11 / 84
11.猫になった婚約者と爪研ぎ
しおりを挟む
「ライル様、爪研ぎはきちんとされていますか?」
私は猫用ソファで寛いでいるライルに尋ねた。爪研ぎできるように買ったのに、一度も使っているところを見たことがない。
「爪研ぎ……してないな」
「ダメですよ、ちゃんとしなくては」
「そうは言っても、俺は元々人間……」
「毛繕いもしてキャットフードも食べて、今更人間だなんて思えませんわ」
「そうかもしれないが、やったことないものをできるわけないだろう」
言われてみればそうだ。つい、猫の本能で備わっていると思っていたが違うのか?
「なんかこう……そこに爪をバリバリしていましたわ。野良猫は」
「爪をバリバリ? こうか?」
「上手ですよ」
ライルが爪を研いでいる。可愛い。爪研ぎしている時の猫ってどうしてこんなに可愛らしいのだろう。
もふもふの体と、しなやかな尻尾と、爪を研ぐときに伸びをする姿勢……全てがたまらない。まあ、猫はどんな時も可愛いが、爪研ぎは野生の一瞬を見た気持ちになる。だから余計に心が踊るのかもしれない。
「爪を研ぐ効果はよく分からないが、なんかスッキリする」
「ストレス発散にでもなっているのかもしれませんね」
「確かに、人間ではこんなことはできんな」
「ええ。是非今のうちに堪能しておいてください」
「うむ……そうしたいが、人間に戻った時に癖になっていたら嫌だな」
「大丈夫ですよ、きっと」
そうか……? と疑問をぼそり口にしていたが、どうでも良くなったのか、ライルは床にごろりと寝た。
あー、可愛い。猫がお腹を見せて寝っ転がる仕草ってどうしてこんなに可愛らしいのだろう。
「なんだ、にやにやして」
「いえ。別になんでもないですわ」
顔だけでこちらを見るライル。こうしてじっくり見ると、ライルの顔はとても整っている。いや、今は猫の姿だが。猫でもとんでもない美形がたまにいる。ライルはそのタイプだ。
「はぁ……この体になってから何も仕事をしていない。ずっとごろごろしていて、まるで自分がダメ人間になった気分だ」
「あら、今は猫なんですから。ごろごろしていていいと思いますよ」
「でもなぁ……なんというか、落ち着かないのだ。前は一日中、働いていたからな」
大帝国の王子ともなれば、国のことやら政治のことやら、やることが多いのだろう。一つ一つの仕事でたいへんなのに、婚約などという手続きがあれば、面倒だ。
もしかすると、私をいびっていたのではなく、余裕がなくて冷たくなっていただけ?
猫のライルと過ごし始めてから、人間時の嫌なイメージは払拭されつつある。本当は、理由があったのかも……なんて考えるようになっていた。
「どうせ仕事はできないのですから、休まれた方がよろしいですよ」
「うーん、そういうものか?」
「そういうものです」
ライルは、私に向けていた顔の向きを変えた。床に頭をつけてごろんとしている。まだ猫になって一週間程なのに、随分と様になっているものだ。
私は猫用ソファで寛いでいるライルに尋ねた。爪研ぎできるように買ったのに、一度も使っているところを見たことがない。
「爪研ぎ……してないな」
「ダメですよ、ちゃんとしなくては」
「そうは言っても、俺は元々人間……」
「毛繕いもしてキャットフードも食べて、今更人間だなんて思えませんわ」
「そうかもしれないが、やったことないものをできるわけないだろう」
言われてみればそうだ。つい、猫の本能で備わっていると思っていたが違うのか?
「なんかこう……そこに爪をバリバリしていましたわ。野良猫は」
「爪をバリバリ? こうか?」
「上手ですよ」
ライルが爪を研いでいる。可愛い。爪研ぎしている時の猫ってどうしてこんなに可愛らしいのだろう。
もふもふの体と、しなやかな尻尾と、爪を研ぐときに伸びをする姿勢……全てがたまらない。まあ、猫はどんな時も可愛いが、爪研ぎは野生の一瞬を見た気持ちになる。だから余計に心が踊るのかもしれない。
「爪を研ぐ効果はよく分からないが、なんかスッキリする」
「ストレス発散にでもなっているのかもしれませんね」
「確かに、人間ではこんなことはできんな」
「ええ。是非今のうちに堪能しておいてください」
「うむ……そうしたいが、人間に戻った時に癖になっていたら嫌だな」
「大丈夫ですよ、きっと」
そうか……? と疑問をぼそり口にしていたが、どうでも良くなったのか、ライルは床にごろりと寝た。
あー、可愛い。猫がお腹を見せて寝っ転がる仕草ってどうしてこんなに可愛らしいのだろう。
「なんだ、にやにやして」
「いえ。別になんでもないですわ」
顔だけでこちらを見るライル。こうしてじっくり見ると、ライルの顔はとても整っている。いや、今は猫の姿だが。猫でもとんでもない美形がたまにいる。ライルはそのタイプだ。
「はぁ……この体になってから何も仕事をしていない。ずっとごろごろしていて、まるで自分がダメ人間になった気分だ」
「あら、今は猫なんですから。ごろごろしていていいと思いますよ」
「でもなぁ……なんというか、落ち着かないのだ。前は一日中、働いていたからな」
大帝国の王子ともなれば、国のことやら政治のことやら、やることが多いのだろう。一つ一つの仕事でたいへんなのに、婚約などという手続きがあれば、面倒だ。
もしかすると、私をいびっていたのではなく、余裕がなくて冷たくなっていただけ?
猫のライルと過ごし始めてから、人間時の嫌なイメージは払拭されつつある。本当は、理由があったのかも……なんて考えるようになっていた。
「どうせ仕事はできないのですから、休まれた方がよろしいですよ」
「うーん、そういうものか?」
「そういうものです」
ライルは、私に向けていた顔の向きを変えた。床に頭をつけてごろんとしている。まだ猫になって一週間程なのに、随分と様になっているものだ。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる