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6章:東の森を越えて行け
2話:迫る脅威
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翌日は早めに隠れ家を出て、更に奥へと向かった。日差しが差した雪原は薄く輝いていて、「綺麗だね」とクリフは微笑んでいた。
行った事のない奥はもっと木々が鬱蒼としている。地表は雪に覆われ木の凹凸はないものの、やはり雪は深く足を取られる。体重の重いドゥーガルドはその分沈み込むから歩きづらく、最後尾をついてくる狼に鼻先で押されていた。
逆に身の軽いラウルやチェルルは軽やかに狼の隣を歩いている。ハリーも慣れたようで先頭集団だ。
「それにしても、本当に特徴がないな。方向が分からない」
周囲を見回すゼロスがそんな事を言い、ボリスも「わかる」と頷いている。
だがランバートとチェスターは顔を見合わせ、辺りを見回して指を指した。
「間違いなくこっちが東だよな?」
「うん。昨日泊まった場所からやや北に寄ってきてるかもだけど、東に進んでる」
「……どうして分かるんだ?」
コンラッドが困惑顔で言ってくるが、こればかりは訓練の賜だろうか。
「第二は斥候と潜入もあるだろ。そんな任務中に迷子でしくじったら目も当てられない」
「そーいうこと。俺等、方向感覚と地形の特徴を覚える事はもの凄く訓練されるんだ。地図の作成なんかもするかな」
「第二、凄いんだね……」
ボリスの呟きに、第一師団がもの凄い勢いで頷いた。
「そう言えば以前にも、お前等詳細な地図作ってたな」
「あれには驚きました」
「俺達からすると、この森を地図もなしに行き来できるお二人が疑問でなりませんけれどね」
ランバートは苦笑する。フェレスもリスクスもまったく迷う様子がない。今自分がどこにいて、どこに向かっているのかが明確な感じがする。
フェレスの方は首を傾げ辺りを見回す。そしてさも当然と、とんでもない事を口にした。
「木の一つをとっても同じのはねぇ。並びや枝のつきかたが違う」
「……えぇ?」
つまり彼らは森の木々を全て頭に入れているとでも言いたいのか。コレがもし本当なら、彼らこそ超人だろう。
一行は途中休みながらも五時間ほど森を進んだ。これでもまだ三分の一程度らしい。
体重のあるドゥーガルドを筆頭に、ゼロスもやボリスも多少足が怠くなっている。そして荷物の重いクリフの体力がかなり危なくなってきた。
その時、突如リスクスが立ち止まり周囲を見回す。耳を澄ますようにした彼は厳しい表情でフェレスを見た。
「雪が降ります」
「え?」
驚いてランバートは空を見回す。空には雲はなく、今は雪も降っていない。ラウルやチェルルも不思議そうに空を見回している。
「どのくらいで降りそうだ?」
「一時間程度で降り始めるでしょう」
「時間ないな。目的のアジトまでは行けそうにない」
フェレスはこの、何の前触れもない言葉を信じているらしく焦ったように考えている。だが他にはその感覚が伝わらない。雪国育ちのハリーでさえ、まだその気配を感じ取っていないようだ。
「あの、どうして雪が降ると?」
「あぁ、森の精霊が騒ぐのですよ」
「森の、精霊?」
全員が顔を見合わせるが、特に奇妙ではない。リスクスもまたエルなのだ。
「私は森の精霊の声を拾います。セヴェルスに比べれば弱いものですが」
「その精霊が、雪が降ると?」
「えぇ。凍えるように冷える。雪の精霊が混じりだしたと」
感じられはしないが否定する事はできない。これまでにもエルの不思議な力を目の当たりにしているのだから。
「ちょっと心許ないが、緊急避難場所に移動する。この人数でも何とか入れるだろう。それでも移動距離はギリだ」
視線が微妙にドゥーガルドとクリフに注がれる。この二人がとにかくついてこられるか心配があるのだ。
「クリフの荷物は俺が持つ」
「ドゥーは気合で頑張れ」
ランバートがクリフの背から大きな荷物を受け取る。どっしりとした箱形の荷物には多くの医療道具が入っている。小柄なクリフはこれを背負って雪の中を進んでいたのだ。
「そこのチビはマケの背中に乗れ」
「え!! でも、大丈夫……かな?」
フェレスの言葉に反応したマケがクリフの横につく。そしてジッと見上げてきた。
「お前は軽そうだから平気だろう。案外馬力があるもんだ。首しまんないように抱きついてくれよ」
「うっ、うん……」
そろそろっとクリフがマケの背中にしがみつくように乗る。それでも体の大きなマケは重そうではない。クリフが軽く、マケが大きいのだ。
「そっちの熊みたいのは……」
「ドゥーガルドです……」
「あぁ、まぁ、お前な。とにかく頑張れ。ソルを隣りにつける。はぐれても合流できるからな」
「おっ、おう……」
はぐれるの前提なのだろうか。
「他はとにかくついてこい。雪が降り始めると視界が悪くなる。その前に穴まで到着するぞ!」
全員が頷き、フェレスについて走り始める。身の軽いラウルとチェルル、ハリーが先頭を走り、ランバートとレイバンが続く。その横を疾走するマケがクリフを乗せて走っていった。
ボリス、チェスター、コンラッド、ゼロスもやや後方をついてくる。引き離されてはいない。
そして心配なドゥーガルドはなんと、ソルが後ろから牙を剥いて唸り、追い立てるともの凄い速さで走り始めた。付き従うよりも本能的な恐怖を煽る事にしたらしい。
ちらちらと細かな雪が降り始めて十分程度、全員がはぐれる事なく目的の避難場所へと辿り着く事ができた。
「もっ、もう動けねぇ……」
天然の洞窟の中に入り込んだドゥーガルドが膝をついて息を荒くしている。だが入口付近ではソルがヘッヘッと舌を出してフェレスに「褒めて」と言いたげな顔をしている。実際、フェレスはソルの頭をよしよしと撫でていた。
「君も有り難う、重かったよね」
クリフを背負っていたマケに抱きつき、クリフはとても優しくもふもふの毛を撫でている。マケも慣れたようにさせたいように撫でられ、気持ちがいいのか凜々しい瞳をスッと細めて舌でべろりと頬を舐めた。
「ひやぁ! 擽った」
「子供扱いしてんな、マケ」
笑ったフェレスがそんな事を言うから、クリフは顔を真っ赤にしてしまった。
洞窟は昨夜泊まった場所に比べると荒削りだった。扉もない。通路のようなゴツゴツした地面は一本道で、この人数が身を寄せ合えばどうにかという大きさだ。
「ここは何用なんだい?」
見回したコンラッドの問いかけに、リスクスは苦笑した。
「緊急避難用です。狩りに出て、今回の様に突然降られてしまった時に一時避難が出来るように」
「この森にはこんな場所がいくつかあるんだ」
「ただ、見ての通り狭いですし、扉もありません。天候が回復するまでをやり過ごす程度で、長く留まれる場所ではありませんよ」
確かに昨日の場所に比べると寒い。煮炊きをする場所もこの人数では確保できないだろう。
だが逆に暖は取りやすい。全員が毛布ですっぽりと体を覆い、身を寄せ合えば一晩くらいはどうにかなりそうだ。
「各自、今日は携帯食だな」
その言葉に全員、ちょっとがっかりした顔をした。
外が暗くなっても雪が止む様子はない。それどころか強くなってきている。最初は幻想的に見えた粉雪も今では風に煽られて斜め上から吹き付けるように降っている。
洞窟の入口は風の方向が違うからか中に雪が吹き込む事はない。けれど冷たくなる空気は遮られる事なく中へと入り込んでくる。
「寒い……」
思わず呟いた声に、誰もが頷いた。
「もう少しくっついた方がいいだろうな。この人数なら暖は取れる」
一番入口に近い場所にいるフェレスが苦々しい様子で言い、全員がそれに従うように身を寄せあった。
「ドゥー、股開いて」
「はぁ?」
ちょこんとドゥーガルドの前に移動してきたレイバンが、当然のように卑猥極まりない事を言い始めて洞窟の中は久しぶりにざわめく。特に免疫のないフェレスはこれだけでもの凄い顔をしていた。
「だから、股開けっての」
「だからなんでだよ!!」
真っ赤になったドゥーガルドなど気にした様子もなく、レイバンはグイグイと足の間に自分の体を押し込んでいく。三角座りの股の間にすっぽりと体を入れたレイバンは、そのまま自分の毛布を引き寄せて体を密着させると、ようやく息を吐いた。
「やっぱお前、温かい。体温高くてちょうどいい」
「俺は暖房か!」
「うん」
「……」
赤くなっていたドゥーガルドは途端に脱力して、仕方なくレイバンを抱き寄せていた。
「いーなー、俺も!」
「こら、ハリー!!」
これを見ていたハリーが、今度はコンラッドの体にピッタリと抱きついてぬくぬくし始める。ここは完全にイチャコラだ。
「いいじゃん、抱き合って温まるのも」
「いや、だって他の奴も……」
「俺、見られてても全然いいけど?」
「良くない!!」
ハリーの手が何か怪しい動きをして、コンラッドが真っ赤になりながらブルッと震える。それだけで周囲は何が起こったのかを察し、苦笑と苦情の嵐となった。
こうなるとくっついて寝るのが温かく、またスペースも広いとなってそれぞれソワソワしている。ひっつくのは恥ずかしいが、寒さは耐えがたい。そんな感じだった。
「ラウル先輩、よければ俺の所にどうぞ」
「え?」
震えながら体を小さくしたラウルに手を伸ばしたゼロスが真っ直ぐに言う。その後には苦笑だった。
「過保護なあの人も、流石に貴方となんて疑わないので俺も助かります。あの人、こういうのバレると何かと面倒なので」
「クラウル様って、そんなに狭量かな?」
「事がこうした方面だと本当に面倒です。束縛しないと言いながら、案外嫉妬深いので」
「なんか、上官の聞いちゃいけない一面を聞いた気がする……。でも、僕も助かるよ」
モゾモゾと動きながら、ゼロスがラウルを抱える。少し寒そうだったラウルも落ち着くのか、ほっとしたのがすぐに分かった。
その側では所在なく、より端の方で丸くなるチェルルが見えた。彼だけは誰かを頼るあてがないようで、必死に自分を抱いている。それでも寒いのだろう。体が細かく震えていた。
「チェルル、おいでよ」
ランバートが声をかけて手を差し伸べると、驚いた黒い瞳が見上げてくる。声がかかったことが意外、そんな様子だった。
「でも……」
「俺の過保護キングも何かと煩いけれど、お前とは疑わないさ」
「本当かな? 俺、正直軍神さんは怖いんだけど。流石にかなわないよ」
「大丈夫だって。それに、他は知ったらとばっちりいきそう」
言えば全員が苦笑している。ラウル以外は騎兵府だ。これがしれたら訓練の上乗せくらいの嫉妬はきそうな気がする。
チェルルは苦笑して、ランバートの隣りに腰を下ろす。肩を組むようにして引き寄せた中、彼はふっと息を吐いて自然な笑みを見せた。
随分と人懐っこい性格だったのだと最近になって思う。ジェームダルの面々は深く知れば知るほど、当初の印象が薄れる。チェルルは特にそうだ。猫のように普段は好きにしているのに、ふとした時に甘えるように気を緩める。
うん、兄はこれに落ちたんだろうな。体験して納得した。
そんな人達の奥ではクリフが寂しそうにしている。小さくなっているとその右側からボリスが、左からチェスターがきてがっしりと肩を組み、三人でクリフを挟み抱き合う形になった。
「うわぁぁ!」
「クリフ可愛い。小柄なのっていいよね」
ボリスが嬉しそうに言う言葉に、クリフは顔を真っ赤にしている。
「正直ボリスと抱き合うのはごめんだけど、間がクリフなら抵抗ないな」
「俺だって、チェスターと抱き合うなんてやーだね。可愛くないし、抜け駆けするし」
「まだそれ言うのかよ、ボリス」
チェスターとボリスの言い合いに、クリフはあたふたしている。けれどそんなのかまいはしない。二人の会話は更に下世話な方へと向かっていった。
「仲間だと思ってたのに、知らない間に恋人作りやがって。しかもリカルドさんなんて美人掴まえて! リア充死ね!」
「ひがむなよボリス。第一、全員敵に回すぞ」
ボリス以外の全員が恋人持ちだった。
「俺だけじゃないもん! チェルルだって!」
「え……」
「え?」
突然名前のあがったチェルルがキョトンとしながらボリスを見る。なんとも言えない緊張感と沈黙の中、チェルルはカッと顔を赤くした。
「……いるの?」
「恋人じゃ……ないけど。飼い主はできたと、思う」
「「…………」」
一瞬、外の寒さを忘れる冷気が場を凍らせた。
「恋人通り越して卑猥だ!!」
「ボリス落ち着け!」
「何だよ皆、まだ冬だってのに春先取りしてんじゃねーよ!」
「あーぁ」
寂しいボリスの雄叫びに、全員が笑ったり茶化したりだ。恋バナになると大概、こんな感じで幕が引かれる。
「あの、ボリスはどんな人が好みなんですか?」
「え?」
ボリスとチェスターの間に挟まれていたクリフが、おずおずと問いかけてくる。これには全員が頷いた。今までボリスの好みを聞いたことがなかった。
「……リアクションがよくて、丈夫で、ちょっと小生意気な人?」
「え、なにその面倒臭い感じ」
レイバンが呆れ顔で言う。これには全員が頷いた。
だが当のボリスはいたって真面目だ。ごく当然の顔で言い切った。
「そういう奴を苛めるのがいいじゃん。小生意気な事言っても、最後には俺に泣いて詫びる感じが。リアクションないと寂しいし。こっちの行動に最低五つくらいは反応してほしい」
「サディスト!」
ほぼ全員が、このどうしようもない好みに反論だ。
「あの、トレヴァーって、そのタイプじゃ……」
控えめなクリフの言葉に、また場の空気が凍り付く。ボリスでさえ凍った。
「……ない」
「ないな」
「それは想像つかないな」
全員が頷く。そしてボリスが一番嫌な顔をした。
「あいつはそんな相手には絶対に見られない。確かにいいリアクションするし、からかうけれど恋人はない。友人としては楽しい」
「しかもトレヴァーって、そういうの全くないじゃん。仕事一筋って感じだし」
「でかいんだよ、あいつ。色気ゼロ! 出されても困るけれどさ」
何故か全員がこれには納得で頷けた。
「そういえば、トビーも噂聞かないね」
「あれ、ナルシストだから」
「そうなの!」
「そうなの。自分に酔える性格だから」
クリフは目をまん丸にしている。それが少し面白い。
「クリフはピアースと順調? もう、一年くらいだよね?」
「うん。同じ部屋だし、同郷だし、色々話もする。とても楽しいよ」
「清い仲なんだよな、この二人は」
チェスターが驚くように言うが、それは全員がそうだった。思わぬ視線を集めたクリフが焦ってしまう。
「何もないの!」
「あの、キスくらいは……」
「濃厚なの?」
「そんなんじゃないよ! 寝る前に、ほっぺとか……」
「なに!! そんなんでいいのか!」
ドゥーガルドでさえもこれには反応している。クリフの顔は真っ赤で、茹だった様になっている。
「あの、体の関係とかはその……タイミングとか、気持ちとかもあるからって」
「まぁ、そうだけど……クリフは欲しいと思わないの?」
「まだよく、分からないよ……」
徐々に落ち込むクリフに、全員がなんとなく「がんばれ」と心の中で声をかけた。
温かくなったり、変に騒いだりしたからか落ち着いたら自然と眠気が襲ってきた。落ちるように数時間寝て、起きて。そんな事を繰り返している。
夜中になり、五十メートル先程度が見えるまで雪は落ち着いてきていた。
その時、突如外で狼達が警戒の唸り声を上げた。
飛び起きたフェレスとリスクスが外を覗き、目が覚めていたランバートも顔を上げて体を起こし、そして固まった。
少し遠く、黒い影がこちらへ向かって動いている。それは小山のような大きさに見えた。
「なんです、あれ……」
「穴持たずだ」
緊張したフェレスが声を潜める。だが影はのそりとこちらへと近づいてくる。狼達は唸りながらも後退を始め、威嚇はしても向かっていく様子はない。
「まずい!」
フェレスが指笛を吹く。すると狼達は一斉に散り散りに逃げ去っていった。こうしないと彼らは食われてしまう可能性があるし、願いとしてはそちらにつられてくれないかと思っての事だ。
だが小山のような影はこちらへと近づいてくる。この頃には全員が起きていて、恐怖に固まりつつも数人は戦う意志を見せていた。
「うそ……」
一度立ち上がった熊の大きな事といったらなかった。全長は三メートル程あるだろう。
「全員目一杯下がれ」
「でもあんなの、入ってこれないんじゃ……」
「熊は器用です。鼻をつっこみ、手を突っ込んで中のものをつかみ出すくらい容易です。爪先でも引っかかれば持って行かれますよ」
静かに、だが最大限の警戒が余計に怖かった。
全員が目一杯壁際へと寄っていく。やがて熊が軽い感じでこちらへと走り出す。四本の足を目一杯に使ったそれは予想以上に俊敏だ。
「早い!」
悲鳴を上げそうな全員が顔を引きつらせる中、チェルルは自分の荷物の中から何かを取りだした。
「全員目を伏せて!!」
言い捨て、思いきり熊へと向けてその何かを投げつける。ランバートは前に出ていたチェルルを引き寄せて穴に背を向けて目を閉じた。
目を閉じても感じる強い光が焼き付くようだった。真夜中の森が一瞬、激しい光を放つ。
熊は大きな吠え声を上げると踵を返して遠く立ち去っていった。
「なんだ、今の……」
「ハクインの閃光弾。まさかこんなに早く使うなんてね」
チェルルは自分の荷物の中から投げたものと同じ物を手に持つ。他にも色々あるようだ。
「ハクインって……あいつ、こんなの作るの?」
「科学の知識があるし、昔から器用でさ。煙幕、音爆弾、閃光弾、臭気弾、火薬粘土もある」
「そんなに!」
ハリーが驚きに声をあげる。これはランバートも同じだった。
「昨日、音や光を嫌うって言ってたからさ。良かった……」
ほっとしたように全員から力が抜ける。やがて狼達も戻ってきた。
「あいつ、戻ってくるのかな?」
レイバンが心配そうに問いかけるが、フェレスは首を横に振った。
「怖い目にあった。動物はそういうのを良く覚えていてしばらくは近づこうとしない。少なくとも今晩は大丈夫だろう」
「それでも早めに離れたいですね。ちゃんと扉のあるアジトへ、雪が止んだら向かいましょう」
二人の言葉にひとまずは安心できた。だが全員、その後眠る者はなかった。
行った事のない奥はもっと木々が鬱蒼としている。地表は雪に覆われ木の凹凸はないものの、やはり雪は深く足を取られる。体重の重いドゥーガルドはその分沈み込むから歩きづらく、最後尾をついてくる狼に鼻先で押されていた。
逆に身の軽いラウルやチェルルは軽やかに狼の隣を歩いている。ハリーも慣れたようで先頭集団だ。
「それにしても、本当に特徴がないな。方向が分からない」
周囲を見回すゼロスがそんな事を言い、ボリスも「わかる」と頷いている。
だがランバートとチェスターは顔を見合わせ、辺りを見回して指を指した。
「間違いなくこっちが東だよな?」
「うん。昨日泊まった場所からやや北に寄ってきてるかもだけど、東に進んでる」
「……どうして分かるんだ?」
コンラッドが困惑顔で言ってくるが、こればかりは訓練の賜だろうか。
「第二は斥候と潜入もあるだろ。そんな任務中に迷子でしくじったら目も当てられない」
「そーいうこと。俺等、方向感覚と地形の特徴を覚える事はもの凄く訓練されるんだ。地図の作成なんかもするかな」
「第二、凄いんだね……」
ボリスの呟きに、第一師団がもの凄い勢いで頷いた。
「そう言えば以前にも、お前等詳細な地図作ってたな」
「あれには驚きました」
「俺達からすると、この森を地図もなしに行き来できるお二人が疑問でなりませんけれどね」
ランバートは苦笑する。フェレスもリスクスもまったく迷う様子がない。今自分がどこにいて、どこに向かっているのかが明確な感じがする。
フェレスの方は首を傾げ辺りを見回す。そしてさも当然と、とんでもない事を口にした。
「木の一つをとっても同じのはねぇ。並びや枝のつきかたが違う」
「……えぇ?」
つまり彼らは森の木々を全て頭に入れているとでも言いたいのか。コレがもし本当なら、彼らこそ超人だろう。
一行は途中休みながらも五時間ほど森を進んだ。これでもまだ三分の一程度らしい。
体重のあるドゥーガルドを筆頭に、ゼロスもやボリスも多少足が怠くなっている。そして荷物の重いクリフの体力がかなり危なくなってきた。
その時、突如リスクスが立ち止まり周囲を見回す。耳を澄ますようにした彼は厳しい表情でフェレスを見た。
「雪が降ります」
「え?」
驚いてランバートは空を見回す。空には雲はなく、今は雪も降っていない。ラウルやチェルルも不思議そうに空を見回している。
「どのくらいで降りそうだ?」
「一時間程度で降り始めるでしょう」
「時間ないな。目的のアジトまでは行けそうにない」
フェレスはこの、何の前触れもない言葉を信じているらしく焦ったように考えている。だが他にはその感覚が伝わらない。雪国育ちのハリーでさえ、まだその気配を感じ取っていないようだ。
「あの、どうして雪が降ると?」
「あぁ、森の精霊が騒ぐのですよ」
「森の、精霊?」
全員が顔を見合わせるが、特に奇妙ではない。リスクスもまたエルなのだ。
「私は森の精霊の声を拾います。セヴェルスに比べれば弱いものですが」
「その精霊が、雪が降ると?」
「えぇ。凍えるように冷える。雪の精霊が混じりだしたと」
感じられはしないが否定する事はできない。これまでにもエルの不思議な力を目の当たりにしているのだから。
「ちょっと心許ないが、緊急避難場所に移動する。この人数でも何とか入れるだろう。それでも移動距離はギリだ」
視線が微妙にドゥーガルドとクリフに注がれる。この二人がとにかくついてこられるか心配があるのだ。
「クリフの荷物は俺が持つ」
「ドゥーは気合で頑張れ」
ランバートがクリフの背から大きな荷物を受け取る。どっしりとした箱形の荷物には多くの医療道具が入っている。小柄なクリフはこれを背負って雪の中を進んでいたのだ。
「そこのチビはマケの背中に乗れ」
「え!! でも、大丈夫……かな?」
フェレスの言葉に反応したマケがクリフの横につく。そしてジッと見上げてきた。
「お前は軽そうだから平気だろう。案外馬力があるもんだ。首しまんないように抱きついてくれよ」
「うっ、うん……」
そろそろっとクリフがマケの背中にしがみつくように乗る。それでも体の大きなマケは重そうではない。クリフが軽く、マケが大きいのだ。
「そっちの熊みたいのは……」
「ドゥーガルドです……」
「あぁ、まぁ、お前な。とにかく頑張れ。ソルを隣りにつける。はぐれても合流できるからな」
「おっ、おう……」
