20 / 38
黒船強襲
しおりを挟む
ハンカチで涙を拭った。本当になんで泣いてるんだ。自分の涙脆さに半ば呆れていたら、体全体が温かいもので包まれた。ハンカチから顔を離すと黒崎さんの肩が目の前にある。
「え!? ちょ!?」
「忘れてくださいというのは、なしでお願いします」
「ええ!?」
なんか勘違いさせること言った!? っていうか泣いたら抱きしめてもらえるっていうシステムがあるなら、今まで誰も抱きしめてくれなかったのおかしくない?!
「迷惑なのはわかってます。好きでいることは許してください」
「さ、さっきも言ったけど……僕は……」
「わかってます……」
黒崎さんが体を離しながら名残り惜しそうに見る。その大人の色気たるや! 黒崎さん僕より年下だよね!? 面接で33歳って言ってたよね!?
「この歳になって人を好きになるなんて奇跡なんです。だから、もしその高校生とうまくいかなかくなったら、俺のことも考えてください」
「ちょ、ちょっと……」
「待つのは慣れているんで」
その言葉にすごく違和感を覚えたけど、黒崎さんの悲しそうな顔にこれ以上に否定を投げつけられなかった。
このままダラダラと飲んでいられる雰囲気でもなくなって、今日はお開きとなった。テーブル会計ということで、席で待っていたがなかなか店員が来ない。永遠とも思える気まずさの中にさっきのオーナーが飛び込んできた。
「ナツ、今日はおごるよ」
「いや……そんなわけには」
僕の言葉など無視してオーナーは帰り様にとんでもないことを吐き捨てる。
「ナツはどうせフラれたんでしょ?」
僕は絶句して、黒崎さんの殺気を横から浴びる。いや、非常識にも程があるでしょ。
「あの、カードでお願いします」
オーナーは僕の目を見る。なにか言いかけたオーナーの言葉を遮って言った。
「失礼にも……程があるでしょう……」
オーナーは顔を背けた。その時の目の端で、彼が黒崎さんをどう思っているのかを悟った。
「今、店のものをよこします。大変失礼いたしました」
その悲しい声に自分自身を重ねてしまう。オーナーが席を離れた頃合いを見て、黒崎さんに質問をした。
「彼の気持ちは気づいてないの?」
黒崎さんは苦々しい顔をした後俯いた。
「それも相当失礼だと思うけど」
さっきカードで払うと言ったけど、現金をテーブルに置いて席を立った。なんだかひどく虚しくなった。
スタスタと駅に向かう。この時僕の心は空っぽだった。
黒崎さんは僕を使ってあの幼馴染を妬かせたかったのだろうか。それとも幼馴染の執念を断ち切るために僕を利用したのだろうか。
仕事の話をしている時、椎名君には吐露できないような話題に僕は心をときめかせていた。僕の気持ちを代弁してくれるような言葉で号泣もした。
それが騙されたと思うからこんなに虚しいのだろうか。それとも一瞬でも心が動いたことを椎名君に顔向けできないと思ったのだろうか。
突然後ろから腕を掴まれた。びっくりして振り返ると黒崎さんだった。普段きっちりスタイリングされた髪が乱れ、顔中汗だらけで息を切らしている。
「黒崎さん……走ってきたの……?」
「須藤さん……歩くのはやいですね……」
黒崎さんは肩で息をしてしばらく地面を見つめていた。その顔は真剣そのものだった。
「俺は本気ですよ」
「黒さ……」
「誤解も自分の人格の一部だと思います。どう思われても構わない。ただ、須藤さんが好きです」
こんな路上で大の大人がいい争いをしている。でも黒崎さんの気迫に圧倒され辺りを見渡すことすらできなかった。
「若返ることはできませんけど、須藤さんのことを絶対に幸せにする自信はあります」
引き留めてすみません、そう深々謝る黒崎さんをこのまま置いて帰るわけにもいかず、しばしその光景を見続けた。
なんで僕の人生というのは空気が読めず、うまくいかないのだろう。タイミングが違えば、黒崎さんも幼馴染のオーナーもきっと傷つかずに済んだのに。でも償うこともできずに、明日も一緒に仕事をするのだろうか、と漠然と明日からのことを考えていた。
顔を上げた黒崎さんが椎名君と同じことを言う。
「そんな顔……しないでください……」
「え!? ちょ!?」
「忘れてくださいというのは、なしでお願いします」
「ええ!?」
なんか勘違いさせること言った!? っていうか泣いたら抱きしめてもらえるっていうシステムがあるなら、今まで誰も抱きしめてくれなかったのおかしくない?!
