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愛おしい日常
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商品開発部からのヒヤリングをもとに、新たな軸で分析をして、条件にマッチしたユーザーの検出方法と、MAツールのシナリオにどう落とし込むのかを検討する。黒崎さんの瞳のキラキラは衰えることを知らなかった。だからついつい時間を忘れて仕事に没頭してしまった。
黒崎さんに質問をしようと顔を上げた先の窓がすっかり夜景になっていて驚く。
「え!? もうこんな時間!?」
「あ、本当ですね。区切りのいいところまで残業していっても構いませんか?」
僕の顔を見るわけでもなく、仕事を続ける姿を見れば、誰のためでもなく自分の意思で突き進めていることがわかった。
「黒崎さん、今日は本当にありがとうね。分析は僕だけでは的を得た絞り込みができなかった」
「いえ、須藤さんの仮説あってこそです。キリがいいですか? 須藤さんは今日はあがってください」
まるでどっちが管理職かわからないな、そう思って少し笑った。
「もっと俺を使ってください。須藤さんのその発想力をもっと活かして、俺を新しい境地に連れていってください。今日は本当に……感動しました……」
「まぐれだよ。そんなに買い被らないで」
黒崎さんはそれを気に留めず、そのままキーボードを打ち続けている。僕はそれを見て少し安心し、お疲れ様と言って先に会社を出た。
駅までの帰り道、スマホを取り出してぼんやりと眺めた。そして短いながらもメッセージを送った。
須藤:少し声が聞きたいから、後で連絡してもいいですか?
椎名:うん、待ってる
待っていたかのような速度で返信が来る。その嬉しさに顔が綻ぶ。そして家に帰るまで待ちきれずに椎名君に通話をしてしまった。
「おっさん、今日は珍しいな。今まで仕事だったの?」
「うん。仕事ですごく嬉しいことがあって、時間を忘れて仕事しちゃった。だから椎名君の声すごく聞きたかったんだ」
「俺の声聞きたい理由になってないだろ」
椎名君の笑い声が僕の耳を癒す。
「どんないいことあったの?」
「ずっと悩んでた課題が解決する糸口を見つけたんだ。椎名君と昨日話しててね、それで思いついたんだ。だからお礼が言いたくて」
「へぇ、なんかご褒美くれよ」
「本当に、椎名君に色んなものをもらってばかりで、どうしたらご褒美になるかわからないんだけど……それより先に、週末に鏡を一緒に設置したいから、もう発注したいんだ」
「急だな」
「到着は3日後だから今日決めちゃいたいんだけど……写真を送るから見てもらっても大丈夫? 僕が家に帰ったらまた連絡するからそれまでに確認して欲しくて」
「おっさんは仕事ではキビキビしてるんだな」
「え……?」
「かっこいいよ。おっさんのそういうところ」
唐突な言葉に戸惑ってしまう。確かに会社を出たばかりだけど、椎名君に褒められるほど会社とプライベートな人格がかけ離れているわけではない。僕が困惑してたら椎名君の優しい声が耳に広がる。
「明日さ、予備校早く終わらせるから、いつものビルの下で待ち合わせでいい?」
「え!? また踊ってくれるの!?」
「うん、おっさんに……」
「僕に?」
今度は椎名君が黙ってしまう。文脈から椎名君が何を言いたいのかわかった。僕を労うために、自分の今できることをしたいのだろう。最近情緒がおかしくて、すぐ体温が急上昇する。
「椎名君のダンス見るの久しぶりだ……すごく嬉しい……明日また泣いちゃったらごめんね」
椎名君の吹き出す音が耳を癒す。僕は駅に向かうからと通話を終了して、ホームで待つ間に鏡の写真と説明を書いて椎名君に送信する。走行している間に電車がホームに滑り込み、慌てて乗車した時に、椎名くんから即決のメッセージが届く。
電車の中でああでもない、こうでもない、とメッセージをやり取りして週末の計画を練る。家に着いたら椎名君の声に癒され、はやく会いたいと甘える。
こんなにも忙しく充実した日常が愛おしくて堪らなかった。それを肯定してくれる椎名君の存在が愛おしくて堪らなかった。
金曜日、いつもの噴水で椎名君を待っていたら遠くの方から、マフィアのような集団が歩いてくる。なぜそう見えるのか、それは歩き方が他の群集とはかけ離れているからだ。
「おっさん、お待たせ」
「し、椎名君!? 今日はお友達も来たの!?」
予備校に行っていたはずなのに、みんな私服で大人っぽかった。
「話したらみんな一緒に踊りたいって。ダンスは大人数の方が映えるからいいだろ?」
「そ、そっかぁ! ああ、今日は動画撮りたかったんだけど、みんな大丈夫かな?」
椎名君がお友達に呼びかけ、てっきり動画を撮る了承を取るのかと思ったから、対外用の笑顔でそれを待った。
「このおっさんが俺の彼氏。動画撮ってくれるって。顔出したくない奴はマスクつけて」
椎名君の常軌を逸した発言に、他でもない僕自身が戦慄し凝固して動けなくなる。椎名君が集めた友人は次々に僕に挨拶をして、かっこいいだ大人だ、と気をつかってお世辞を言う。僕がギクシャクとそれに対応している間に、椎名君やお友達はストレッチを始めた。色々と感情が追いつかないが、驚いている場合でもない。
僕は慌ててスマホを取り出して地べたに座った。スマホを地面に置いて出来るだけ低いアングルから椎名君達が全員映る場所を、移動しながら探る。今日までダンスの動画を研究した結果アングルというのがいかに重要かを知った。ある程度場所が決まったら洗濯バサミでスマホを挟んでそれごと地面に置く。スマホスタンドで調べた結果、これが1番安価でしかも安定する。
準備万端だと椎名君に合図を送ろうと顔を上げた時、上から腕を乱暴に掴まれた。
黒崎さんに質問をしようと顔を上げた先の窓がすっかり夜景になっていて驚く。
「え!? もうこんな時間!?」
「あ、本当ですね。区切りのいいところまで残業していっても構いませんか?」
僕の顔を見るわけでもなく、仕事を続ける姿を見れば、誰のためでもなく自分の意思で突き進めていることがわかった。
「黒崎さん、今日は本当にありがとうね。分析は僕だけでは的を得た絞り込みができなかった」
「いえ、須藤さんの仮説あってこそです。キリがいいですか? 須藤さんは今日はあがってください」
まるでどっちが管理職かわからないな、そう思って少し笑った。
「もっと俺を使ってください。須藤さんのその発想力をもっと活かして、俺を新しい境地に連れていってください。今日は本当に……感動しました……」
「まぐれだよ。そんなに買い被らないで」
黒崎さんはそれを気に留めず、そのままキーボードを打ち続けている。僕はそれを見て少し安心し、お疲れ様と言って先に会社を出た。
駅までの帰り道、スマホを取り出してぼんやりと眺めた。そして短いながらもメッセージを送った。
須藤:少し声が聞きたいから、後で連絡してもいいですか?
椎名:うん、待ってる
待っていたかのような速度で返信が来る。その嬉しさに顔が綻ぶ。そして家に帰るまで待ちきれずに椎名君に通話をしてしまった。
「おっさん、今日は珍しいな。今まで仕事だったの?」
「うん。仕事ですごく嬉しいことがあって、時間を忘れて仕事しちゃった。だから椎名君の声すごく聞きたかったんだ」
「俺の声聞きたい理由になってないだろ」
椎名君の笑い声が僕の耳を癒す。
「どんないいことあったの?」
「ずっと悩んでた課題が解決する糸口を見つけたんだ。椎名君と昨日話しててね、それで思いついたんだ。だからお礼が言いたくて」
「へぇ、なんかご褒美くれよ」
「本当に、椎名君に色んなものをもらってばかりで、どうしたらご褒美になるかわからないんだけど……それより先に、週末に鏡を一緒に設置したいから、もう発注したいんだ」
「急だな」
「到着は3日後だから今日決めちゃいたいんだけど……写真を送るから見てもらっても大丈夫? 僕が家に帰ったらまた連絡するからそれまでに確認して欲しくて」
「おっさんは仕事ではキビキビしてるんだな」
「え……?」
「かっこいいよ。おっさんのそういうところ」
唐突な言葉に戸惑ってしまう。確かに会社を出たばかりだけど、椎名君に褒められるほど会社とプライベートな人格がかけ離れているわけではない。僕が困惑してたら椎名君の優しい声が耳に広がる。
「明日さ、予備校早く終わらせるから、いつものビルの下で待ち合わせでいい?」
「え!? また踊ってくれるの!?」
「うん、おっさんに……」
「僕に?」
今度は椎名君が黙ってしまう。文脈から椎名君が何を言いたいのかわかった。僕を労うために、自分の今できることをしたいのだろう。最近情緒がおかしくて、すぐ体温が急上昇する。
「椎名君のダンス見るの久しぶりだ……すごく嬉しい……明日また泣いちゃったらごめんね」
椎名君の吹き出す音が耳を癒す。僕は駅に向かうからと通話を終了して、ホームで待つ間に鏡の写真と説明を書いて椎名君に送信する。走行している間に電車がホームに滑り込み、慌てて乗車した時に、椎名くんから即決のメッセージが届く。
電車の中でああでもない、こうでもない、とメッセージをやり取りして週末の計画を練る。家に着いたら椎名君の声に癒され、はやく会いたいと甘える。
こんなにも忙しく充実した日常が愛おしくて堪らなかった。それを肯定してくれる椎名君の存在が愛おしくて堪らなかった。
金曜日、いつもの噴水で椎名君を待っていたら遠くの方から、マフィアのような集団が歩いてくる。なぜそう見えるのか、それは歩き方が他の群集とはかけ離れているからだ。
「おっさん、お待たせ」
「し、椎名君!? 今日はお友達も来たの!?」
予備校に行っていたはずなのに、みんな私服で大人っぽかった。
「話したらみんな一緒に踊りたいって。ダンスは大人数の方が映えるからいいだろ?」
「そ、そっかぁ! ああ、今日は動画撮りたかったんだけど、みんな大丈夫かな?」
椎名君がお友達に呼びかけ、てっきり動画を撮る了承を取るのかと思ったから、対外用の笑顔でそれを待った。
「このおっさんが俺の彼氏。動画撮ってくれるって。顔出したくない奴はマスクつけて」
椎名君の常軌を逸した発言に、他でもない僕自身が戦慄し凝固して動けなくなる。椎名君が集めた友人は次々に僕に挨拶をして、かっこいいだ大人だ、と気をつかってお世辞を言う。僕がギクシャクとそれに対応している間に、椎名君やお友達はストレッチを始めた。色々と感情が追いつかないが、驚いている場合でもない。
僕は慌ててスマホを取り出して地べたに座った。スマホを地面に置いて出来るだけ低いアングルから椎名君達が全員映る場所を、移動しながら探る。今日までダンスの動画を研究した結果アングルというのがいかに重要かを知った。ある程度場所が決まったら洗濯バサミでスマホを挟んでそれごと地面に置く。スマホスタンドで調べた結果、これが1番安価でしかも安定する。
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