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好きの形
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あれから椎名君はお友達と帰るということで、僕は黒崎さんと駅に向かった。さっきまで阿修羅のようだった椎名君からは考えられないくらいあっさりと、黒崎さんと2人っきりになることを許して僕を置いていった。キスして欲しかったな、そう思って口を尖らせていたら黒崎さんが笑った。
「俺が相手しましょうか?」
「な、なに言ってるの!?」
「なんか邪魔しちゃったみたいなので」
眉を下げて困った顔で微笑む黒崎さんが、独特な顔で笑う椎名君に見えて、胸がギューッとなる。
「そういえば黒崎さんご飯食べた?」
「いえ、あまり夜は食べないので」
椎名君といい、黒崎さんといい、すごいね! ダンサーはみんな!
「でも、須藤さんともう少しいられるならお付き合いさせてください」
黒崎さんは僕を見るなり呟く。
「すぐそういうこと言う、って顔してますよ」
「な、そんなこと……!」
思ったけど……。
「幼馴染の相談にのってもらいたい、それでも椎名君が怒りますかね?」
「じゃあ、ご飯付き合って。これで貸し借りなしだよ」
「それでいうとこの前のお代支払っていただいたんで、今日は俺に奢らせてください」
「え!? その辺のラーメン屋にしようと思ったのに! もっと高級なところ行く時に奢ってよ!!」
「はいはい、じゃあオススメの定食屋あるんで行きましょうね。先に椎名君に連絡してくださいね。後で殺されちゃう」
「はーい」
あんなノリで返事したことを今とても後悔している。黒崎さんはやっぱり大人だ。なんでこんな雰囲気のある和食屋を定食屋って言ったの? と疑問符ばかり浮かぶ。
「や、やっぱり割り勘にしよう?」
「須藤さん、俺の話聞いてくれるんですよね?」
心底心配そうなその演技が憎たらしい!
「見た目より高くないんで安心してください」
僕は項垂れ、なされるがまま席に通される。黒崎さんは僕の分まで適当に注文して、メニューすら見ることができなかった。値段を気にさせない大人の気遣いがより一層僕を困惑させる。
「黒崎さんはすごくスマートだけどちょっと強引だよね」
「須藤さん以外にはこんな風になりませんよ」
よろしいならば戦争だとでも言わんばかりに、黒崎さんは容赦がない。僕が俯いたら、少しだけ沈黙が流れた。そこに店員が酒を運んでくる。軽く乾杯したら黒崎さんが嬉しそうに笑った。
「勇気出して須藤さんに告白してよかった。椎名君、すごくいいもの持ってますね。須藤さんがドキドキしちゃうのよくわかります」
「椎名君は! ダメ!」
慌てふためいて語彙力が葬り去られた。
「須藤さんとは違いますけど、すごくドキドキしてるんです。彼はいいダンサーになります」
その眼差しと言葉に僕は、腹の底からよくわからない感情がグラグラ煮え上がる。
「椎名君は……かっこいい……」
「そういえば、なんでピンポイントで相談にのれる事案なんですか?」
急に放り込まれた言葉が飲み込めずポカンとする。今日の本題だったと慌てて取り繕う。
「唯一の恋愛経験が……多分黒崎さんの友達側だったから……」
僕の言葉で呆気にとられそして黒崎さんはゆっくり首を振る。
「須藤さんの恋愛はわからないですが、須藤さんはあんな変わり者じゃないですよ」
「で、でも。多分黒崎さんのこと好きでしょ?」
黒崎さんはしばらく一点を見つめて動かなくなった。まずいことしか言っていないが、それでも2人の間の禁忌とされていることなのかは推し量れなかった。
「一度、俺もそうかと思って聞いたことがあるんです。でも彼は違うとつっぱねて、他の男をたらし込んでいたので……」
「聞いたことがあるって……?」
