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機械都市編

071話 プログラム更新、そして再起動

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-機械都市ギュノス国 クリスタルタワー-

クリスタルタワー内部も全ての光源を失い暗闇に包まれていた。

警備の人型機械兵や衛兵等の姿も無い、ルンバ型やドローン型も指令電波の受信が無いらしく自立行動をしている気配は無い。

暗闇でも視界がクリアに見えるDOSどっちゃんを先頭に9階層を目指して進む。
幸い扉の電子ロック等は施されていなかったので、地下に向かうのに苦労は無かった。

不意にDOSどっちゃんが立ち止まる。

DOSどっちゃんどうしたの?」

「非常時には緊急処置で防御壁が降りてくるはずだが。」

「妙でござるな。非常用電源すら機能していないのでござるか?」

何らかの非常事態が起きた場合、上部に格納されている防御壁が降りダンジョンの様な構造になるはずだ。

しかしそれすらも作動した形跡が無い。
まるで時間でも止まっているかの様だ。

「緊急事態を知らせる前に、全ての動力がカットされた様に見えるな。」

「・・・・策謀か。面白い。」

暗闇で表情は見えないが暗黒神ハーデスハーちゃんがニヤリと笑ったのが口調で分かる。

この停電は事故等では無く、何者かの策略で起きたのだと確信したのだろう。
私の特殊技能スキル【索敵】にも敵影は確認出来ない。

普段マザーブレインの警備で歩き慣れている通路も暗闇に包まれるだけで随分と印象が変わる。

非常階段を使用し直通で9階層へと下って行く。

非常階段は3階層の行き止まりに巧妙に隠されており、普段は使用出来ない。
マザーブレインの認可された人物のみが通れる魔法的な壁を通る事で使用出来る。

そこからは9階層まで直通だ。
足元に気を付けながら下の階層へ降りて行った。

そして私達は9階層へと到着した。

広いフロアには何個か光源を見つける。
どうやらこの部屋には僅かに電気が通っている。

暗黒神ハーデスハーちゃんと咲耶が最下層に続くエレベーターのチェックをしていた。

9階層の大広間は意外な事に通電している様で、室内が非常灯で赤く染まって不気味な雰囲気を漂わせている。

「大丈夫、動きます。」

「なんか不気味だよね、何か敵が出る様な雰囲気。路地を曲がるとゾンビが人喰ってるとかさ。」

バイ●ハザード系のストーリー後半に侵入するラボ的場所の雰囲気を感じて、私の中の恐怖心が駆り立てられる。

こう言う広いフロアには超大型クリーチャーが現れて戦闘になるのが良く有る展開だ。

「シノブ殿・・・怖いからって変なフラグを立てないで欲しいでござる。」

「こ、怖くは無いもん。」

嘘だ!怖い。
超怖い。

心理的不安から来る避けようも無い恐怖。
それを喋る事と強がる事で緩和しているんだ。

もし1人だったら逃げ出しているかも知れない。

「シノブ、手を繋ぎましょう。私から離れないでください。」

「手を繋ぐといざと言う時に抜刀が遅れるでござる、これだから初心者は・・・」

サクラと咲耶がいつもの様な喧嘩を始める。
いつもなら「またやってるよ」と思うだけだが、今は2人の余裕有る態度が少し私の中の恐怖を和らげる。

「サクラ、咲耶、下層へ降りるぞ。シノブは私の後ろに。」

DOSどっちゃんが少しイラついている様な口調で2人を急かす。

パーティーの先頭に立って貰っている上に、先程も喧嘩を仲裁したりと世話ばかりかけてしまっているからイラつくのも当然かも知れない。

エレベーターの機動ボタンを押すと下層に向けて動き出す。

機械音は無く静かにエレベーターは下降する、この雰囲気はゲーム内のマザーブレイン戦闘前と似てる。

自然と鼓動が高まる。
マザーブレインとのレイドボス戦はゲーム内屈指の難易度を誇る。

「マザーと戦う事になったら、我は牽制する位しか役には立てんぞ。」

「私も補助魔法メインでバックアップくらいしか出来ませんね。」

ゲームではマザーブレインまでの機械兵は全て電撃弱点で統一されている。
しかし、マザーブレインは高攻撃力、魔法耐性、電撃無効と電撃物理攻撃の得意な咲耶や暗黒神ハーデスハーちゃんの様な魔法職には不向きな戦闘となる。

