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ワンライ・SS・その他
真下セレクトリップバーム(イラスト付き)
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今日は待ちに待ったホワイトデーだ。毎年のことながら、女子中学生へのプレゼントを選ぶというのはなかなか難しい。
そもそも何を望んでいるのかわからないし、金銭感覚の躾のため父親としては安易に高級なモノを選べない。
だから自分でも不本意ながら今回は真下にプレゼント選びを手伝ってもらった。真下は口を開けば下ネタを繰り出し、バリタチのくせに女装をする説明し難い人間だが、プレゼント選びには一目置いていた。なぜなら以前真下が贈ったプレゼントに娘の円華は泣いて喜んでいたからだ。
今日は学校からまっすぐ帰ってくると言っていたのに、いつもの帰宅時間より1時間も遅い。今日は円華へのサプライズで外食に誘おうとスーツを着ていたのでダラダラとくつろげずに、時間が経つのが遅く感じる。
迎えに行ってプレゼントを渡すのもいいかもしれない、そう思った矢先に玄関の戸が開かれる音がした。俺はプレゼントをローテーブルの下に隠して玄関まで出迎えに行った。
「おじゃましまーす」
「あ、お父さん! 見て見て冬馬さんと玲音にこれもらったのよ! 玲音の手作りクッキー一緒に食べてもいい? それにこれ! 漆黒悪鬼様の新作法具のプロトタイプも! 世界中の人に自慢したい!」
「久遠さん……すみませんおじゃまして……」
出迎えた先には円華と、藤堂家の2人がいた。2人は多分円華の学校帰りにバレンタインのお返しを渡して、そのまま彼女に連れてこられたのであろう。
冬馬君が俺のスーツ姿でサプライズを察し、目を逸らしている。男子高校生に気を使われるほど気合が入っているように見えるだろうか……。そう考えるととてつもなく恥ずかしくなり、つい大声でいらないことも言ってしまう。
「冬馬君、玲音君! いらっしゃい! 今日はゆっくりしていってね。あ、今日ご飯食べていく?」
「今日はかーちゃんのためにご飯作るんだ!」
「玲音えらーい! きっとお母さんも喜ぶわ! お母さんの分もクッキー作ったの?」
「うん! 今日はロールキャベツの後にクッキー渡すんだ!」
「偉い玲音にご褒美あげる! 試供品のシャンプー今日も選んでいって!」
円華は玲音の髪の毛を撫でて抱きつく。そのまま2人がおかしな距離感で、歩いて行ってしまった。残された冬馬くんが俺を見て申し訳なさそうに、すみませんと呟く。
「な! 冬馬君、なんで謝るの!? 今日は仕事でこんな格好しているだけで別に、その、あれだよ。どうせ円華が来いってきかなかったんでしょう? 本当にごめんね?」
「最近玲音が操縦不能になってて……俺も本当は2人がよかったんで、キリのいいところで引き上げます。ちょっと強引になるかもしれませんけど、びっくりしないでください」
冬馬くんの本懐に涙を禁じ得ない。同じ操縦不能の娘を持つ同胞として、俺は冬馬くんと熱い抱擁を交わす。
シャンプーの試供品を選んでいた2人は、俺と冬馬君がくつろいでいたリビングに遅れて到着した。
「あ、お父さんお茶入れてくれたの?」
「うん、円華も玲音君もお茶飲もう? 玲音君のクッキーに合うように、お茶と他のお菓子も用意したよ?」
「食べる食べる食べる食べる!」
俺と冬馬君は対面で座って2人が座る場所をあけていたのに、円華と玲音君はそれを無視してカーペットの上におかしな距離感で座る。
「あれ? これなに?」
そう言って玲音君がローテーブルの下を指差した時に、俺は変な汗が吹き出す。
「あ、あわ、はわわ」
なんでもないと言いたいのに声が出ない。気が動転して俺が動けない間に、ローテーブルの下に隠しておいた俺のプレゼントを円華が手に取る。
「もしかしてこれお父さんのホワイトデープレゼント!? お父さん、あけてもいい?」
「は! はわわ……あわわ……」
後で開けて欲しいと心の中で叫ぶも、あまりの大事故に言葉が出ない。そんな俺を無視して円華はプレゼントをあけて、中身を確認した。
「すごい! アーサーの新作リップバーム! お父さん、これ真下さんが選んでくれたの!? すごく嬉しい!」
全部バレてるぅ!
