生きるのがツラくてなにが悪い!

大田ネクロマンサー

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部屋魔改造

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「あらあら、お代は結構ですよ!」

 ゆっくりと小さい戸から出てきたママさんが僕の支払い受け取りを拒否する。さっき使ってしまった手だけど、もう一度言う。

「また来たいのと、今度お願いしたいことがあるんです。なのでちゃんとお支払いさせてください」

「あらー、優しい人なのねぇ。椎名君はいい人を見つけたわね」

「はい」

 椎名君の素直な返事に僕は首を痛めるほど素早く振り返る。今どんな顔で返事してたのか見たかったなぁ……。

「じゃあお疲れ様です!」

「はい、お疲れさま~」

 先週と同じように僕の手を引っ張り椎名君はズンズン歩く。でも僕はエレベーターを待ちきれずに人目を憚らず溢してしまう。

「椎名君が接客してるところ、真剣でかっこよかったなぁ……」

 椎名君は僕の呟きには答えず鼻を掻いただけだった。誰もいない休日のエレベーターに乗った途端、キスの雨が降る。

「椎名君はかっこいい……」

 椎名君は僕を抱きしめながら椎名君が低く短い唸り声をあげる。

「今日は鏡、はやく設置して……」

「うん……お米といで、お風呂も溜めるだけにしておきました!」

「おっさん……」

「僕もずっと楽しみだったんだ……」

 椎名君の手が僕の頬をかすめた時エレベーターの扉が開いた。椎名君は再び僕の手をとり外に飛び出した。


 鏡の施工は大仕事だった。椎名君が即決で選んだのはシールタイプの鏡だった。鮮明度という点では夜のビルのショーウィンドウもそんなに見えないし大まかでいいんだ、と作業をしながら椎名君が教えてくれた。クローゼットは天井からの吊り戸になっていたから、それを外してしまえば、シートを貼るのは容易にできた。2人で真剣に貼ったあと、クローゼットの戸をつける前が1番ドキドキする。

 吊り戸を閉めた時、テレビで見るようなバレエ教室みたいになって僕は思わず椎名君に抱きついた。

「し、椎名君! すごい! なんか部屋が広く見えるよ!」

「すげぇな。ダンス教室みたいだ!」

 椎名君が僕を抱き寄せて唸り声を上げる。僕も嬉しさのあまり、よくわからない声を出してしまった。椎名君が僕にキスをしてくれる。この感動をもう少し味わいたかったが、もっともっと、と欲望が前のめりで、自分が制御できない。

「し、椎名君は今日、シューズ持ってきてくれた!? この鏡探したご褒美に、踊ってくれない!?」

 椎名君がぶはっと笑い、眉を下げる。そして、その辺に転がしていた鞄から、シューズと、茶封筒を取り出した。それをそっと僕に差し出す。

 茶封筒を受け取り、中を確認してみたら、おおよその鏡の代金が入っていた。

 僕は正直悩んだ。だけど素直な気持ちを言った。

「椎名君がこれを稼ぐのに喫茶店でどれだけ頑張ったかよくわかってる。このお金無駄にしないように、なるべく僕の家に来て練習してね」

 椎名君は独特な顔で笑って、また僕を抱き寄せた。

「これからも、2人で計画立ててやっていこうね」

「ん……ご褒美に踊ってやるから」

「あ、あと。黒崎さんは多分他の恋人ができるから、安心して家に呼べるよ?」

「はぁ!?  この前までおっさん好きだって言ってたんじゃねぇのかよ!?」

「うん、なんかお互い勘違いだったみたい」

「どういうことだよ!? ちゃんと説明しろよ!」

「うん、でも……ご褒美はやく欲しいな……」

 なんなんだよ! と怒りながら椎名君は座ってシューズの紐を結び始める。

「椎名君、Bluetoothでスピーカー繋いでもらっていい?」

「あ、スピーカーは今日持ってきてない」

 僕はクローゼットの戸をあけ、布を引っ張る。布に覆われていたそれを見た椎名君が絶句した。

「この前、今どきCDで音楽なんか聴かねーよって馬鹿にされたのが悔しくて、電気屋さんに色々教えてもらっちゃった」

「おいおいおい、別に馬鹿にしてねーだろ! そのためだけにこれ買ったのかよ!?」

 椎名君が阿修羅になって言う「これ」とはBluetoothで繋げるアンプとスピーカーだった。

「僕もmp3とやらにして音楽聴けるようにしたよ!」

 早速CDから変換した思い出の曲を流す。椎名君は阿修羅のまま僕を見つめていた。でも観念したのか、前奏が終わりかかると僕の好きな曲に合わせてゆっくり、でも力強く踊りはじめた。

 僕はいつものように地面に座り、椎名君の踊る姿を見つめた。外で見るそれとは違う感動が僕の胸を震わせる。椎名君はこれからここで夢を叶えていくんだ。そう思ったら心の中でいろんな感情が暴れ出してしまった。

 鏡を設置したのに僕を見て踊る椎名君の姿は、夕日が逆光になってシルエットが鮮明に際立つ。肌やボディラインが輝く光景はまるで舞台で踊っているかのようで、いつかそういった場所で踊る日が来るのだろう、そう予感させるには十分な演出だった。

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