形を整えていた鉱石を割ってしまった。

「……もうやめだ! やめ!」叫んだ瞬間に、背後で物音がしてハンマーを握り締めて振り返った。「――誰だっ!?」

 そこにはビクッと体を震わせたイミルがいた。

「『龍のうろこ』に行ったら、ここだって聞いたから」

「イミル……そうか。そういえばキャニオンビレッジの復興が終わったら来るって言っていたな」持っていたハンマーを置いたサンジュウシは思い出したように息を吐いた。「久し振り」

「はい。お久し振りです」

「ん? 敬語だったっけか? 別に溜め口で構わないぞ」そう言って作業台に向かうと背嚢から新しい鉱石を取り出して作業を再開した。「それで、キャニオンビレッジのほうはもういいのか?」

「うん。もうアルビノ鉱石も出荷できるようになったし、サンジュウシさんから貰ったドラゴンの牙でサンドドラゴンも使役できるようになったから心配ないと思う」

「そうか。随分と――」随分と久し振りに会ったが流暢に喋れるようになったな、と言おうと思ったサンジュウシだったが止めた。「いや……それなら良かった」

 作業している姿を覗き込んだイミルは不思議そうに首を傾げた。

「サンジュウシさんはアクセサリー職人になったって聞いたけど、もう辞めるの?」

「辞めようかとは思ってる。どうにも性に合わなくてな」

「そっか……今度は何をするの?」

「ん~、何がいいか……とりあえず変化のある仕事のほうが性に合ってる感じ、か?」

 自問。

 考えながらも鉱石の形を整えていくサンジュウシは背後に近付いてくる気配に気が付きながらも振り向くことはしなかった。

 作業をしているところに抱き付くのは危ないと思ったのか、イミルはサンジュウシの座っている椅子に対して背中を預けるように床に腰を下ろした。

「次は、イミルも一緒に働きたい」

「一緒にか……だとすると限られてくるな」拒否する気もないサンジュウシだったが、気が付いたように手を止めた。「なぁ、イミル。お前、今日来たんだよな? どこに泊まるんだ?」

「え、一緒の部屋」

 一切の疑問を持ち合わせていないような言い方だった。

 まぁそうだろうな、という感情を乗せて溜め息を吐き出したサンジュウシは静かに肩を落とした。

「一緒の部屋か」問題は『龍のうろこ』のシステム上、一人部屋に二人が泊まるのはその分だけ金額が上乗せされるのだ。「一緒に働く……宿泊代……稼げる額は……プラマイを考えるとなぁ……あぁ、そうか」

 作業の手を止めることなく頭の中で計算を繰り返したサンジュウシは、ある一つの答えに辿り着いた。

「イミル。お前、手先は器用なほうか?」

「まぁ……それなりに?」

「力仕事は?」

「これでもAランクハンターだよ」

「あぁ、それも気になっていたんだが、俺と一緒に居るってことはハンターの仕事とは離れるってことになるが……良いのか?」

 その問いに対してイミルはよくわからないように首を傾げて眉間に皺を寄せた。

「別に良い。今のイミルにとってはハンターとして依頼を熟すよりも、サンジュウシさんと一緒にいることのほうが大事な気がするから」

 おそらくはこれまでのイミルを知っている者が、今のイミルの姿を見れば驚くことだろう。人見知りで、多少距離が近付いて、流暢に話せるようになっても基本的には心を開かないイミルが――サンジュウシを相手には自らの感情をさらけ出している。

 たぶん、本人ですら無自覚だろうが、初めてサンジュウシを見た時から後を追いかけているのだ。それだけ人に執着することも興味を持つことも初めてのことだ。有り体に言ってしまえば――一目惚れ。

 それが恋なのか尊敬なのかは、まだ誰も知らない。

「そうか。まぁ、あくまでも意志の確認だ」話している間にペンダントトップを作り終えたサンジュウシはハンマーを置いた。「次にやることが決まった」

「次? なに?」

「家を買う。もしくは建てる。だから、もしも建てることになったら次の仕事は大工だな」

 つまり、二人分の宿泊代を払いつつ金を稼ぐよりも、一括で家を買うか家を建てた上で金を稼ぐほうが先の見通し的には出費を抑えられるという結論に到ったのだ。

 元々のゲームシステムとしては家の購入などは存在していなかったわけだが、クロムシティの街中には売り家がある。

 ということは結論――家は買えるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...