【本編完結】嫌味な男と婚約させられた令嬢ですが、ある日その婚約者が猫になっていました

翠月 歩夢

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11.猫になった婚約者と爪研ぎ

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「ライル様、爪研ぎはきちんとされていますか?」


 私は猫用ソファで寛いでいるライルに尋ねた。爪研ぎできるように買ったのに、一度も使っているところを見たことがない。


「爪研ぎ……してないな」
「ダメですよ、ちゃんとしなくては」
「そうは言っても、俺は元々人間……」
「毛繕いもしてキャットフードも食べて、今更人間だなんて思えませんわ」
「そうかもしれないが、やったことないものをできるわけないだろう」


 言われてみればそうだ。つい、猫の本能で備わっていると思っていたが違うのか?


「なんかこう……そこに爪をバリバリしていましたわ。野良猫は」
「爪をバリバリ? こうか?」
「上手ですよ」


 ライルが爪を研いでいる。可愛い。爪研ぎしている時の猫ってどうしてこんなに可愛らしいのだろう。

 もふもふの体と、しなやかな尻尾と、爪を研ぐときに伸びをする姿勢……全てがたまらない。まあ、猫はどんな時も可愛いが、爪研ぎは野生の一瞬を見た気持ちになる。だから余計に心が踊るのかもしれない。


「爪を研ぐ効果はよく分からないが、なんかスッキリする」
「ストレス発散にでもなっているのかもしれませんね」
「確かに、人間ではこんなことはできんな」
「ええ。是非今のうちに堪能しておいてください」
「うむ……そうしたいが、人間に戻った時に癖になっていたら嫌だな」
「大丈夫ですよ、きっと」


 そうか……? と疑問をぼそり口にしていたが、どうでも良くなったのか、ライルは床にごろりと寝た。

 あー、可愛い。猫がお腹を見せて寝っ転がる仕草ってどうしてこんなに可愛らしいのだろう。


「なんだ、にやにやして」
「いえ。別になんでもないですわ」


 顔だけでこちらを見るライル。こうしてじっくり見ると、ライルの顔はとても整っている。いや、今は猫の姿だが。猫でもとんでもない美形がたまにいる。ライルはそのタイプだ。


「はぁ……この体になってから何も仕事をしていない。ずっとごろごろしていて、まるで自分がダメ人間になった気分だ」
「あら、今は猫なんですから。ごろごろしていていいと思いますよ」
「でもなぁ……なんというか、落ち着かないのだ。前は一日中、働いていたからな」


 大帝国の王子ともなれば、国のことやら政治のことやら、やることが多いのだろう。一つ一つの仕事でたいへんなのに、婚約などという手続きがあれば、面倒だ。

 もしかすると、私をいびっていたのではなく、余裕がなくて冷たくなっていただけ?

 猫のライルと過ごし始めてから、人間時の嫌なイメージは払拭されつつある。本当は、理由があったのかも……なんて考えるようになっていた。


「どうせ仕事はできないのですから、休まれた方がよろしいですよ」
「うーん、そういうものか?」
「そういうものです」


 ライルは、私に向けていた顔の向きを変えた。床に頭をつけてごろんとしている。まだ猫になって一週間程なのに、随分と様になっているものだ。
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