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第4話 弟のキス
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ミオはおずおずと、俺の側に擦り寄り、そして裾を掴んだ。
「なぁ、一緒にベッドで寝ようよ。今日はもう疲れたろ?」
さっきの行いに悪びれもせず、擦り寄ってくるミオが、なんだか懐かしい気分にさせる。なぜそんな気分になるのかはわからないが、多分幼少期の思い出に根付くものなのだろう。
「じゃあ、一緒に寝るか」
「わーい!」
ミオは歓喜の声と共に着ていた服を脱いでいく。
「ミオの服は少し大きすぎやしないか?」
「大は小を兼ねるっていうだろ!」
成長盛りの16歳、次の年を見込んで大きめな服を買うというには大きすぎる。ベルトやサスペンダーを外すと中に折り畳まれた余分な布がだらりと垂れる。ミオはその布の隙間からなにかを取り出し、ベッドの上に並べはじめた。
「それらはなんだ?」
「俺の宝物さ!」
木の枝、形のいい石、木の実、小さな鉄屑、紐やガラスの破片……つまりはガラクタだった。木の枝を掴んで、それをまじまじと見る。
「これは……?」
「これは帝国の西の森に行ったときに見つけたんだ。そんな形の良い枝を見つけられるなんて、俺ってラッキーだと思わないか?」
ガラクタの一つ一つに思い出があるのだろうか? よくわからない物たちをまじまじと眺める。
「欲しいって言ったってやらないぞ。どれかひとつでも欠けたらダメなんだ」
「そうか……今日の思い出はあの袋の中から選ばれるのか?」
「金は使ったら無くなっちゃうだろ」
「宝石も入っていただろう。その石より綺麗ではないか」
「レジーはなんにもわかってないな! みんなが綺麗だと思う物じゃダメなんだ! 俺だけがその良さがわかる、世界でたったひとつの石じゃなきゃ! そうじゃなきゃ、誰になに言われても好きだって言えないだろ!」
石もかわいそうだ! そう顔を背け、ミオは鼻を鳴らす。俺はその言葉になぜか胸がギュッと収縮して、息苦しさを感じた。それはミオのこどもっぽさに郷愁を感じたのかもしれない。または、こんな簡単な理論もわからなくなってしまった年長者の嘆きからかもしれない。
その言葉に真実のカケラが隠されていて、ミオはこの宝物のように、その純真を大切にしているのだと感じたのだ。
「なぁ、今日の思い出をくれるなら……俺にキスをくれよ。兄弟っていうのは寝る前にキスをするんだろ?」
娼館で働いていたのならばそんなことは日常茶飯事だろう。さっきの言葉を聞かなければミオが欲しいと思うキスがわからずにいた。
「ああ」
ミオが宝物を服の上に片付ける横で、俺は服を脱ぎ、肌着だけになった。ミオはベッドにうつ伏せに寝転がり、両足で空気をかき分けて見つめる。
「レジー、なんて綺麗な体なんだ。今日本当に兄弟のキスをしてもいいのか?」
ミオはそう言いながらも、俺が近づけばベッドの端に寄った。空いた場所に寝転ぶと目の前に、金のまつ毛に縁取られた大きな碧眼がのぞく。それがゆっくり閉じたと思ったら、唇に生温い感触があった。ミオは俺の頭を手でしっかり押さえて、唇に何度もキスをする。
「なんだよレジー、キスが下手だな。兄弟いないのかよ」
「弟がいる。しかし兄弟ではこんな風にキスをしな……」
言ってるそばからミオは唇を塞ぎ、舌で割って口の中に入ってこようとした。
「ミオ、くすぐったい」
「弟としなくたって、キスくらいするだろ。なんだレジーはキスもしたことがないのか。街の婦人はみんなお前に夢中なのに」
「そうなのか? ただの1人もそんな風に声をかけてくれなかった」
「そっか。凱旋の時、先頭で馬に跨るレジー、本当にかっこよかった。あんなの見たら婦人はどうせ振り向いてもらえないって思うかもな」
ミオは俺の口に親指を入れ、開いた唇に舌を捻じ込んでくる。舌が触れると不思議と気持ちがいい。クチュ、クチュと唇の端から、ミオの音と吐息が漏れる。そして小さな手が俺の腹を下り、足の付け根を這った。こどものすることとは思えないアンバランスな行為に少しの戸惑いを抱く。
「俺……帝国の婦人ほど綺麗じゃないけどさ、娼館ではなかなか人気があるんだ……だから……さ」
押し付けられた股間で、ミオの言わんとしていることはわかった。しかし、上手い断り方がわからず、ミオの大きな瞳を見続ける。
「娼館の、しかも男なんて。相手にしてくれるわけないか」
「違う。俺にはミオと同じ歳の弟がいる。弟にしてるみたいで、そういう気分には……」
「じゃあ、俺をレジーの弟にしてくれる?」
「ああ」
細い腰を抱き寄せたら、ミオが胸の中でヘヘッと声をあげて笑う。
「弟なんだから、さっきの話。教えてくれよ」
今度は俺が声を出して笑った。欲しいものに忠実、その気持ちよさが俺の胸に晴れ間をもたらすのだ。
「なぁ、一緒にベッドで寝ようよ。今日はもう疲れたろ?」
さっきの行いに悪びれもせず、擦り寄ってくるミオが、なんだか懐かしい気分にさせる。なぜそんな気分になるのかはわからないが、多分幼少期の思い出に根付くものなのだろう。
「じゃあ、一緒に寝るか」
「わーい!」
ミオは歓喜の声と共に着ていた服を脱いでいく。
「ミオの服は少し大きすぎやしないか?」
「大は小を兼ねるっていうだろ!」
成長盛りの16歳、次の年を見込んで大きめな服を買うというには大きすぎる。ベルトやサスペンダーを外すと中に折り畳まれた余分な布がだらりと垂れる。ミオはその布の隙間からなにかを取り出し、ベッドの上に並べはじめた。
「それらはなんだ?」
「俺の宝物さ!」
木の枝、形のいい石、木の実、小さな鉄屑、紐やガラスの破片……つまりはガラクタだった。木の枝を掴んで、それをまじまじと見る。
「これは……?」
「これは帝国の西の森に行ったときに見つけたんだ。そんな形の良い枝を見つけられるなんて、俺ってラッキーだと思わないか?」
ガラクタの一つ一つに思い出があるのだろうか? よくわからない物たちをまじまじと眺める。
「欲しいって言ったってやらないぞ。どれかひとつでも欠けたらダメなんだ」
「そうか……今日の思い出はあの袋の中から選ばれるのか?」
「金は使ったら無くなっちゃうだろ」
「宝石も入っていただろう。その石より綺麗ではないか」
「レジーはなんにもわかってないな! みんなが綺麗だと思う物じゃダメなんだ! 俺だけがその良さがわかる、世界でたったひとつの石じゃなきゃ! そうじゃなきゃ、誰になに言われても好きだって言えないだろ!」
石もかわいそうだ! そう顔を背け、ミオは鼻を鳴らす。俺はその言葉になぜか胸がギュッと収縮して、息苦しさを感じた。それはミオのこどもっぽさに郷愁を感じたのかもしれない。または、こんな簡単な理論もわからなくなってしまった年長者の嘆きからかもしれない。
その言葉に真実のカケラが隠されていて、ミオはこの宝物のように、その純真を大切にしているのだと感じたのだ。
「なぁ、今日の思い出をくれるなら……俺にキスをくれよ。兄弟っていうのは寝る前にキスをするんだろ?」
娼館で働いていたのならばそんなことは日常茶飯事だろう。さっきの言葉を聞かなければミオが欲しいと思うキスがわからずにいた。
「ああ」
ミオが宝物を服の上に片付ける横で、俺は服を脱ぎ、肌着だけになった。ミオはベッドにうつ伏せに寝転がり、両足で空気をかき分けて見つめる。
「レジー、なんて綺麗な体なんだ。今日本当に兄弟のキスをしてもいいのか?」
ミオはそう言いながらも、俺が近づけばベッドの端に寄った。空いた場所に寝転ぶと目の前に、金のまつ毛に縁取られた大きな碧眼がのぞく。それがゆっくり閉じたと思ったら、唇に生温い感触があった。ミオは俺の頭を手でしっかり押さえて、唇に何度もキスをする。
「なんだよレジー、キスが下手だな。兄弟いないのかよ」
「弟がいる。しかし兄弟ではこんな風にキスをしな……」
言ってるそばからミオは唇を塞ぎ、舌で割って口の中に入ってこようとした。
「ミオ、くすぐったい」
「弟としなくたって、キスくらいするだろ。なんだレジーはキスもしたことがないのか。街の婦人はみんなお前に夢中なのに」
「そうなのか? ただの1人もそんな風に声をかけてくれなかった」
「そっか。凱旋の時、先頭で馬に跨るレジー、本当にかっこよかった。あんなの見たら婦人はどうせ振り向いてもらえないって思うかもな」
ミオは俺の口に親指を入れ、開いた唇に舌を捻じ込んでくる。舌が触れると不思議と気持ちがいい。クチュ、クチュと唇の端から、ミオの音と吐息が漏れる。そして小さな手が俺の腹を下り、足の付け根を這った。こどものすることとは思えないアンバランスな行為に少しの戸惑いを抱く。
「俺……帝国の婦人ほど綺麗じゃないけどさ、娼館ではなかなか人気があるんだ……だから……さ」
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「違う。俺にはミオと同じ歳の弟がいる。弟にしてるみたいで、そういう気分には……」
「じゃあ、俺をレジーの弟にしてくれる?」
「ああ」
細い腰を抱き寄せたら、ミオが胸の中でヘヘッと声をあげて笑う。
「弟なんだから、さっきの話。教えてくれよ」
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