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10章:二王の邂逅とアルブレヒトの目的
3話:帰還兵は癒やしを求め?(ボリス)
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王都帰還が今日の事なのに、そのまますぐに王宮を案内される事になった。近衛府の先輩が待っていたのでは仕方がない。
王宮の一角、上客を泊める為の一室にフェオドールはいて、先輩がノックして部屋に入ると目を丸くしていた。
少し、表情がしっかりした気がする。机の上には何やら本があれこれあった。
「それでは」
一礼して出て行った先輩が笑いを堪えている気がしたが、気にしたら負けだと思う。
ボリスを見たフェオドールは途端に目に涙を溜めてプルプルする。口が完全にへの字だ。けれどブンブンと首を振り、涙を乱暴にグイグイ拭うと真っ直ぐに見て笑いかけてくる。
やっぱり、少し強くなったのだろう。精神的にも落ち着いたかもしれない。押さえつけられていた分、急に成長した気がする。
「おかえり、ボリス。その……怪我とか、してないか?」
「ただいま、フェオドール。してないよ。それにしても、本当にきちゃったんだね」
苦笑したら「だって!」と返ってくる。またちょっと弱い顔。本気で怒ってるわけじゃないよ。
いや、不安から怒りたくはなっていた。危険なのは感じているし、既に始まっているらしい。だからこそ無理にいないほうがいい。
そうは思ったけれど、顔を見たらやっぱりほっとした。こんなにテンプレな感情にちょっと驚いているけれど、悪くない。恋愛してるんだなって思ってしまった。
「一杯、無理を言って来たんだ。ボリス、迷惑だったか?」
「う~ん、どうかな。押しかけられるのって、慣れてないんだよね」
わざと首を傾げて言ってみると、また瞳にジワリと膜ができる。相変わらず泣き虫なんだから。
「め、迷惑、かぁ?」
「もぉ、泣かないの」
苦笑して、近づいて、強引に腕の中に入れた。ちょっと汗臭いのは我慢してほしい。何せ着替えもできないまま連れてこられたのだから。
「俺が本当に怒っているか、わからないの?」
「怒って、ないと思う、けれど。でも、ボリス時々わかりづらいから」
「……怒ってないよ。ちょっと、嬉しかった」
顔を上げそうなフェオドールを抱き寄せて邪魔した。緩んだ顔をしていそうだったから、見られたくなかった。
「危なそうなら逃げる事。いいね?」
「わかってる。陛下からも言われた。危険になったら疎開させるって」
「うん、それに従って。君の心配しながら戦えるほど甘い相手じゃなさそうだから」
「うん。邪魔、しないから」
改めてギュッと抱きついたフェオドールを抱きしめてから、ボリスはひとまずシャワーと着替えを要求した。
流石上客用の部屋、隣にシャワーがあった。体を流して髪や体を洗うとさっぱりする。バスローブも用意されていて至れり尽くせり。騎士団の雑多さがわかる違いだ。まぁ、お客様みたいにされても困るけれど。
水気も綺麗に拭いて部屋に戻ると、少し赤い顔をしたフェオドールがベッドの側に立っている。何か企んでいるのか、いきなりおねだりなのか。
「俺、ちょっと眠いよ?」
「え? あっ! 違う! その……今日は私がお前に、ゆっくりとしてほしくて、その……マッサージを教えてもらったんだ」
「マッサージ?」
フェオドールは顔を真っ赤にしたまま頷く。見ればサイドボードには温めたタオルやオイルがある。どうやら本当にマッサージらしい。
「うつ伏せになって、寝てくれ」
「いいの? 王子様からマッサージなんて、贅沢」
「そういう事言うな。私は、お前といる為なら王位も捨てられるんだぞ」
「そういう事、簡単に言わないの」
コツンと額を突いて、言われた通りうつ伏せになる。バスローブも上半身は脱いだ。
その背中や肩に温められたタオルが乗り、丁寧に揉まれる。程よい指圧は働いた筋肉には心地よくて、急に眠気が押し寄せてくる。
「上手じゃん。誰に教えてもらったの?」
「この城のメイドに。足のマッサージをしてくれて、凄く気持ち良かったんだ。疲れて帰ってくるお前を癒やしたいと思っていたから、教えて欲しいとお願いして」
「なにそれ、ちょっと嬉しい」
「本当か!」
「当たり前じゃん。自分の為にって考えて、勉強したりしてくれるのは普通に嬉しいよ」
肩甲骨、背中、手で温められたオイルがヌルヌルと撫でてくる。ジワッと温かくなって、香りもよくてリラックスする。まさかこんな癒やしが待っているなんて思わなかったから、本当に嬉しい。
「気持ちいい?」
「勿論」
シャワーも浴びて体を解されて、慣れない船旅で体も疲れていて、いつの間にか心地よい眠りがボリスを包んだ。うつ伏せのまま背に触れる手の温もりと感触を楽しみながら、いつの間にか眠ってしまった。
ふと、目が覚めたのは背中に触れる熱や重みが増えたから。体にピッタリと重なるように触れている。肩甲骨の辺りに感じる熱く柔らかなものは唇だろうか。それなら、濡れた感触は舌?
「んっ……」
艶を秘めた微かな息づかい。興奮しているのは熱量だけでもわかる。
もぉ、我慢しなくてもいいのにバカだな。少しくらいは付き合うのに。
「気持ちいい?」
「んぁ!」
声をかけたら驚いて飛び退いたフェオドールは顔を真っ赤にしている。そんなに驚かなくてもいいのに。
「あっ、い、いつから!」
「ついさっき。人の寝込みを襲って気持ち良くなってたの?」
「……だって、久しぶりの生ボリスで……しかもこんな、無防備にされてたら」
モジモジしながら言い訳をするフェオドールに笑いかけ、ボリスはベッドに腰掛ける。そして、手を広げて招いた。
「おいで」
「だっ、駄目! 今日はボクがボリスを癒やすの!」
いや、ボクって言ってる時点でスイッチ入ってるでしょ。
でも小さな子がダダを捏ねるみたいに強情に首を振るフェオドールは、近づいたものの膝をついて、ローブの前を寛げてそこにあるものにキスをした。
「してくれるの?」
「したい。駄目?」
「いいけれど。そこまでしなくてもいいんだよ?」
「ボクがしたいの」
上目遣いがちょっと可愛い。そんなうるうるの目で言われて拒む奴っている?
