皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
7 / 47

第6話 不毛の大地

しおりを挟む
 航海は順調で、嵐に巻き込まれることなく海を渡る。予定通り5日後の朝、大陸が見えたと、船内の乗客が走り回る音で目が覚めた。ミオはあれから毎日俺の頭を抱いて寝る。

「レジー、おはよう! 大陸が見えたみたいだよ! レジーも見に行く? はじめてなんだろ?」

 ミオは鳥のように朝を謳歌してよく囀る。腕に抱かれて眠るのはこれが最後かと思うと、離れ難く少しだけミオを抱き寄せた。

「なんだよレジーは甘えん坊だな。でも俺は嬉しいぜ。兄弟って感じだもんな」

 ミオがエヘヘと笑う。その笑顔が眩しく弾けた。

「腕は痺れないのか?」

「なんだよ、もう5日もこうやって寝ておいて。でも大丈夫。これからだってこうやって寝てやるよ? レジーはあっちの大陸で仕事見つけるまで、俺がちゃんとついていてやるからな」

「ああ、頼もしいな。ミオは大陸のどこら辺に住んでいるのだ?」

 俺の質問に小さく疑問符を浮かべたミオは、首を傾げている。そういえば孤児と言っていたから定住していないのかもしれない。

「こっちの大陸では街の家賃がバカ高いんだ。だから俺みたいな貧乏人は基本野宿さ。街の外は危ないけど、金獅子の双腕だったら安全だろ?」

 思いがけないこっちの大陸の事情に驚いた。帝国の内情は知っていても、一歩外に出てみるとわからないことだらけだ。

「街の外はなんで危ないんだ? 治安がそんなに悪いのか?」

「はーあ、帝国の人間はこれだから……。帝国と違って、こっちの大陸は人間だけが住んでるわけじゃないんだ」

「野生動物ということか?」

「まあ、そんなところかな……」



 船は汽笛を鳴らし港に着岸する。はしゃいだミオに手を引かれ甲板に躍り出た。そこで目にした風景に心を奪われる。

 ベリニア帝国のある大地を表す言葉はない。先々代の皇帝が全土を統一したため、大地の名前はつまりベリニア帝国なのだ。

 しかし今俺の前に広がる大地には名前があった。「不毛の大地」それは名称ではなく形容であるが、つまりは帝国が興味のなかった大地ともいえる。

 不毛の大地は国ともいえない小国がひしめきあい、資源もない。唯一の連絡船は俺のように島流しの犯罪者を送るか、不毛の大地に僅かに住む島流しの末裔の出稼ぎの者を迎えるかのどちらか。帝国ではそんな程度の認識しかなかった。その程度の認識しかないから、刑期の終えていない犯罪者か否かの入国チェックしかないのだ。

「どうだい? なかなか綺麗でびっくりしただろう」

 眼下に広がる大地は緑豊かで、街は栄えていた。遠くに見たこともない浮島のようなものまである。楽園。そんな2文字が相応しい光景だった。

「地獄みたいなところ想像してただろ? 帝国の人間は不毛の大地なんていうけど、これ見たらびっくりするだろうな」

 変な声を立ててミオは笑う。全くその通りだと思う。帝国は確かに栄えていた。しかし人にとっては便利でも、この大地のように自然と共存していない。

「なあ、レジー。俺、今日はどうしても行かなければならないところがあるんだ。だからレジーは俺の知り合いのところに泊まっててくれないか? 明日には必ず迎えに行くから」

「あ、ああ。確かにミオの案内がなければ到底暮らせそうにないな……」

 タラップを降りるときに目に入る群衆は、帝国のそれとは全く違った。巨大な体躯に灰色の肌をした者、小さな体が全身毛で覆われた者。さっきミオが街の外は危険だと言っていた意味を肌で感じる。この大地は人間が統治していないのだ。

「街にいる奴は一応同じ言葉喋るから、それは安心しな! 知り合いの家は街の外れにあるけど、そいつもちゃんと言葉が通じるから」

 当たり前のように言うミオの言葉から、言葉の通じない異形の者がいるということを知る。

「ミオに出会えてラッキーだったな」

「なんだよ、レジーはみんなが知っている俺のことしか知らないだろ! お礼を言うのはまだ早いぜ!」

 ミオはそっぽを向いて、歩き出す。しかしブロンドからのぞく耳が赤く、その足取りも軽かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

処理中です...