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第6話 不毛の大地
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航海は順調で、嵐に巻き込まれることなく海を渡る。予定通り5日後の朝、大陸が見えたと、船内の乗客が走り回る音で目が覚めた。ミオはあれから毎日俺の頭を抱いて寝る。
「レジー、おはよう! 大陸が見えたみたいだよ! レジーも見に行く? はじめてなんだろ?」
ミオは鳥のように朝を謳歌してよく囀る。腕に抱かれて眠るのはこれが最後かと思うと、離れ難く少しだけミオを抱き寄せた。
「なんだよレジーは甘えん坊だな。でも俺は嬉しいぜ。兄弟って感じだもんな」
ミオがエヘヘと笑う。その笑顔が眩しく弾けた。
「腕は痺れないのか?」
「なんだよ、もう5日もこうやって寝ておいて。でも大丈夫。これからだってこうやって寝てやるよ? レジーはあっちの大陸で仕事見つけるまで、俺がちゃんとついていてやるからな」
「ああ、頼もしいな。ミオは大陸のどこら辺に住んでいるのだ?」
俺の質問に小さく疑問符を浮かべたミオは、首を傾げている。そういえば孤児と言っていたから定住していないのかもしれない。
「こっちの大陸では街の家賃がバカ高いんだ。だから俺みたいな貧乏人は基本野宿さ。街の外は危ないけど、金獅子の双腕だったら安全だろ?」
思いがけないこっちの大陸の事情に驚いた。帝国の内情は知っていても、一歩外に出てみるとわからないことだらけだ。
「街の外はなんで危ないんだ? 治安がそんなに悪いのか?」
「はーあ、帝国の人間はこれだから……。帝国と違って、こっちの大陸は人間だけが住んでるわけじゃないんだ」
「野生動物ということか?」
「まあ、そんなところかな……」
船は汽笛を鳴らし港に着岸する。はしゃいだミオに手を引かれ甲板に躍り出た。そこで目にした風景に心を奪われる。
ベリニア帝国のある大地を表す言葉はない。先々代の皇帝が全土を統一したため、大地の名前はつまりベリニア帝国なのだ。
しかし今俺の前に広がる大地には名前があった。「不毛の大地」それは名称ではなく形容であるが、つまりは帝国が興味のなかった大地ともいえる。
不毛の大地は国ともいえない小国がひしめきあい、資源もない。唯一の連絡船は俺のように島流しの犯罪者を送るか、不毛の大地に僅かに住む島流しの末裔の出稼ぎの者を迎えるかのどちらか。帝国ではそんな程度の認識しかなかった。その程度の認識しかないから、刑期の終えていない犯罪者か否かの入国チェックしかないのだ。
「どうだい? なかなか綺麗でびっくりしただろう」
眼下に広がる大地は緑豊かで、街は栄えていた。遠くに見たこともない浮島のようなものまである。楽園。そんな2文字が相応しい光景だった。
「地獄みたいなところ想像してただろ? 帝国の人間は不毛の大地なんていうけど、これ見たらびっくりするだろうな」
変な声を立ててミオは笑う。全くその通りだと思う。帝国は確かに栄えていた。しかし人にとっては便利でも、この大地のように自然と共存していない。
「なあ、レジー。俺、今日はどうしても行かなければならないところがあるんだ。だからレジーは俺の知り合いのところに泊まっててくれないか? 明日には必ず迎えに行くから」
「あ、ああ。確かにミオの案内がなければ到底暮らせそうにないな……」
タラップを降りるときに目に入る群衆は、帝国のそれとは全く違った。巨大な体躯に灰色の肌をした者、小さな体が全身毛で覆われた者。さっきミオが街の外は危険だと言っていた意味を肌で感じる。この大地は人間が統治していないのだ。
「街にいる奴は一応同じ言葉喋るから、それは安心しな! 知り合いの家は街の外れにあるけど、そいつもちゃんと言葉が通じるから」
当たり前のように言うミオの言葉から、言葉の通じない異形の者がいるということを知る。
「ミオに出会えてラッキーだったな」
「なんだよ、レジーはみんなが知っている俺のことしか知らないだろ! お礼を言うのはまだ早いぜ!」
ミオはそっぽを向いて、歩き出す。しかしブロンドからのぞく耳が赤く、その足取りも軽かった。
「レジー、おはよう! 大陸が見えたみたいだよ! レジーも見に行く? はじめてなんだろ?」
ミオは鳥のように朝を謳歌してよく囀る。腕に抱かれて眠るのはこれが最後かと思うと、離れ難く少しだけミオを抱き寄せた。
「なんだよレジーは甘えん坊だな。でも俺は嬉しいぜ。兄弟って感じだもんな」
ミオがエヘヘと笑う。その笑顔が眩しく弾けた。
「腕は痺れないのか?」
「なんだよ、もう5日もこうやって寝ておいて。でも大丈夫。これからだってこうやって寝てやるよ? レジーはあっちの大陸で仕事見つけるまで、俺がちゃんとついていてやるからな」
「ああ、頼もしいな。ミオは大陸のどこら辺に住んでいるのだ?」
俺の質問に小さく疑問符を浮かべたミオは、首を傾げている。そういえば孤児と言っていたから定住していないのかもしれない。
「こっちの大陸では街の家賃がバカ高いんだ。だから俺みたいな貧乏人は基本野宿さ。街の外は危ないけど、金獅子の双腕だったら安全だろ?」
思いがけないこっちの大陸の事情に驚いた。帝国の内情は知っていても、一歩外に出てみるとわからないことだらけだ。
「街の外はなんで危ないんだ? 治安がそんなに悪いのか?」
「はーあ、帝国の人間はこれだから……。帝国と違って、こっちの大陸は人間だけが住んでるわけじゃないんだ」
「野生動物ということか?」
「まあ、そんなところかな……」
船は汽笛を鳴らし港に着岸する。はしゃいだミオに手を引かれ甲板に躍り出た。そこで目にした風景に心を奪われる。
ベリニア帝国のある大地を表す言葉はない。先々代の皇帝が全土を統一したため、大地の名前はつまりベリニア帝国なのだ。
しかし今俺の前に広がる大地には名前があった。「不毛の大地」それは名称ではなく形容であるが、つまりは帝国が興味のなかった大地ともいえる。
不毛の大地は国ともいえない小国がひしめきあい、資源もない。唯一の連絡船は俺のように島流しの犯罪者を送るか、不毛の大地に僅かに住む島流しの末裔の出稼ぎの者を迎えるかのどちらか。帝国ではそんな程度の認識しかなかった。その程度の認識しかないから、刑期の終えていない犯罪者か否かの入国チェックしかないのだ。
「どうだい? なかなか綺麗でびっくりしただろう」
眼下に広がる大地は緑豊かで、街は栄えていた。遠くに見たこともない浮島のようなものまである。楽園。そんな2文字が相応しい光景だった。
「地獄みたいなところ想像してただろ? 帝国の人間は不毛の大地なんていうけど、これ見たらびっくりするだろうな」
変な声を立ててミオは笑う。全くその通りだと思う。帝国は確かに栄えていた。しかし人にとっては便利でも、この大地のように自然と共存していない。
「なあ、レジー。俺、今日はどうしても行かなければならないところがあるんだ。だからレジーは俺の知り合いのところに泊まっててくれないか? 明日には必ず迎えに行くから」
「あ、ああ。確かにミオの案内がなければ到底暮らせそうにないな……」
タラップを降りるときに目に入る群衆は、帝国のそれとは全く違った。巨大な体躯に灰色の肌をした者、小さな体が全身毛で覆われた者。さっきミオが街の外は危険だと言っていた意味を肌で感じる。この大地は人間が統治していないのだ。
「街にいる奴は一応同じ言葉喋るから、それは安心しな! 知り合いの家は街の外れにあるけど、そいつもちゃんと言葉が通じるから」
当たり前のように言うミオの言葉から、言葉の通じない異形の者がいるということを知る。
「ミオに出会えてラッキーだったな」
「なんだよ、レジーはみんなが知っている俺のことしか知らないだろ! お礼を言うのはまだ早いぜ!」
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