生きるのがツラくてなにが悪い!

大田ネクロマンサー

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すこぶるイケメン

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「寝ちゃって……ごめんね……」

「どうせ昨日も寝てなかったんだろ。夜なにしてるの?」

 僕の肩を抱いて椎名君が立ち上がる。もうなにこのイケメンっぷり。こんなイケメン、人生で一度も見たことないんですけど。

「椎名君のこと考えてました……」

 へぇ? そう言って椎名君が片方の眉を上げた。かっこいい。おじさんはさっきの興奮で残機が無い背水の陣なので、これ以上追い詰めないでほしい。

「椎名君は……僕のこと……考えたりしてくれるの……」

 椎名君は鼻を掻いて、そっぽを向いた。

「考えてるだけじゃない……かな……」

 なにそれーーーーー! また膝が震え出す。そんなのお構い無しで椎名君が歩き出した。肩を抱えられ、膝ガックンガックンいわせながらダイニングテーブルまで来たら驚愕の光景が広がってる。

「こここんな! こんな惣菜なかったよねぇ!?」

「野菜結構あったから使わしてもらった。体絞ってるから、おっさん物足りないかもだけど」

 ええ!? えええ!? 腹の底から疑問符を吐き出し、食卓に並んだ数種類のおかずを上から横から斜めから見る。煮浸しって……すごくない? 胡麻和えって……すごくない……? 卵と豚肉の炒め物って……すごくない……?

「炊飯器も借りた、おっさんご飯いるだろ?」

 いつの間にかキッチンに立ってた椎名君が茶碗とお碗を手渡す。み、味噌汁まで……!

「箸どこにあるの?」

「あ、今出します!」

 茶碗を置いてキッチンに走り出す。箸を2つ握りしめ、2人で席についたら椎名君の前に茶碗が無いことに気づく。

「あれ、お茶碗なかった?」

「ああ、夜は米食べないんだ」

 ええ……すごい……アスリートじゃん……。

「いただきまーす」

 一足先に食べようと椎名君が箸を伸ばす。

「待って!!!」

 僕は昨日からポケットに入れるようになったスマホを取り出す。

「写真撮りたい」

 ぶはっと椎名君が笑う。

「いくらでも作ってやるよ、こんなんでいいなら」

 椎名君を無視してパシャパシャと写真を撮る。椎名君のクスクス笑う声を聞いてたら、違う欲望も芽生えた。

「し、椎名君の写真も欲しいな……」

「ん? いいよ、こっちに来て」

 椎名君がスマホを取り出したので、撮影済みのとっておきの写真をくれるのかとウキウキ近づいたら、急に腕を引き寄せられ、頭上からパシャッという音がした。

「上見ておっさん」

 言われるがまま上を見たら、椎名君がほっぺたにキスをして、またシャッター音が鳴る。あまりの暴挙に、はわわ……と変な声を出してたら、椎名君が画面を見せてくれた。

「おっさんかわいく写ってる」

 いやそれどころじゃないよ! なにこの破壊力の高い写真! こんなの世間に出回ったら暴動が起きるよ! なんで! ああっ! キスしてくれてる写真の椎名君クッソかっこいい!!

「送っといたから、ご飯食べようぜ」

「はい……」

 しずしずと席に戻りご飯を食べ始める。おかず……クッソ美味い。

「椎名君……美味しいよぉ……椎名君……かっこいいよぉ……」

 蚊の鳴くような声で細々と感想が口からはみ出す。

「写真……一生の宝物にするねぇ……椎名君……かっこいいよぉ……」

 椎名君は僕を時々見つめては鼻を掻いて、パクパクと食事をしていた。

「おっさんさ、明日なにしてるの?」

「椎名君のこと考えてますぅ……」

「じゃあ明日バイト先来てよ。15:30上がりだからそれより前に」

「え!? 明日行ってもいいの!?」

「その後さ……今日のなんとかプランニング……しにさ……」

「また遊びに来てくれるの!? 嬉しい! 明日来た時に課題とか話し合えるようにある程度ロードマップのマイルストーン置いて、どの程度の費用対効果があるか算出しておくね。ああKPIはあくまで時間確保なんだけど、他の切り口からも目標設定して……あとどの程度のリスクなら許容できるかも局面ごとに課題は抽出しとくよ!」

「今日は寝なよ」

 長台詞を一言で畳まれ、前のめり加減が恥ずかしくて俯いた。

「ありがとう……嬉しい……」

 椎名君のその声に顔をバッとあげたら、あの独特な顔で笑ってた。もう残機がないから事実上生きられない。椎名君が好きすぎて生きるのがツラい。
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