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航路図考案会議
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家に着いたら、昨日と同じようにソファに座ってもらった。昨日と違う点といえばちゃんとした水があるということだった。
ローテーブルにグラスを置いて今日はパソコンの隣に紙とペンを用意する。
「じゃあ……」
僕は紙の上の方に「ダンスをする時間」という文字を書いて丸で囲む。その下に、ダンス教室、みんなで踊る、など昨日ヒヤリングしたことを体系化して書き込んでいく。
「昨日はこれを叶えるためには大学に入ったほうが時間も有意義に使えるっていう話だったんだけど、そこまでは大丈夫かな?」
ノーパソの画面を傾けて、昨日のグラフを見せたら、椎名君は頷いた。
「昨日の話でわかってくれたと思うけど、長い目で見るとお得なことと、そうでないことって結構あるから、もう少しだけやりたいことについて聞きたいんだ」
「例えば?」
「昨日YouTubeでダンス見てるって言ってたけど、本場の……ちょっと違うかもしれないけど、ブロードウェイとか生で見たりとかしたら、ダンスって楽しくなりそう?」
「まあ、体格の違う人のダンスはすごく参考になるけど、できれば一緒に踊ってみたいかな……」
「じゃあ留学とか交換学生の制度がある大学とかどう思う?」
その質問に椎名君が少し顔をあげて僕を見た。
「おっさんは俺が留学しても平気なの?」
「平気じゃないけど、そういうのは椎名君の限定的な判断と比べると全然問題にならないよ」
椎名君の眉間に皺を寄せたので慌てて説明する。
「僕の方が融通が効くから、もし留学するんだったら僕が会社の制度とか使って一緒に行くこともできると思う。でも椎名君は僕に比べると選べる選択肢が少ないと思うんだ。4年間っていう制限付きだし、奨学金にも限りがある。そこはわかってくれる?」
「うん……」
「僕も椎名君のダンスを見たいし、そこは絶対我慢できないから解決策がなかったら絶対に言う。だから、安心してやってみたいこと言ってみてくれないかな」
椎名君はまた独特な笑顔で笑った後、素直にやってみたいことを述べてくれた。要約すると、もっと上手い人と出会いたいし友達になりたいということだった。僕はその友達になれないという寂寥感を感じながらも、心を大きく占める感情があった。
「僕は、椎名君をすごく尊敬する」
「は?」
「だって、普通若い子なんてビッグになりたいとか、有名になりたいとかいうじゃない」
「いわねーよ。大体、そういう方が意識高くていいんじゃねーの?」
「好きなことをしたい、そういう風にずっと思っていられなくなるんだよ。普通の人は」
だから僕も36歳という年齢に打ちひしがれたんだ。自分が熱中できること一つないくせに、何者にもなれなかったと、無意味に落ち込んだ。自分自身何者かになりたいと思っていたことに衝撃を受けた。
「僕は何一つ熱中できなかったけど、椎名君の踊りを見てる時だけは本当に熱中してたんだ。僕も熱中したいから本気だよ」
椎名君はなぜか顔を背けたので、僕はノーパソで大学の条件などを探し始める。
「特に行きたい大学とかはなかったんだよね? 大学の入学難易度によっては予備校についても再検討が必要かもしれないから……」
「ない……けど……」
「けど?」
「この近くがいい」
「もちろんだよ! 通学時間も同じ時間だからね! ちゃんと条件に入ってるから……」
急に椎名君がソファを降りて僕の手を掴んだ。
「おっさんといる時間も!」
「ちゃ、ちゃんと入ってるよ! さっきも言った通り僕は椎名君のダンス見るのが……」
「ダンス以外の!」
僕はポカンとして黙った。そしてカッと顔が熱くなる。
「そ、そんながんじがらめに……計算してないから……大丈夫だよ……」
「ちゃんとわかってるんだったらいいよ」
「はい……」
震える指で何個か大学をピックアップして椎名君に見せる。そして昨日作っておいた短期的サイクルと長期的サイクルのマイルストーン表をモニタに出した。
「あ、あの……大学は入るにしても、雰囲気とか見たほうがいいと思うんだ。だからそれは……よければ一緒に学祭巡りとかするとして……」
図々しい提案かと思ってチラッと見たら椎名君は満足そうに笑っている。よ、よかった。しかし問題はここから先だ。順序が間違ってないかを頭で確認しながら口から吐き出す。
「偏差値で学校の良し悪しは決まらないけど、入学だけはやっぱり学力が必要だから、こ、こちらに週間サイクルの予定表も作りました……」
「なんでどんどん声小さくなるんだよ」
「その……予備校には……戻った方が……」
椎名君がキッと睨むから僕は竦み上がって、でもこれだけはと、声を張り上げる。
「ダンスを練習する時間もちゃん調整したのでまずは聞いてもらいたいのと、それには条件があるのでまずはこれを受け取ってください!」
用意していたものをポケットから我が家の合鍵を出して椎名君の前に突き出す。椎名君が受け取ったのを確認すると僕はパソコンのモニタを椎名君に向けてプレゼンする。
「予備校は週4が前提で予定を組んでおります!
椎名君の制服姿を見たことがないことから一度家に帰っているとして計算しており、家にいる時間は練習ができていないことも加味しています。もう一つの表が僕が知りうる範囲で作った今までの生活スタイルですが、駅ビルのテナントが閉まるまでの空き時間を鑑みると、予備校に行った場合も、今までとダンスの練習量に遜色ないことがご確認いただけるかと思います!」
突然の大声に椎名君が呆気にとられている間に僕は一気に続ける。
「椎名君の環境による制限を取り払えばきちんと今まで通りの練習量をこなすことができます! 条件は予備校は週4!バイトは週2! 僕の家で練習する!」
「お、おっさんとの時間は……?」
「もちろん織り込み済みです!」
僕は土日のダンス練習の後の時間を指差して必死に続ける。
「それにこれは長期的な目標も含んでいます! 一つは動画投稿は大学入学待たずして行う! これは今やレッドオーシャンと化した動画共有サイトで人の目につきやすくなるためには、マーケティングに時間が必要だからです! そしてもう一つは、友達を大切にする! 予備校に戻った友達は椎名君の現在持てる唯一の財産です! ひとときでも同じ志を共有した友達とこれっきりなんて勿体ない! だから予備校には戻ってください!」
肩で息をしている僕とは裏腹に、椎名君は涼しい顔で表を見ながら呟く。
「あそこで踊らなくなったらおっさんと会う時間が減るよな……」
「予備校終わりに迎えに行くオプションをつけます!」
「予備校は週3だよ。空いた時間はおっさんと会える?」
「はい! ついでに宣伝の意味も含めてあのビルで踊る時にはインスタかTwitterのアカウントのポップを立てることをお勧めいたします! 」
椎名君は笑って、僕を見つめた。その瞳にキラキラが戻って、自身のプレゼンが成功したことを確信した。
「オプションもつけて」
「はい! 僕も椎名君の制服姿を見たいと思ってました!」
椎名君が僕に抱きつく。そして僕を抱えたまま立ち上がった。そして僕の手を引いて昨日案内した8畳の部屋に歩き出した。部屋の前に着くなり椎名君が呟いた。
「壁のどれか一面を安く鏡にする方法は無い?」
「調査済みです! リノベーションブームで鏡面の壁紙があるのでそれを利用するか、クローゼットの戸に鏡を貼るかになります! 鮮明度が不明だったので、両方少量買って検討予定です!」
「できればシューズ履いたままがいいんだけど」
「専用のシューズであれば問題ありません! 今日の午前に新品の靴で暴れまわってみましたが、階下からの苦情はありませんでした!」
椎名君がぶはっと笑う。
「椎名君……これは提案であって全てではありません。いざやってみて問題が有ればPDCAを回して改善することもできます」
「ん……じゃあ俺からも提案があるんだけど」
「なんなりとお申し付けください」
「土日は俺が晩飯作る」
「ダメだよ! そんな時間があったら」
僕の抗議は椎名君の唇で遮られる。
「長期的に考えて、体づくりは必要だろ?」
「そ、そっかぁ……」
「おっさん……さ………」
椎名君が珍しく歯切れ悪く言うから僕は少し背の高い椎名君の顔を覗き込んだ。
ローテーブルにグラスを置いて今日はパソコンの隣に紙とペンを用意する。
「じゃあ……」
僕は紙の上の方に「ダンスをする時間」という文字を書いて丸で囲む。その下に、ダンス教室、みんなで踊る、など昨日ヒヤリングしたことを体系化して書き込んでいく。
「昨日はこれを叶えるためには大学に入ったほうが時間も有意義に使えるっていう話だったんだけど、そこまでは大丈夫かな?」
ノーパソの画面を傾けて、昨日のグラフを見せたら、椎名君は頷いた。
「昨日の話でわかってくれたと思うけど、長い目で見るとお得なことと、そうでないことって結構あるから、もう少しだけやりたいことについて聞きたいんだ」
「例えば?」
「昨日YouTubeでダンス見てるって言ってたけど、本場の……ちょっと違うかもしれないけど、ブロードウェイとか生で見たりとかしたら、ダンスって楽しくなりそう?」
「まあ、体格の違う人のダンスはすごく参考になるけど、できれば一緒に踊ってみたいかな……」
「じゃあ留学とか交換学生の制度がある大学とかどう思う?」
その質問に椎名君が少し顔をあげて僕を見た。
「おっさんは俺が留学しても平気なの?」
「平気じゃないけど、そういうのは椎名君の限定的な判断と比べると全然問題にならないよ」
椎名君の眉間に皺を寄せたので慌てて説明する。
「僕の方が融通が効くから、もし留学するんだったら僕が会社の制度とか使って一緒に行くこともできると思う。でも椎名君は僕に比べると選べる選択肢が少ないと思うんだ。4年間っていう制限付きだし、奨学金にも限りがある。そこはわかってくれる?」
「うん……」
「僕も椎名君のダンスを見たいし、そこは絶対我慢できないから解決策がなかったら絶対に言う。だから、安心してやってみたいこと言ってみてくれないかな」
椎名君はまた独特な笑顔で笑った後、素直にやってみたいことを述べてくれた。要約すると、もっと上手い人と出会いたいし友達になりたいということだった。僕はその友達になれないという寂寥感を感じながらも、心を大きく占める感情があった。
「僕は、椎名君をすごく尊敬する」
「は?」
「だって、普通若い子なんてビッグになりたいとか、有名になりたいとかいうじゃない」
「いわねーよ。大体、そういう方が意識高くていいんじゃねーの?」
「好きなことをしたい、そういう風にずっと思っていられなくなるんだよ。普通の人は」
だから僕も36歳という年齢に打ちひしがれたんだ。自分が熱中できること一つないくせに、何者にもなれなかったと、無意味に落ち込んだ。自分自身何者かになりたいと思っていたことに衝撃を受けた。
「僕は何一つ熱中できなかったけど、椎名君の踊りを見てる時だけは本当に熱中してたんだ。僕も熱中したいから本気だよ」
椎名君はなぜか顔を背けたので、僕はノーパソで大学の条件などを探し始める。
「特に行きたい大学とかはなかったんだよね? 大学の入学難易度によっては予備校についても再検討が必要かもしれないから……」
「ない……けど……」
「けど?」
「この近くがいい」
「もちろんだよ! 通学時間も同じ時間だからね! ちゃんと条件に入ってるから……」
急に椎名君がソファを降りて僕の手を掴んだ。
「おっさんといる時間も!」
「ちゃ、ちゃんと入ってるよ! さっきも言った通り僕は椎名君のダンス見るのが……」
「ダンス以外の!」
僕はポカンとして黙った。そしてカッと顔が熱くなる。
「そ、そんながんじがらめに……計算してないから……大丈夫だよ……」
「ちゃんとわかってるんだったらいいよ」
「はい……」
震える指で何個か大学をピックアップして椎名君に見せる。そして昨日作っておいた短期的サイクルと長期的サイクルのマイルストーン表をモニタに出した。
「あ、あの……大学は入るにしても、雰囲気とか見たほうがいいと思うんだ。だからそれは……よければ一緒に学祭巡りとかするとして……」
図々しい提案かと思ってチラッと見たら椎名君は満足そうに笑っている。よ、よかった。しかし問題はここから先だ。順序が間違ってないかを頭で確認しながら口から吐き出す。
「偏差値で学校の良し悪しは決まらないけど、入学だけはやっぱり学力が必要だから、こ、こちらに週間サイクルの予定表も作りました……」
「なんでどんどん声小さくなるんだよ」
「その……予備校には……戻った方が……」
椎名君がキッと睨むから僕は竦み上がって、でもこれだけはと、声を張り上げる。
「ダンスを練習する時間もちゃん調整したのでまずは聞いてもらいたいのと、それには条件があるのでまずはこれを受け取ってください!」
用意していたものをポケットから我が家の合鍵を出して椎名君の前に突き出す。椎名君が受け取ったのを確認すると僕はパソコンのモニタを椎名君に向けてプレゼンする。
「予備校は週4が前提で予定を組んでおります!
