23 / 80
第3章 揺れるカーテン(アンドリュー)
第6話 国の契約
しおりを挟む窓からの風がカーテンをゆらりと揺らす。その度に部屋の明るさがゆらゆらと変化した。
「なぜ百年に一度の契約は2つの家とだけ結ばれているのだと思いますか?」
カルロの暴露話の衝撃が頭をかき混ぜ、問われたところで整理ができない。
「保険では……ないのか?」
「そう、条文の任意ということを考えれば保険なのでしょう。しかしそれにしては少ないと感じませんか? 百年に一度ではあるが召し抱えられた長子は子をなさない。男であっても女であっても」
話の行方が見えない。カルロだけが知る道を後ろから眺めることしかできなかった。
「私の勝手な推測ですが、昔はもっと契約していた家があったのではないでしょうか」
つまりは、不妊や事故などの予期せぬ全滅の保険にしては契約を結ぶ家が少ない。現在のシュトラウス家とキルステン家は淘汰された結果だ、とカルロは推測する。
「王族はエルフですしね。人間なんてただの道具くらいにしか思っていないのでしょう。だからその宿命で被る不幸なんて見向きもせず、家が滅びようとお構いなし。なかなか腹立たしいじゃないですか」
確かに先代やリノールが順当に子孫を増やせるようには思えなかった。それは性別というより、過度な魅力は身を滅ぼすといった理由の方がしっくりくる。先代がこの家を離れゆっくりと狂っていったのも、そうした望まぬ関係を避けて孤独になったから、といえるのではないか。
「どうせ滅びるのだったら、せめて愛する人と人生を謳歌してほしい。人間を道具のように扱うエルフが、貴方ほどリノール様を愛せるとは思えない」
話している内容にはそぐわない爽やかな風がカーテンを揺らし続ける。リノールの肌が、揺れているようなのだ。
「王宮に書簡を送付します」
「俺に自由意志はないのか」
「内容はお任せください。リノール様が恐れることは大体わかっています。ただし、一度召し抱えられた者は自らの意思で王宮からは出られないでしょうから……」
「俺に……」
「そういえばアンドリュー様は馬上槍試合ではどの程度の腕前なのです?」
とりつく島がないとはこのことだ。しかも今、なぜ馬上槍試合が関係あるのだ。
「来月から定期的に国営の試合があるそうです。賞金もはずむようですし慣例的に次期国王と伴侶も観覧されるそうです。ちなみに国王は厳格な任期制で、リノール様を召し抱えたのは次の国王です」
「俺は……」
「まさか赤の他人が、リノール様の財産に手をつけるわけではございませんよね? どの道、賞金を稼がなければならないのです。腕に自信がないのであれば、来月までにその辺の領地で小金を稼いでください」
意思どころか、発言権さえ奪われた。
「欺くための方便に、あんな甲冑など無駄だと止めたのですが。いやはや、リノール様の先見の明には感服いたします。剣はこの家に代々受け継がれるものがございますので」
カルロは畳みかけるように喚き散らしながら歩きだし、乱暴に扉を閉める音で最後を飾った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる