生きるのがツラくてなにが悪い!

大田ネクロマンサー

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失恋

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 夜の公園は独特な空気だ。椎名君に連れてこられたやや大きめな自然公園に足を踏み入れ、まるで異世界に迷い込んだようだった。

 椎名君が指定したベンチに2人で腰掛け、何度かキスをされたら、椎名君は僕に一昨日の話をしろとせがむ。

 僕は順番を間違えないようにありのままを話して、僕は椎名君しか好きじゃないけど、これから黒崎さんとも仕事をしていくと締めくくった。

 少し湿った空気が公園の緑を揺らし、外灯の光が騒めく木々で不安定に揺れる。

 さっきの阿修羅のような激昂からは考えられないくらい、椎名君は大人しく話を聞いていた。それはきっと僕の今の気持ちを共有しているからだと感じ、僕はまた胸を震わせる。

「よかったな」

 椎名君の声はいたって普通のトーンだった。だから僕も心情を吐露した。

「よくないよ……待ってるって言われても、僕は恋愛経験が無いから、どうしたらいいかわからないんだ」

「今度はうまくやれるよ」

 椎名君がまた意味不明なことを言う。黒崎さんと恋人同士になることを歓迎するかのような言い方が、僕をパニック状態に陥れる。

 椎名君が僕の顔を見て、気まずそうな顔をした後、伏目のまま僕の顔に鼻をこすりつけた。

「幼馴染みと友達に戻りたかったんだろ? 今度はちゃんと友達に戻れるよ」


 その言葉に胸を掴まれ、僕は衝撃で呼吸困難に陥った。

 そして幼馴染の面影が脳裏をよぎる。

 僕は、考えたこともなかった。僕は彼に告白をする前から何に怯えていたか。今の今までずっと、彼と恋人になれなかった未来を憂いていたと思っていた。

 でも今こんなに胸が苦しい。これは紛れもなく真実だからだ。

 友達でもいい、可能であれば恋人になりたい。でも彼をずっと好きでいたい。そう願っていたのに。

 恋人になれないからといって距離を置いたのは僕の方だった。本当はどんな形でもいいから彼と一緒にいたかったのに。本当は彼と一緒にいろんな風景を見たかったのに。僕が恋しいと思うのは彼と過ごした日々だったのに。

 急に風が吹いて、騒めく木々の音が心をかき乱し、ボタ、ボタと涙が膝に落ちる。椎名君はそれを黙って唇で拭ってくれていた。

「おっさんが、予備校戻れって言ってくれたの……本当に嬉しかった。友達は財産だって、似たようなこと言うやつはいっぱいいるけど……」

 僕が胸で握りしめていた手を椎名君は優しく包んで、そのまま握った。

「おっさんがなんとかプランニングしてくれる時、ここがギューってなってさ。はじめてそれを聞いた時、ここが痛すぎておっさんの顔見てられなかった」

 椎名君がまた鼻をつけて僕に好きだと言う。

「今の俺を好きだって言ってくれるの、すごく嬉しかった」

「椎名……くんっ……うくっ……」

「痛いけど、俺と旅に出てくれるんだろ?」

「うん……椎名君と……見る……ふっ……」

「でも浮気したら許さねぇからな。俺は嫉妬深いんだ」

「そんなことできる……わけないでしょぉ……?」

「ちょっとは会社の奴にフラフラしてたくせに、どの口が言ってんだよ」

「してないでしょぉ!」

 そっか、そう言ってキスを落とす椎名君に、僕の心は焼き切れそうだった。もっと、もっとと勇気と愛をせがんでくれるうちに、時間が異常な速さで通り過ぎ、椎名君の家族からの連絡でその事実に打ちのめされる。

「今日は……鏡の話したかったのにぃ……!」

「おっさんがフラフラしてるからだろ! 明日は予備校ねぇけど、勉強追いつくのに必死なんだよ。だから金曜もオプションつけろよ!」

「来てもいいの!?」

「フラフラされるよりマシだろ」

 椎名君が笑う。感じたままを言い、やりたいことを要求し、今を生きている。

「椎名君も。高校生だからって、浮気したら許さないよ。僕はそんな大人じゃないんだ」

 椎名君は、お? と声を漏らして立ち上がり、僕の腕を引いた。

 そのまま僕を抱き寄せる。熱い体に抱かれぼんやり思う。椎名君が今この瞬間僕のことを全力で好きでいてくれる。例え環境が変わって、他に好きな人ができても、この瞬間、この胸を打つ感情は僕だけものなんだ。そう思ったら心の底から嬉しさが湧き上がって、僕はこの感情の灯火を決して絶やさないように、生きようと決意した。

 今を生きるのは苦しい。でもそれが僕が憧れた生き方なんだ。
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