エレベーターがゆっくりと停止し最下層へと到着する。

「赤」・・・・警報アラートが点灯し元々白かった部屋全体が深紅で彩られている。

しかしゲームとは違いマザーブレインは戦闘態勢に入っていない。

中央の巨大クリスタル内部で普段と変わらない様子で祈る姿勢で揺蕩っている。

此方が話しかけても反応は無い。
普段なら割とお喋りをしてくれるのに。

「反応が無いな。何かに対応中なのか?」

「パソコンが読み込み中みたいなアレ?カリカリって音が鳴るヤツ。」

「スペック不足的な感じでござるか?」

皆でアレやこコレやと話をしていると部屋が急に暗くなり、体の内部に響く様な重低音が鳴り響いたと思うと部屋が徐々に明るさを取り戻し真っ白な空間に戻る。

さながらパソコンを再起動した時に様な音が部屋全体に重く鳴り響く。

クリスタル中央のマザーブレイン本体はゆっくりと目を開く、光の無い金色の眼球と目が合う。

クリスタルの内部は透き通った水の様な物で満たされているのか、蒼い髪がゆっくりと揺れる。
何か分からないけど、いつもと雰囲気が違う・・・気のせいかな。

『・・・・たった今、暗黒神ザナファの封印が解けました。』

「一体、この都市に何があったのですか?」

動揺する私達を他所に、DOSどっちゃんが冷静に事の経緯をマザーブレインに問う。
マザーブレインは静かに語った。

外部より莫大なデータが流れ込み都市経営機能に割り当てていた各省のAIも全て総動員し対応していたのだと。

データの精査処理を行いマザーブレインはバックアップを隔離転送処理をして再起動を行った結果、都市機能は一時的に停止せざるを得なかったらしい。

「まるでハッキングですね。」

「暗黒神を復活させる為にハッキングプログラムが流れ込んだ?・・・と。」

「その外部って何処か特定は出来ないのでござるか?」

『・・・・座標〈31 15′15.53N 24 15′30.53W〉』

「座標で言われても分からないよ・・・・」

「その座標なら分かる。この世の深淵、我と血を分けし暗黒神ザナファが眠る魔界の聖域。」

あ、暗黒神ハーデスハーちゃんって暗黒神と兄弟的な設定だったのか。

キャラメイク時にすでに考えていたのかな?

彼は元々アルファテスターだったらしく、このゲームの最初期から参加している超古参プレイヤーと聞いた。

暗黒神ザナファが眠るって言ったらストーリーモード最終局面の南極「ハルモニア大陸」に存在する「アビスダンジョン」だ。

「・・・アビスダンジョン。シナリオ通りに強制的に移行した様だな。」

確かにゲームのシナリオ通りだ。

今までゲームと違う点は洞窟のドラゴン戦を回避しハイメス国とオスロウ国は健在の上、両国の都市防衛機能は向上。

マザーブレインとの戦闘が避けれたし機械都市ギュノス国も都市機能は無事のまま最終局面へ突入出来た。

結果論だけど凄く良い結果なんじゃないだろうか?これも一重にギルドメンバーの皆が居たからだ。

まるでサービス最終日の・・・
そう、ゲーム2週目の追体験の様な気分だ。

「じゃ街の外はモンスターが強化され、空は赤く変色しているはずですね。」

「いよいよラストダンジョンの登場でござるな。」

「ミカエルに会えてないが、彼女は来ているのだろうか。」

「ふん、御使いの様な派手な格好した女が目立たない訳が無いがな・・・」

「うん、ミカさんは目立ちそうな感じがするね。後光エフェクトが光ってるし。」

ミカさんに会えていないのは少し気になるけど、ゲームのストーリーモード通りなら暗黒神ザナファを倒さないと強化モンスターに各街や村は破壊されて世界が崩壊に向かう。

ゲームでは今より暗黒神ザナファを倒すまでの期間、各国でアイテム購入が不可能になる謎の縛りが存在する。

大抵、速攻でクリアするので気にするプレイヤーは居なかった。

この世界はゲーム世界よりもモンスターの能力が全般的に高い。
早期に暗黒神ザナファを倒さないと各国の被害が拡大するのは間違いない。

『・・・・・・・・・』

皆で話し合い明日中に準備を整えリナとリオを村に送り終えた後、アビスダンジョンへ向かう事にした。

彼女達は毎回イベントに巻き込んでいる様で申し訳ないと言うかなんと言うか・・・
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