生きるのがツラくてなにが悪い!

大田ネクロマンサー

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残機回復

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 食事中僕は概ね「椎名君はかっこいい」ということだけを呟き続け終了した。洗い物は俺がやるときかない椎名君に強引に割り込んで、2人仲良く洗い物をした。そして遂にお別れの時がやってきてしまった。

 玄関先で見送ろうと思ったけど全然名残惜しくて、駅まで送ろうと靴を履こうとした。

「おっさん、今日ははやく寝ろよ」

「帰り道危ないから……」

「女じゃねぇんだから」

「も、もう少しだけ一緒にいたい……」

 椎名君は僕の肩に手を置いた。

「さっきどんな夢見たの?」

 ヒッと小さな悲鳴をあげる。そういえば後で教えろと言っていた。なんか適当なことを言おうとあわあわしていたら、椎名君の手が肩から腕を伝ってゆっくり降りていった。最後に僕の手を握り締めてそれを持ち上げられる。

「後でメッセ送って。ローマ字入力ならできるんでしょ?」

「そそそんなことできないよ! 恥ずかしい夢見たんだ!」

「俺以外の夢?」

 椎名君が僕の指に視線を落として、それを持ち上げた手でやわやわと弄りだした。それがなにか勘違いを責められている気がしてまた大声を出してしまう。

「椎名君のエッチな夢だよ!」

 ぶはっと椎名君が顔を背けて笑う。笑いたければ笑えばいい! こっちは真剣なんだ!

「おっさん眠ってる間に少し……触ったんだ……ごめん」

「ぇええええええええ!?」

「明日も少し“エッチ”なことしていい?」

 笑いを堪えながら、申し訳なさそうに言うその顔が色っぽくて、短い奇声をあげながら手を振り回してしまう。でも椎名君はそれを決して離さず、僕が落ち着いたら手を引き寄せた。

 軽く唇同士が軽く触れるキスをして僕を抱きしめてくれる。

「明日は寝るなよ、おっさん」

「はいぃ……! ごめんなさい! 今日は直ちに寝て明日も楽しみにしていますっ!」

「ローマ字入力でメッセもちょうだい」

「はい!」

「じゃあ帰る」

「はい!」

 椎名君はクスクス笑いながら、玄関をそっと出て行った。そして僕はとてつもない不安に襲われた。

「触った?」

 急いで洗面台の前で服を脱ぎ散らかす。触ったって、どこを? 体中の匂いを嗅いで加齢臭が無いか確認する。家を出てから結構経っていたから体から石鹸の香りもしないし、体臭は自分ではよくわからなかった。せ、せめてお風呂入った後に触って欲しかったなぁ……。

 洗面台に手をついて暫く落ち込んでいたが、視界の端に自分の元気な息子が見え隠れする。最近朝も元気がなかったのに椎名君のお陰でこの通りである。

「考えてるだけじゃない……かな……」

 椎名の言葉を思い出し、下半身が熱くなる。僕は丁度いいかとそのまま風呂に入った。


 風呂を出ると椎名君からメッセが届いてることを知り、全裸でベッドに飛び込んだ。

椎名:おっさんもう寝たの?

 メッセの時間を確認する。5分前!

須藤:ごめん風呂入ってた
椎名:じゃあ今裸なの?
須藤:はい

 それから暫くメッセが届かなくて絶望した。もう残機も無いし事実上死んでいるわけだから、聞いてみたかったことを聞いてみようと勇気を出して聞いてみた。

須藤:前から聞きたかったんだけど
椎名:なに?

 それにはめちゃくちゃレスポンスがはやくてあわあわと文字を打っている間に椎名君がメッセを送り返してくれる。

椎名:なに? 怖いんだけど。そういう大事なことは会ってる時に聞けよ
須藤:椎名君の名前は漢字でどう書くの?

 それから暫く返信が来なくてもうなにがなんだかわからず裸で震えていた。

椎名:おっさんはどういう字なんだよ
須藤:須藤光輝です
椎名:友達にはなんて呼ばれてるの?

 友達。その文字を久しぶりに見た。

須藤:須藤さんとかだよ
椎名:好きだった人からも?

 親友と呼べる友達は椎名君のいう「好きだった人」しかいなかった。それにもずっと目を逸らし続けて生きてきた。

須藤:こうちゃんって呼ばれてた
椎名:なんかおっさんぽくていいな

 また胸がぎゅーってなって、スマホを握りしめた。そうしたらまた返信が来た。

椎名:阿綺羅

 それを見た瞬間、腕が6本くらいある阿修羅像を思い浮かべた。こ、これでアキラって読むのかな? なんというか世代差を感じる。小野妹子が現在男性名には使われないように、僕の名前もいつか古臭くなるんだろうか。

椎名:今ぜってーDQNネームだってバカにしてるだろ。大体なんで漢字が知りたいんだよ
須藤:相性占いとかしたいなと思って

 またしばらく返信が来なくなった。怒っちゃったかな……。

須藤:明日楽しみにしてるね
椎名:うん俺も

 最後の4文字。こんなに胸が苦しくなる4文字を今まで見たことがない。さっき送られてきた写真を保存しようとタイムラインを遡る。写真を2枚何度も確認しながらスマホ本体に保存した時、最初の写真の前に読んでいない文字があるのを見つける

椎名:また撮ろ

 椎名君は、椎名君は、椎名君は!
 僕のこと好きなのかな……。

 加齢臭に怯えて、最近は朝も元気がなくて、好きになっちゃうことを恐れて友達はおろか人と深く関わり合うことを諦めた、こんなおじさんを。椎名君が好きすぎて生きることも諦めそうなこんなおじさんを、好きになってくれるんだろうか。

「椎名君……」

 我慢ができなくて、下半身に手が伸びる。椎名君は僕をどんな風に抱いてくれるだろうか、椎名君は今も僕のことを考えてくれているのだろうか、椎名君は僕を想像して同じことをしてくれてるのだろうか。

 びっくりするほど汗を流しながら、久しぶりに自慰をして泣いた。
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