「いや……俺が……ちょっと落ち込むことが……ってさっき言いましたね。大怪我してこれからの人生に絶望した時、もしそういう気があるなら一緒にいてくれないかと、そう聞いたことがあります」
僕は驚いて思わず目を見開いた。
「こどもの頃から一緒にいて、そういう雰囲気になったのは後にも先にもあの時だけです。ただ彼はそれをつっぱねて、これからも友達だと……」
黒崎さんが言葉を止めて見上げた先に、頼んだ料理が運ばれてきた。食べてくださいと視線を送られるが、この話を放り出して食事などできなかった。
「ずっと俺が兄のような感じで接していたので、みっともない姿を見て100年の恋も覚めたんだろうなって思いました」
思いましたって……。思った以上に黒崎さんの打ち捨てられ方が壮絶で、慰めることもできなかった。
「本当に……全然違った……ごめん。そういう話をしたこともないのかと勘違いしてた……僕は普通に幼馴染に気持ちを伝えたら気まずくなって、友達ではいられなくなった」
「それはそれで……」
「でも黒崎さんは一度芽生えたその気持ちにどうやって折り合いをつけたの?」
「折り合い……?」
「だって、一度はそばにいて欲しいって思ったんでしょ?」
「正直なところ、怪我のショックが大きくて……酷い話ですが、誰でもよかったといいますか……」
本当に僕は勘違いをしていた。完全なる同一経験などこの世のどこにもない。共感できる部分が随所にあるが、それは全て一緒というわけではなかった。
「やっぱり、僕は黒崎さんの友達と一緒だよ……幼馴染が好きだった時ではないけど、僕も椎名君に言ったんだ。好きな人とじゃないとダメだよって……」
僕は椎名君への思いを、黒崎さんの友達の代わりに伝えた。もし自暴自棄になってそんなことを言っているのならば後悔するからやめてほしい、僕が自分の気持ちを押し殺して椎名君を食い止めたかった話を順序立てて話した。
黒崎さんが社会人として立派に、そして前向きにやっていることを、友達は今どんな気持ちで見守っているか、それを正確に伝えたかった。黒崎さんの怪我の程度もその時の絶望も、僕には思いを馳せることすらできなかったけど、自暴自棄になっているように見えたのは明らかだ。友達はその絶望の淵から助け出すのに、黒崎さんが後悔するような代償を支払わせることを拒んだのだろう。それほどまでに慕い、黒崎さんに敬意を払っていたのだろう。
「俺が相手しましょうか?」
「な、なに言ってるの!?」
「なんか邪魔しちゃったみたいなので」
眉を下げて困った顔で微笑む黒崎さんが、独特な顔で笑う椎名君に見えて、胸がギューッとなる。
「そういえば黒崎さんご飯食べた?」
「いえ、あまり夜は食べないので」
椎名君といい、黒崎さんといい、すごいね! ダンサーはみんな!
「でも、須藤さんともう少しいられるならお付き合いさせてください」
黒崎さんは僕を見るなり呟く。
「すぐそういうこと言う、って顔してますよ」
「な、そんなこと……!」
思ったけど……。
「幼馴染の相談にのってもらいたい、それでも椎名君が怒りますかね?」
「じゃあ、ご飯付き合って。これで貸し借りなしだよ」
「それでいうとこの前のお代支払っていただいたんで、今日は俺に奢らせてください」
「え!? その辺のラーメン屋にしようと思ったのに! もっと高級なところ行く時に奢ってよ!!」
「はいはい、じゃあオススメの定食屋あるんで行きましょうね。先に椎名君に連絡してくださいね。後で殺されちゃう」
「はーい」
あんなノリで返事したことを今とても後悔している。黒崎さんはやっぱり大人だ。なんでこんな雰囲気のある和食屋を定食屋って言ったの? と疑問符ばかり浮かぶ。
「や、やっぱり割り勘にしよう?」
「須藤さん、俺の話聞いてくれるんですよね?」
心底心配そうなその演技が憎たらしい!
