生きるのがツラくてなにが悪い!

大田ネクロマンサー

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若者の戻りたくない場所

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 僕のプレゼンが芳しくなかったのか、椎名君は瞳を隠すようについと反対側を向いた。

「なんでおっさん……そんなに必死なの?」

 ぽつりとそう言われて、やっぱり僕では不安は拭えないかな、と思った。こういう提案には提案者の下心がつきもので、僕に信用を預けられないというのもわかる気がする。

「あの、さっきも言った通り、僕は椎名君みたいにやってて楽しいことはなかったんだけど……」

 これは言うべきか言わないべきか少し悩んだ。でもそう悩むこと自体、椎名君に未練たらしく期待してるみたいで情けなくなった。

「丁度椎名君と同じ歳の時に、こどもの頃からずっと好きだった人にこっぴどくフラれて、生き方がよくわからなくなっちゃったんだ」

 椎名君は振り返って、何言ってんだ? みたいな顔をした。それでいい、興味がないってわかって胸は痛いけど少し安心した。

「その人中心で高校も選んだし……馬鹿馬鹿しいけど僕の生きる指標だったんだ。だから、進学どころじゃなくなっちゃって、不安で仕方がなかった。だから馬鹿なこともしちゃって……」

「馬鹿なことって……なに?」

「ご……ごめん、それは……」

 急激に寒気がする。腕を抱えて身震いした。

「か、勝手に自分の人生重ねちゃって、申し訳ないけど、僕にはなかったものを持ってる人を応援したい。そうしたら、あの頃の自分も救われるような気がして……僕の下心はこんな感じだよ」

「俺はこんな高校生だし、恥ずかしがらずに言ってよ。馬鹿なことってなに?」

 そうか。同じ台詞をなぞられ、理解する。信頼とはそういうことだよな、と妙に納得した。

「誰でもいいから抱かれたくて……好きでもない人と……その……」

 ここから先は自分でも怖くて言えなかった。正確に伝えられてはいないけど、どれほど後悔してるかはわかってもらえると思った。僕は椎名君の瞳を見ることはできない。直視したところで同じだと思った。重くなった空気を振り払おうと、立ち上がる。

「椎名君! ちょっとこっちに来て!」

 僕は8畳の部屋に椎名君を案内する。

「ここ、僕が趣味を見つけたら趣味部屋にしようと思ったんだけど、3年くらい使ってなくて。もしよかったら節約のために使って!」

 椎名君は僕の後ろで黙っていた。それで一気に自分の発言の異常さに気がつく。

「あ、あの、本当に変な下心とかないし、その、部屋も使っても使わなくても大丈夫だよ。踊りも椎名君がキスをしてくれなくてもこれからも見に行くよ!」

「俺さ」

 椎名君の力の入った声に怯んで、はい、と口から弱々しい声が飛び出す。

「おっさんに……たくて……踊ったんだけど」

 さっきの声とは裏腹に途中、椎名君の声がくぐもって聞き取れなかった。なにが逆鱗に触れたのか分からなくて、怯えた人のテンプレのように両手が胸の前で宙を舞い、震えて身動きが取れなくなった。はわわ……と変な声を出して怯えていたら、椎名君が急に僕を抱き寄せた。

 もうなにがなんだかわからなかった。

 椎名君の抱擁はびっくりするくらい優しくて、逞しくて、状況を無視して気絶しかけた。

 今までキスをされたことはあっても抱きしめられたことはなかったと、椎名君の腕の中で昇天しかけながら思う。

「おっさんにこんなことしてもらいたくて来たんじゃない」

 なに? 僕まだなにもしてないけどなにがそんなに逆鱗に触れたの? 変なアダルトグッズでも落ちてましたか?

 突然、椎名君が僕にキスをした。いつもの優しい唇だけのキスじゃなかった。唇で口をこじ開けられ、柔らかい舌が侵入してくる。椎名君の舌が僕の舌に触れた時、快感で一気に意識が遠のいた。僕は手が椎名君と自分の胸に挟まれたままの格好できつく抱きしめられ、少し浮いていたと思う。椎名君の口の中の味が顔中に充満して、快感から浮いた膝がガクガク震えた。

 椎名君が唇を離した時、僕の息は上がって、目頭が熱かった。

「おっさん、ベッドどこ?」

「へ……?」

「いいや、もう」

 面倒くさそうに椎名君は吐き捨てて、僕をお姫様抱っこする。

「ちょ、ちょ、ちょっと!」

 僕の抵抗も虚しく椎名君はベッドのある部屋を探し回る。

「椎名君!」

 正気を取り戻し名前を呼んだときには僕はベッドに下され、椎名君が覆いかぶさってた。シャツのボタンに手をかけようとした時、僕は彼の手を自分の意思で掴んだ。

「椎名君! ダメだよ! 18歳未満は例え本人の意思であっても……!」

 椎名君はシャツのボタンから手を離して、めちゃくちゃ怒った顔で僕を見つめた後、顔を背けた。

「俺が通報するとでも思ってんのかよ!」

「僕が捕まることなんかどうでもいい!」

 驚いた顔で僕を見る。

「ちゃんと好きな人とじゃないとダメだよ!!」

 椎名君は今までに見たこともない強い視線を僕に向ける。

「俺はおっさんみたいに自暴自棄になるような失恋もしてないし、恩を体で返そうなんて死んでも考えない」

 眉間に皺を寄せながら、僕の唇に優しいキスを何度も落としてくれる。2回目くらいから唇が震えてダメだった。

「そんなこと言ったら……おじさんは……本気にしちゃうんだから……」

「本気だよ。乗りかかった船だろ。一緒に旅に出ようよ」

 椎名君がキスをしてくれようと顔を寄せるが、僕がギャン泣きして、迂闊に近寄れなくなってしまった。

「おっさん……昨日もこんな感じで泣いてたの……?」

「ひーんっ……もっとドン引きすること言うとぉ……ふぐっ……玄関先で泣いてましたぁ……!」

 椎名君はぶはっと笑いはじめた。
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