椎名君の制服姿を見たことがないことから一度家に帰っているとして計算しており、家にいる時間は練習ができていないことも加味しています。もう一つの表が僕が知りうる範囲で作った今までの生活スタイルですが、駅ビルのテナントが閉まるまでの空き時間を鑑みると、予備校に行った場合も、今までとダンスの練習量に遜色ないことがご確認いただけるかと思います!」
突然の大声に椎名君が呆気にとられている間に僕は一気に続ける。
「椎名君の環境による制限を取り払えばきちんと今まで通りの練習量をこなすことができます! 条件は予備校は週4!バイトは週2! 僕の家で練習する!」
「お、おっさんとの時間は……?」
「もちろん織り込み済みです!」
僕は土日のダンス練習の後の時間を指差して必死に続ける。
「それにこれは長期的な目標も含んでいます! 一つは動画投稿は大学入学待たずして行う! これは今やレッドオーシャンと化した動画共有サイトで人の目につきやすくなるためには、マーケティングに時間が必要だからです! そしてもう一つは、友達を大切にする! 予備校に戻った友達は椎名君の現在持てる唯一の財産です! ひとときでも同じ志を共有した友達とこれっきりなんて勿体ない! だから予備校には戻ってください!」
肩で息をしている僕とは裏腹に、椎名君は涼しい顔で表を見ながら呟く。
「あそこで踊らなくなったらおっさんと会う時間が減るよな……」
「予備校終わりに迎えに行くオプションをつけます!」
「予備校は週3だよ。空いた時間はおっさんと会える?」
「はい! ついでに宣伝の意味も含めてあのビルで踊る時にはインスタかTwitterのアカウントのポップを立てることをお勧めいたします! 」
椎名君は笑って、僕を見つめた。その瞳にキラキラが戻って、自身のプレゼンが成功したことを確信した。
「オプションもつけて」
「はい! 僕も椎名君の制服姿を見たいと思ってました!」
椎名君が僕に抱きつく。そして僕を抱えたまま立ち上がった。そして僕の手を引いて昨日案内した8畳の部屋に歩き出した。部屋の前に着くなり椎名君が呟いた。
「壁のどれか一面を安く鏡にする方法は無い?」
「調査済みです! リノベーションブームで鏡面の壁紙があるのでそれを利用するか、クローゼットの戸に鏡を貼るかになります! 鮮明度が不明だったので、両方少量買って検討予定です!」
「できればシューズ履いたままがいいんだけど」
「専用のシューズであれば問題ありません! 今日の午前に新品の靴で暴れまわってみましたが、階下からの苦情はありませんでした!」
椎名君がぶはっと笑う。
「椎名君……これは提案であって全てではありません。いざやってみて問題が有ればPDCAを回して改善することもできます」
「ん……じゃあ俺からも提案があるんだけど」
「なんなりとお申し付けください」
「土日は俺が晩飯作る」
「ダメだよ! そんな時間があったら」
僕の抗議は椎名君の唇で遮られる。
「長期的に考えて、体づくりは必要だろ?」
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