「いいよ。歯を立てないでね」
冗談で言ったら、睨まれた。良い傾向かな、自分の意志でっていうなら。
不器用な手つきで両手を添え、少し勃ちあがるまで手で緩く扱き出す。辿々しいのも初々しくていいものだ。こういうのは初期しか楽しめない。慣れてくると手際がよくなるから。
「したことないの?」
「ない。突きつけられて無理矢理はあるけど、自主的になんて」
「したいと思ったの?」
「ボリス、だから。本当に今日はボクがボリスを癒やしたいって、思ったんだよ?」
「うん、充分だよ」
まだ半分柔らかい部分に、おずおずとフェオドールが口づける。咥えるのではなく、キスをしながら探るように舌を這わせて舐めている。むずむずするくすぐったさの中にも愛おしさがあって、優しく髪を撫でた。
「気持ちいい?」
「勿論。可愛いよ、フェオドール」
褒められて嬉しい子供だ。ニパッと邪気もなく笑うけれど、手にしているのは間違いなく男の欲望だから。そのちぐはぐさが、とても淫靡に思える。
おかしいな、それほど年の違わない相手なのに、もの凄く幼い子を犯してる気分。
小さく柔らかいピンクの唇が開いて、先端を咥えた。小さな口いっぱいに頬張って、頬肉が先端を押し上げて膨らむ。飴玉じゃないんだから、頬膨らませて何をしゃぶってるのさ。
「淫乱」
自然と息が乱れてくる。ムクムクと欲望がわき上がってきて、口の端を上げた。こういう部分が犯したいと思わせるんだ。
「ボリス、大きいよ」
「フェオドールが育てたんでしょ?」
「そう、だけど……」
「上のお口だけじゃ、足りなくなった? お尻にも欲しい?」
「!」
迷ってる迷ってる。
大きめの瞳が揺れているのを見ると、凄く葛藤がある。でも振り払うようにパクンと咥え、ジュブジュブさせながら必死に舐めている。
これ、けっこう気持ちいい。濡れて熱い口腔は柔らかいし、飴玉を舐めるみたいに舌が先端に触れるし。息子がちょっと本気になって脈打ってる。
長い旅で、性欲の発散はしていないからわりと溜まっている。突然刺激されると欲しくなる。実際、普段よりも硬くなっていると思う。
「フェオドール、いらないの?」
「んぅ……じゅる、んぅ」
「俺の、前より硬いでしょ?」
「あんぅ、欲しいけれど、ボクがしたいのぉ」
「それならさ、フェオドールが俺に乗ればいいんじゃない?」
「……あ」
「あっ」て。呆けた顔で呆然としているの、可愛い。それ、考えないんだ。
ボリスはベッドに乗り、仰向けに倒れる。フェオドールもすぐにベッドに乗り上げて、ボリスに跨がった。
「自分で解してみせて」
「う、ん」
マッサージに使ったオイルを少量手に馴染ませて、フェオドールはボリスの上で自らの後孔に指を添える。細く白い指が淫らな孔にツプッと埋まった。
「あん! はっ、あっ」
「気持ちいいの?」
「んぁ、気持ちいいよぉ」
「俺に見られてるよ?」
「いやぁ、見ないでぇ。あっ、はぁ、気持ちいい……止まらないよぉ」
最初は緩やかだった指の動きは徐々に深く激しくなって、今ではジュブジュブと微かな音を立てている。元からだいぶ慣らされた部分だから、苦痛は少ないだろう。
「指、二本にしてごらん」
「あぁ! ひっ! だめぇ、お尻気持ちよくなるよぉ」
うん、欲望を誘う。体の上で自ら準備をしつつ白い体を踊らせる姿に欲情しない奴なんていない。
触れていないのに乳首もピンと尖り出している。可愛らしいピンクの乳首。そこに手を伸ばして摘まみ上げると、フェオドールは嬌声を上げてビクビク体を震わせた。
「中でイッちゃった?」
「だって、触る、からぁ」
「ごめんね、可愛くてつい。ここ、舐めてもいい?」
「だめぇ、後ろできないよぉ」
「俺がしてあげる。もっと体をこっちにして、乳首を俺の口元にもっておいで」
気持ちいい事に忠実。だから恥ずかしくても勝てない。ズルズルと体を上にずらして、可愛らしい乳首が唇に触れる。ボリスはそのまま差し出された乳首を唇に含み、舌を這わせて柔らかく吸い上げた。
「んあぁ! だめぇ、腰抜けるぅ」
自分の体を前傾のまま支えるのが精一杯。ブルブル震えながら耐える姿が可愛い。
ボリスはそのままオイル濡れになっている後孔に指を這わせ、一気に二本埋め込んだ。
「ひぁ! あっ、イッ……ちゃう!」
充分に柔らかい部分を蹂躙しつつ、供物のように捧げられている乳首を遊んで。凄い格好だ。淫靡で……興奮する。
「はぁん、ボリス欲しい……お尻切ないの」
「自分で入れられたら、いいよ」
強く吸った乳首をチュポンと離すだけでブルブルっと震えたフェオドールの孔がキュッと締まった。相変わらず柔らかくて伸びがある部分が微かに震えていた。
体を起こし、片手でボリスの熱源を立てて支えたフェオドールはその上にゆっくりと腰を落としていく。柔らかく熱い部分が滾る肉棒を飲み込んでいく。
「はぁ……あっ、あぅぅ」
「辛くない?」
「……く、ない!」
白魚のような体から汗が噴き出している。それが壮絶な色気になっている。抽挿ではなく、ゆっくりと飲み込んでいく腰はやがてぺたんと全てを収めてしまった。
「あっ、でき、た……」
「ご苦労様」
「んあぁ! あっ、気持ちいぃ!」
トントンとリズム良く突き上げた。柔らかなそこは拒まずに受け入れて飲み込む。ジュブジュブ音をさせながら、熱い肉襞に包まれていると心地よい。そして先端に硬い部分が触れて抉る。
「だめぇ! あっ、イッ……ボリスぅ!」
「いいよ、イキな。俺も気持ちいいもん」
「もっと、長く繋がって……ひぅぅ!」
「でも、一緒に寝たいしね。長くするのは、また今度」
激しく下から突き上げつつ、乳首を捻りあげて泣かせている。可愛いし、もっとその声を聞いていたいけれど疲れているのも本当。彼を抱いて眠りたい。
