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異世界崩壊編 前編

190話 小さな波紋

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王宮で夕食の席に呼ばれる。
大きな長方形のテーブルに美しい白いクロスが敷かれコース料理の様に少しずつ多種類の豪華な食事が出されて行く。

しかし話をする雰囲気じゃなく、部屋にはナイフとフォークの音だけが響いて微妙に食べた気がしない。
テーブルマナーなんて知らないし・・・

後ろで控えている侍女達の視線が気になる。
彼女達は私達が水を飲み干したら待ち構えていたかの様に即行で補充する程張り詰めて仕事をしている。

少し離れた席に王様達は座っているがセーニアは上品ながらもムスッとした表情で食べている。

「シノブ、セーニア姫が怒っている様ですが何か有ったのか?」

隣に座って食事をしていたミカさんが小声で話しかけて来た。
流石に鋭い観察眼だ、溜息を付いて私はお風呂で有った事を話す。

「それは・・・まずいですね。婚約者の安否が不明な状況で、その事実を知ったセーニア姫は恐らく・・・」

ミカさんと小声で話している時に、セーニアは両手で大きくテーブルを叩き立ち上がる。
私達と、その場に居た使用人も含めた全員が驚いて姫の方に視線を向ける。

「ほらね」と言わんばかりにミカさんが頭を抱えた様な表情をしている。

「お父様、お母様!お話がございます!・・・が、まず使用人全員この部屋から退出しなさい!」

セーニアは部屋中に響く声で使用人達に退出を指示した。

使用人や侍女達は顔を見合わせ、少し動揺した様子で慌てて部屋を出ていく。
カチャリと言う音を立て部屋のドアが閉まると部屋が一瞬静寂に包まれる。

「ミカエル、私は先程シノブから聞いた!この世界の成り立ちと終わりの事を!事実なのか!?再度問う!シノブ!嘘なら嘘でも良い!むしろ嘘だと言ってくれ!」

王様と王妃様は何を言っているのか分からず、姫とミカさんの顔を交互に伺う。
多少取り乱した様子のセーニアに、私はどう答えて良いか分からず口籠る。

その時ミカさんが私を征して立ち上がりセーニアに落ち着く様に促す。
そして私達が知っているこの世界の成り立ちと、迫っている終焉に付いての話をした。

「其方らは別の世界の人間で、魔人を倒してもやがてこの世界が消えて無くなるとな。確かに其方らの強さは常軌を逸していると聞くが・・・ふーむ。」

「俄かに信じられませんが、今の話は本当の事なのですか?」

国王と王妃は食事の手を止めて神妙な表情で聞き返してくる。
皆も突然の問い掛けに戸惑う。そこで口を開いたのはミカさんだった。

「信じれないのも無理は有りません。仮に魔人ハスタや魔人ヨグトスを倒しても、この世界は恐らく消えて無くなります。しかし、今何もしなくても恐らく世界は滅ぼされます。私達は残りの魔人ハスタと古代神カノプスを倒し、破壊神となったヨグトスを討ちます。実際その後何が起こるのかは分かりません。」

ミカさんが私を見つめる。

私も破壊神アザドゥを名乗るお婆さんから聞いただけで、本当の事かどうか自分で精査する事すら出来ない。
王様達の表情を見て、何故かいたたまれない気持ちになり思わず俯く。

「私が・・・私がこの世界に残れば、この世界を救えるかも知れません!」

「シノブ殿!」「シノブ、何を言ってるんですか!」
「・・・・」「ふむ、そうかも知れんな。」

「この世界は私の能力と魔人ヨグトスの制御で造られていると聞きました。
私が魔人ヨグトスを説得出来れば、皆は現実世界に戻れてこの世界も滅びずに済むんじゃないかな?」

確信なんて無いけど可能性が有るとすれば、単純にこの方法が最善なんじゃないかと思った。

突然の私の発言にギルドメンバーも驚く。

「そんな事が可能なのか?世界は滅びないのか!?」

セーニアが私の発言に喰いつく。
ゲームプログラムから進化した超高性能AIを説得するなんて自信は全く無い。
この場を治める為の根拠の無い詭弁かも知れない。

でも出来たらこの世界で暮らす幾多の人々を救いたいのは本心だ。
元はゲーム内のNPCだとしても今は違う。

自我を持ち生活を営み、笑い泣き・・・善人も悪人もそれぞれの人生を送っている。
この世界で数ヶ月間過ごして来た中で出会った人々との繋がりは現実の「人」との関りと何ら大差無い。

「拙者は今のシノブ殿の発言は納得がいかないでござる。」

「そうですね。理想論で有ってリアリティが有りません。」

サクラと咲耶が私の意見を完全否定する。

「・・・・もし、それが出来たとして、シノブの本体はどうなる?この世界は救われるかも知れないが別の世界の君は意識不明のままになる可能性が有る。自己犠牲は美談に聞こえる、しかし意識の無い君と残された君の家族はどうなる?」

DOSどっちゃんがこのゲームを始めるきっかけは事故で家族を失った事からの逃避だと以前聞いた。
その話を聞いた私にとってDOSどっちゃんの言葉は重さが違う。

まるで本当の父親に悪い事をして問い詰められているかの様な威圧感が有る。
当然感情に任せて反論なんて出来るはずも無い。

子供の頃から「相手の立場に立って物事を考え接しろ」と教えられて来た。
それは道徳的に正しい教えかも知れないがそのせいで私は消極的な人間になってしまった。

決して弱くは無いけど強くも無い。
相手が傷付くかも知れないと考えると行動や自己の考えを管理している場所を制御する所の安全装置が働き、急ブレーキが掛かる。

その為か自己主張が強く、無責任に考え無しで前へ前へ出て行く陽キャもどきにはなれなかった。
でもゲーム内ではリアルと少し違い皆に本音で話していた・・・・と思う。

ゲームと違う別のリアルのこの世界では私は常に本音だったのだろうか?

「それでも私は・・・この世界を救いたいと思ってる!可能性がゼロじゃないなら!」

私は思い切って本音を吐露する。
それはDOSどっちゃん達の意見の否定に近い。

澄んだ水面に1粒の水滴が落ちて、小さな波紋が生まれる。
この小さな水滴の様な自己主張が、後に大きな波紋になる事を私は想像出来無かった。
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