はぐれるの前提なのだろうか。
「他はとにかくついてこい。雪が降り始めると視界が悪くなる。その前に穴まで到着するぞ!」
全員が頷き、フェレスについて走り始める。身の軽いラウルとチェルル、ハリーが先頭を走り、ランバートとレイバンが続く。その横を疾走するマケがクリフを乗せて走っていった。
ボリス、チェスター、コンラッド、ゼロスもやや後方をついてくる。引き離されてはいない。
そして心配なドゥーガルドはなんと、ソルが後ろから牙を剥いて唸り、追い立てるともの凄い速さで走り始めた。付き従うよりも本能的な恐怖を煽る事にしたらしい。
ちらちらと細かな雪が降り始めて十分程度、全員がはぐれる事なく目的の避難場所へと辿り着く事ができた。
「もっ、もう動けねぇ……」
天然の洞窟の中に入り込んだドゥーガルドが膝をついて息を荒くしている。だが入口付近ではソルがヘッヘッと舌を出してフェレスに「褒めて」と言いたげな顔をしている。実際、フェレスはソルの頭をよしよしと撫でていた。
「君も有り難う、重かったよね」
クリフを背負っていたマケに抱きつき、クリフはとても優しくもふもふの毛を撫でている。マケも慣れたようにさせたいように撫でられ、気持ちがいいのか凜々しい瞳をスッと細めて舌でべろりと頬を舐めた。
「ひやぁ! 擽った」
「子供扱いしてんな、マケ」
笑ったフェレスがそんな事を言うから、クリフは顔を真っ赤にしてしまった。
洞窟は昨夜泊まった場所に比べると荒削りだった。扉もない。通路のようなゴツゴツした地面は一本道で、この人数が身を寄せ合えばどうにかという大きさだ。
「ここは何用なんだい?」
見回したコンラッドの問いかけに、リスクスは苦笑した。
「緊急避難用です。狩りに出て、今回の様に突然降られてしまった時に一時避難が出来るように」
「この森にはこんな場所がいくつかあるんだ」
「ただ、見ての通り狭いですし、扉もありません。天候が回復するまでをやり過ごす程度で、長く留まれる場所ではありませんよ」
確かに昨日の場所に比べると寒い。煮炊きをする場所もこの人数では確保できないだろう。
だが逆に暖は取りやすい。全員が毛布ですっぽりと体を覆い、身を寄せ合えば一晩くらいはどうにかなりそうだ。
「各自、今日は携帯食だな」
その言葉に全員、ちょっとがっかりした顔をした。
外が暗くなっても雪が止む様子はない。それどころか強くなってきている。最初は幻想的に見えた粉雪も今では風に煽られて斜め上から吹き付けるように降っている。
洞窟の入口は風の方向が違うからか中に雪が吹き込む事はない。けれど冷たくなる空気は遮られる事なく中へと入り込んでくる。
「寒い……」
思わず呟いた声に、誰もが頷いた。
「もう少しくっついた方がいいだろうな。この人数なら暖は取れる」
一番入口に近い場所にいるフェレスが苦々しい様子で言い、全員がそれに従うように身を寄せあった。
「ドゥー、股開いて」
「はぁ?」
ちょこんとドゥーガルドの前に移動してきたレイバンが、当然のように卑猥極まりない事を言い始めて洞窟の中は久しぶりにざわめく。特に免疫のないフェレスはこれだけでもの凄い顔をしていた。
「だから、股開けっての」
「だからなんでだよ!!」
真っ赤になったドゥーガルドなど気にした様子もなく、レイバンはグイグイと足の間に自分の体を押し込んでいく。三角座りの股の間にすっぽりと体を入れたレイバンは、そのまま自分の毛布を引き寄せて体を密着させると、ようやく息を吐いた。
「やっぱお前、温かい。体温高くてちょうどいい」
「俺は暖房か!」
「うん」
「……」
赤くなっていたドゥーガルドは途端に脱力して、仕方なくレイバンを抱き寄せていた。
「いーなー、俺も!」
「こら、ハリー!!」
これを見ていたハリーが、今度はコンラッドの体にピッタリと抱きついてぬくぬくし始める。ここは完全にイチャコラだ。
「いいじゃん、抱き合って温まるのも」
「いや、だって他の奴も……」
「俺、見られてても全然いいけど?」
「良くない!!」
ハリーの手が何か怪しい動きをして、コンラッドが真っ赤になりながらブルッと震える。それだけで周囲は何が起こったのかを察し、苦笑と苦情の嵐となった。
こうなるとくっついて寝るのが温かく、またスペースも広いとなってそれぞれソワソワしている。ひっつくのは恥ずかしいが、寒さは耐えがたい。そんな感じだった。
「ラウル先輩、よければ俺の所にどうぞ」
「え?」
震えながら体を小さくしたラウルに手を伸ばしたゼロスが真っ直ぐに言う。その後には苦笑だった。
「過保護なあの人も、流石に貴方となんて疑わないので俺も助かります。あの人、こういうのバレると何かと面倒なので」
「クラウル様って、そんなに狭量かな?」
「事がこうした方面だと本当に面倒です。束縛しないと言いながら、案外嫉妬深いので」
「なんか、上官の聞いちゃいけない一面を聞いた気がする……。でも、僕も助かるよ」
モゾモゾと動きながら、ゼロスがラウルを抱える。少し寒そうだったラウルも落ち着くのか、ほっとしたのがすぐに分かった。
その側では所在なく、より端の方で丸くなるチェルルが見えた。彼だけは誰かを頼るあてがないようで、必死に自分を抱いている。それでも寒いのだろう。体が細かく震えていた。
「チェルル、おいでよ」
ランバートが声をかけて手を差し伸べると、驚いた黒い瞳が見上げてくる。声がかかったことが意外、そんな様子だった。
「でも……」
「俺の過保護キングも何かと煩いけれど、お前とは疑わないさ」
「本当かな? 俺、正直軍神さんは怖いんだけど。流石にかなわないよ」
「大丈夫だって。それに、他は知ったらとばっちりいきそう」
言えば全員が苦笑している。ラウル以外は騎兵府だ。これがしれたら訓練の上乗せくらいの嫉妬はきそうな気がする。
チェルルは苦笑して、ランバートの隣りに腰を下ろす。肩を組むようにして引き寄せた中、彼はふっと息を吐いて自然な笑みを見せた。
随分と人懐っこい性格だったのだと最近になって思う。ジェームダルの面々は深く知れば知るほど、当初の印象が薄れる。チェルルは特にそうだ。猫のように普段は好きにしているのに、ふとした時に甘えるように気を緩める。
うん、兄はこれに落ちたんだろうな。体験して納得した。
そんな人達の奥ではクリフが寂しそうにしている。小さくなっているとその右側からボリスが、左からチェスターがきてがっしりと肩を組み、三人でクリフを挟み抱き合う形になった。
「うわぁぁ!」
「クリフ可愛い。小柄なのっていいよね」
ボリスが嬉しそうに言う言葉に、クリフは顔を真っ赤にしている。
「正直ボリスと抱き合うのはごめんだけど、間がクリフなら抵抗ないな」
「俺だって、チェスターと抱き合うなんてやーだね。可愛くないし、抜け駆けするし」
「まだそれ言うのかよ、ボリス」
チェスターとボリスの言い合いに、クリフはあたふたしている。けれどそんなのかまいはしない。二人の会話は更に下世話な方へと向かっていった。
「仲間だと思ってたのに、知らない間に恋人作りやがって。しかもリカルドさんなんて美人掴まえて! リア充死ね!」
「ひがむなよボリス。第一、全員敵に回すぞ」
ボリス以外の全員が恋人持ちだった。
「俺だけじゃないもん! チェルルだって!」
「え……」
「え?」
突然名前のあがったチェルルがキョトンとしながらボリスを見る。なんとも言えない緊張感と沈黙の中、チェルルはカッと顔を赤くした。
「……いるの?」
「恋人じゃ……ないけど。飼い主はできたと、思う」
「「…………」」
一瞬、外の寒さを忘れる冷気が場を凍らせた。
「恋人通り越して卑猥だ!!」
「ボリス落ち着け!」
「何だよ皆、まだ冬だってのに春先取りしてんじゃねーよ!」
「あーぁ」
寂しいボリスの雄叫びに、全員が笑ったり茶化したりだ。恋バナになると大概、こんな感じで幕が引かれる。
「あの、ボリスはどんな人が好みなんですか?」
「え?」
ボリスとチェスターの間に挟まれていたクリフが、おずおずと問いかけてくる。これには全員が頷いた。今までボリスの好みを聞いたことがなかった。
「……リアクションがよくて、丈夫で、ちょっと小生意気な人?」
「え、なにその面倒臭い感じ」
レイバンが呆れ顔で言う。これには全員が頷いた。
だが当のボリスはいたって真面目だ。ごく当然の顔で言い切った。
「そういう奴を苛めるのがいいじゃん。小生意気な事言っても、最後には俺に泣いて詫びる感じが。リアクションないと寂しいし。こっちの行動に最低五つくらいは反応してほしい」
「サディスト!」
ほぼ全員が、このどうしようもない好みに反論だ。
「あの、トレヴァーって、そのタイプじゃ……」
控えめなクリフの言葉に、また場の空気が凍り付く。ボリスでさえ凍った。
「……ない」
「ないな」
「それは想像つかないな」
全員が頷く。そしてボリスが一番嫌な顔をした。
「あいつはそんな相手には絶対に見られない。確かにいいリアクションするし、からかうけれど恋人はない。友人としては楽しい」