「いやぁ! あっ、ボリスぅ! イッ……んぅぅぅぅ!」
「いいよ、気持ちいい。俺も……っ、出すよ」
腕を引いて固定して、下から強く激しく何度も奥を突き上げるとフェオドールはあっけなく落ちた。熱い白濁を吐き出し、体を汚してビクッビクッと震えたまま嬌声を上げて背を反らせた。
そしてボリスも熱い肉壺に欲望を吐き出した。予想通りたっぷりで中々終わらない。奥に当たったものが肉壁を伝って落ちて、結合部を汚していく。うん、エロいな。
「フェオドール……って、飛んでるね」
気持ちよかったのか、満たされたのか。腹の上でピクピクしたままフェオドールの焦点が合わなくなっている。でも、とても幸せそうだ。
抜き去って、綺麗にして、シャワーは後で。風呂場で盛らないようにしないと。
そうして綺麗にした場所で彼を抱きしめたまま、ボリスは満足に眠りについた。
▼ゼロス
王都帰還の夜、ゼロスはやや緊張したままクラウルの部屋にいた。
日中はいなかったが、どうやら仕事でいなかったらしい。それというのも引っ張ってきた捕虜の移動や尋問のためにいなかったとか。
尋問……
ブルッと背が震えた。思いだしたのはボリスのやりようだ。
彼は最初、より素直そうなマルコフの攻略を開始した。ルジェールが頑なだったので彼をベッドに縛りつけ……そのくせマルコフの様子はわかるようにして、マルコフを散々道具でイカせまくったのだ。
一時間もすればイキ狂ったのか、常に先走りを溢すようになり顔は蕩けきってよがり倒していた。
この時点でもうドゥーガルドは見ないように外に逃げようとしたが、この小屋は無人という事にしたかったので引き止めた。結果、部屋の隅で壁を相手に耳を塞ぐのが精々だった。
仕上げとばかりにマルコフの前をキツく紐で戒め、尿道に何やら道具を押し込み尻にも太めのディルドを咥えさせて固定し、柱に括り付けたのだ。
あいつは鬼か。ずっと「イクぅ、イクぅ!」とよがり倒し、自ら腰を振ってディルドを擦りつけても出せずに悶えていたマルコフを見て、とても楽しそうにしていた。
ルジェールの方はこの頃にはもう魂が半分抜けていた。そしてボリスの手が自分にかかると半狂乱になったが……こっちも一時間陵辱され、命令され、従えば望んだ快楽を得られると学習したら落ちていった。
あれはない。当然ボリスが皆にあんな事をするとは思っていないし、相手を選んでいる事も分かっている。手当たり次第ではないんだ。
とはいえ、友人の凄まじい責め苦を見ると多少はショックで……しかもこれがクラウルにも共通すると知ると怖くなった。
いや、何度か片鱗は見たのだ。責めるとき、あの人は少し意地悪になる。男の体で女性のような連続した快楽を味わうとは思わなかったし、多少長く責められる。こちらが頭の中真っ白になるまで快楽漬けにされるのはほぼ毎回の事だ。
自分も、一歩手前なんじゃないか?
それを思うと、羞恥と恐怖がせめぎ合っている。自分も抱かれている間、あんな風になっているんじゃないのか? 最後のほうは記憶が曖昧になるくらい気持ちいい事に支配されているからわからないんだ。
そしてもう、あの二人の一歩手前なんじゃないのか? 明日は仕事だからとか思っても結局あの人に流されてしまうのは自分も快楽が忘れられずに求めてしまうからなんじゃ……
「何を悩んでいる?」
「わぁ!」
突然背後から声をかけられ、ゼロスは飛び上がって立ち上がり思わず逃げた。だが、そんなものこの人を相手に通用するわけがない。すぐに掴まって、真正面から見ることになる。
二ヶ月ぶりだ。再会は素直に嬉しいし、戻ってきたんだと思える。けれど、その後ろに違うものも見てしまって怖かった。
「どうしたんだ、ゼロス」
「あぁ、いや……」
「何かあったのか?」
「何も……」
ないなんて、この人の目を誤魔化す事はできない。クラウルの瞳が険しくなって、ビクリと体が反応した。
グッと腕を引かれる。逆らうには強い力だ。そして強引に、胸の中に収められて抱き込まれる。
心臓の音が聞こえる。妙に落ち着く音だ。背中を撫でる手も落ち着く。心が徐々に穏やかになると、恐怖は少し薄れた。
「どうした?」
「……ボリスの尋問を、見てしまって」
「あぁ、あれか。二人ほど駄目になってたな。アレはどうにもならない」
やっぱり、そういうものなのか……
「それで、どうして俺に怯える」
「……貴方も、やるんでしょ?」
躊躇いながら言うと、頭上で明らかな舌打ちが聞こえる。見上げれば眉根が寄って憎らしい顔になっている。
「ラウルか。研修で見せたからな。だからといって、お前にそんな事をするはずがない。お前がお前でなくなったら、こうして一緒にいる意味がないだろ」
「でも俺も……最後はわからなくなるくらいだ。落ちて、いるんじゃないかと」
自分は変わらないままだと思っていた。でも、そう思わされているだけで本当は、どこかおかしくなってきているんじゃ。そんな危機感が押し寄せてくる。
けれどクラウルは目を丸くした後で、申し訳ない顔をした。
「あれはお前が落ちてるんじゃない。俺がお前に溺れているから手放せなくて無茶をさせて……それは悪いと思っている。でもお前は、出会った頃と変わらない」
「本当に、そう思いますか?」
「当然だ。第一、俺に平然と命令したり素っ気ない態度を取るのはお前くらいだぞ。俺を抱きたいと言うのも、実際そうするのもお前だけだ。お前は、自分の意志を捨てていないだろ?」
「……はい」
「そこが違う。俺はお前を落とし込むなんて事しない。お前が拒めばしない」
そう言われると、そんな気もする。確かにゼロスが本当に嫌な事はしない。一緒の布団で寝ても、体を交えない事も多い。明日は仕事だからと拒めばその望みを受け入れてくれる。
背中を撫でる手に、素直に甘える事ができた。身を寄せて、息を吐く。気持ちが落ち着いたのがわかった。
「安心したか?」
「少し、だけ」
「仕事とプライベートは交えない。お前をここに入れている時点で仕事は持ち込まない。第一、俺だって仕事じゃなければあんなこと、望んでするわけじゃない。落とし込んで精神崩壊起こすと戻って来ない奴が大半だ。そうなると楽にしてやるか一生飼うかだからな。良い気分ではないんだ」
「あの二人は」
「既に崩壊してた。ボリスは腕がいいんだろうが、毎回廃人作られても困るからな。あそこまでいく前に口を割らせてこそ、暗府は一人前だ」
少しほっとする。少なくとも自分は廃人にはなっていないし、精神崩壊もしていない。前後不覚になってもぼんやりと記憶はあるし、気持ちをもらっていると思う。
「まったく、戻ってきて安心したのに」
「すみません」
「いいさ、俺が仕事の事を話さないのも確かだ。ただ、一つだけ言うなら話したくないんだ。お前にこんな風に警戒されると心に刺さる。非情な人間にならなければならないから、その姿を見られたくない。これは、俺の我が儘だ」
なんだ、案外可愛い事を言う。
下げたままだった腕を上げて、クラウルの背中に触れた。そして、胸にしっかりと体を寄せた。
知っている、この人はそんな非情な人じゃない。新人ですらない志願者だったゼロスに心を砕いてくれた。たかが一般兵を助けようと、休みなく馬を走らせて助けにきてくれた。しなくてもいい仕事の尻拭いもしてくれた。
何より、ここで抱き合う時の柔らかな顔を知っている。共に眠る朝、気を許して寝息を立てる姿を見ている。激しい夜も、何度も耳元で「愛している」と囁かれている。
大事にされているんだ。ただ、仕事とプライベートの間に差があるだけ。
「見せなくて、いいです。俺は、私人の貴方を信じています。今回のは……ちょっと衝撃的過ぎて混乱しただけです」
素直に謝って、ゼロスは甘える事にした。クラウルは申し訳なく瞳を揺らし、触れるだけのキスを額にして体を離し着替えだした。
「おいで」
ベッドに呼ばれ、近づいていく。そうして一つの布団の中に体を横たえ、逞しい腕に抱かれて……それ以上は、なかった。
「しなくていいんですか?」
「今日はいい。まだ暫く休みだろ?」
「そうですが……」
「今はこれでいい。俺もしばらくは王都にいられる。同じ場所にいるんだ、望めばいつだってできる。今日は、このままだ」
拍子抜けして、でも正直に体の力は抜けた。久々だから絶対に抱き合うのだと思っていたんだ。
安心した。やっぱり優しいじゃないか。あんな狂気は……時々片鱗は見えても絶対じゃない。
「今日は、ぐっすり眠れる気がする」
「俺も、そんな気がします」
抱き合って、体温を分け合うだけ。それでも絶対的な安堵が胸にある。いつしかゼロスはウトウトと微睡み、夢の中に落ちていった。
▼レイバン
夕食を食べて部屋に戻ったら、少し疲れていたのかあっという間に寝てしまっていた。
目が覚めたのは随分遅くなってから、汗をかいた額に冷たいタオルを当ててくれる大きな手に気付いてだった。
「あ、れ? ジェイ、さん?」
「起きたか。少し顔色が悪いと思っていたが、微熱があるぞ」
「え? そんなの、全然気付かなかった」
少し怠いと思っていたけれど、長期の遠征から帰ったばかりだから疲れが出たんだと思っていた。体の具合も悪いと思っていなかったから、気付かなかった。
「医務班のリカルドに診てもらった。風邪ではなく、疲れが出たんだろうと言っていた。数日ゆっくり休めば良くなるそうだ」
「そ、か……ごめん、心配かけて」
「気にするな。怪我や病気じゃなくてよかった」
優しく笑うジェイクにほっとする。そしたら余計に体が重くなって、ベッドから起きられなくなった。
「汗かいてるな。体拭いて着替えるか」
「俺、体起こせない」
「少し熱が上がったか?」
心配そうに額に触れる節のある手が心地良い。大きな手が体を支えて起き上がらせてくれて、湯で濡らしたタオルを持ってくる。
「して~」
「まったく、子供じゃあるまいし」
「いいじゃん、旦那様に甘えたいの」
そう言われるとまんざらではないのだろう。溜息をついても、肌が赤くなるからわかる。
服を脱がせてもらって、優しい動きで体を拭かれる。とても丁寧で、首筋や背中、関節の内側なんかも優しく拭ってくれる。
「今日はジェイさんとイイコトしようと思ってたのに」
「熱が下がったらな」
「早く治さないと」
熱を出すなんて何年ぶりだろう。祖父を亡くして苦労し始めたくらいから、具合が悪いなんてなかった。
でも、言ってはなんだけれど……悪い気はしない。誰かが心配してくれて、こうして看病してくれる。それは少し特別で、嬉しくて恥ずかしい。
新しい寝間着を出してもらって、それも着せかけてくれる。その後はレモン水を飲んでまた横になった。
「ジェイさん、一緒に寝ようよ。風邪じゃないなら移らないでしょ?」
「まったく」
頭をかきながらも側に来て、隣に寝転んで抱き込まれる。狭いシングルベッドの中で大の男が二人身を寄せ合っている。
「ちょっと、狭いね」
「これが落ち着いたら新調するか?」
「できるの?」
「結婚していればな」
「じゃあ、この戦争終わったら見に行こう」
また一つ約束が増える。これを目標に、また先に進める。
「明日は、美味い粥を作ってきてやる」
「ほんと? 楽しみ」
嬉しくて、テンション上がって熱が上がりそう。でも辛くないのは、幸せな熱だからだ。
王宮の一角、上客を泊める為の一室にフェオドールはいて、先輩がノックして部屋に入ると目を丸くしていた。
少し、表情がしっかりした気がする。机の上には何やら本があれこれあった。
「それでは」
一礼して出て行った先輩が笑いを堪えている気がしたが、気にしたら負けだと思う。
ボリスを見たフェオドールは途端に目に涙を溜めてプルプルする。口が完全にへの字だ。けれどブンブンと首を振り、涙を乱暴にグイグイ拭うと真っ直ぐに見て笑いかけてくる。
やっぱり、少し強くなったのだろう。精神的にも落ち着いたかもしれない。押さえつけられていた分、急に成長した気がする。
「おかえり、ボリス。その……怪我とか、してないか?」
「ただいま、フェオドール。してないよ。それにしても、本当にきちゃったんだね」
苦笑したら「だって!」と返ってくる。またちょっと弱い顔。本気で怒ってるわけじゃないよ。
いや、不安から怒りたくはなっていた。危険なのは感じているし、既に始まっているらしい。だからこそ無理にいないほうがいい。
そうは思ったけれど、顔を見たらやっぱりほっとした。こんなにテンプレな感情にちょっと驚いているけれど、悪くない。恋愛してるんだなって思ってしまった。
「一杯、無理を言って来たんだ。ボリス、迷惑だったか?」
「う~ん、どうかな。押しかけられるのって、慣れてないんだよね」
わざと首を傾げて言ってみると、また瞳にジワリと膜ができる。相変わらず泣き虫なんだから。
「め、迷惑、かぁ?」
「もぉ、泣かないの」
苦笑して、近づいて、強引に腕の中に入れた。ちょっと汗臭いのは我慢してほしい。何せ着替えもできないまま連れてこられたのだから。
「俺が本当に怒っているか、わからないの?」
「怒って、ないと思う、けれど。でも、ボリス時々わかりづらいから」
「……怒ってないよ。ちょっと、嬉しかった」
顔を上げそうなフェオドールを抱き寄せて邪魔した。緩んだ顔をしていそうだったから、見られたくなかった。
「危なそうなら逃げる事。いいね?」
「わかってる。陛下からも言われた。危険になったら疎開させるって」
「うん、それに従って。君の心配しながら戦えるほど甘い相手じゃなさそうだから」
「うん。邪魔、しないから」
改めてギュッと抱きついたフェオドールを抱きしめてから、ボリスはひとまずシャワーと着替えを要求した。
流石上客用の部屋、隣にシャワーがあった。体を流して髪や体を洗うとさっぱりする。バスローブも用意されていて至れり尽くせり。騎士団の雑多さがわかる違いだ。まぁ、お客様みたいにされても困るけれど。
水気も綺麗に拭いて部屋に戻ると、少し赤い顔をしたフェオドールがベッドの側に立っている。何か企んでいるのか、いきなりおねだりなのか。
「俺、ちょっと眠いよ?」
「え? あっ! 違う! その……今日は私がお前に、ゆっくりとしてほしくて、その……マッサージを教えてもらったんだ」
「マッサージ?」
フェオドールは顔を真っ赤にしたまま頷く。見ればサイドボードには温めたタオルやオイルがある。どうやら本当にマッサージらしい。
「うつ伏せになって、寝てくれ」
「いいの? 王子様からマッサージなんて、贅沢」
「そういう事言うな。私は、お前といる為なら王位も捨てられるんだぞ」
「そういう事、簡単に言わないの」
コツンと額を突いて、言われた通りうつ伏せになる。バスローブも上半身は脱いだ。
その背中や肩に温められたタオルが乗り、丁寧に揉まれる。程よい指圧は働いた筋肉には心地よくて、急に眠気が押し寄せてくる。
「上手じゃん。誰に教えてもらったの?」
「この城のメイドに。足のマッサージをしてくれて、凄く気持ち良かったんだ。疲れて帰ってくるお前を癒やしたいと思っていたから、教えて欲しいとお願いして」
「なにそれ、ちょっと嬉しい」
「本当か!」
「当たり前じゃん。自分の為にって考えて、勉強したりしてくれるのは普通に嬉しいよ」
肩甲骨、背中、手で温められたオイルがヌルヌルと撫でてくる。ジワッと温かくなって、香りもよくてリラックスする。まさかこんな癒やしが待っているなんて思わなかったから、本当に嬉しい。
「気持ちいい?」
「勿論」
シャワーも浴びて体を解されて、慣れない船旅で体も疲れていて、いつの間にか心地よい眠りがボリスを包んだ。うつ伏せのまま背に触れる手の温もりと感触を楽しみながら、いつの間にか眠ってしまった。
ふと、目が覚めたのは背中に触れる熱や重みが増えたから。体にピッタリと重なるように触れている。肩甲骨の辺りに感じる熱く柔らかなものは唇だろうか。それなら、濡れた感触は舌?
「んっ……」
艶を秘めた微かな息づかい。興奮しているのは熱量だけでもわかる。
もぉ、我慢しなくてもいいのにバカだな。少しくらいは付き合うのに。
「気持ちいい?」
「んぁ!」
声をかけたら驚いて飛び退いたフェオドールは顔を真っ赤にしている。そんなに驚かなくてもいいのに。
「あっ、い、いつから!」
「ついさっき。人の寝込みを襲って気持ち良くなってたの?」
「……だって、久しぶりの生ボリスで……しかもこんな、無防備にされてたら」
モジモジしながら言い訳をするフェオドールに笑いかけ、ボリスはベッドに腰掛ける。そして、手を広げて招いた。
「おいで」
「だっ、駄目! 今日はボクがボリスを癒やすの!」
いや、ボクって言ってる時点でスイッチ入ってるでしょ。
でも小さな子がダダを捏ねるみたいに強情に首を振るフェオドールは、近づいたものの膝をついて、ローブの前を寛げてそこにあるものにキスをした。
「してくれるの?」
「したい。駄目?」
「いいけれど。そこまでしなくてもいいんだよ?」
「ボクがしたいの」
上目遣いがちょっと可愛い。そんなうるうるの目で言われて拒む奴っている?