「なにこれ? リップバームってなに?」
「リップクリームみたいなものよ、スティックじゃないから指で塗るのよ? 玲音も塗ってみる?」
「いいの!?」
円華が微笑みながら、リップバームを指に取り、その指が玲音君の唇に近づく。俺が、あ、と声を漏らした瞬間、冬馬君が突然後ろから玲音君の口を手で塞いだ。冬馬君が円華と俺に苦笑いを見せながら、玲音君の耳もとに唇を寄せる。
「玲音、だめだ。もう帰るぞ」
その表情とは裏腹に、語気が強かった。玲音君はみるみる顔を赤らめて、冬馬くんの手を振り解く。
「外でそういうことしないって冬馬が言ったんだろ!」
玲音君は耳まで真っ赤にして俯いた。冬馬君はゆっくり立ち上がり、俺と円華に笑顔を見せ手を合わせるジェスチャーでごめんと謝る。そしてその表情で言っているとは思えない冷酷な声で言い放つ。
「勝手にしろ。俺はもう帰るからな」
しばらく俯いてた玲音君は慌てて冬馬くんを追いかける。
「な……なに怒ってんだよ、待ってよ、冬馬ぁ!」
今まで聞いたこともないような玲音君の情けない声に、俺も円華も呆然とし、2人を見送ることすら忘れてしまった。しばらく2人が飛び出していった扉を見つめ続け、我に返って円華を見たら目が合った。2人でクスクスと笑い出してしまう。
「円華、今日フレンチ予約したから、制服のまま食べに行こう?」
「本当!? 嬉しい! リップバームつけていくわ!」
円華の座っている横に膝を折って座る。さっき玲音君につけようと蓋を開けたままのリップバームを少量とって、円華の唇にそっと塗った。唇の柔らかさに耐えきれずそのまま顔を手で包み、目の下にキスを落とす。
「お、お父さんにも塗ってもいい?」
俺が頷くとなぜか円華は顔を寄せてくる。
「な、だ、ダメ! 指で塗って! キスは! 16歳から!」
「なによ! 真下さんにプレゼント選んでもらったくせに!」
「ご、ごめん、ごめん、じゃ、じゃあっ1回……だ……」
そう慌てている間に、円華は俺の唇の端にキスをしてくれた。円華は顔を離すとはにかんで呟く。
「ちょっと失敗しちゃった、せっかくできたのに……」
ちゃんと唇にキスをできなかったことを恥ずかしがる円華に耐えきれず、俺は円華の顔中にキスを降らせる。
「お父さん大好き……」
その言葉の誘惑に負けて、円華の唇を犯さないよう声を振り絞る。
「バレンタインのチョコ嬉しかった……来年も……お父さんのこと……好きでいてね……」
「うん……」
円華を抱き寄せて、今日2回目のハグをする。
今日できるハグの回数は残り1回。今日の山場は乗り切ったからなんとかなるだろう。16歳まであと1年半。毎日こうやって頑張って乗り切っていかなければ……。
そもそも何を望んでいるのかわからないし、金銭感覚の躾のため父親としては安易に高級なモノを選べない。
だから自分でも不本意ながら今回は真下にプレゼント選びを手伝ってもらった。真下は口を開けば下ネタを繰り出し、バリタチのくせに女装をする説明し難い人間だが、プレゼント選びには一目置いていた。なぜなら以前真下が贈ったプレゼントに娘の円華は泣いて喜んでいたからだ。
今日は学校からまっすぐ帰ってくると言っていたのに、いつもの帰宅時間より1時間も遅い。今日は円華へのサプライズで外食に誘おうとスーツを着ていたのでダラダラとくつろげずに、時間が経つのが遅く感じる。
迎えに行ってプレゼントを渡すのもいいかもしれない、そう思った矢先に玄関の戸が開かれる音がした。俺はプレゼントをローテーブルの下に隠して玄関まで出迎えに行った。
「おじゃましまーす」
「あ、お父さん! 見て見て冬馬さんと玲音にこれもらったのよ! 玲音の手作りクッキー一緒に食べてもいい? それにこれ! 漆黒悪鬼様の新作法具のプロトタイプも! 世界中の人に自慢したい!」
「久遠さん……すみませんおじゃまして……」
出迎えた先には円華と、藤堂家の2人がいた。2人は多分円華の学校帰りにバレンタインのお返しを渡して、そのまま彼女に連れてこられたのであろう。
冬馬君が俺のスーツ姿でサプライズを察し、目を逸らしている。男子高校生に気を使われるほど気合が入っているように見えるだろうか……。そう考えるととてつもなく恥ずかしくなり、つい大声でいらないことも言ってしまう。
「冬馬君、玲音君! いらっしゃい! 今日はゆっくりしていってね。あ、今日ご飯食べていく?」
「今日はかーちゃんのためにご飯作るんだ!」
「玲音えらーい! きっとお母さんも喜ぶわ! お母さんの分もクッキー作ったの?」
「うん! 今日はロールキャベツの後にクッキー渡すんだ!」
「偉い玲音にご褒美あげる! 試供品のシャンプー今日も選んでいって!」