「しかもトレヴァーって、そういうの全くないじゃん。仕事一筋って感じだし」
「でかいんだよ、あいつ。色気ゼロ! 出されても困るけれどさ」
何故か全員がこれには納得で頷けた。
「そういえば、トビーも噂聞かないね」
「あれ、ナルシストだから」
「そうなの!」
「そうなの。自分に酔える性格だから」
クリフは目をまん丸にしている。それが少し面白い。
「クリフはピアースと順調? もう、一年くらいだよね?」
「うん。同じ部屋だし、同郷だし、色々話もする。とても楽しいよ」
「清い仲なんだよな、この二人は」
チェスターが驚くように言うが、それは全員がそうだった。思わぬ視線を集めたクリフが焦ってしまう。
「何もないの!」
「あの、キスくらいは……」
「濃厚なの?」
「そんなんじゃないよ! 寝る前に、ほっぺとか……」
「なに!! そんなんでいいのか!」
ドゥーガルドでさえもこれには反応している。クリフの顔は真っ赤で、茹だった様になっている。
「あの、体の関係とかはその……タイミングとか、気持ちとかもあるからって」
「まぁ、そうだけど……クリフは欲しいと思わないの?」
「まだよく、分からないよ……」
徐々に落ち込むクリフに、全員がなんとなく「がんばれ」と心の中で声をかけた。
温かくなったり、変に騒いだりしたからか落ち着いたら自然と眠気が襲ってきた。落ちるように数時間寝て、起きて。そんな事を繰り返している。
夜中になり、五十メートル先程度が見えるまで雪は落ち着いてきていた。
その時、突如外で狼達が警戒の唸り声を上げた。
飛び起きたフェレスとリスクスが外を覗き、目が覚めていたランバートも顔を上げて体を起こし、そして固まった。
少し遠く、黒い影がこちらへ向かって動いている。それは小山のような大きさに見えた。
「なんです、あれ……」
「穴持たずだ」
緊張したフェレスが声を潜める。だが影はのそりとこちらへと近づいてくる。狼達は唸りながらも後退を始め、威嚇はしても向かっていく様子はない。
「まずい!」
フェレスが指笛を吹く。すると狼達は一斉に散り散りに逃げ去っていった。こうしないと彼らは食われてしまう可能性があるし、願いとしてはそちらにつられてくれないかと思っての事だ。
だが小山のような影はこちらへと近づいてくる。この頃には全員が起きていて、恐怖に固まりつつも数人は戦う意志を見せていた。
「うそ……」
一度立ち上がった熊の大きな事といったらなかった。全長は三メートル程あるだろう。
「全員目一杯下がれ」
「でもあんなの、入ってこれないんじゃ……」
「熊は器用です。鼻をつっこみ、手を突っ込んで中のものをつかみ出すくらい容易です。爪先でも引っかかれば持って行かれますよ」
静かに、だが最大限の警戒が余計に怖かった。
全員が目一杯壁際へと寄っていく。やがて熊が軽い感じでこちらへと走り出す。四本の足を目一杯に使ったそれは予想以上に俊敏だ。
「早い!」
悲鳴を上げそうな全員が顔を引きつらせる中、チェルルは自分の荷物の中から何かを取りだした。
「全員目を伏せて!!」
言い捨て、思いきり熊へと向けてその何かを投げつける。ランバートは前に出ていたチェルルを引き寄せて穴に背を向けて目を閉じた。
目を閉じても感じる強い光が焼き付くようだった。真夜中の森が一瞬、激しい光を放つ。
熊は大きな吠え声を上げると踵を返して遠く立ち去っていった。
「なんだ、今の……」
「ハクインの閃光弾。まさかこんなに早く使うなんてね」
チェルルは自分の荷物の中から投げたものと同じ物を手に持つ。他にも色々あるようだ。
「ハクインって……あいつ、こんなの作るの?」
「科学の知識があるし、昔から器用でさ。煙幕、音爆弾、閃光弾、臭気弾、火薬粘土もある」
「そんなに!」
ハリーが驚きに声をあげる。これはランバートも同じだった。
「昨日、音や光を嫌うって言ってたからさ。良かった……」
ほっとしたように全員から力が抜ける。やがて狼達も戻ってきた。
「あいつ、戻ってくるのかな?」
レイバンが心配そうに問いかけるが、フェレスは首を横に振った。
「怖い目にあった。動物はそういうのを良く覚えていてしばらくは近づこうとしない。少なくとも今晩は大丈夫だろう」
「それでも早めに離れたいですね。ちゃんと扉のあるアジトへ、雪が止んだら向かいましょう」
二人の言葉にひとまずは安心できた。だが全員、その後眠る者はなかった。
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