「いいよ。歯を立てないでね」
冗談で言ったら、睨まれた。良い傾向かな、自分の意志でっていうなら。
不器用な手つきで両手を添え、少し勃ちあがるまで手で緩く扱き出す。辿々しいのも初々しくていいものだ。こういうのは初期しか楽しめない。慣れてくると手際がよくなるから。
「したことないの?」
「ない。突きつけられて無理矢理はあるけど、自主的になんて」
「したいと思ったの?」
「ボリス、だから。本当に今日はボクがボリスを癒やしたいって、思ったんだよ?」
「うん、充分だよ」
まだ半分柔らかい部分に、おずおずとフェオドールが口づける。咥えるのではなく、キスをしながら探るように舌を這わせて舐めている。むずむずするくすぐったさの中にも愛おしさがあって、優しく髪を撫でた。
「気持ちいい?」
「勿論。可愛いよ、フェオドール」
褒められて嬉しい子供だ。ニパッと邪気もなく笑うけれど、手にしているのは間違いなく男の欲望だから。そのちぐはぐさが、とても淫靡に思える。
おかしいな、それほど年の違わない相手なのに、もの凄く幼い子を犯してる気分。
小さく柔らかいピンクの唇が開いて、先端を咥えた。小さな口いっぱいに頬張って、頬肉が先端を押し上げて膨らむ。飴玉じゃないんだから、頬膨らませて何をしゃぶってるのさ。
「淫乱」
自然と息が乱れてくる。ムクムクと欲望がわき上がってきて、口の端を上げた。こういう部分が犯したいと思わせるんだ。
「ボリス、大きいよ」
「フェオドールが育てたんでしょ?」
「そう、だけど……」
「上のお口だけじゃ、足りなくなった? お尻にも欲しい?」
「!」
迷ってる迷ってる。
大きめの瞳が揺れているのを見ると、凄く葛藤がある。でも振り払うようにパクンと咥え、ジュブジュブさせながら必死に舐めている。
これ、けっこう気持ちいい。濡れて熱い口腔は柔らかいし、飴玉を舐めるみたいに舌が先端に触れるし。息子がちょっと本気になって脈打ってる。
長い旅で、性欲の発散はしていないからわりと溜まっている。突然刺激されると欲しくなる。実際、普段よりも硬くなっていると思う。
「フェオドール、いらないの?」
「んぅ……じゅる、んぅ」
「俺の、前より硬いでしょ?」
「あんぅ、欲しいけれど、ボクがしたいのぉ」
「それならさ、フェオドールが俺に乗ればいいんじゃない?」
「……あ」
「あっ」て。呆けた顔で呆然としているの、可愛い。それ、考えないんだ。
ボリスはベッドに乗り、仰向けに倒れる。フェオドールもすぐにベッドに乗り上げて、ボリスに跨がった。
「自分で解してみせて」
「う、ん」
マッサージに使ったオイルを少量手に馴染ませて、フェオドールはボリスの上で自らの後孔に指を添える。細く白い指が淫らな孔にツプッと埋まった。
「あん! はっ、あっ」
「気持ちいいの?」
「んぁ、気持ちいいよぉ」
「俺に見られてるよ?」
「いやぁ、見ないでぇ。あっ、はぁ、気持ちいい……止まらないよぉ」
最初は緩やかだった指の動きは徐々に深く激しくなって、今ではジュブジュブと微かな音を立てている。元からだいぶ慣らされた部分だから、苦痛は少ないだろう。
「指、二本にしてごらん」
「あぁ! ひっ! だめぇ、お尻気持ちよくなるよぉ」
うん、欲望を誘う。体の上で自ら準備をしつつ白い体を踊らせる姿に欲情しない奴なんていない。
触れていないのに乳首もピンと尖り出している。可愛らしいピンクの乳首。そこに手を伸ばして摘まみ上げると、フェオドールは嬌声を上げてビクビク体を震わせた。
「中でイッちゃった?」
「だって、触る、からぁ」
「ごめんね、可愛くてつい。ここ、舐めてもいい?」
「だめぇ、後ろできないよぉ」
「俺がしてあげる。もっと体をこっちにして、乳首を俺の口元にもっておいで」
気持ちいい事に忠実。だから恥ずかしくても勝てない。ズルズルと体を上にずらして、可愛らしい乳首が唇に触れる。ボリスはそのまま差し出された乳首を唇に含み、舌を這わせて柔らかく吸い上げた。
「んあぁ! だめぇ、腰抜けるぅ」
自分の体を前傾のまま支えるのが精一杯。ブルブル震えながら耐える姿が可愛い。
ボリスはそのままオイル濡れになっている後孔に指を這わせ、一気に二本埋め込んだ。
「ひぁ! あっ、イッ……ちゃう!」
充分に柔らかい部分を蹂躙しつつ、供物のように捧げられている乳首を遊んで。凄い格好だ。淫靡で……興奮する。
「はぁん、ボリス欲しい……お尻切ないの」
「自分で入れられたら、いいよ」
強く吸った乳首をチュポンと離すだけでブルブルっと震えたフェオドールの孔がキュッと締まった。相変わらず柔らかくて伸びがある部分が微かに震えていた。
体を起こし、片手でボリスの熱源を立てて支えたフェオドールはその上にゆっくりと腰を落としていく。柔らかく熱い部分が滾る肉棒を飲み込んでいく。
「はぁ……あっ、あぅぅ」
「辛くない?」
「……く、ない!」
白魚のような体から汗が噴き出している。それが壮絶な色気になっている。抽挿ではなく、ゆっくりと飲み込んでいく腰はやがてぺたんと全てを収めてしまった。
「あっ、でき、た……」
「ご苦労様」
「んあぁ! あっ、気持ちいぃ!」
トントンとリズム良く突き上げた。柔らかなそこは拒まずに受け入れて飲み込む。ジュブジュブ音をさせながら、熱い肉襞に包まれていると心地よい。そして先端に硬い部分が触れて抉る。
「だめぇ! あっ、イッ……ボリスぅ!」
「いいよ、イキな。俺も気持ちいいもん」
「もっと、長く繋がって……ひぅぅ!」
「でも、一緒に寝たいしね。長くするのは、また今度」
激しく下から突き上げつつ、乳首を捻りあげて泣かせている。可愛いし、もっとその声を聞いていたいけれど疲れているのも本当。彼を抱いて眠りたい。
「いやぁ! あっ、ボリスぅ! イッ……んぅぅぅぅ!」
「いいよ、気持ちいい。俺も……っ、出すよ」
腕を引いて固定して、下から強く激しく何度も奥を突き上げるとフェオドールはあっけなく落ちた。熱い白濁を吐き出し、体を汚してビクッビクッと震えたまま嬌声を上げて背を反らせた。
そしてボリスも熱い肉壺に欲望を吐き出した。予想通りたっぷりで中々終わらない。奥に当たったものが肉壁を伝って落ちて、結合部を汚していく。うん、エロいな。
「フェオドール……って、飛んでるね」
気持ちよかったのか、満たされたのか。腹の上でピクピクしたままフェオドールの焦点が合わなくなっている。でも、とても幸せそうだ。
抜き去って、綺麗にして、シャワーは後で。風呂場で盛らないようにしないと。
そうして綺麗にした場所で彼を抱きしめたまま、ボリスは満足に眠りについた。
▼ゼロス
王都帰還の夜、ゼロスはやや緊張したままクラウルの部屋にいた。
日中はいなかったが、どうやら仕事でいなかったらしい。それというのも引っ張ってきた捕虜の移動や尋問のためにいなかったとか。
尋問……
ブルッと背が震えた。思いだしたのはボリスのやりようだ。
彼は最初、より素直そうなマルコフの攻略を開始した。ルジェールが頑なだったので彼をベッドに縛りつけ……そのくせマルコフの様子はわかるようにして、マルコフを散々道具でイカせまくったのだ。
一時間もすればイキ狂ったのか、常に先走りを溢すようになり顔は蕩けきってよがり倒していた。
この時点でもうドゥーガルドは見ないように外に逃げようとしたが、この小屋は無人という事にしたかったので引き止めた。結果、部屋の隅で壁を相手に耳を塞ぐのが精々だった。
仕上げとばかりにマルコフの前をキツく紐で戒め、尿道に何やら道具を押し込み尻にも太めのディルドを咥えさせて固定し、柱に括り付けたのだ。
あいつは鬼か。ずっと「イクぅ、イクぅ!」とよがり倒し、自ら腰を振ってディルドを擦りつけても出せずに悶えていたマルコフを見て、とても楽しそうにしていた。
ルジェールの方はこの頃にはもう魂が半分抜けていた。そしてボリスの手が自分にかかると半狂乱になったが……こっちも一時間陵辱され、命令され、従えば望んだ快楽を得られると学習したら落ちていった。
あれはない。当然ボリスが皆にあんな事をするとは思っていないし、相手を選んでいる事も分かっている。手当たり次第ではないんだ。
とはいえ、友人の凄まじい責め苦を見ると多少はショックで……しかもこれがクラウルにも共通すると知ると怖くなった。
いや、何度か片鱗は見たのだ。責めるとき、あの人は少し意地悪になる。男の体で女性のような連続した快楽を味わうとは思わなかったし、多少長く責められる。こちらが頭の中真っ白になるまで快楽漬けにされるのはほぼ毎回の事だ。
自分も、一歩手前なんじゃないか?
それを思うと、羞恥と恐怖がせめぎ合っている。自分も抱かれている間、あんな風になっているんじゃないのか? 最後のほうは記憶が曖昧になるくらい気持ちいい事に支配されているからわからないんだ。
そしてもう、あの二人の一歩手前なんじゃないのか? 明日は仕事だからとか思っても結局あの人に流されてしまうのは自分も快楽が忘れられずに求めてしまうからなんじゃ……
「何を悩んでいる?」
「わぁ!」
突然背後から声をかけられ、ゼロスは飛び上がって立ち上がり思わず逃げた。だが、そんなものこの人を相手に通用するわけがない。すぐに掴まって、真正面から見ることになる。
二ヶ月ぶりだ。再会は素直に嬉しいし、戻ってきたんだと思える。けれど、その後ろに違うものも見てしまって怖かった。
「どうしたんだ、ゼロス」
「あぁ、いや……」
「何かあったのか?」
「何も……」
ないなんて、この人の目を誤魔化す事はできない。クラウルの瞳が険しくなって、ビクリと体が反応した。
グッと腕を引かれる。逆らうには強い力だ。そして強引に、胸の中に収められて抱き込まれる。
心臓の音が聞こえる。妙に落ち着く音だ。背中を撫でる手も落ち着く。心が徐々に穏やかになると、恐怖は少し薄れた。
「どうした?」
「……ボリスの尋問を、見てしまって」
「あぁ、あれか。二人ほど駄目になってたな。アレはどうにもならない」
やっぱり、そういうものなのか……
「それで、どうして俺に怯える」
「……貴方も、やるんでしょ?」
躊躇いながら言うと、頭上で明らかな舌打ちが聞こえる。見上げれば眉根が寄って憎らしい顔になっている。
「ラウルか。研修で見せたからな。だからといって、お前にそんな事をするはずがない。お前がお前でなくなったら、こうして一緒にいる意味がないだろ」
「でも俺も……最後はわからなくなるくらいだ。落ちて、いるんじゃないかと」
自分は変わらないままだと思っていた。でも、そう思わされているだけで本当は、どこかおかしくなってきているんじゃ。そんな危機感が押し寄せてくる。
けれどクラウルは目を丸くした後で、申し訳ない顔をした。
「あれはお前が落ちてるんじゃない。俺がお前に溺れているから手放せなくて無茶をさせて……それは悪いと思っている。でもお前は、出会った頃と変わらない」
「本当に、そう思いますか?」
「当然だ。第一、俺に平然と命令したり素っ気ない態度を取るのはお前くらいだぞ。俺を抱きたいと言うのも、実際そうするのもお前だけだ。お前は、自分の意志を捨てていないだろ?」
「……はい」
「そこが違う。俺はお前を落とし込むなんて事しない。お前が拒めばしない」
そう言われると、そんな気もする。確かにゼロスが本当に嫌な事はしない。一緒の布団で寝ても、体を交えない事も多い。明日は仕事だからと拒めばその望みを受け入れてくれる。