「見た目より高くないんで安心してください」
僕は項垂れ、なされるがまま席に通される。黒崎さんは僕の分まで適当に注文して、メニューすら見ることができなかった。値段を気にさせない大人の気遣いがより一層僕を困惑させる。
「黒崎さんはすごくスマートだけどちょっと強引だよね」
「須藤さん以外にはこんな風になりませんよ」
よろしいならば戦争だとでも言わんばかりに、黒崎さんは容赦がない。僕が俯いたら、少しだけ沈黙が流れた。そこに店員が酒を運んでくる。軽く乾杯したら黒崎さんが嬉しそうに笑った。
「勇気出して須藤さんに告白してよかった。椎名君、すごくいいもの持ってますね。須藤さんがドキドキしちゃうのよくわかります」
「椎名君は! ダメ!」
慌てふためいて語彙力が葬り去られた。
「須藤さんとは違いますけど、すごくドキドキしてるんです。彼はいいダンサーになります」
その眼差しと言葉に僕は、腹の底からよくわからない感情がグラグラ煮え上がる。
「椎名君は……かっこいい……」
「そういえば、なんでピンポイントで相談にのれる事案なんですか?」
急に放り込まれた言葉が飲み込めずポカンとする。今日の本題だったと慌てて取り繕う。
「唯一の恋愛経験が……多分黒崎さんの友達側だったから……」
僕の言葉で呆気にとられそして黒崎さんはゆっくり首を振る。
「須藤さんの恋愛はわからないですが、須藤さんはあんな変わり者じゃないですよ」
「で、でも。多分黒崎さんのこと好きでしょ?」
黒崎さんはしばらく一点を見つめて動かなくなった。まずいことしか言っていないが、それでも2人の間の禁忌とされていることなのかは推し量れなかった。
「一度、俺もそうかと思って聞いたことがあるんです。でも彼は違うとつっぱねて、他の男をたらし込んでいたので……」
「聞いたことがあるって……?」
「いや……俺が……ちょっと落ち込むことが……ってさっき言いましたね。大怪我してこれからの人生に絶望した時、もしそういう気があるなら一緒にいてくれないかと、そう聞いたことがあります」
僕は驚いて思わず目を見開いた。
「こどもの頃から一緒にいて、そういう雰囲気になったのは後にも先にもあの時だけです。ただ彼はそれをつっぱねて、これからも友達だと……」
黒崎さんが言葉を止めて見上げた先に、頼んだ料理が運ばれてきた。食べてくださいと視線を送られるが、この話を放り出して食事などできなかった。
「ずっと俺が兄のような感じで接していたので、みっともない姿を見て100年の恋も覚めたんだろうなって思いました」
思いましたって……。思った以上に黒崎さんの打ち捨てられ方が壮絶で、慰めることもできなかった。
「本当に……全然違った……ごめん。そういう話をしたこともないのかと勘違いしてた……僕は普通に幼馴染に気持ちを伝えたら気まずくなって、友達ではいられなくなった」
「それはそれで……」
「でも黒崎さんは一度芽生えたその気持ちにどうやって折り合いをつけたの?」
「折り合い……?」
「だって、一度はそばにいて欲しいって思ったんでしょ?」
「正直なところ、怪我のショックが大きくて……酷い話ですが、誰でもよかったといいますか……」
本当に僕は勘違いをしていた。完全なる同一経験などこの世のどこにもない。共感できる部分が随所にあるが、それは全て一緒というわけではなかった。
「やっぱり、僕は黒崎さんの友達と一緒だよ……幼馴染が好きだった時ではないけど、僕も椎名君に言ったんだ。好きな人とじゃないとダメだよって……」
僕は椎名君への思いを、黒崎さんの友達の代わりに伝えた。もし自暴自棄になってそんなことを言っているのならば後悔するからやめてほしい、僕が自分の気持ちを押し殺して椎名君を食い止めたかった話を順序立てて話した。
黒崎さんが社会人として立派に、そして前向きにやっていることを、友達は今どんな気持ちで見守っているか、それを正確に伝えたかった。黒崎さんの怪我の程度もその時の絶望も、僕には思いを馳せることすらできなかったけど、自暴自棄になっているように見えたのは明らかだ。友達はその絶望の淵から助け出すのに、黒崎さんが後悔するような代償を支払わせることを拒んだのだろう。それほどまでに慕い、黒崎さんに敬意を払っていたのだろう。
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