円華は玲音の髪の毛を撫でて抱きつく。そのまま2人がおかしな距離感で、歩いて行ってしまった。残された冬馬くんが俺を見て申し訳なさそうに、すみませんと呟く。
「な! 冬馬君、なんで謝るの!? 今日は仕事でこんな格好しているだけで別に、その、あれだよ。どうせ円華が来いってきかなかったんでしょう? 本当にごめんね?」
「最近玲音が操縦不能になってて……俺も本当は2人がよかったんで、キリのいいところで引き上げます。ちょっと強引になるかもしれませんけど、びっくりしないでください」
冬馬くんの本懐に涙を禁じ得ない。同じ操縦不能の娘を持つ同胞として、俺は冬馬くんと熱い抱擁を交わす。
シャンプーの試供品を選んでいた2人は、俺と冬馬君がくつろいでいたリビングに遅れて到着した。
「あ、お父さんお茶入れてくれたの?」
「うん、円華も玲音君もお茶飲もう? 玲音君のクッキーに合うように、お茶と他のお菓子も用意したよ?」
「食べる食べる食べる食べる!」
俺と冬馬君は対面で座って2人が座る場所をあけていたのに、円華と玲音君はそれを無視してカーペットの上におかしな距離感で座る。
「あれ? これなに?」
そう言って玲音君がローテーブルの下を指差した時に、俺は変な汗が吹き出す。
「あ、あわ、はわわ」
なんでもないと言いたいのに声が出ない。気が動転して俺が動けない間に、ローテーブルの下に隠しておいた俺のプレゼントを円華が手に取る。
「もしかしてこれお父さんのホワイトデープレゼント!? お父さん、あけてもいい?」
「は! はわわ……あわわ……」
後で開けて欲しいと心の中で叫ぶも、あまりの大事故に言葉が出ない。そんな俺を無視して円華はプレゼントをあけて、中身を確認した。
「すごい! アーサーの新作リップバーム! お父さん、これ真下さんが選んでくれたの!? すごく嬉しい!」
全部バレてるぅ!
「なにこれ? リップバームってなに?」
「リップクリームみたいなものよ、スティックじゃないから指で塗るのよ? 玲音も塗ってみる?」
「いいの!?」
円華が微笑みながら、リップバームを指に取り、その指が玲音君の唇に近づく。俺が、あ、と声を漏らした瞬間、冬馬君が突然後ろから玲音君の口を手で塞いだ。冬馬君が円華と俺に苦笑いを見せながら、玲音君の耳もとに唇を寄せる。
「玲音、だめだ。もう帰るぞ」
その表情とは裏腹に、語気が強かった。玲音君はみるみる顔を赤らめて、冬馬くんの手を振り解く。
「外でそういうことしないって冬馬が言ったんだろ!」
玲音君は耳まで真っ赤にして俯いた。冬馬君はゆっくり立ち上がり、俺と円華に笑顔を見せ手を合わせるジェスチャーでごめんと謝る。そしてその表情で言っているとは思えない冷酷な声で言い放つ。
「勝手にしろ。俺はもう帰るからな」
しばらく俯いてた玲音君は慌てて冬馬くんを追いかける。
「な……なに怒ってんだよ、待ってよ、冬馬ぁ!」
今まで聞いたこともないような玲音君の情けない声に、俺も円華も呆然とし、2人を見送ることすら忘れてしまった。しばらく2人が飛び出していった扉を見つめ続け、我に返って円華を見たら目が合った。2人でクスクスと笑い出してしまう。
「円華、今日フレンチ予約したから、制服のまま食べに行こう?」
「本当!? 嬉しい! リップバームつけていくわ!」
円華の座っている横に膝を折って座る。さっき玲音君につけようと蓋を開けたままのリップバームを少量とって、円華の唇にそっと塗った。唇の柔らかさに耐えきれずそのまま顔を手で包み、目の下にキスを落とす。
「お、お父さんにも塗ってもいい?」
俺が頷くとなぜか円華は顔を寄せてくる。
「な、だ、ダメ! 指で塗って! キスは! 16歳から!」
「なによ! 真下さんにプレゼント選んでもらったくせに!」
「ご、ごめん、ごめん、じゃ、じゃあっ1回……だ……」
そう慌てている間に、円華は俺の唇の端にキスをしてくれた。円華は顔を離すとはにかんで呟く。
「ちょっと失敗しちゃった、せっかくできたのに……」
ちゃんと唇にキスをできなかったことを恥ずかしがる円華に耐えきれず、俺は円華の顔中にキスを降らせる。
「お父さん大好き……」
その言葉の誘惑に負けて、円華の唇を犯さないよう声を振り絞る。
「バレンタインのチョコ嬉しかった……来年も……お父さんのこと……好きでいてね……」
「うん……」
円華を抱き寄せて、今日2回目のハグをする。
今日できるハグの回数は残り1回。今日の山場は乗り切ったからなんとかなるだろう。16歳まであと1年半。毎日こうやって頑張って乗り切っていかなければ……。
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