背中を撫でる手に、素直に甘える事ができた。身を寄せて、息を吐く。気持ちが落ち着いたのがわかった。
「安心したか?」
「少し、だけ」
「仕事とプライベートは交えない。お前をここに入れている時点で仕事は持ち込まない。第一、俺だって仕事じゃなければあんなこと、望んでするわけじゃない。落とし込んで精神崩壊起こすと戻って来ない奴が大半だ。そうなると楽にしてやるか一生飼うかだからな。良い気分ではないんだ」
「あの二人は」
「既に崩壊してた。ボリスは腕がいいんだろうが、毎回廃人作られても困るからな。あそこまでいく前に口を割らせてこそ、暗府は一人前だ」
少しほっとする。少なくとも自分は廃人にはなっていないし、精神崩壊もしていない。前後不覚になってもぼんやりと記憶はあるし、気持ちをもらっていると思う。
「まったく、戻ってきて安心したのに」
「すみません」
「いいさ、俺が仕事の事を話さないのも確かだ。ただ、一つだけ言うなら話したくないんだ。お前にこんな風に警戒されると心に刺さる。非情な人間にならなければならないから、その姿を見られたくない。これは、俺の我が儘だ」
なんだ、案外可愛い事を言う。
下げたままだった腕を上げて、クラウルの背中に触れた。そして、胸にしっかりと体を寄せた。
知っている、この人はそんな非情な人じゃない。新人ですらない志願者だったゼロスに心を砕いてくれた。たかが一般兵を助けようと、休みなく馬を走らせて助けにきてくれた。しなくてもいい仕事の尻拭いもしてくれた。
何より、ここで抱き合う時の柔らかな顔を知っている。共に眠る朝、気を許して寝息を立てる姿を見ている。激しい夜も、何度も耳元で「愛している」と囁かれている。
大事にされているんだ。ただ、仕事とプライベートの間に差があるだけ。
「見せなくて、いいです。俺は、私人の貴方を信じています。今回のは……ちょっと衝撃的過ぎて混乱しただけです」
素直に謝って、ゼロスは甘える事にした。クラウルは申し訳なく瞳を揺らし、触れるだけのキスを額にして体を離し着替えだした。
「おいで」
ベッドに呼ばれ、近づいていく。そうして一つの布団の中に体を横たえ、逞しい腕に抱かれて……それ以上は、なかった。
「しなくていいんですか?」
「今日はいい。まだ暫く休みだろ?」
「そうですが……」
「今はこれでいい。俺もしばらくは王都にいられる。同じ場所にいるんだ、望めばいつだってできる。今日は、このままだ」
拍子抜けして、でも正直に体の力は抜けた。久々だから絶対に抱き合うのだと思っていたんだ。
安心した。やっぱり優しいじゃないか。あんな狂気は……時々片鱗は見えても絶対じゃない。
「今日は、ぐっすり眠れる気がする」
「俺も、そんな気がします」
抱き合って、体温を分け合うだけ。それでも絶対的な安堵が胸にある。いつしかゼロスはウトウトと微睡み、夢の中に落ちていった。
▼レイバン
夕食を食べて部屋に戻ったら、少し疲れていたのかあっという間に寝てしまっていた。
目が覚めたのは随分遅くなってから、汗をかいた額に冷たいタオルを当ててくれる大きな手に気付いてだった。
「あ、れ? ジェイ、さん?」
「起きたか。少し顔色が悪いと思っていたが、微熱があるぞ」
「え? そんなの、全然気付かなかった」
少し怠いと思っていたけれど、長期の遠征から帰ったばかりだから疲れが出たんだと思っていた。体の具合も悪いと思っていなかったから、気付かなかった。
「医務班のリカルドに診てもらった。風邪ではなく、疲れが出たんだろうと言っていた。数日ゆっくり休めば良くなるそうだ」
「そ、か……ごめん、心配かけて」
「気にするな。怪我や病気じゃなくてよかった」
優しく笑うジェイクにほっとする。そしたら余計に体が重くなって、ベッドから起きられなくなった。
「汗かいてるな。体拭いて着替えるか」
「俺、体起こせない」
「少し熱が上がったか?」
心配そうに額に触れる節のある手が心地良い。大きな手が体を支えて起き上がらせてくれて、湯で濡らしたタオルを持ってくる。
「して~」
「まったく、子供じゃあるまいし」
「いいじゃん、旦那様に甘えたいの」
そう言われるとまんざらではないのだろう。溜息をついても、肌が赤くなるからわかる。
服を脱がせてもらって、優しい動きで体を拭かれる。とても丁寧で、首筋や背中、関節の内側なんかも優しく拭ってくれる。
「今日はジェイさんとイイコトしようと思ってたのに」
「熱が下がったらな」
「早く治さないと」
熱を出すなんて何年ぶりだろう。祖父を亡くして苦労し始めたくらいから、具合が悪いなんてなかった。
でも、言ってはなんだけれど……悪い気はしない。誰かが心配してくれて、こうして看病してくれる。それは少し特別で、嬉しくて恥ずかしい。
新しい寝間着を出してもらって、それも着せかけてくれる。その後はレモン水を飲んでまた横になった。
「ジェイさん、一緒に寝ようよ。風邪じゃないなら移らないでしょ?」
「まったく」
頭をかきながらも側に来て、隣に寝転んで抱き込まれる。狭いシングルベッドの中で大の男が二人身を寄せ合っている。
「ちょっと、狭いね」
「これが落ち着いたら新調するか?」
「できるの?」
「結婚していればな」
「じゃあ、この戦争終わったら見に行こう」
また一つ約束が増える。これを目標に、また先に進める。
「明日は、美味い粥を作ってきてやる」
「ほんと? 楽しみ」
嬉しくて、テンション上がって熱が上がりそう。でも辛くないのは、幸せな熱だからだ。
応援ありがとうございます!
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