「迷惑なのはわかってます。好きでいることは許してください」
「さ、さっきも言ったけど……僕は……」
「わかってます……」
黒崎さんが体を離しながら名残り惜しそうに見る。その大人の色気たるや! 黒崎さん僕より年下だよね!? 面接で33歳って言ってたよね!?
「この歳になって人を好きになるなんて奇跡なんです。だから、もしその高校生とうまくいかなかくなったら、俺のことも考えてください」
「ちょ、ちょっと……」
「待つのは慣れているんで」
その言葉にすごく違和感を覚えたけど、黒崎さんの悲しそうな顔にこれ以上に否定を投げつけられなかった。
このままダラダラと飲んでいられる雰囲気でもなくなって、今日はお開きとなった。テーブル会計ということで、席で待っていたがなかなか店員が来ない。永遠とも思える気まずさの中にさっきのオーナーが飛び込んできた。
「ナツ、今日はおごるよ」
「いや……そんなわけには」
僕の言葉など無視してオーナーは帰り様にとんでもないことを吐き捨てる。
「ナツはどうせフラれたんでしょ?」
僕は絶句して、黒崎さんの殺気を横から浴びる。いや、非常識にも程があるでしょ。
「あの、カードでお願いします」
オーナーは僕の目を見る。なにか言いかけたオーナーの言葉を遮って言った。
「失礼にも……程があるでしょう……」
オーナーは顔を背けた。その時の目の端で、彼が黒崎さんをどう思っているのかを悟った。
「今、店のものをよこします。大変失礼いたしました」
その悲しい声に自分自身を重ねてしまう。オーナーが席を離れた頃合いを見て、黒崎さんに質問をした。
「彼の気持ちは気づいてないの?」
黒崎さんは苦々しい顔をした後俯いた。
「それも相当失礼だと思うけど」
さっきカードで払うと言ったけど、現金をテーブルに置いて席を立った。なんだかひどく虚しくなった。
スタスタと駅に向かう。この時僕の心は空っぽだった。
黒崎さんは僕を使ってあの幼馴染を妬かせたかったのだろうか。それとも幼馴染の執念を断ち切るために僕を利用したのだろうか。
仕事の話をしている時、椎名君には吐露できないような話題に僕は心をときめかせていた。僕の気持ちを代弁してくれるような言葉で号泣もした。
それが騙されたと思うからこんなに虚しいのだろうか。それとも一瞬でも心が動いたことを椎名君に顔向けできないと思ったのだろうか。
突然後ろから腕を掴まれた。びっくりして振り返ると黒崎さんだった。普段きっちりスタイリングされた髪が乱れ、顔中汗だらけで息を切らしている。
「黒崎さん……走ってきたの……?」
「須藤さん……歩くのはやいですね……」
黒崎さんは肩で息をしてしばらく地面を見つめていた。その顔は真剣そのものだった。
「俺は本気ですよ」
「黒さ……」
「誤解も自分の人格の一部だと思います。どう思われても構わない。ただ、須藤さんが好きです」
こんな路上で大の大人がいい争いをしている。でも黒崎さんの気迫に圧倒され辺りを見渡すことすらできなかった。
「若返ることはできませんけど、須藤さんのことを絶対に幸せにする自信はあります」
引き留めてすみません、そう深々謝る黒崎さんをこのまま置いて帰るわけにもいかず、しばしその光景を見続けた。
なんで僕の人生というのは空気が読めず、うまくいかないのだろう。タイミングが違えば、黒崎さんも幼馴染のオーナーもきっと傷つかずに済んだのに。でも償うこともできずに、明日も一緒に仕事をするのだろうか、と漠然と明日からのことを考えていた。
顔を上げた黒崎さんが椎名君と同じことを言う。
「そんな顔……しないでください……」
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる